「共同参画」2013年 6月号

「共同参画」2013年 6月号

特集

男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針について
内閣府男女共同参画局総務課

内閣府男女共同参画局では、本年5月31日に、「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を公表しました。取組指針の内容や、男女共同参画の視点からの具体的な取組事例についてご紹介します。

1.はじめに

東日本大震災においては、避難所によっては、衛生用品等の生活必需品が不足したり、授乳や着替えをするための場所がなかったり、「女性だから」ということで当然のように食事準備や清掃等を割り振られたりしたところも見られました。

近年、国際社会において、「災害リスク軽減」(災害が起こる前に、災害に対する脆弱性や災害リスクの軽減を目的とした対策を講じる、もしくは、自然現象による悪影響や被害を防ぐ、または最小限にすることを目的とした対策を講じる)という概念とともに、災害に強い社会の構築には、男女共同参画社会の実現が不可欠であることが強調されています。

これらを踏まえ、内閣府では、過去の災害対応における経験を基に、男女共同参画の視点から、必要な対策・対応について、地方公共団体が取り組む際の基本的事項を示した「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針(以下「取組指針」という。)」を本年5月に作成・公表しました。

作成に当たっては、有識者等からなる検討会において議論を行ったほか、意見交換会や意見募集を行い、地方公共団体や関係者の意見を広く聴取しました。

2.基本的な考え方

取組指針においては、以下7つの基本的な考え方を提示しました。

(1)平常時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基盤となる

地域における生活者の多様な視点を反映した防災対策の実施により地域の防災力向上を図り、力強く復興を進めていくためには、男女共同参画の視点を取り入れた防災・復興体制を確立する必要があります。

災害時には、平常時における社会の課題がより一層顕著になって現れるため、平常時からの男女共同参画社会の実現が、防災・復興を円滑に進めていくための基盤となります。


(2)「主体的な担い手」として女性を位置づける

東日本大震災の災害対応の現場においては、救助・救援、医療及び消火活動、復旧・復興等の担い手として、多くの女性が活躍し、現在も活躍していますが、意思決定の場での女性の参画は少なくなっています。

災害対応において女性が果たす役割は大きいことを認識し、女性の意思決定の場への参画や、リーダーとしての活躍を推進することが重要です。


(3)災害から受ける影響の男女の違い等に配慮する

女性と男性では災害から受ける影響に違いが生じることに配慮することが重要です。

災害は、地震、津波、風水害等の自然現象(自然要因)とそれを受け止める側の社会の在り方(社会要因)により、その被害の大きさが決まってくると考えられています。後者については、性別はもちろん、年齢や障害の有無等、様々な社会的立場によって影響が異なることから、社会要因による災害時の困難を最小限にする取組が重要です。


(4)男女の人権を尊重して安全・安心を確保する

避難生活において人権を尊重することは、女性にとっても、男性にとっても必要不可欠であり、どのような状況にあっても、一人ひとりの人間の尊厳、安全を守ることが重要です。

男女の人権を尊重して、避難生活の安全・安心を確保するため、女性や子どもに対する暴力等の予防のための取組や、プライバシーを確保できる仕切りの工夫等が重要です。


(5)民間と行政の協働により男女共同参画を推進する

災害対応において行政の責任は大きい一方で、行政による対応には限界があり、住民、地縁団体、NPO、NGO、大学、企業、専門家等の民間の力が不可欠です。

地域における男女共同参画の推進は、これまでも地方公共団体と民間が連携・協働し、取組を進めていますが、災害時においては平常時以上に民間と行政との協働が重要となります。日頃から関係を密にし、信頼関係を築き、災害時には情報の共有も含め、速やかに対応できるようにしておくことが重要です。

買物を代行する支援員(岩手県盛岡市)
買物を代行する支援員(岩手県盛岡市)

(6)男女共同参画センターや男女共同参画担当部局の役割を位置づける

男女共同参画の視点からの災害対応を円滑に進める上で、男女共同参画センター・女性センター等や男女共同参画担当部局の果たす役割は大きいと考えます。予防、応急、復旧・復興の各段階において、施策の企画・立案に積極的に参画することができるよう、平常時及び災害時における役割を明確化し、防災・復興担当部局を始め他部局との連携を図るとともに、地域防災計画等にその役割を位置づけることが重要です。


(7)災害時要援護者への対応との連携に留意する

現状として、家庭内で高齢者、障害者、乳幼児等の介護や保育等を行っている者は女性が多く、医療・保健・福祉・保育等にかかわる専門職にも女性が多くなっています。そうした女性の意見を取り入れることは、災害時要援護者の視点を反映することにつながることから、避難所運営や被災者支援等において、女性が政策・方針決定過程に参画することが重要です。

3.各段階において必要とされる取組

取組指針においては、予防、応急、復旧・復興等の各段階において必要とされる取組についてまとめました。以下では、紙面の都合上、主なものを紹介いたします。


(1)事前の備え・予防

○防災対策に男女共同参画の視点を反映するため、地方防災会議における女性委員の割合を高めること。

○地域防災計画の作成、修正に際し、男女共同参画の視点を反映すること。

○女性用品、乳幼児用品等の必要とされる物資について、あらかじめ一定程度を備蓄するとともに、関係団体・事業者等と協定を締結し、災害発生時に速やかに調達・輸送できるようにすること。

○男女共同参画の視点からの災害対応について、性別、年齢等にかかわらず、多様な住民が自主的に考える機会を設けること。

○自主防災組織における女性の参画を促進するとともに、リーダーに複数の女性が含まれるよう女性リーダーの育成を図ること。

子育てサークルと協働した防災訓練(新潟県長岡市)
子育てサークルと協働した防災訓練(新潟県長岡市)

(2)発災直後の対応

○妊産婦や乳幼児を連れた保護者は、避難に時間と支援を要することが多いため、関係機関、自主防災組織、近隣住民等の協力を得て、安全を確保できる場所への避難誘導・避難介助を行うこと。

○救助・救援、医療及び消火活動、ライフラインの復旧等に係る業務が、子育てや介護等の家庭的責任を有する職員または社員等も参画して速やかに実施されるよう、災害直後から子育て・介護支援を実施すること。

○帰宅困難者が大量に発生することが想定されている地域においては、平常時に協定等を締結した駅周辺の商業施設や大学等に対して、男女共用のスペースだけでなく、男女別のスペースを確保するよう要請すること。


(3)避難所

○開設当初から、授乳室や男女別のトイレ、物干し場、更衣室、休養スペースを設けること。

○避難者による自治的な運営組織には、男女両方が参画するとともに、役員のうち女性が少なくとも3割以上は参画することを目標にすること。

○生理用品や下着等の女性用品については、女性の担当者から配布したり、女性専用スペースや女性トイレに常備しておくなど、配布方法を工夫すること。

○妊産婦、乳幼児等の健康に配慮し、感染症予防対策を始めとして衛生的な環境を確保するための対策を行うこと。

○女性や子どもに対する暴力等を予防するため、就寝場所や女性専用スペース等を巡回警備したり、防犯ブザーを配布するなど、安全・安心の確保に配慮すること。また、暴力を許さない環境づくりや、被害者への適切な対応を徹底すること。


(4)応急仮設住宅

○入居者が孤立せず、入居者同士の交流等が図れるように、集会施設を設置するとともに、その運営を支援すること。

○応急仮設住宅団地を設置した場合には、自治会等の育成を図り、役員のうち女性が少なくとも3割以上は参画することを目標にすること。

○入居者に対し、保健師等の専門職や男女両方の生活支援員等が巡回訪問等を行い、問題の把握及び解決に努めること。

○男女共同参画センターや民間支援団体等と積極的に連携を図りながら、相談窓口や女性に対する暴力等の予防の方法について周知すること。

○男性に対する相談体制を整備するとともに、相談窓口の周知方法を工夫すること。


(5)復旧・復興

○復興計画の作成に際し、政策・方針決定過程への女性の参画を拡大し、男女共同参画の視点を反映すること。

○住民の意見集約に当たっては、必要に応じて女性だけの話し合いの場を設けるなど、生活者の視点に立った具体的な提案を出しやすい環境を整備すること。

○災害公営住宅を整備するに当たっては、計画・設計の段階において意思決定の場に女性が参画するとともに、これらの意見を踏まえた住宅を建設すること。

○被災者の働く場の確保のため、即効性のある臨時的な雇用創出策や、職業訓練を通じた労働者の技能向上等による中長期の安定的な雇用創出策を実施するに当たっては、女性の雇用機会を確保すること。

○男女共同参画センターは、平常時から行っている相談事業、情報提供事業、広報・啓発事業等に加え、地方公共団体の関係機関や地域の人材・団体との連携等を通じて、男女共同参画の視点からの情報提供や相談対応、男女共同参画に関する課題に取り組むNPOやボランティアの活動拠点等の被災者支援を行うことが考えられる。


(6)その他

○大規模災害等において被災者が広域的な避難を行っている場合、特に、女性は子どもとともに母子で避難することが多いと想定されることから、実態やニーズを把握し、必要な対策を講じること。

○民間支援団体やボランティア等が被災地において支援を行う際は、女性に対する暴力等の予防に関する注意喚起、男女共同参画の視点からの支援の在り方等について周知・伝達するよう努めること。

○防災・復興の施策を推進する際に男女共同参画の視点を反映するためには、男女が置かれている状況をデータ等により客観的に把握することが重要であることから、災害発生時は、被災者及び災害対応を行う者に関して、男女別統計の整備に努めること。

4.おわりに

このほか、取組指針についてより詳しい解説や、災害時に携帯できるチェックシート、先進事例を盛り込んだ「解説・事例集」も併せて作成しました。詳しくは、内閣府ホームページを御覧ください。

http://www.gender.go.jp/policy/saigai/shishin/index.html

チェックシートの例
チェックシートの例

取組事例(1)

ボランティアに頼る炊き出しから専属スタッフの雇用へ 宮城県山元町

山元町では、東日本大震災後、町内に最大で19か所の避難所が設置され、女性職員や、避難してきた女性が当番制、もしくは婦人防火クラブ等がボランティアで炊き出しを行っていました。町の保健福祉課の女性職員(管理栄養士)は避難所の巡回を通じて、震災直後の物資供給もままならない状況の中で、避難所ごとに食事の内容やバランスに差があることを感じ、避難者の健康のためにも、最低限の栄養管理が必要という認識を持ちました。また、炊き出しに当たっている女性たちに疲労の色が濃いこともわかりました。

そこで、同職員は震災直後から衛生的で大規模な調理場の確保と栄養管理のため、炊き出しの体制整備の必要性を訴え、これに共鳴してくれた町民生活課生活班長の女性職員と2人で、庁内の説得に当たりました。

まず、自衛隊の緊急支援が入ることに伴い平成23年3月15日からは避難所ごとの炊き出しをやめ、庁舎の空きスペースで一元調理して避難所に運搬することにしました。それと同時に、衛生的で千人規模の調理ができる広さの調理場の確保が必要と考え、避難所運営の一環として、庁舎の敷地内に調理棟の建設を計画・立案し、同年4月に実現させました。千人規模の食事を毎日調理するには、炊き出しをボランティアに頼るのではなく、仕事として専属のスタッフを雇用することが必要と考え、緊急雇用創出事業を活用して、町の臨時職員として栄養士1名(女性)と調理スタッフ7名(うち女性6名)を雇用しました(同年5月から9月末まで)。

炊き出しを被災した女性のボランティア任せにしない体制を作り上げたことで、避難者の栄養管理及び食事の衛生管理において、成果を挙げることができました。

平成25年3月には、避難所で被災者に提供した食事や炊き出しの記録をまとめた、「食」から生まれた『絆』の記録2012を作成しています。

調理棟での炊き出しの様子
調理棟での炊き出しの様子

取組事例(2)

防災集団高台移転に際し女性だけのワークショップを実施 宮城県石巻市

石巻市北上町十三浜地区では、平成23年10月から、石巻市北上総合支所のほか、大学教授、NPO、日本建築家協会等がボランティアで関わり、集団高台移転に向けた住民の合意形成に向けて、住民参加型のワークショップ形式で、意見交換を開始しました。この地域では、地域のことは各家庭の「家長」が集まって決めることが慣習となっており、ワークショップも、通常であれば男性中心で話し合いが行われる可能性が高いと思われました。しかし、石巻市北上総合支所の職員は、新潟県長岡市山古志村の災害復興まちづくりを視察した際に聞いた情報を基に、早い段階から話し合いの場に女性が参画することの重要性を認識し、同年11月に、女性だけが集まって話し合う機会を設けることとしました。

女性だけのワークショップでは、非常に活発な意見が飛び交いました。男性であれば「家長」という立場を意識して見栄を張ってしまうような場面もあるところ、女性たちは、高台移転についての不安もお金のことなども含めて率直な思いが語られました。また、家族や地域のことをよく知っていることから、「高台に移転した場合、おばあさんが何かあった時に浜からすぐ上ってこられる勾配の道があるか」など、日常の小さな気づきも指摘されました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子