「共同参画」2012年 12月号

「共同参画」2012年 12月号

特集

地域における男女共同参画の推進について
内閣府男女共同参画局総務課

近年、少子高齢化や過疎化にともない、地域力の向上が求められております。諸課題を解決するため、男性とともに、元気に活躍し成果を挙げている女性がクローズアップされています。今回は地域における男女共同参画の推進についてご紹介いたします。

NPO法人きらりよしじまネットワーク(山形県川西町)、愛南グリーンツーリズム協議会(愛媛県愛南町)、被災地NGO協働センター(神戸市)、(財)とよなか男女共同参画推進財団、香川県生活研究グループ連絡協議会、(公財)横浜市男女共同参画推進協会の取組

1 基本法での定義

「男女共同参画社会基本法(平成11年6月23日法律第78号)」(以下、「基本法」という。)では、「地方公共団体の責務」として、第九条で、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」とし、また「地方公共団体及び民間の団体に対する支援」として、第二十条で、「国は、地方公共団体が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策及び民間の団体が男女共同参画社会の形成の促進に関して行う活動を支援するため、情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めるものとする。」とそれぞれ定めています。

2 第3次基本計画における「地域」

基本法制定から13年が経ち、様々な領域で女性が活躍する場面が増え、男女共同参画社会が着実に進められている一方で、地域においては様々な問題が生じてきました。高齢化、人口減少、社会的・経済的活力の格差が広がり、現在、地域の実情に応じた新たな男女共同参画の推進に移行することが求められています。

男女共同参画基本計画(以下「基本計画」という。)は、平成12年以後5年ごとに改定されています。直近では、第3次男女共同参画基本計画が平成22年12月に閣議決定されました。

基本計画には、平成20年10月に男女共同参画会議基本問題専門調査会が取りまとめた「地域における男女共同参画推進の今後のあり方について」が反映されています。

地域における男女共同参画を推進するに当たっては、前述のような実情に配慮し、拙速に成果を求めるのではなく、創意工夫した取組を粘り強く穏やかに進めていく必要があります。

そのためには、地方公共団体や男女共同参画センターだけではなく、各種課題解決に有効なノウハウやつながりを持つ、地域の多様な主体の参画が必要です。

さらに地域活動に積極的に参加するための、地域社会で仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)にむけた環境整備等の配慮も必要です。

地域については、前述した調査会での議論をもとに「基本計画第14分野」において「地域、防災・環境その他の分野における男女共同参画の推進」が新たに掲げられました。地域における男女共同参画の現状と課題については、目標値が設定されている項目(右表参照)について、計画策定時から現在に至るまでの経過を見ても女性の登用が進まず、地域の現場では、女性が意思決定の場に参加することが難しい問題であることがわかります。

基本法施行後、地域における男女共同参画の推進は、(1)固定的な性別役割分担意識が未だに根強い、(2)地域や地域の人々の課題解決のための取組に男女共同参画の視点が十分活かされていない、(3)地域における活動の参加については性別、世代に偏りがある、(4)地域において女性が実際に活躍できる場が乏しい、といった問題を抱え、男女共同参画が必ずしも順調に進んでいない状況が見られます。

このような状況を打開するためには、「地域」や「地域の人々」が抱える幅広い分野の課題を取り上げ、男女共同参画の視点を活かしつつ、多様な主体が連携・協働しながら課題を解決する「実践的活動」に重点を置く取組が必要です。

実践的活動を通して身近な課題を取り上げることで、従来の知識習得や意識啓発中心の男女共同参画の取組には参加してこなかった団体や個人が、参加し活動を通じて、男女共同参画の意義を実感することにもつながります。

男女共同参画の推進に当たっては、まずはコミュニティの基本である「地域」から推進することが必要です。国や地方公共団体などの行政は、地域のリーダーとなる女性を育成する研修や一般市民への啓発事業等を行ってきていますが、実際に地域で活躍する女性は未だ少ない状況にあります。

このため、地方公共団体等に対して以下に紹介するような取組を推進することにより、2020年までに、あらゆる分野で指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度となることを目指す「202030」や「新しい公共」の実現、地域活動における女性参画の促進を図ることにしています。

基本計画における成果目標等の動向

3 地域における男女共同参画促進総合支援事業

(1)実践的調査・研究

地域の活力と魅力を生みだす男女共同参画活動事例について調査しましたので結果(平成23年8月公表)をご紹介します。

(ア) 住民全員が参加する地域自治再生への取組

活動のきっかけ

山形県川西町の「特定非営利活動法人きらりよしじまネットワーク」は、それまでの吉島地区社会教育振興会を中心とした事業からさらに一歩進め、行政を含めた多種多様な団体との協働、また地域住民の自発的なスキル向上の支援や支えあいの共助サポーターなどの活動を広域的に展開することを目的として、2007年、吉島地区全世帯(752世帯)加入のNPO法人となりました。「この地域に住み続けるため、次世代につなげるため、何が本当に必要で、何のための地域づくりなのか」、住民一人ひとりが地域経営者として課題を解決し、地域自治を再生しようと、地域ネットワークの構築に力を入れています。「ふるさと市」の開催、ネットショップ、研修会やワークショップ等によるリーダー育成、自主防災組織、キッズスクールなど、多彩な活動を実践してきました。

主な活動の内容

「生涯学習事業」として、高齢者の社会参加と介護予防、生涯学習の振興を目的に、小学校の余裕教室を活用し、「よしじま燦燦塾」を開校しました。高齢者と子どもたちのコミュニケーションの場にもなっています。

また、地域住民のスポーツの拠点として、登録制の総合型地域スポーツクラブ(マイマイスポーツクラブ)を設立しました。


吉島小学校家庭科室で、小学生と「よしじま燦燦塾」のお年寄りが一緒にそばをうち、交流を楽しむ「そばうち交流サロン」

災害時・平常時の要援護者支援事業と災害時要援護者サポーター制として、日中・夜間・休日の生活時間帯及び災害時に、要援護者(2011年3月末現在28人登録)1人につき地域ボランティア(2011年3月末現在40人)2人の支援体制で、安否確認や災害時の避難誘導などを行っています。

更に、「防災・防犯事業」として、自主防災組織により、独自の防災無線の整備や災害時要援護者1人に2人を配置するなど、支えあいの防災活動を進めています。また、子どもの通学・下校時の見守りや、車での地域内巡回などを行っています(よしじまっ子見守り隊)。

男女共同参画の視点

地域の活力を維持・継続するため、リーダーの発掘・育成に注力

地域の活力を次世代に向けて維持継続していくために、「この地域に住み続ける」という意識の醸成を図り、行政に頼らず住民主体で課題解決する力を高めていこうと、独自の人材育成プランで新しいリーダーの発掘・育成に力を入れています。各自治会から推薦された若者が専門部という形で地域活動に参加し、企画・運営・マネジメントなどを経験します。住民参加のワークショップ「新よしじま物語」(年5~6回)には、老若男女問わず、多くの住民が参加し、役員や事務局のスキルアップを図っています。

子どもから高齢者まで、自分に合った地域の活動の場

ワークショップや話し合いの場に、積極的に参加する住民が増え、子どもから高齢者まで、地域の中に自分で選んで参加できる場があることが、地域再生の力となっています。特産品の全国への発信・PRなど、女性の活躍の場も広がっています。「ふるさと市」で地場産物を活用した惣菜や弁当の製造販売をしているのは女性グループ「よしじま四季の市」。「きっさこ」ではそれに加えて高齢者サロンも行っています。放課後児童クラブは、地域の元教諭や公募の女性5人がシフトを組み、また、「きらり」の事務局として3人の女性が事業の企画と運営に関わっています。よしじまっ子見守り隊、燦燦塾、要援護者支援など、子育て支援や地域の支えあいの活動に地域全体で取り組むことで、安心して子育てし、働き、住み続けられるまちづくりをめざしています。

(イ) 経験豊富な女性がリーダーシップ発揮、皆が楽しみながら活動

活動のきっかけ

愛媛県愛南町の「愛南グリーンツーリズム協議会」では、特産品の加工や、年3~4回程度、地域の産品を詰め合わせた「ふるさと小包」を発送するなどの活動をしていました。

グリーンツーリズムは県主導で、生活研究会が協力し、みかん狩り、いもほりなどの農林漁業体験メニュープログラムを提案を行いました。一方宿泊所については、「独立した子どもの空き部屋を活用すればできるのでは。」との会からの提案により、県が規制を緩和、2007年4月に7戸の農家漁家民宿が開業し、愛南グリーン・ツーリズム推進協議会としての活動がスタートしました。

主な活動の内容

愛南町の地域資源を活用し、農漁業体験、自然体験、文化・創作体験、食文化体験として農林漁業体験に関する4つのメニュー、59のプログラムを用意しています。プログラム実施にあたっては協議会の女性・男性、団体が講師として活躍しています。

直売所や交流施設の運営においても、多数の女性が野菜や鮮魚、加工品などを販売する直売所、温泉施設などの交流施設、農家の女性自らが経営する加工品販売所での販売するなど、活躍しています。

男女共同参画の視点

女性リーダーのもと、みんなが楽しみながら活動

推進協議会長・副会長とも女性で、会長の前田アイ子さんは、県の漁業協同組合婦人部会長等、様々な役職に就いており、意思決定過程に関わった豊富な経験があります。前田さんが様々な場に参画することで培った人のつながりや知識、経験を活かして地域の人に協力をお願いしたり、意見をとりまとめるなどの役割を担うことでリーダーシップを発揮し、みんなが楽しみながら活動しています。

男女共同参画が根付くには時間がかかります。前田さんも、女性のパイオニアとして活躍する一方で、男性の多い組織に女性が入っていくことの難しさを感じてきました。様々な課題を乗り越えて、活動を活性化し、女性の多い活動に男性の積極的な参画を促すことで視野を広げ、子育てを終えて時間的・経済的に余裕のある先輩が後輩を助けることでメンバーが互いを尊重し思いやって活動する組織に発展していくことを期待しています。


魚のさばき方を指導する前田会長。様々な役職を経験して培った人のつながりや知・経験が、地域への協力依頼やメンバーの意見をまとめるリーダーシップに生かされている

(ウ) 被災当事者自身が主体的に関わる形での協働を模索

活動のきっかけ

神戸市の「被災地NGO協働センター」は、1995年1月17日の阪神・淡路大震災発生後に結成された、地元NGO救援連絡会議の分科会「仮設住宅支援連絡会」から発足し発展した活動です。

震災後、避難所や仮設住宅での孤独死がありました。女性よりも男性、特に、震災で妻を亡くした働き盛りの男性がアルコール依存になり、孤独死するケースが問題になりました。もともと、男性は生きがいを見出しにくい上に、震災で仕事、家、家族を失ったことで、ダメージも大きかったと言われています。

被災地NGO協働センターでは、被災者の暮らしの再建に向けた長期的な支援活動の中で「自律とは支えあうこと」と気づき、被災者自身の「生きがい」づくりに取り組んでいます。

主な活動の内容

被災地NGO協働センターは、震災によって、支え合い・助け合いの大切さに気づき、災害と向き合うことが防災になり、減災につながると考え、さまざまな活動を行っています。

震災で仕事を失った人の生きがいづくりを支援する事業(「まけないぞう」)を、当時、仮設住宅に住んでいた女性が発案しました。これは、全国から寄せられた新品のタオルで象をかたどった手ふきタオルをつくり、全国に販売するもので、作り手である被災者の収入源となっています。

阪神・淡路大震災で国内外から受けた救援活動に対し、感謝と「困った時はお互いさま」の想いから、災害救援活動に取り組んだり、地域の担い手を掘り起こすことを目的に「寺子屋セミナー事業」を開催しています。

さらに、被災地内外の多様な活動に関わる中で課題を抽出し、市民相互のネットワーク、行政や関係機関との協議の場などを活用し、提言を行っています。

男女共同参画の視点

被災者の生きがいや仕事づくりとしての「まけないぞう」は、自分で稼いだお金でものを買うという、被災者の自律(自分を律すること)を支援する取り組みとなっています。ある時、まけないぞうを買った人から「被災者を支えるつもりでいた私たちが、逆に支えられている」という趣旨の手紙をもらったことで、被災者自身が「自分は役に立っている」と気付き、「自律とは支え合うこと」とを学びました。それ以降、これが被災地NGO協働センターの活動の基本となっています。

センターでは、多様なつながりが担い手としての力をつくり、多彩な関係を築くことで担い手としての力量が発揮されると考えています。ボランティアには、被災者のニーズを汲んで、地域の資源として何が利用できるかを考え、被災者にとって必要な情報や支援につなげていく力が必要です。ボランティアが活動を通して得た、「ぶつかりあう中で互いを理解し、煩わしさを皆で分け合うことが大切」という考え方は、男女共同参画社会の形成にも通じます。センターは、阪神・淡路大震災以降、今日に至るまで、時間をかけて被災者と関わり続け、被災者自身が生きがいを見出して生活を再建するまで長期的に支援をしています。その過程では支援者と被災者が本音でぶつかりあいながら、互いを理解し信頼関係を築いてきました。答えよりもプロセスを大事にし、想像力のある人、自分で考えて動ける人を育てることを大切にしています。こうした活動が、男女共同参画社会の形成につながる取り組みとなっています。


2011年3月、東日本大震災の被災地で足湯を実施した(宮城県石巻市)

(2) 連携支援事業

地域における男女共同参画を推進するために、それぞれの地域において、行政、企業、地域団体、住民等の多様な主体が連携してネットワークを作り、検討会の開催や具体的活動の実施、成果の周知を行うことにより、男女共同参画の視点を活かした地域課題の解決の仕組みづくりを行います。

(ア) 女性に配慮した防災対策

活動のきっかけ

女性、災害時要援護者の視点を防災から活かすために、「とよなか女性防災プロジェクト」として検討会は立ち上げました。

行政、教育機関、民間企業、市民団体の連携により、個別に取り組んできた防災活動の情報共有をし、各団体から女性に必要な緊急避難用具「とよなか女性防災キット」の作成に向けた提案をしました。

また「とよなか女性防災ノート」の意見を集約し講師に依頼して、女性の視点からの防災や現行の防災対策の課題について意見交換しました。

女性・災害時要援護者を対象に防災を考え、検討委員会参加団体の取組を紹介し、防災を呼びかけました。

「広報とよなか」で周知し、ニュースレターでプロジェクトの周知と検討会の内容をまとめ、公共施設や教育関係機関等へ配布しました。

さらに男女共同参画推進センターHPでも紹介し、

●女性防災キットの商品化の提案

●女性が防災会議へ参加、防災計画に女性の視点を追加

●「女性と防災」に関する講座開催

を実施しました。

(3) アドバイザー派遣事業

平成21年度より、各地の課題解決に向けた地域の主体的な取組を支援するため、地方公共団体、地域団体、女性関連団体等の求めに応じ、課題解決のための活動の充実等に際し適切な指導・助言ができるアドバイザーを派遣しています。

対象事業は、地域おこし、まちづくり、就業・再就業、ワーク・ライフ・バランス、介護、高齢者の社会参画・自立支援、子育て、教育、食育、防災・防犯、環境等をテーマとする意見交換会、勉強会等です。

香川県と横浜市での実施事例を紹介します。

(ア) 農山漁村リーダー交流学習会

香川県生活研究グループ連絡協議会では、平成23年10月27日、県内の農山漁村を支える女性・高齢者リーダーを参集した交流学習会を開催しました。

当日は、アドバイザーに女性起業家である(株)石見銀山生活文化研究所所長の松場登美氏を迎え、「足下の宝を活かして暮らしを楽しむ」と題した講演をいただき、農山漁村地域に住む人達が感性を磨き、土地の声を聴き、感謝の気持ちを持って地域の宝探しに当たることの大切さが語られました。

参加者は、第一次産業従事者の強みとして、美、豊かさ、幸せなどを測る「定質的なものさし」を使い、未来への種まきとして様々な立場の方と共同で現場力、行動力を発揮していくことが、農山漁村地域再生の原動力となることなどを学ぶことができました。また、農山漁村を支えるリーダーは、その地を訪れる観光客や異業種との交流の中から、地域の強みや弱みを見極め、足下にある宝(自然、産業)を再発見していく実践力と、世代を超えた連携と継続活動を牽引する実行力を身に付けるとともに、男女共同参画の促進にもリーダーシップを発揮できることも学ぶことができました。


女性の視点で作成したとよなか女性防災ノート

(イ) 子育てママ発!「防災&安心フェア」

公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会では、平成23年9月9日、子育て世代及び子育て支援者を対象に、大震災などへの備えを考えるイベントを実施しました。

横浜北部は若いファミリー世代の転入率が高いため、地縁の薄い住民と地域が防災をきっかけにつながり、被災下での多様なニーズを地域防災に活かす工夫が求められています。

当日は、全体会のアドバイザーにNPO法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク代表の伊藤仟佐子氏を迎え、仙台の子育て支援拠点での震災体験をもとに「仙台発、子育て支援者からの震災レポート」をお話しいただきました。

伊藤氏の運営する子育てふれあいプラザのびすく仙台は建物被害がなかったことから、震災後いち早く開設し、震災直後の親子連れが集う地域の拠点となりました。また、避難所への支援活動で感じた被災ママたちのニーズなど、現場からの臨場感に満ちた情報をお話いただき、報道では充分に伝わってこなかった被災地の実情をきめ細かく知ることができました。

あわせて、東日本大震災における横浜からの報告として、子育て支援団体から、発災時の行動やその後の防災意識を聞いた子育てママ・パパへのアンケート調査の結果を発表し、情報交流を深めました。

そのほか分科会として、親子で楽しめる防災ゲームの体験や、子どもやお年寄りに配慮した「非常食クッキング」の試食。横浜市内の自治会、町内会で防災ワークショップとして展開している「YOKOHAMAわたしの防災力ノートをつかった学習会ミニ体験」を開催しました。


NPO法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク代表伊藤仟佐子氏による「震災レポート」風景