「共同参画」2012年 12月号

「共同参画」2012年 12月号

連載 その2 女性首長から

バランスのとれた社会の実現を
宝塚市長 中川 智子

一昨年のこと、全国市長会総会後、外務大臣主催の会が開かれ出席しました。その折、ノルウェー大使が「少しお話をしたいのですが…」と声をかけてくれました。「先ほどから女性の市長と話したくて探していたのですが、やっとお会いできました。」と言われたので、「全国に自治体は1,700ほどありますが、女性の首長は約20人ですから…」と答えると大層驚かれました。ノルウェーは法律によって各界の女性の比率が約半数と謳っていることから、閣僚、議員、企業管理職、首長は女性が当たり前に活躍しているとのことでした。

男女共同参画社会への実現に向けての取り組みは、日本でも一生懸命頑張っているにもかかわらず、目に見える形では先細り傾向の印象を受けるのは私だけでしょうか?史上未だ女性の総理大臣はゼロ、閣僚も「入れとかないとマズイかな?」という程度の数。女性の首長にいたっては2%にも届かないという悲惨な状況です。男女共同参画社会の実現は国の法整備が早急に求められると強く思います。

しかし当事者である女性が本当にその実現を望んでいるのかどうか…時々考え込んでしまいます。講演の依頼を受けてお話する時に、まず参加者にこんな質問をします。「次生まれ変わったら男性として生まれたいと思われる方は?」100人くらいの中でせいぜい1人か2人手が上がるだけです。ほとんどが同様です。何故か?今の日本では男性の方が生きにくいのではないか、と思うのです。肩の荷が重い。小さい時から「男の子だから」「男らしく」と育てられ、男社会であるが故に「頑張って当たり前」「男の甲斐性」ばかりが求められる。これが男と女で半分コ、になればどんなにバランスの良い社会が出来るだろうか、と思います。3年半前、市長就任時、行政の最高決定会議の場は男性17人に女性は私ひとり、当然、それ以前はすべて男性でした。ほどなく女性部長が初めて誕生しましたが、まだまだです。しかし、行政の仕事は教育、福祉、都市計画、子ども施策、環境等々市民の暮らしに直結することばかりです。少なくとも30%は女性の感性や発想が欲しいとつくづく思います。当然、市の幹部ですから優秀な人が多く、私はあまり苦労もなく、皆と議論し施策の実現に取り組んでいますが、要はバランスが悪いのです。人は生まれた時は“人間”として誕生しますが、「男」と「女」という性として育てられ、社会や世間の中でますます性差が拡大します。多くは女性が担っている子育てと介護。これらの負担軽減のための社会資本の整備、夫婦間での家事分担の促進と企業努力、より徹底した雇用均等、そして何よりも女性が「その他大勢が責任もないし、楽でいいわ」と思わず、決定権を有する所に出ていく勇気を持たねばこの国は変わりようもないと考えるのです。そのためには前述したように、国の法律、自治体の条例、それを決定するこれまた勇気のある男性の後押しが何より求められます。

両性が性に縛られることなく、より自由に生きるために、そして社会がバランスよく柔軟に機能するために…。いかがでしょうか?この提案は。

最後に。宝塚市は歌劇に代表されるように女性の活躍がめざましい街です。元気な女性がいっぱいいます。訪れてみてください。お待ちしています。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜
なかがわ・ともこ/1947年和歌山県生まれ。鶴見女子短期大学国文科卒業。結婚後、育児教室キンダールーム、宝塚市学校給食を考える会を設立。阪神・淡路大震災では、ボランティア活動に奔走。1996年から2003年まで衆議院議員(2期)。ハンセン病や薬害問題に取り組むとともに、被災者生活再建支援法や身体障害者補助犬法の成立に尽力。2009年4月、宝塚市長に就任。「命を大切にする、支え合いのまちに」の実現に取り組むとともに、日本一の学校給食を目指す。趣味は、映画鑑賞、読書。