「共同参画」2009年 10月号

「共同参画」2009年 10月号

連載 その1

地域戦略としてのワーク・ライフ・バランス 先進自治体(6)
福井県
渥美 由喜 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長

共働き主流モデルの最先端

前回、日本で最もフランスに近いのは、北陸3県と述べ、石川県を取り上げた。同県が企業への働きかけを通じてWLBを実現しようとしているのに対して、福井県は、県民・従業員への働きかけを通じてWLBを展開している点が興味深い。

福井県は、女性の就業率53%、共働き世帯の割合58%、世帯収入830万円で、いずれも日本一だ(※)。「共働き主流社会」への転換期にあるわが国の中でも、最も先端に位置している。

また、同県は埼玉県、千葉県、兵庫県などと並び、出生率が4年連続で回復基調にあり、手厚い子育て支援でも名高い。

3人目以降の子が生まれる前の妊婦健診費から3歳に達するまでの医療、保育費用を無料化するなどの方策で、平均で約130万円も家計負担が軽減される。

同県では、働く親の要望が高いサービスや親が知りたい情報を丁寧に拾いあげ、きめ細かな子育て支援策を講じてきた。

例えば、病気や回復期の子どもを看護師らが預かる「病児・病後児保育」を県内の12市町18施設で実施している。

また、一時保育や保育所、幼稚園等への送迎、家事など生活支援を気軽に頼める「すみずみ子育てサポート事業」を県と市町の共同事業としてNPOに委託し、16市町37団体で実施されている。この他、初回で紹介した働く女性ネットワークや父親子育て応援企業表彰もある。

さらに、結婚対策にも力を入れている。最も子どもが生まれる30代前半の未婚率をみると、福井県は女性24%と全国で最も低く、男性は37%と全国で3番目に低い。この背景には、結婚を望む若者の交流や結婚相談事業の助成など、地縁ネットワークを活かした支援がある。

高齢者も子育てボランティア

少子化対策の先進県である福井県は、実は男女ともに全国第2位の長寿県でもある。元気な高齢者が子育て支援の担い手として活躍している点も大きな特徴だ。

福井県は、もともと県民のボランティア参加率が全国第3位で、奉仕活動が盛んな土地柄だ。特に、子どもを対象とするボランティア活動は全国第1位だ。例えば、保育士や教師、看護師や医師など子どもに関連する資格を持つ人たちが、「子育てマイスター」となっている。本年7月時点で、50~60歳代を中心に480人が登録し、若い親の相談に乗ったり、公民館の講習などで活躍している。

しばしば、WLBは若い世代向けと誤解されるが、あらゆる世代向け、特に生活時間が長い高齢者向けの施策が重要だ。高齢者がこれまで培ってきたワークのスキルを活かすライフの場があると、生き甲斐や健康状況の改善につながるからだ。

WLBに取り組むと、必ず地域社会は活性化する。なぜなら、高齢者をはじめ地域に存在している「ソーシャルキャピタル(社会資本)」が結びつき、無限の相乗効果が生み出されていくからだ。このことを福井県の成功は如実に示している。

WLBは海外から輸入されたものではなく、むしろ共働き主流モデルへと転換する中で、日本社会がかつて持っていた密な地域ネットワークを回復するプロセスと認識すべきだ。WLBの本質である「お互い様、思いやり」は、日本社会に通底する上位規範だと筆者は考えている。

(※)女性の就業率及び共働き世帯の割合は、平成17年国勢調査より。

世帯収入平均は、平成16年全国消費実態調査 全国 家計収支編[二人以上の世帯]より。

表 )女性の就業率及び共働き世帯の割合

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&
ワークライフバランス研究部長
渥美 由喜

あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府・少子化社会対策推進会議委員、ワーク・ライフ・バランス官民連絡会議委員、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議点検・評価分科会委員を歴任。