「共同参画」2011年 9月号

「共同参画」2011年 9月号

行政施策トピックス

「女性の活躍による経済社会の活性化」(中間報告)について
内閣府男女共同参画局調査課

1.はじめに

「女性の活躍と経済社会の活性化」について検討するため、本年3月に基本問題・影響調査専門調査会の下に「女性と経済ワーキング・グループ」を設置し、女性と経済を巡る現状や課題を整理するとともに、今後の検討の方向性について中間報告を取りまとめましたので、ポイントをご紹介します。

2.第3次男女共同参画基本計画での位置付けとワーキング・グループでの議論

第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月17日閣議決定)は、「改めて強調している視点」の一つとして「女性の活躍による経済社会の活性化」を盛り込んでいます。「女性と経済ワーキング・グループ」では、基本計画の視点を踏まえ、一人ひとりの個性と能力の発揮が、多様な人材の活用促進等を通じて経済社会の活性化に資すると同時に、家族形成など一人ひとりが希望する生き方の実現につながるとの認識の下、議論を重ねてきました。

3.現状認識:広まる女性の参画

現在の男女別・年齢別の就業率がそのまま推移する場合には我が国の将来の就業率の低下は避けられません。2020年に15歳以上の就業率を2010年時点の57%に維持するとの目標(「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定))達成のためには、働く意欲のある多様な人々の労働参加が欠かせません。

現在就業しておらず求職活動はしていないものの就業を希望している人はとりわけ女性に多く、M字カーブの底である30歳代を中心に、現在の労働力人口の5%に相当する340万人余となっています。こうした女性の経済社会への参画を拡大し、経済社会の活性化を図るためには「M字カーブ問題」の解消に向けた取組や、人生の各ステージを通じ女性が活躍できる社会づくりのための環境整備が欠かせません。

ワーキング・グループでは、このような立場からまず女性の活躍についての現状認識を行いました。産業構造の変化などを背景として、中長期的に医療・福祉などを中心に女性雇用者が増加(図表(1))していることや、女性起業家は雇用創造力が高い医療・福祉分野で開業する者の割合が多いこと、また社会的企業分野や農村における起業等においても重要な担い手として期待されていること等が指摘されました。また、起業を含む女性自営業主には、「M字カーブ」が見られないことから、自営業などは柔軟で多様な働き方としても重要であるとの指摘がありました(図表(2))。

図表(1) 男女別産業別雇用者数の増減
(2002年→2010年)

図表(1) 男女別産業別雇用者数の増減(2002年→2010年)
資料:総務省「労働力調査」(2010年)より作成。
注)( )内は2002年から2010年の当該産業の雇用者数の増減(男女計)。

図表(2) 女性の労働力率及び自営業主の比率
図表(2) 女性の労働力率及び自営業主の比率
資料:総務省「労働力調査(詳細集計)」(2010年)より作成。
注)年齢階級ごとの15歳以上人口に占める労働力人口及び自営業主の割合。自営業主には家族従業員、内職者は含まない。

4.課題:女性の参画や能力発揮を阻む要因

(1) 制度・慣行

我が国で女性が能力を発揮しにくい理由の1つには、固定的な性別役割分担意識を前提とした社会制度や、主に男性を念頭においた従来の労働市場の慣行等があるとの指摘がありました。現状では就労による経済的自立や健康で豊かな時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを実現することは難しく、結婚や出産等に影響していると指摘されました。

(2) 意識

制度・慣行と表裏の関係にある人々の「意識」に、現状をベターと考え、敢えて変化を望まない、女性は競争へ参入をしない方がかえって生きやすいという判断をする状況がみられるのではないかとの指摘がありました。子育て中の夫婦世帯を見てみると、父親の収入が高いほど母親の就業率が低い、いわゆる「ダグラス=有沢の法則」が見られます(図表(3))。

図表(3) 父親年収別母親の就業率
(未就学児のいる夫婦家族。自営業除く。)

図表(3) 父親年収別母親の就業率(未就学児のいる夫婦家族。自営業除く。)
資料:山田昌弘、金原あかね「未就学児のいる世帯の家計状況について─全国消費実態調査の個票分析から─」
「総務省統計研修所リサーチペーパー」20号(2010年)

(3) 教育・キャリア形成支援

図表(4)にあるとおり、日本の女性の高等教育在学率は先進国中低位であり、女性の能力が十分に生かされていない可能性があります。さらに、働き始めてからも、女性に特に多い非正規雇用では、教育訓練を受ける機会が少ないといった問題があります。

図表(4) 高等教育在学率
図表(4) 高等教育在学率
資料:UNESCO Institute for Statistics(2008年)より作成。
注)在学率は「高等教育機関(Tertiary Education,ISCED5及び6)の在学者数(全年齢)/中等教育に続く5歳上までの人口」で計算しているため、100%を超える場合がある。

(4) 復興の主体としての女性の能力の発揮

我が国が東日本大震災という未曾有の災害に直面している今、元気な日本の復興に向けて、女性の経済的自立を支援し、また女性が様々な能力を発揮し、復興に主体的に参画することの重要性はより一層高まってきています。

5.今後の議論の方向性

今後は、下記の3つの重点分野について、より実践的・効果的な取組に資する事例を収集しながら、施策の在り方について検討を進めていくこととしています。

(1) 新たな分野や働き方における女性の活躍

成長性が高く雇用創出が期待される分野での女性の活躍、起業に際しての女性の金融へのアクセス、ノウハウの伝授、人的ネットワークへのアクセスの確保等に着目して事例の収集や検討を行う予定です。また、多様なライフコースに合わせた、社会の様々な分野での活躍や、非典型的な働き方が増える中での複線的なキャリア構築の可能性等にも着目をしていきます。

(2) 制度・慣行、意識

一人ひとりが積極的に社会参加をすることを後押しする社会制度、セーフティネット機能の強化や多様な保育サービスの充実、雇用を創出している企業に対する積極的な支援等の視点から、税制、社会保障制度について、また、ワーク・ライフ・バランスの推進や、家庭における柔軟な家事、育児、介護などの分担の在り方等の視点を中心に社会慣行について検討を行う予定です。意識の課題については、多様なロールモデルの提示等につながる事例の収集や検討を行う予定です。

(3) 多様な選択を可能にする教育やキャリア形成支援

教育を「人的資本向け公共投資」として捉えた個性と能力に応じた教育の推進、女子学生・生徒の理工系分野への進学促進や科学技術・学術分野における女性の更なる活躍等の視点から、経済面での活躍の土台を作る教育・訓練、及び生涯にわたる多様なキャリア形成に共通して必要な能力や態度の育成、産業界との連携等の視点から、職業領域での活躍を進めるための教育・訓練という2つの点に着目し、事例の収集や、検討を行う予定です。

※中間報告の詳細はHPをご覧下さい。

http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/siryo/ka39-2-1.pdf