「共同参画」2011年 8月号

「共同参画」2011年 8月号

行政施策トピックス

2011年OECD閣僚理事会における「女性と経済」に関する議論
内閣府男女共同参画局調査課

■設立50周年を迎えたOECD

OECD(経済協力開発機構)の前身は、大戦後の欧州の復興を目指した米国による大規模な援助(マーシャル・プラン)を受け入れるため設立されたOEEC(欧州経済協力機構)です。復興後、欧州と北米が対等なパートナーとして自由主義経済発展のための協力を行う機構として1961年に改組、OECDが設立され、本年は設立50周年を迎えました。本部はパリ、現在の加盟国は34カ国です。我が国は設立から3年後に初の非欧米国として加盟し、現在は第二位の拠出国となっています。

■OECDジェンダー・イニシアティブ

今年の閣僚理事会では50周年記念行事が開催され、菅総理大臣もスピーチを行いました。また「OECD50周年構想声明」も採択されました。声明は、OECDが新たな挑戦を行うためには新たなアプローチが必要であるとし、「グリーン成長」「イノベーション」などに加え、男女共同参画の促進に言及しました。また、今回の閣僚理事会の議長を務めたヒラリー・クリントン米国国務長官の強い支持もあり進められてきた「ジェンダー・イニシアティブ」に関するレポートもこれに関連して報告されました(http://www.oecd.org/dataoecd/7/5/48111145.pdf)。

「ジェンダー・イニシアティブ」は男女共同参画の進展は「公正」の観点だけでなく、「経済的」な観点からも重要であるとの立場に立ち、女性の経済活動への参画は生産性を高め、税・社会保障制度の支え手を増やし、多様性はイノベーションを生み競争力を高めると指摘しています。特に「教育(Education)」「雇用(Employment)」「起業(Entrepreneurship)」の「3つの“E”(“3E”)」分野での男女間格差を縮めるため、データや実績に基づく政策提言を行っていくこととしています。

中間報告では、例えば下記のような点が指摘されています。

【教育】

○より高度な教育(修士課程以上)に依然として男女格差が残る

○専門分野に男女間の偏りがある。女性は科学・技術・工学・数学などの分野(STEM)の卒業生に占める割合が低い。特に日本においてその傾向が顕著。

【雇用】

○労働参加率、雇用者比率、期間の定めのある雇用者比率、1日平均の無償労働時間、賃金、などに男女格差が見られ、日本はデータのそろう項目(5項目)すべてにおいて、OECD平均よりも格差が大きい。

【起業】

○経済成長や雇用創造にとって重要である。ただし経営者が男性か女性かにより、企業間には様々な格差があるが、その差の要因を特定したり、政策提言につなげるためにはデータが不足している。国際比較可能なデータを収集しデータベースを構築する。

■OECDフォーラム

5月25日、26日の閣僚理事会に先立ち、5月24日には、「OECDフォーラム」が開催され、「OECD50周年構想声明」に大きく取り上げられた「より良い生活のためのより良い政策(Better Policies for Better Lives)」、および「ジェンダー(Gender)」などがテーマとされました。これらのセッションには、日本から末松義規内閣府副大臣がパネリストとして参加しました。

午前に開催された「より良い生活のためのよりよい政策」セッションでは、OECD事務局から「より良い暮らし指標」(http://www.oecdbetterlifeindex.org/)が公表され、末松副大臣より震災後の我が国の状況を反映した幸福度指標開発に取り組んでいる状況が報告されました。

「ジェンダー・セッション」では、末松副大臣より「女性の労働参加の必要性を政策の中に位置付けることが重要」と発言があり、税・社会保障一体改革での論点の紹介や、イメージ戦略としての「イクメン・プロジェクト」の報告などが行われました。

■「ジェンダー」セッションの内容

上記のジェンダーセッションにおける、他の参加者からの発言は次のような内容でした。

英国の元首相夫人でもあるシェリー・ブレア氏(シェリー・ブレア財団会長、弁護士)は「男性と女性は助け合って次世代を育み、キャリアを含めた人生を送ることができる、ロールモデルがもっと必要」と発言されました。

スペイン与党のシンクタンクの事務局長であるカルロス・ムラス-グラナドス氏は「女性のロールモデルが不足している中で文化や意識を変えることは難しく、このような状況ではクオータ制(割当制)は女性の活躍を進める上で効果がある」と指摘しました。

メラン・バービアー氏(米国国務省国際女性問題担当大使)は「経済成長と貧困克服のために、女性の経済的なエンパワーメントは欠かせない。男女格差の少ない国の方が繁栄する傾向がある」と発言しました。

ニザール・バラカ氏(モロッコ王国首相付経済総務担当特命大臣)は「専門的な技術の習得による自信や信頼が、女性の経済的なエンパワーの原動力になる。女性の連帯による知識や技術の共有化も重要ではないか」と指摘しました。

インドのベアフット・カレッジ創始者であるバンカー・ロイ氏は、地域の“生活の知恵”“現場の情報”を持っている女性に対する教育が、地域の問題の解決につながった例(ベアフッド・カレッジにおける、女性に対するソーラーパネル設置・メンテナンス技術の習得プログラムとその成果)を紹介しました。

■「女性と経済」に関して予定される今後の議論

本年9月に米国のサンフランシスコで「APEC女性と経済サミット(WES)」が開催される予定です。ここでは女性の経済的エンパワーメントの促進に向け、民間セクターと政府セクターが対話を行い、また閣僚級のハイレベル政策対話が行われる予定です。

我が国では男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会が「女性と経済ワーキング・グループ」を設置し、女性の活躍が、経済社会に与える影響について議論を行うとともに、女性の活躍を進めるための方策を検討しています。これらの議論の内容については随時、「共同参画」誌上にて報告を行っていく予定です。

  • OECDフォーラム「より良い生活のためのより良い政策」セッション。一番左が末松内閣府副大臣。)
    OECDフォーラム「より良い生活のためのより良い政策」セッション。一番左が末松内閣府副大臣。)
  • OECDフォーラム「ジェンダー」セッション。右から2人目が末松内閣府副大臣。
    OECDフォーラム「ジェンダー」セッション。右から2人目が末松内閣府副大臣。
  • 会場となったOECDカンファレンス・センターの内部。
    会場となったOECDカンファレンス・センターの内部。
  • 今回のOECD閣僚理事会で扱われたトピックス。壁にペイントされている。
    今回のOECD閣僚理事会で扱われたトピックス。壁にペイントされている。