「共同参画」2015年 11月号

「共同参画」2015年 11月号

特集1

女性に対する暴力をなくす運動について~女性に対する暴力の根絶に向けた取組~
男女共同参画局推進課暴力対策推進室

11月12日~25日は「女性に対する暴力をなくす運動」期間です。今回は女性に対する暴力の根絶に向けた政府の取組と照明デザイナーの第一人者であり、日本にライトアップを定着させた石井幹子さんへのインタビューをご紹介します。

女性に対する暴力について

配偶者等からの暴力、性犯罪、ストーカー行為、人身取引、セクシュアル・ハラスメント等女性に対する暴力は、女性の人権を侵害するものであり、男女共同参画社会を形成していく上で克服すべき重要な課題です。政府は女性に対する暴力の根絶に向けて、この問題に対する社会の意識の高揚を図るため様々な取組を行っています。

女性に対する暴力の現状

内閣府が平成26年度に実施した調査によると、これまで結婚したことのある人のうち、配偶者から「身体的暴行」、「心理的攻撃」、「経済的圧迫」、「性的強要」のいずれかについて、被害を受けたことがあると答えた人は、女性が23.7%、男性が16.6%となっています。一方で、被害を受けたことがあると答えた人に、被害の相談の有無を聞いたところ、相談した人は、女性50.3%、男性は16.6%でした。相談しなかった人は全体で56.7%に上りました。

さらに配偶者からの被害を受けたときの相談先をみると、全体で「家族や親戚に相談した」が23.4%、友人・知人に相談した」が21.5%となっており、被害が潜在化しているともに、必ずしも、公的な相談機関につながっていない状況が窺えます。(図)

また、交際相手から、暴力被害を受けた経験を持つ方が、全体で約7人に1人。このうち、被害の相談をしなかった人は45.1%で、相談先も「家族や親戚」「友人・知人」が上位を占めています。配偶者からの被害と同様、その被害は潜在化し、適切な相談機関につながっていない状況が窺えます。

図 配偶者からの暴力の被害の相談先(複数回答)


女性に対する暴力をなくす運動

毎年、11月12日~25日までの2週間は、「女性に対する暴力をなくす運動」(以下、「運動」といいます。)を実施し、地方公共団体、女性団体その他の関係団体との連携、協力の下、社会の意識啓発など、女性に対する暴力の問題に関する取組の一層の強化を図ることとしています(平成13年男女共同参画推進本部決定)。なお、最終日の25日は「女性に対する暴力撤廃国際日」となっています。

内閣府では運動期間の初日である11月12日に東京タワーを運動のイメージカラーであるパープルにライトアップします。パープル・ライトアップには、女性に対する暴力の根絶と、暴力で悩んでいる方に対し「あなたはひとりではない!相談してください」とのメッセージが込められています。

また、今回、内閣府では、照明デザイナーの第一人者でかつ様々なライトアップイベントに関わっている石井幹子さんにお話をお伺いするとともに、啓発活動のひとつとしてポスター及びリーフレットを作成し、国の関係機関や地方公共団体等に配布します。今年度も「毎日かあさん」でおなじみの漫画家・西原理恵子さんにデザインを依頼し、暴力被害者に対して、「一人で悩まず相談して」というテーマで作成しました(裏表紙参照)。暴力に一人で悩んでいる女性に対し、相談窓口への相談を促すとともに、皆さんがこの問題について考えるきっかけにしていただきたいです。

http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/index.html


スペシャルインタビュー

暴力はいけないということを、みんなが、一人ひとりが考える。
それがとても大切です。

石井 幹子
照明デザイナー

聞き手 水本 圭祐
みずもと・けいすけ/
前内閣府男女共同参画局推進課暴力対策推進室長
取材協力:石井幹子デザイン事務所

─石井さんは照明デザイナーとして日本のみならず世界的にも著名な方で、日本においてライトアップを一つの芸術として確立させた第一人者であると伺っております。光の様々なイベントに関わっておられますけれども、単に美しくライトアップするだけでなく、例えば東日本大震災の後に、東京タワーに「GANBARO NIPPON」と光の文字を書かれ、復興への祈りを込めるといった光を使って様々なメッセージや語りかけを行うといった活動もしておられます。光で多くの人にエールを送られているということで、ライトアップの持つパワーについてどのようにお考えですか。

○石井 光というのはとても強い働きがあると思っております。それは地球上に生きる生き物、人間も動物も小さな虫に至るまでみんな光に対して向かっていくという性質があります。光というのは私たちは日常、太陽光を始め、いろいろな恩恵を受けているわけですが、そこには本能的に光が好きだ、光なしでは生きていけないというものが働いているわけです。光を使ってメッセージを送るというのは大変強いメッセージ性があると私は思っております。そこで、都市のランドマークをライトアップして、その町らしさを演出するとか、観光に来ている方がその町を楽しむとか、その町の歴史を知るなど、いろいろな効果があるわけですね。

東日本大震災の後は東京も真っ暗になりました。その時に何とか大勢の方たちに元気を持っていただきたいと思って、太陽光で発電した電気を使って東京タワーの大展望台に「GANBARO NIPPON」と光の文字を描いたんです。多少なりともその時暗かった東京が明るくなり、大勢の方がそれを見て「やっぱり頑張ろう」という気持ちを持っていただけたのではないかと思っております。私はこれからも光の効果、光の影響力を高めるために活動したいと思っております。

石井幹子インタビュー1

─光の力ということですが、内閣府でも毎年11月12日から2週間行っている、女性に対する暴力をなくす運動の中でも暴力の根絶のシンボルであるパープルの色にちなみまして東京タワーを紫色にライトアップするパープル・ライトアップという取組を行っているところでございます。東京タワーのライトアップについては石井さんにお力添えをいただいているところでございますが、パープル・ライトアップについてはどのようにお考えでしょうか。

○石井 東京タワーのライトアップをさせていただいたのが平成元年、それから10年後にダイヤモンドヴェールというもう一つ別のバージョンを作らせていただいたわけです。それが7色使えますので、いろんなメッセージを送ることができます。随分いろいろな申し出がありまして、「こんなことで使わせてほしい」というご要望があるわけです。私たちは毎年11月の終わりに次の年どのようにつけるか、例えば、来年はリオデジャネイロでオリンピックがありますから、オリンピックの色をどのように出すかをデザインして、立案をして一年間運用するわけです。いろいろなご要望に応えて、特別な点灯を行うわけですが、まず社会性があること、そしてそのメッセージが大勢の方達に気持ちよく受け取っていただけるということ、東京の大事なランドマークですから美しくありたいということ、いろいろなことを勘案しまして、できるだけ公共的なメッセージにはご協力したいという東京タワーさんのご希望にも応えながら、一つ一つ丁寧にデザインをしたりデザイン監修を行ったりしています。いろんな方にいろんなメッセージが伝わったらいいと思います。東京タワーのホームページを見る方はすごく多いんです。今日はどういう点灯、何の意味を込めてやっているのかということもホームページでわかるようになっております。

石井幹子インタビュー2

─パープルライトアップ、東京タワーから始まって、昨年度は全国32カ所、ようやくイベントとしても定着してきており大変喜ばしいことだと考えております。

─女性に対する暴力は非常に深刻なものがございます。とりわけ、例えば配偶者等からの暴力についてですが、内閣府の調査によりますと、約5人に1人の方、女性の場合は約4人に1人の方が配偶者から身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫、性的な強要といった暴力を受けているといった結果が出ております。まず、この数字についてどのようにお感じになられますでしょうか。

○石井 私は大変な数の方がそういう被害にあってらっしゃると聞いて、大変驚きました。これにはやはり、いろいろな根っこがあると思うんですよ。まず一つは教育がすごく大きいと思うのですが、やはり「暴力はいけない」「何に限らず暴力はいけない」ということを小さい時から学校で教える。それから、女の人にも暴力を振るわれたならば、それは訴えるべきことなんだという、そういうことも教えていただく。暴力に耐えることが何か当たり前とか自分が悪いとか思うのは大変いけないと思います。それからもう1つ、社会的な、歴史的背景があるのではないかと思うのですが、女の人は江戸時代からずっと耐え忍ばなくてはいけない、耐えなくてはいけないというように、小さいときから、そういう教え込まれ方があったのではないか。それは女の人が一人で立っていかれない、結局経済的な自立ができなかったために、「耐えなくてはいけませんよ、そうしないとあなたは路頭に迷いますよ。」ということの裏返しであったと思いますね。まさに女性が自立して輝く時代になってくれば、自ずから暴力に耐えることもしなくなるのではないかと思います。ですからいろんな要因があると思いますが、「声をあげてください、そしてそれを訴える場所があるんですよ。」という広報が非常に大事ではないでしょうか。

─昔からという話がありましたけれども昔は男社会といいますか、男性中心主義なところがございまして、女性であることによりいろいろなご苦労もあったのではないかと思います。必ずしも暴力ということではないのかもしれませんが、例えば暴言をはかれたり、ひどいことを言われたりということもあったのではないかと思いますが、ご自身の経験やあるいはどこかで聞かれたことでも結構ですので、もし何かありましたら教えていただけますか。

○石井 女性だから言われたことだけではなくて、男の人たちも、若い頃は上司に怒られたり、先輩に怒鳴られたり、いろんな経験をされているから同じようなものだと思います。私が非常によかったと思うことは、20代で北欧のフィンランドで暮らしまして、その時1960年代の後半でしたが、もう内閣の閣僚には女性がいましたし、私が勤めていたデザイン室のチーフも女性でした。ということで、本当に平等な社会だったので、「多分日本も将来こうなるのではないか」と大変楽観的な気持ちがあったものですから、何か言われてもそのうちよくなると思っていました。既にフィンランドの実例を見ていたので、私にとっては幸いしたと思いますね。

―日本でも少しずつ変わってきているかもしれないのですが、一方で女性に対する暴力はかなり深刻なものがございます。地方公共団体に置かれている配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は年々増えておりまして、昨年度はついに10万件を超えております。一方で、こういった暴力については潜在化する傾向が強く、女性の場合、被害を受けている約4割の方が誰にも相談していないという結果が出ているところでございます。このような潜在化が起きることについてどのようにお考えでしょうか。

○石井 いろいろな機会に言っていく、広報していくということが必要ではないかと思います。まず暴力をふるうことが悪いことだと広く知らせていただきたい。それから暴力を振るわれたときに泣き寝入りしないできちんと立ち向かわないといけないですよということも教えてあげてほしいし、どこに逃げ込んだらいいかということも知らない人が多い。ホームページに出ているから知っているでしょとか、新聞に掲載があったから知っているでしょということをお考えかもしれませんが、実はですね、人にことを伝える、物を伝えることがとても難しい時代になってきたと強く思うんですね。10年前には新聞で読んだ、テレビで見たということで割と伝わったんですね。ところが、今は、新聞は読まない人が増えましたし、テレビは自分が好きな番組しか見ない人が増えました。区とか国からの広報が新聞の折り込みなんかで入っていますが、新聞をとっていなかったら広告に出会わないでしょうし、ポスティングではいっぱいお店の広告が郵便受けに入りますけど、ほとんど捨ててしまう。どうやって広報したらいいか、とても難しい時代になってきたと思いますね。みんながホームページを見ているかというとそれも違うんですね。物事を広めるための広報の方法というものは、もっとこれから考えて、予算の使い方も考えないといけないでしょうし、どういうところに悩んでいる人がいるのかというような、たくさんある池ならどこの池なのか、そこに何か放り込む、音を立てて波紋を広がせるためにはどうしたらいいのかということの模索が必要かと思います。とても難しいです。私も社会性のあるイベントを企画するときは、どうやって大勢の方に知らせようかとすごく悩みますね。なかなかうまい方法が見つからないのが現状なんですよね。

石井幹子インタビュー3

─暴力の被害者は、どうしても目立たないところにいらっしゃる。そういう方にどのようにして伝えていくのかというのは我々も常に悩んでいるところですし、今後とも考えていかなければならないと思っております。そうした中で、パープル・ライトアップというのは、光の持つ力、幅広くいろいろな人に一つのメッセージを伝えるということにすごく優れた伝達手段だと思っておりまして、我々も石井さんのお力をまた是非お借りしたいと思います。

○石井 東京タワーも今日は何の日かホームページに出ますけれどもそれだけではやはり足りない。何が一番効果的なのか、なかなか難しいですね。地域で、例えば区の掲示板というものもあります。意外とそういうところは近所の人が見てる。逆に多岐にわたって大きいものから細かいところといった両方をおさえる必要があるのかもしれません。

─最後に、配偶者からの暴力など、様々な暴力の被害にあって悩んでいる女性に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

○石井 大勢の女性の方達が自分で自立して経済力を持つということがある意味では平等で明るい社会を作っていく第一歩ではないかと思っております。それから、あらゆる意味で暴力はいけないということを、みんなが、一人ひとりが考える。そういうことを広めていただきたいと思います。また冒頭申し上げましたが、教育がとても重要です。中学・高校あたりの生徒さんたちにもそういうことを教えていただくことも、すぐ皆さん大人になりますから、とても有効であるかと思います。

─本日はありがとうございました。

石井幹子インタビュー4

昨年度はタワー、城、観覧車等様々な施設32カ所でパープル・ライトアップが実施され、年々、拡大しています。今年度は、石井さんが照明デザインされた東京タワーや東京ゲートブリッジもパープル・ライトアップされる予定です。パープル・ライトアップ実施施設については、ホームページに掲載いたします。是非ご覧ください。(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/no_violence_act/index.html

パープルタワー



石井 幹子
照明デザイナー


いしい・もとこ/

東京芸術大学美術学部卒業。フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、石井幹子デザイン事務所設立。都市照明から建築照明、ライトパフォーマンスまでと幅広い光の領域を開拓する照明デザイナー。日本のみならず海外でも活躍。

主な作品は、東京タワー、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジ、函館市や倉敷市の景観照明、白川郷合掌集落、創エネ・あかりパーク、歌舞伎座ライトアップほか。

海外作品では、<日仏交流150周年記念プロジェクト>パリ・ラ・セーヌ、ブダペスト・エリザベート橋ライトアップ、<日独交流150周年記念イベント>ベルリン・平和の光のメッセージ、「パリ・MAISON&OBJET」特別展示、日本・スイス国交樹立150周年記念光イベント<TRANJS>ほか。国内外での受賞多数。

2000年、紫綬褒章を受章。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。

((株)石井幹子デザイン事務所のホームペ-ジアドレスhttp://www.motoko-ishii.co.jp