「共同参画」2011年 8月号

「共同参画」2011年 8月号

スペシャル・インタビュー

おもてなしは福島流地産地消
特定非営利活動法人
素材広場理事長
横田 純子

今回は、特定非営利活動法人 素材広場 理事長の横田純子さんに、お話を伺いました。

食の安全、地域の安全を伝えながら、情報を隠さず発信して、まずは観光復興にかかりたいと考えています。

― 横田さんは、最初リクルート社の「じゃらん」という旅行サイトの営業をされていて、その後起業されたと伺いましたが。

横田 私は福島県の会津若松に生まれ育ち、リクルート社の現地採用として、裏磐梯と喜多方の営業を10年間担当しました。その後、10年ひと区切りと思い独立したのですが、起業が目的ではなく、宿の集客に関わる仕事をさせていただいていたら起業していたのです。

― 福島を中心に活動しようと思われたのは、やはり福島の良さを広めようと思ったからでしょうか。

横田 良さを広める前に、見つけられていない現状がありました。じゃらんにいた時に、観光ニーズ調査で福島にどんなものがあるかわからない、というデータがでており、福島はブランドイメージがない、と言われました。でも東北の中で福島県は最も観光客が多い県。ということは、お客様は今何となく来てくれているのだから、福島の物をしっかり伝えれば、もっと来てくれるだろうと思いました。観光関係者や宿が、地産地消をして、福島の良いものを提供しリピーターを増やしていければ、と考えたのが根本にあります。

― 地産地消のお話が出ましたが、具体的にはどのような活動をされているのですか。

横田 以前、福島県には日本一のものがないという話をしていたのですが、よくよく探してみると、日本一炭酸含有量の多い天然炭酸水があったり、鯉の生産量が日本一だということがわかりました。その情報を宿に提供したのが最初の活動です。

その後、生産者と宿の交流会を実施して、生産者の思いごと食材を宿に伝え、生産者と宿をつなぐ活動をしたり、情報誌を作成して宿に無料配布したりして、福島県にはこんないい物があります、地産地消が出来ます、という土台を作りました。

こういった活動が「素材広場」なのですが、最初3軒の宿で始めたものが30軒を超え、平成21年にNPO化しました。それが本腰を入れ始めたきっかけです。

ちょうどその頃、中国の餃子問題が発生していて、業務用食品の見直しが行われ、宿も国産や県内産のものを積極的に採用するようになりました。今はもう、地産地消をしていない宿はないと言われるくらいです。

また、生産者側でも、売り物に出来ず、廃棄している生産物が多くありました。例えば会津坂下町のリンゴ農家では、毎年2トンものリンゴを処分していました。もったいないと言っていたら、宿からリンゴ風呂をしたいという話があったので、ボランティアの方にねずみ小僧に扮装をしていただき、リンゴを収穫し、宿に販売して、売上の一部を生産者に支払う「ねずみ小僧プロジェクト」を行いました。このように宿の企画にかかわれる地産地消を行っています。

― お話は変わりますが、お子さまが二人いらっしゃるとのことですが、仕事と子育ての両立はどのようにされていますか。

横田 うちは母子家庭なのですが、子どもが小さい頃からこの状態です。NPO化した後も仕事量が減った訳ではないので、子どもたちに、ご飯を食べるためにも私が仕事を続けなくてはいけない、それには君たちの手伝いが必要なんだよ、と伝えています。子供たちも段々成長して、料理等も出来るようになってきています。

仕事が丸一日休みの日はないので、数時間でも子どもの息抜きができるよう、遊びに行ったりもしています。

― 3月11日の震災の後、被災者支援にいち早く取り組まれたとのことですが、具体的な活動を教えてください。

横田   3月11日は偶然事務所にいて、関係者の無事を確かめました。12日になると、原発が爆発したために、会津若松に人が逃げてきて、避難所に入りきらないほどになりました。一時は一万人を超えたようです。

そこで、食べ物がないという問題が出て、県からおにぎりを作れないかという話がありました。当NPOの理事が調理場を持っていたので、そこでボランティアの方10人と、朝5時半から300個のおにぎりを握りました。

その後、県の対策本部が会津短大の栄養学校の調理場を確保してくれました。まずは米集め。そこで、「素材広場」の生産者さんに連絡したら、自家精米を運んできてくださいました。

それから「元気玉プロジェクト」という会津の企業や学生、NPOが集まった避難者長期支援のプロジェクトが立ち上がり、全国から米を集めたり、情報発信をしたり、皆がそれぞれの得意分野を活かした活動が始まりました。現在は、全国の地産地消に取り組んでいる方々から、福島の応援フェアをやりたいという話をいただいているので、それを素材広場で進めています。

地産地消とは離れますが、今全国の直売所では、福島の物をたくさん販売してくださっています。生産者の方々は、今年はもうだめだと諦めていたのですが、売れているという状況やいただいた応援の言葉を伝えたら、やる気を出してくれています。

宿には、現在、避難者がいらっしゃいますが、今後仮設住宅に移ったのち、一般の観光客の受け入れを始めます。その時に地元の食材が何もなかったら、地産地消も何もない訳ですよね。

福島の物を避ける方がいらっしゃるのは仕方のないことですが、大丈夫だとわかってくださる方のためには、地元の物を提供するのが最大のおもてなしだと思うことは変わりません。そのためにも活動を続けていきたいと思います。

― 最後に、今後の目標と、起業を希望する女性へのメッセージを聞かせてください。

横田 私は福島を伊豆と並ぶぐらいの観光地にするのが目標だったのですが、今このような状況になってしまったので、皆さんに少しでも福島に目を向けてもらえるよう、食の安全、地域の安全を伝えながら、情報を隠さず発信して、まずは観光復興にかかりたいと考えています。

女性の起業に関しては、嫌な仕事や面倒くさい仕事を嫌がってはダメですね。小さな仕事から人間関係が広がっていくことがあります。それが仕事上大切なネットワークになったりします。是非、他の人がみつけられないような「気づき」を大切にしていただきたいと思います。

― ありがとうございました。

横田 純子 特定非営利活動法人素材広場理事長
横田 純子
特定非営利活動法人
素材広場理事長

よこた・じゅんこ/
(株)リクルートを退社後、旅行アドバイザーとして独立。
特定非営利活動法人素材広場理事長に就任。
農林水産省「地産地消の仕事人」選定。内閣府「地域活性化伝道師」。