「共同参画」2011年 10月号

「共同参画」2011年 10月号

寄稿

暮らしをサポートする災害支援─今、被災者をどう支えるか
NPO法人阪神高齢者・障害者支援ネットワーク理事長
黒田 裕子

今回の東日本大震災では自然災害に加えての原発被害となり、これまでに経験しなかった災害となりました。政府はじめマスコミも原発事故対応におわれ、残念ながら「くらし」への目線は極めて低いものとなりました。地震や津波から折角逃れることが出来たものの、緊急避難所では救助のための医療・物資が共に不足し、亡くなられた方もいました。

災害が起きたとき、いつも思うことは、避難所の中はもとよりですが、在宅にも目を向け「いのち」の大切さを意識しなければいけないということです。

津波によって家の中まで泥が入り、2階で何とか居住している、といった人々も被災者です。避難所にいかず、物資もないまま住み続けている人が多かったことにも驚きました。

今回は、活動の拠点を避難所の中に置きました。24時間体制で、スタッフは5人常駐しています。その関係性の中でニーズが複雑化、多様化していることを肌で感じることが出来ました。必要に目を向け一つひとつ問題解決に向けて仕組づくりを図ることにしました。

妻を津波で失い、失意の中にいる夫の中には、地域・年代の特性か<男子厨房に入らず>のこれまでの生活から、台所に入ることが出来ず、食生活に不自由を来たしている方々が少なくありませんでした。

我々はどんな状況であってもその人がその人らしく生ききっていただく為にどうすればよいかを考えました。その一つに阪神・淡路大震災時に神戸で実践し、効果が大きかった男の料理教室があります。食べることで健康維持増進ともつながり、また、心が豊かになり生ききる為の支援が出来ればとの思いから、M氏に「男の料理教室」への参加を勧めた所、自分の食事を少しは賄えるようになり元気を回復されました。

お料理を作るにあたってレシピを作成し、それに基づいて説明すると共に一回は一緒に作り、次には、ご本人が作られるところを傍らで見守り続けました。

次には、作って下さったお料理を乗せた食卓を共に囲み一緒に食べることにしました。「とても美味しい」とか「一寸何か足りない」とか言い合って、M氏が楽しく料理を作り続けられるように支援しました。M氏を通じて次の方に、そして、次の方にと継続でき、一人でも多くの方が、健康が維持でき楽しい日々を送れるようにしていきました。

まだまだ目の届かないところにおいて、いのちが助かるにもかかわらず、「食」に対して考えることが出来ずにいのちを絶つ人がいるかもしれません。我々はこのような事態が起きないためにも、生ききるための支援を更に拡大し、誰もが「やってみよう」と思えるシステム作りと仲間を確保したいと考えます。それが人として生きることへの動機付けとなり、またコミュニティの拡充にもつながるものと信じます。

これからも地域と密接な関係を持ち、何処の、誰が、どのような暮し方をしているのか、どのようなことに困っているのかを把握し、その上で、「くらし」に視点を置き、その人がその人らしく、どのような状況下にあってもその人の「人権」「価値観」を大切にしながら支援をしていきたいと考えています。

避難所で配膳をするボランティアと専門職スタッフ
避難所で配膳をするボランティアと専門職スタッフ

在宅被災者を訪問
在宅被災者を訪問

くろだ・ひろこ/NPO法人阪神高齢者・障害者支援ネットワ-ク理事長。NPO法人しみん基金・KOBE理事長。NPO法人災害看護支援機構副理事長。1995年の阪神・淡路大震災で被災。同年、宝塚市立病院(副総師長)を退職。仮設支援・復興住宅支援ボランティアとして現在も活動中。又新たな学問分野である「災害看護」も研究テーマの一つ。看護大学及び大学院の非常勤講師など看護教育にあたる。講演、著書多数。平成17年 朝日社会福祉賞受賞、平成21年 神戸市政功労者表彰、平成22年 兵庫県看護功績賞など受賞。