「共同参画」2015年 6月号

「共同参画」2015年 6月号

スペシャル・インタビュー/第38回

自分の夢をかなえたいと思ったら、まず一歩を踏み出してみることが大切です

小林 りん
学校法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢
代表理事

聞き手 神尾 雅子
かみお・まさこ/内閣府男女共同参画局政策企画調査官


今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015」大賞に選ばれた小林りんさんにお話を伺いました。

―インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)開校から半年が経過しましたね。―

15か国から高校1年生を迎えて半年。日本だけでなくアジア、太平洋諸国、その先のグローバル社会のために「変革を起こせるリーダー」を育てることを理念に教育を進めています。リーダーイコール大企業の社長、政治家、ということでなく、どんな分野、どんな立場でも良いので変革を起こせる人を育てたいと考えています。

これからは本当に変化の速い時代になって行きます。今の若い人たちには「ジョブシーカー」(求職者)ではなく「ジョブクリエーター」(仕事を創る人)になってほしい。そのために大切な力が3つあります。1つ目は多様性への寛容力。2つ目は問題設定能力、3つ目は困難に立ち向かう力です。

今後どのような変化があるかわからない時代。必ずしも自分の当り前が通用する時代ではなくなる。いろんな常識が渦巻く中で意思決定、意思疎通ができる「多様性を受容する力」が必要です。

「問題設定能力」とは、降ってきた問題を解決する能力に対し、そもそも次はどんな問題が解かれるべきなのか、を嗅ぎ付けることのできる人。

「困難に立ち向かう力」とは、何か新しいことを成し遂げるときには必ずつきまとう困難、苦難に屈することなく、そのような状況にあっても「これはチャンスだ」と捉えることのできる力です。

たとえばこんなことがありました。ある男子寮で、キッチンのシンクにいつも洗いものがたまっていました。そこである生徒が問題提起し、全員で話し合う機会をつくったのです。

日本の学校では、校内を生徒が掃除するのは当たり前です。でも海外では、そもそもそういった習慣がない場合も多い。色んな国でそれぞれ違う環境で育った子どもたちが共同生活をしているISAKでは、1人が『汚れていて嫌だな』と思っても、必ずしも他の人が同じように感じるとは限りません。それを理解した上で、全員が気持ちよく使えるにはどうすべきか?を生徒たち自ら考え始めたのです。

思いつく限りのアイデアが出たところで、うまくいきそうなものをいくつかテストしていきました。そして3回も4回も色々試した結果、ようやく「キッチンを使ったら名前を書き、終わったらチェックを入れる表を作る」という案にたどり着いたんです。昨年秋に始まったこの取り組みは現在も続き、キッチンはだいぶきれいな状態が保たれるようになったようです。

何かに気付いたとき、まず行動を起こし、アクションを取り続ける人、抜本的に変えようとする人になってもらいたいと思います。1回や2回では答えは出ないが何度も挑戦すれば事態を変えることができるんだという実感を生徒に持ってもらいたいのです。

社会も同じです。例えば私の事業に関して、文科省の規制が大変だったでしょう、とよく言われます。しかしその逆で、文科省こそ最初から最後まで力強く協力してくれました。

―プロジェクトを成功させた小林さん自身の挑戦について聞かせてください―

このプロジェクトには、多くの女性が関わっています。立ち上げ期の20名のうち14人は女性、うち8人はワーキングマザーだったので柔軟な働き方を導入しました。週に1回の会議以外は時間の拘束はなし。自由な働き方をしてもらいました。こちらの体制を整えることによって優秀な女性が集まったことに私自身正直言って驚くほどでした。短時間勤務でも社会とつながりたいと思う女性の力を生かすことができたと思います。

子供を2人出産し育てながら進めてきた私自身も平坦な道ではありませんでした。子どもにも主人にもしわ寄せが行ってしまった時期がありました。

その当時出会ったのが長谷川閑史さんです。武田薬品工業社長(当時)と経済同友会代表幹事を両立させながら「僕は毎日10時には寝るし、土日は妻と散歩しています。その代わりに毎朝4時には起きてエアロバイクに乗りながら4紙に目を通し、7時には出社します。」とおっしゃっていた。長谷川さんほどの多忙な方にできるのならと、それからは子供と一緒に10時には寝て朝4時に起きる生活に変えました。何百通ものメールを読むのは朝の4時から6時。時間が限られていると思うとものすごく効率的になり、日中は集中的に仕事をして早く切り上げる。子どもが居るから早い時間帯に打合せをしたいと言えばみなさんそのように対応してくれるようになり、家族との時間を大切にすることができるようになりました。

また、「選択する未来委員会」に出席していた頃、私はちょうど二人目を出産し、授乳時間が必要でした。そこで私は子供を会議に連れていくことを了解してもらいました。それまで「こうしなければダメ」と思っていたことが意外にそうでもなかったのです。

フランスの哲学者アランが「幸福論」で「悲観は気分に属するけれど楽観は意思に属する」と書いています。よく「ガラスの天井」と言いますが、これは「気分」として捉えるのです。

若い女性には「ガラスの天井と思っているだけで、もしかしたらそうじゃないかもしれないよ。コン、コンと叩いてみたら意外と簡単に割れるかもしれないよ」と言いたい。

女性だからできない、子どもが居ないかのように振る舞わなければならない、と思うのではなく、女性が子育てをすることは社会のための大事な貢献なのだと考えて主張していくことが大事です。

未来を楽観視するためには自分が意思を持ってそこへ向かうこと、行動を起こすことです。

―何かを見つけて活躍したいと思っている女性たちにメッセージをお願いします―

何かを始めて大きくしていこうとするとき絶対に一人ではできません。優秀な人は、つい「私ならもっと早くできるのに、上手にできるのに」と思いがち。しかし自分には限界があります。たとえ少しの力でも数人集まれば大きな力。そのサポートがあれば自分だけより大きなパワーとなることに思い至ること、そしてそのことに感謝する力が大切です。

また、自分の夢をかなえたいと思う人には、まずは一歩踏み出してみたら、ということと、夢の実現は必ずしも簡単ではないが、その先にある充実感は何ものにも代えがたい素晴らしいものだということを伝えたいと思います。私自身はこの仕事をするために生まれてきたのだ、これまで歩んできたのだ、と思えるし、いばらの道を避けずに歩んできたからこそようやく見つけた仕事だと感じています。

―ありがとうございました―


ISAKの生徒(1)


ISAKの生徒(2)



小林 りん
学校法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢
代表理事
こばやし・りん/
国立高校を中退し、カナダの全寮制国際高校に留学。大学では開発経済を学び、前職ではユニセフの職員としてフィリピンにて貧困層教育に携わる。2009年4月より現職。1993年国際バカロレアディプロマ取得、1998年東京大学経済学部卒、2005年スタンフォード大学国際教育政策学修士。2014年8月に日本初の全寮制国際高校を開校。東京大学経済学部卒、スタンフォード大学国際教育政策学修士。2014年10月より、内閣官房主催『教育再生実行会議』グローバル/イノベーション人財ワーキンググループメンバー。12月日経ビジネス「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015」大賞受賞。