「共同参画」2011年 10月号

「共同参画」2011年 10月号

特集

男性にとっての男女共同参画の推進
内閣府男女共同参画局推進課

男性にとっての男女共同参画の推進について、男女共同参画センターの取組を紹介するとともに、黒田NPO法人阪神高齢者・障害者支援ネットワーク理事長の男性に対する災害支援についての寄稿及び正高京都大学霊長類研究所認知学習分野教授の父親力に対するお考えについての寄稿を紹介いたします。

男女共同参画社会基本法が制定されて10年が経過し、昨年12月には第3次男女共同参画基本計画が閣議決定されました。本計画では、男女共同参画があらゆる人々の課題として認識されることが重要であるとの観点から、男性、子ども、貧困などの困難を抱える人々にも着目し、重点分野に新たに「男性、子どもにとっての男女共同参画」の分野を設け、男性への積極的なアプローチ等を図ることとしています。

そこで、本号では、男性の視点での男女共同参画について取り上げます。

男女共同参画社会の実現の大きな障害の一つは何でしょうか。それは、人々の意識の中に長い時間をかけて形づくられてきた性別に基づく固定的性別役割分担意識にあります。このような意識は、時代とともに変わりつつありますが、今も依然として根強く残っています。性別役割分担意識の世論調査によると、平成21年調査では男性の45.9%、女性の37.3%が賛成と答え、男性により強く残っています(図1)。

図1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」といった考え方について
図1 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」といった考え方について
男女共同参画白書 平成23年版より作成

男性をめぐる問題の中には、固定的な性別役割分担意識にとらわれていることが一因となっていることもあるのではないでしょうか。

例えば、内閣府が実施した調査「地域における相談ニーズに関する調査」(平成22年8月)によると、この1年間になんらかの悩みや困りごとがあったとする人は8割にのぼりました。内容別にみると、「仕事、雇用、転職、再就職、起業など」が最も多く、「健康、病気、障害など」が続きます(図2)。そのうち、最も大きな悩みごとについての解決行動を尋ねたところ、4人に1人は「何もしていない」と答えています(図3)。

図2 この1年間にあった悩みや困りごとの内容(全体:複数回答)
<この1年間に悩みや困りごとが「あった」と答えた人>

図2 この1年間にあった悩みや困りごとの内容(全体:複数回答)

図3 最も大きな悩みや困りごとを解決するために行ったこと(解決行動)(全体:複数回答)
<この1年間に悩みや困りごとが「あった」と答えた人>

図3 最も大きな悩みや困りごとを解決するために行ったこと(解決行動)(全体:複数回答)

これを男女別にみると、男性は3人に1人(32.0%)で、女性の21.1%を10.9ポイント上回り、男性は女性に比べ、悩みを人に相談しないといった傾向がみられます。

また、悩みや困りごとの有無とストレスには相関関係がみられ、「日頃ストレスを感じていますか」という質問に対し、「感じている」と答えた人の97.4%が、悩みや困りごとが「あった」と答えています。

さらに、悩みや困りごとを解決できずにひとりで抱え込んだ経験の有無について尋ねたところ、6割の人が「ある」と回答しました。これを男女別にみると、男性の方が高い割合であることが分かります(図4)。

図4 悩みや困りごとをひとりで抱え込んだ経験(全体)
図4 悩みや困りごとをひとりで抱え込んだ経験(全体)

第3次男女共同参画基本計画では、男性にとっての男女共同参画を推進するための施策の基本的方向として、「男性にとっても生きやすい社会の形成を目指し、男性自身の男性に関する固定的性別役割分担意識の解消に関する調査研究を行うとともに、男性への意識啓発や相談活動などを行う。」としています。

そのため、内閣府では、平成23年度において次の事業を実施しています。

1.男性の固定的性別役割分担意識の解消に向けての意識改革の取組

(1) 総合的調査

固定的性別役割分担意識が男性にもたらす重圧や、男性の心身の健康の問題等について、男女共同参画の視点を踏まえた調査及びデータの収集・分析を行います。

(2) シンポジウムの開催

開催予定は以下のとおりです。詳細については、決まり次第、男女共同参画局ホームページやメールマガジンを通じてお知らせいたします。

  • 第1回 平成23月12月15日
    (開催予定地:神奈川県横浜市)
  • 第2回 平成24年1~2月
    (開催予定地:福岡県福岡市)
  • 第3回 平成24年2月18日
    (開催予定地:滋賀県大津市)

(3) 男女共同参画局ホームページを通じた情報提供

本号でご紹介したような、データからみる男性を取り巻く現状、本年度の内閣府事業のご案内、地方自治体等の活動のご紹介などの情報を提供する予定です。

地方自治体等の活動については、広く皆様からの情報提供も受け付けますので、男女共同参画局推進課までお寄せ下さい。

2.男性の家庭・地域への参画のための取組

男性の家庭・地域への参画について、ロールモデルを発掘し事例集としてまとめます。

働き方の見直しなど、男性が育児・介護、地域活動等に参画できる環境整備の重要さが伝わるよう、取組のプロセスなども盛り込み、実践的なテキストとして、地方自治体、民間団体等の方々が活用できる内容にまとめます。

続いて地方自治体においては、子育て、料理、ワーク・ライフ・バランス、男らしさの見直しと、様々な視点から、男性にとっても生きやすい社会の実現に向けた取組が行われています。誌面の都合で少しですが、平成22年度に実施された取組をいくつかご紹介します。

山形県男女共同参画センター「チェリア」)

■平成22年度男性セミナー(平成23年2月19日開催)「パパだって楽しんで子育て」

父親の楽しい子育てを推奨しているファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也氏から、「笑っている父親」になる秘訣、母親や子どもとの関わり方など、山形のお父さんが子育てに積極的に関われる極意をお聞きしました。

第I部の「パパのための読み聞かせ講座」では、安藤氏が読み聞かせを実演!絵本を読むだけでなく質問を投げかけ、それに子どもが自由な発想で答えるというスタイルに、会場のあちこちから笑い声が聞こえました。読み聞かせをしながらも、子どもの年齢に合わせた絵本の選び方や「参加型の読み聞かせでは子どもに正解を求めない」など、大人へのアドバイスもいただきました。

参加した父親たちの感想からも、「絵本をコミュニケーションツールとして使う。子どもに、『次はどうなるんだろう』『自分だったらこうしたい』など参加型にするとよい経験につながることがわかった」、「子どもと話をしながら楽しく読みたい」など、早速子どもとのコミュニケーションを楽しもうとする声が聞かれました。また、「聞いている子どもたちのイキイキした反応が良かった」、「子どもの反応を見ながら読み聞かせを見られて良かった」など、子どもの反応への新鮮な喜びの声も寄せられました。

続いて開催された第・部の安藤氏の講演では、母親との関わり方、子どもとの関わり方など、子育てパパの先輩として説得力のあるお話に、参加した母親からの、「ママたちの代弁者として育児の大変さを語ってくれてすっきりしたと同時に、パパたちが受けている社会からの抑圧も理解できた」との声が。男性側も「妻のケアが大切だとわかった」と互いの理解が深まる機会となったようです。

また、「『何でもいいから自分の好きなものを通じて子どもとの関わりをもっていく』という話に、無理せずイクメンになれるきっかけを感じた」というプレイクメンの力強い声や、「育児にもタイムマネジメントが大切」、「毎日子どもに関わる」といった話から、「仕事の生産性を上げて時間を作り、その時間を育児にあてたい。仕事に対するやる気があがった」と生き方を見直すきっかけになった話も聞かれました。

本講座は、男性参加者が約6割を占め、30代が45%、40代が35%、20代・50代が各10%でした。参加の動機は、知人の紹介が50%で、チラシを見た人が40%、所属団体からのお知らせを見た人が10%でした。

また、参加者に今後開催されたら参加したい講座について尋ねたところ、男性参加者からは、夫婦間が良くなる講座、父親講座といった家族や子育てに関するものや、タイムマネジメント、ワーク・ライフ・バランスに関する講座といった実務的な講座が挙げられました。

(とちぎ男女共同参画センター「パルティ」(1))

■男の生活工房~作って食べて暖話して身近な食材で手軽な料理舌づつみと共に気軽な語らい料理の楽しさを体験してみませんか!~

パルティでは、性別役割分担意識を解消し、男性も自分と家族の健康に関心を持ち、食生活を充実させる意識の向上を図ることを目的に、民間団体等の自主活動支援事業として、女性団体「P・G・Nひまわり」(以下「ひまわり」)が、男性の料理講座を開催しています。

毎回講師を変え、様々な料理を体験できること、「暖話」と題する試食会で受講者同士の親睦が図れること、さらに、ひまわりのスタッフが作業手順をサポートすることにより、楽しみながら受講できるよう工夫しています。その甲斐あって、全6回コースながら受講者は延べ132名、平均受講率81.5%と盛況でした。受講者の年代は、60歳代が約5割、50歳代・70歳代が約2割ずつでした。感想では、「家で料理を作り、妻とのコミュニケーションが取れるようになった」、「家で作って家族に好評だった」、「男女の協力の大切さが分かった」などの声が寄せられました。本講座にはリピーターも多いのですが、講座を通じて、家事の大変さ、食べること(生活力)の大切さに気づき、家族とのコミュニケーションを深めていく様子が感じられます。男性の生活的自立を支援する講座として、平成23年度も11月から開催予定です。

(とちぎ男女共同参画センター「パルティ」(2))

■男のライフバランスを考える講座

男性に対して、仕事中心の生活を見直し、ワーク・ライフ・バランスについて考える機会を提供するため、「社会でも家庭でも豊かで実り多い人生を過ごせるように」をテーマに、自身の魅力アップ講座を開催しました。

第1回目は、イメージアップに着眼し、イメージコンサルタントのちとせ氏を講師に迎え、第一印象を良くする笑顔づくり、服装の選び方や立居振舞などの「セルフプロデュース」を習得しました。第2回は、男性の生活面での「自立」の必要性に着眼し、宇都宮大学名誉教授益子詔次氏を講師に迎え、ダンベル体操での「体づくり」と、家にある残り物で簡単に作れる餃子づくりを体験する「食づくり」に挑戦しました。

受講者延べ57名のうち、6割は50~60歳代で、20~30歳代の受講が少なかったものの、参加の動機には、「図書館の広報誌をみて自分で参加した」、「退職後5年経ち、人生を見直したかった」など自身を変えるきっかけとしての利用が伺えます。また「仕事にも生かせる」、「ワーク・ライフ・バランスを勉強したかった」といった声も多く、仕事と生活の調和の必要性や働き方を見直すきっかけとなった様子が伺えました。受講後の感想をみると、セルフプロデュース受講者からは、「日常に感謝する気持ちをもった」、「やさしくなれる気がする」など新たな気づきの機会にもなったようです。

平成23年度も来年2月に開催予定です。

(和歌山県男女共同参画センター「りぃぶる」)

■ダイバーシティと男女共同参画「男のしんどさ、考えてみよう─男女平等の男性からみた意味」

「男らしくあるべき」という従来像に縛られ、生きにくさを感じている男性も多いでしょう。男女が性別の枠にとらわれず、ダイバーシティ(多様性)を受容し、自分らしく生きることについて考えるきっかけになるようにと、立命館大学・立命館大学大学院・神戸大学非常勤の伊田広行氏を講師に迎え、本講座を開催しました。

はじめに、各自が「男らしさとは何か?」「男らしさにとらわれている。しんどいなあ」と思う点など考えました。「男は泣かない」「娘より息子に期待をかける」「母は冷蔵庫を開けない男を高く評価する」などの声がありました。

続いて、講師は、ワーク・ライフ・バランスのライフを人生と位置付けると、男らしさに縛られることはバランスが取れていないことになる、また、これまで日本では男女はワンセットで分業してきたが、これからは、夫婦でもシングル単位のワーク・ライフ・バランスを考える必要がある(父と子ども、母と子ども、父と仕事、母と仕事など)と話されました。

その上で、自分のこの一週間の時間配分を書き出し、隣の席の人と交流しました。

後半は多様な生き方を選択した男性たちを紹介したビデオを視聴しながら、多様性を受容することの様々なヒントを得ました。

そして、多様性を受容するということは違いを認め合うことで、性別や性別役割に縛られない生き方につながること、男女共同参画を進めることは一人ひとりの多様性を認めることにつながると説きました。

最後に個々人で3か月以内に自分のワーク・ライフ・バランスを良くするために必要なものを挙げてランキングし、隣の人と共有して終了しました。

参加者の約半数が男性で、参加の動機別にみると、「男性のしんどさ・・」というタイトルに興味をもって参加をした方には女性が多かったようです。男性は、友人等からの誘いで参加した方が多く、チラシなどの広報をみて参加した方もいました。

受講後の感想からは、「自分自身にある縛りがあぶりだされた。自分らしく健康に生きていくヒントが与えられた」など、自分らしい生き方への気づきの声が寄せられました。

また、一週間の時間配分を洗いだす作業を通じ、「仕事中心の生活だと思っていたつもりでも、意外に自分の時間をきちんととっていた。もう少し掘り下げて自分の生活を見直そうと思う」、「人生設計の発想の自由さがよかった」といった感想が寄せられ、示唆に富んだ講座となりました。