「共同参画」2013年 3月号

「共同参画」2013年 3月号

スペシャル・インタビュー/第33回

男の世界の製造業。女性だからこそ、早く「結果」を残したかった。

― コミュニケーションが取れる人は、成長が早いと思います。

諏訪 貴子
ダイヤ精機株式会社 代表取締役社長

今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013」大賞に選ばれた諏訪貴子さんにお話しを伺いました。諏訪さんは、先代の社長であった父の急逝を機にわずか32歳で社長に就任。短期間に数々の経営改革を実施し、会社の成長を主導しました。工場には、中小企業経営者や国内外の政府関係者が次々視察に訪れています。

職人の技が活きる「ゲージ」で勝負。

ダイヤ精機は、自動車部品向けの治工具(機械加工や溶接に用いる工作具の固定などに使う装置)やゲージ(自動車部品などの寸法をチェックする測定具)を設計製作する会社です。リーマンショックを受けて、機械生産の治工具メインから、それまで2割だったゲージの生産割合を6割に増強し、業績を大幅に改善しました。ゲージは熟練工が手作業で研磨して仕上げるので、機械生産製品のように海外にシェアを奪われたり、価格競争に巻き込まれるリスクが低いのです。

未経験でもコミュニケーションが取れる人を積極採用。

わが社の強みは、第一に技術力。先輩たちが築き上げてきた「日本の技術」を継承している職人たちの技術力です。 第二に社内が明るいこと。採用基準は「コミュニケーション力とやる気」。どんな技術を持っていても、ウチに来たら素人になる可能性も高いので、未経験者でも、コミュニケーションが取れる人を採用しています。コミュニケーションが取れる人というのは、成長の度合いが早い。今年入った子たちはみなサービス業出身です。彼らは人に質問することを臆せずできるし、わからないことをわからないと言えるので、上達が早い。年齢差のある人と接する経験を持っているので、年上の職人さんとも上手くやって技術を学んでいきます。

社としては、未経験者教育プログラムをしっかり準備。机上教育1週間の後は、1か月、3か月、半年、1年、3年の「若者が辞めるポイント」に合わせて対策をします。大手と違い同期がたくさんいるという訳ではないし、ひとりひとりに合わせたきめ細かい教育対応が大切です。技術はウチに入ってから身に着けてもらえばいい。しっかり教育していきますから。

言葉の意味を知ると、行動が変わる。基礎を固めて経営改革。

「経営改革の3年間」と称し、「人」、「財務」、「組織」すべてにおいて、基礎となる経営基盤強化に努めました

「財務」では、大幅なコストカットを実施。「人」においては「基礎教育」。「おはようございますからはじめよう」とか、「整理整頓からやる」といった基本です。例えば製造業の基本である「整理整頓」。「整理整頓」とは「整理」と「整頓」です。そして「整理」とは、要るものと要らないものを分けて、要らないものを捨てること。「整頓」は、要るものだけを使いやすく並べることです。言葉の意味を知っていると、行動に差が出できますよね。だから、「PDCA」とか「QC」とか、その意味から、1年かけて教育し、2年目はその基盤を活かしてチャレンジ、3年目はそれらを維持・継続・発展するための「見直し・スリム化・標準化」を行いました。

亡き兄の代わりに「男」として育つ。「女」だからこそ、直ぐに結果を残したかった。

6歳で、白血病で亡くなった兄の代わりに私が生まれました。この会社もそもそも兄の治療費を稼ぐために建てられたものです。跡継ぎが欲しかった父は私を「男」として育てました。お人形とかは与えてもらえず、高校・大学になれば、「バイクに乗れ、車に乗れ、工学部以外は行っちゃだめだ。」です。

製造業の世界は「男」の世界。だから、女性であることをはじめはマイナスに捉えていました。社長になって最初の2年は表に顔を出さなかった。製造業の社長に女が就くことで、「あの会社はもう駄目なんじゃないか?」と思われたら従業員に申し訳ないと。社長として出向いても、秘書に間違われたり。32歳という若さもあって、なかなか認知してもらえなかった。直ぐに結果を出さなければダメだ。男性に比べて社会的信用が低いと感じました。女だからこそ、結果を残したかった。

ある時社員に「私、女社長で頼りないよね、ごめんね。」と言ったら、「いや、だって社長。たまたま女、ってだけでしょう。」と。その言葉で吹っ切れました。就任して半年で大きな利益を出し、結果を残していくことで、周りも認めてくれ始めた。

女というだけで目立ってしまう。これをマイナスでなくプラスに捉えて、「女だからって。」と批判する人たちには、「羨ましいでしょ。」って言える強さも身につけました。

女性だから活きる製造業の現場。「有休は使っちゃえ。」が合言葉。

製造業は「男」の世界ではありますが、やる気さえあれば「男」も「女」も関係ないと思います。現在、技術者全体で40名のところ、女性は私を入れて2人。男性は直ぐに結果を求めますが、女性は根気よく続けるところがあります。製品の美しさへの追及は女性の方が持っていたりする。手仕上げが大事な当社では活躍できると思います

ワーク・ライフ・バランスで言えば、PTA出席、子どもが熱を出した、など、仕事を抜け出す必要があるときはいつでもOKです。理解がある社風。私も、同じ子どもを抱えている身ですし。

また、「有休は使っちゃえ。」が合言葉。仕事がない時にはみんなで休み、仕事があるときにはみんなで頑張る。が基本方針です。周りへの気遣いはもちろんしますが、「つき合い残業」はいっさいありません。メリハリのある生活をしていますよ。ハワイのホノルルマラソンに参加する相談役、釣り部、フットサル部。ゴルフにダーツ。本当にいろいろ。皆に「趣味を持て」と言っています。

女性たちへのメッセージ。経験を広げて、自分の可能性を信じよう。

能力を持った女性がたくさん結婚や子育てで家庭に入りました。今40代を過ぎて、子育てが一段落してきていると思うのですが、彼女たちに、是非社会に戻ってきてもらって力を貸していただきたいと思います。それも、経験がある職種とかにとらわれず、どんどん新しい分野にチャレンジして欲しい。40代50代は、まだまだ新しいことにチャレンジできる年代なので。

これから社会に出る若い方々には、いろんなことに興味を持って欲しい。狭い世界では自分に向いていることを見つけづらいので、いろんな経験と情報を手に入れて、目標を持てる仕事に就いてもらい「やりがい」を実感してほしいと思います。

既にお仕事に就かれている方々には、その仕事の中での目標設定なりビジョンなりを描くことを考えて欲しい。

仕事って、考え方次第だと思います。最初に勤めた工場で、一日8時間部品を箱につめる仕事をしたのですが、最初はものすごく辛くて辞めたかった。でもその中で、「次、タイムアタックしてみよう。」とか、そうすると時間が早く感じられたり、詰め方を変えて工夫したり、作業が早くなってくると先輩たちから褒められたり、考え方次第でうまい具合に回っていくものだと思います。

逆境を味方につけ、次の躍進を実現している諏訪社長。ポジティブシンキングを信条とした彼女の活躍は、日本経済を確実に元気にしていると感じました。これからの益々のご活躍を大いに期待したいと思います。

すわ・たかこ氏
すわ・たかこ/ 1971年東京都大田区生まれ。 成蹊大学工学部を卒業後、ユニシアジェックスス(現 日立オートモティブシステムズ)に技術員として入社。2代目修行ののち、2004年ダイヤ精機株式会社 代表取締役に就任。 3年間の改革を実行し、2008年経産省「IT経営実践企業」に認定される。 2012年「勇気ある経営大賞 優秀賞」受賞、「人材育成都知事賞 奨励賞」受賞。日経ウーマン「ウーマンオブザイヤー 大賞」を受賞。