「共同参画」2009年 10月号

「共同参画」2009年 10月号

特集

女性医師の現状と活躍促進
内閣府男女共同参画局推進課

多くの女性医師が、育児・介護等と仕事との両立の難しさから、長期休業や、勤務形態等を限定的なものにとどめるなどの変更を迫られています。医師不足問題が深刻化する現在、女性医師が活躍できるための環境整備が求められています。

医師について女性の参画の現状をみると、医師全体で17.2%(平成18年)(図1)、また、いわゆる入口段階である医師国家試験合格者では34.2%(平成21年)まで上昇していることから、かなり進んできていると言えます。

しかし、その一方で、医師、その中でもとりわけ勤務医をとりまく状況をみると、多くの女性医師は、慢性的な長時間労働、夜勤や当直等不規則な勤務形態により育児、介護等と仕事との両立が難しく、長期休業や、勤務形態等を限定的なものにとどめるなどの変更を迫られています。

また、育児等が一段落しても、第一線に戻って活躍するためには、その間の医療技術の進歩へのキャッチアップ等、多くの課題を乗り越える必要があります。この状況は、特に、当直・夜勤回数が多く勤務環境が厳しい医療機関で顕著です。

さらに、新規に医師となる女性が増えている中、特に産婦人科医、小児科医においては、女性医師の割合が、20代でそれぞれ73.1%、50.1%(平成18年)となっていますが、医師不足が社会問題となっている現在、こうした状況を放置すると一層深刻な問題となるおそれがあります(図2、図3、図4)。

以上のような問題を解決するため、政府では、平成20年4月に男女共同参画推進本部において策定された「女性の参画加速プログラム」の中で、3つの重点分野のうちの1つとして女性医師を取り上げるなど、以下の取組を始め、様々な施策に取り組んでいます。

図1 女性の医療施設従事医師数の推移 図2 年齢階級別医師数の男女比

図3 年齢階級別医師数の男女比(小児科) 図4 年齢階級別医師数の男女比(産婦人科)

勤務体制の見直し等

医師の過酷な勤務環境を改善するため、短時間正規雇用や交替勤務制等を導入する病院に対する支援、事務作業を行う医師事務作業補助者(いわゆる医療クラーク)を設置する病院に対する支援を行っています。また、勤務医の負担が軽減されるよう、地域の救急医療における管制塔機能を担う病院や小児初期救急センターにおいて開業医が応援診療を行う場合の補助事業を実施しています。

加えて、特に医師不足の深刻な産婦人科に関しては、院内助産所・助産師外来開設のための医療機関管理者及び助産師の研修事業の拡大等に取り組んでいます。

多様な保育ニーズに応える保育所の整備等継続的な就業の支援

医療機関においては、医師の勤務形態に応じ、保育ニーズも多様であるため、病院内保育所運営事業、事業所内保育施設への助成制度等の活用を通じ、育児中の医師のニーズにきめ細かく対応する病院内保育所の更なる拡充等を推進しています。

出産・育児、介護等による離職後の復帰支援

出産・育児、介護等により離職せざるを得なかった女性医師の再就業の際の不安を軽減するため、それぞれの復帰後の勤務形態や状況に応じた、きめ細やかな研修の実施等、女性医師の復帰支援を推進しています。また、女性医師バンクの体制強化により相談体制を充実強化するとともに、病院内の就労環境改善等について効果的な総合対策を行う医療機関への支援を行うこと等により、女性医師の就労を支援し、医師の人材確保に努めています。

医療専門職全体の総合的な支援

医師の勤務環境の整備や復帰支援等を行うに際しては、関連する医療専門職との有機的な連携が不可欠であり、看護師、助産師等についても、職場環境の整備や復帰支援が重要な課題です。そのため、潜在看護職員の職場復帰のために、求人・求職情報の提供など潜在看護職員の再就業の促進を図る事業を進めています。また、看護職員の多様な勤務形態を導入している医療機関の事例収集、人事・労務担当者への研修事業等に取り組んでいます。

また、これらの課題を解決するためには、当事者である女性が、医療の現場のみならず、医師会、病院団体及び学会等の関係団体の意思決定過程に参画することが重要ですが、現状としては非常に低い水準(日本医師会役員0%、都道府県医師会役員4.2%)にとどまっており、今後とも女性の参画拡大を進めるとともに、ワーク・ライフ・バランスの推進や、女性が能力を発揮しやすい環境の整備を積極的に進める必要があります。

次頁では、以上のような現状の中、実際に女性医師の活躍促進のために行われている取組について、紹介します。

全職員のワーク・ライフ・バランスに基づいた女性医師支援
大阪厚生年金病院院長 清野 佳紀

大阪厚生年金病院における子育て支援体制

大阪厚生年金病院では、5年前から育児支援の整備に取り組んでいます。現在では育児休業に3年の期間をあてており、3年間全休も可能で、1年間・2年間などと本人の意思で期間を選べますが、利用実績を見るとほとんどの女性医師が1年間の休業で復帰しています。女性医師はもともと働きたがっている人々が多いので、ある程度の支援があればすぐに職場に戻ってくるのです。

子どもが小学校を卒業するまでの期間は、週30時間以上働けば正規職員と認められる制度もつくりました。これらの制度で大事なのは、研修医やレジデントなど有期雇用の医師にも適用することです。就業規則上は正規職員ではなく契約社員の扱いですが、当院では研修期間中に出産を迎えた女性研修医やレジデントにも、産休・育休を適用しています。研修医やレジデントは正規職員ではないとして制度適用をうやむやにするから、研修医が病院から離れてしまうのです。

短時間正社員制度の重要性

女性医師支援を推進していくためには、全職員にとって就業上の公平感が非常に重要なポイントになってきます。したがって、子育て支援のみならず、男女を問わず介護支援や本人の療養の支援も必要になってきます。その根幹をなすのが、誰でも何時でも平等に取得できる短時間正社員制度ではないでしょうか。人生の長い道のりでは、必ず誰にでも仕事を続けていく上で支障が起こりうるのですから、その時に短時間正社員制度があれば、正職員のまま就業を続けていくことができます。この制度の導入により、全職員が子育て支援制度のためだけではないということを理解してくれるようになります。

病院の全職員のワーク・ライフ・バランスへ

職員の数を増やすとコストが増大になると言われますが、当院は(図5)に示すように、この5年間に医師(正職員)が約30名増加し、研修医・レジデント含めると約80名増加しました。それに伴い、医療収益も20億円余り増加し、純益は毎年2億ないし4億出ています。コストの問題よりむしろ医師および看護師が増加することにより、いろいろな施設基準も取得できるようになり、1日入院単価も上昇し、結局は収入増に結びついてきたのです。このようにして1人当たりの残業時間も減ることになり(図6)、それがひいては医療従事者の人材確保につながったといえるでしょう。

図5 大阪厚生年金病院 全医師数の増加状況と医療収益・純利益・給与比率状況 図6 大阪厚生年金病院残業時間(1人平均/年)

パンフレット「妊娠・出産・育児中の女性医師が働きやすい職場づくり」によせて
恩賜財団母子愛育会 愛育病院産婦人科部長 安達 知子

今回、平成20年度9月より、厚労科研特別研究事業として、「病院勤務医などの勤務環境改善に関する緊急研究」(研究代表者:慶應義塾大学武林 亨教授)の分担研究として「女性医師就労支援事例の収集・検討」(研究分担者:安達 知子)を行いました。医師不足が深刻でかつ若い世代での女性医師が急増している産婦人科を中心に、女性医師の支援を積極的に行っている10施設を抽出して、そこで働く常勤の女性医師、病院長または診療科長、事務担当者に直接のヒアリング調査を行い、その内容を集計・分析しました。

本冊子は、その調査から得られた内容を基に作成され、これから女性医師の支援を行いたいとする病院、あるいはさらに支援を拡充しようとしている病院へ向けての資料と提言を盛り込んでいます。長期に離職した女性医師などに対しての支援策は次の段階であり、まずは、短期的に行動可能な有効と考えられる施策をまとめました。

その内容は「女性医師が働きやすい職場づくり」をするために、その支援を3段階のステップアップで行っていくことを示しています。すなわち、ステップ1は、「勤務環境の見直し」で、女性医師だけでなくすべての勤務医が対象となります。常勤医のオーバーワークが常態化している勤務環境はQOLが低下し、女性医師の支援を行うことが周囲のスタッフの負担増につながりやすくなります。ステップ2は、「妊娠・出産・育児中の女性医師への具体的な支援」で、院内保育や病児保育の整備、利用しやすい保育所のシステムを作り、さらに女性医師の多様なニーズに対応するため、選択肢の多い勤務形態を工夫します。これには「短時間正規雇用の活用」「当直免除・緩和」「ワークシェアリング」「育児時間の設置」「駐車場の優先使用」を挙げました。そして、ステップ3ではすでに効果を上げている病院の取り組みを紹介しましたが、急な呼び出しに対応できるベビーシッター制度やシッター・家事サービスの費用補助、地域保育所・学童館などへの送迎支援などです。

なお、これらを実行する時に最も大切なことは、女性医師自身が仕事へのモチベーションを高く維持できるようにすることで、プロとして責任ある仕事を任せることやその評価のフィードバックは大切です。さらに周囲が不公平感を持たないように、たとえば、当直した医師に対しては、労働に見合った対価が支払われるようにして、当直を免除されている女性医師も気兼ねなく仕事に取り組むことができるようにすることなども重要です。支援を受ける子育て中の女性医師に対しては、下のメッセージを送っています。

最後に、本冊子が、多くの病院で、働く全ての勤務医の環境改善に役立つことを期待しています。

本冊子の内容は、日本産婦人科医会ホームページで参照できます。http://www.jaog.or.jp/

♪常に前向きに、モチベーションを高く持つようにしましょう

♪周りの人とのコミュニケーションを大切にしましょう

♪第一線を離れる期間は、できる限り短くしましょう

♪自分・子供の体調がよい時は、勉強・仕事に励み、研究、キャリアアップ、専門技術、資格の取得などを目指しましょう

♪子育てを夫婦で楽しみ、夫の家事・育児への参加を促しましょう

♪子育て・家事を手伝ってくれる人を確保しましょう(家族・親戚、ベビーシッターなど)

♪悩むことがあれば、支援窓口やメンターに相談しましょう

♪子育ての経験は医師にとって大きなメリットになることを心にとめておきましょう

♪今は思うように働けず、もどかしく思えても、必ず飛躍できる時期が来ます

♪支援された経験を生かし、いつか支援する側に回りましょう