「共同参画」2015年 5月号

「共同参画」2015年 5月号

連載

NATOでの勤務 (1)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

昨年12月、北大西洋条約機構(NATO)に派遣されてから約5カ月が経ちました。「女性・平和・安全保障担当NATO事務総長特別代表」のアドバイザーとしての勤務は想像以上に新鮮で、学ぶことの多い日々です。今回から、「女性・平和・安全保障」や「ジェンダー」の分野におけるNATOの取組みや印象等についてお伝えしていきます。

筆者は陸上自衛官ですが、現在はNATO本部の国際事務局という文民組織に所属し、制服からスーツに着替えての勤務です。NATOは巨大な組織で、ブリュッセルにあるNATO本部、その隷下の各コマンド、そしてNATOの作戦を行う各部隊等から構成されます。NATOでは「女性・平和・安全保障」に関する政策や「行動計画」が存在し、これらに基づき、NATOの全てのレベル(垂直的)及び全ての業務(水平的)への「ジェンダー視点」の反映を追求しており、軍事に関わる機関としては国際的にも先進的な取組みを推進しています。

NATOの問題認識の背景には、国際社会が直面してきた「紛争下の性的暴力」があります。ここには「兵器としてのレイプ」も含まれ、現在もなお人間の安全保障上喫緊の課題となっています。NATOは、NATO主導の作戦を通じて、ジェンダーの視点を政策や作戦に反映することが作戦地域の安定化や現地女性等の安全保障に資することを、経験として学んできました。そして、これらの経験を蓄積し、必要な政策がNATOのあらゆる作戦や活動に反映されるよう「行動計画」を作成して各種施策を推進しているというわけです。

紛争下の性的暴力の課題に対し、安倍総理大臣は14年9月の国連総会において、日本は国際社会の先頭に立ってリードしていく、と宣言しており、この分野における日本とNATOの方向性は一致しています。NATO本部ではアジア系は珍しく、筆者は周囲の人に不思議な顔をされることもありますが、紛争下の性的暴力を許さない国である日本から来たのだと胸を張って勤務しています。

ところで、ジェンダー関連の職務というと、女性職員ばかりというイメージではないでしょうか。でも、NATOでは多くの男性職員が携わっています。例えば、NATO国際軍事局のジェンダーアドバイザーは男性(スペイン陸軍中佐)ですし、NATO本部内の「ジェンダータスクフォース」という部署横断的な組織では、関係者の4割近くが男性です。彼らはごく自然にそのポストに就いて、各種課題に熱意をもって当たっています。もちろん最初は戸惑ったけど、と付け加えつつ。NATOではそれだけジェンダーに関する認識が浸透していることを感じますし、女性職員の側も「女性vs男性」という対立構図になることなく、ごく自然に男性と女性が協力している、という印象を受けています。

今年は国連安保理決議1325号から15周年の節目の年にあたり、世界各地で多くの関連イベントが予定されており、筆者のオフィスも忙しくなりそうです。今後、これらについても報告していきたいと思います。


岸田外相のNATO訪問時。
左から、特別代表、外務大臣、筆者



岸田外相訪問時の献花ともに、
NATO本部正面玄関にて


くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。