「共同参画」2009年 4月号

「共同参画」2009年 4月号

スペシャル・インタビュー

与える支援ではなく、支える支援を

今回は、難民・避難民支援活動に従事されているNPO法人ジェン(JEN)事務局長の木山啓子さんにお話を伺いました。

世界を変えるということを恐れずに、自由に前に進もう。

─ はじめに、支援活動に携わることになったきっかけについてお話ください。

木山 よく聞かれるのですが、ただ目の前にあることを心を込めて一生懸命やって、気がついたら今の仕事についていたという感じで、これといったきっかけはありません。しいて言えば、小さい頃から不公平が嫌いだったことかも知れません。ぼうっとした子ども時代で「差別」という言葉すら知らなかった小学校4年生の時、担任の先生の差別的発言に強い憤りを感じました。人は等しく尊い筈なのに、そうでない状況があると、何とかしたくなる、と気付きました。性差別や民族差別も、国際協力を必要とする世界各地の状況も、「不公平」という意味で私にとっては同様に気になる存在です。そしてたまたまNGOの仕事に触れる機会がありまして、やってみたらはまってしまった、ということでしょうか。

─ 国内外の多くのスタッフを束ねる事務局長として、仕事をする上で最も重要なことは何でしょうか。

木山 どうやったらスタッフが幸せだと感じて日々を過ごしてもらえるかを考えるのが務めだと思います。そのためには、理念がしっかりしているということが大事ではないでしょうか。

JENの支援では決して救わず、助けません。支えるのです。ですから、JENは、与える支援ではなく、支える支援をするのだと言っています。一人ひとりが等しく尊い。同じように自立する力をもっているのに、それが発揮できない状況の人達を支えることによって、力が発揮できるようにするというのがJENの全ての活動に一貫して流れているものです。

人は皆、自立する潜在力を持っていると確信するようになったのは、いろいろな国に行って、絶望的な状況に陥っている人達に出会い、その人達の優しさと強さを学んだからです。現在ある状況をいかに前向きにとらえて、それを資源として活用していくかということを、被災者の皆さんから身をもって教えていただきました。

もう一つの大切な気付きは、人は本当に厳しい状況になったとき、自分のためには頑張れないということです。自分さえ良ければ、で幸せになった人はいませんし、極限的に厳しい状況であっても誰かのためならば、再び立ち上がろうと頑張れるのです。最初の活動でこれに気付いたので、これは旧ユーゴの民族性かなと思いました。イラクでも、アフガニスタンでも、スリランカでも同じだと知り、他者のために何かをすることで喜びを感じるのは人間の本能であると確信するようになりました。そう思うと、世界に希望が持てますね。  世界中の一人ひとりが幸せになるために、支える支援をするということがJENの理念であり、JENの理念を皆に明確に伝え、それを皆が実現することを支える。それが事務局長としての最も大事な仕事だと思っています。

─ 日本においてNGOの活動をより浸透させていく上で、必要なことは何だとお考えでしょうか。

木山 どうしたらNGOの必要性を感じていただけるのか、日々悩んでいるところです。広報活動は本当に大事なのに、十分効果をあげていないと感じます。以前はイベントをやって注目を集めようなどと思ったのですが、やはりもっと戦略が必要です。同じ志を持っている人は、日本中にいるはずで、その人達が協力して、戦略を立ててやっていけば変わるのではないかなと、今は思っています。支援活動と同じで、自分だけのために広報するのではなく、全体のためによりよい戦略を立てる必要があると思います。JENだけが注目されても世界は変えられません。  ですから、普通の暮らしをしている見知らぬ人達がみんな、NGOのやっている仕事は自分たちの暮らしに直結しているんだということに気付き、だから大切なのだと感じてもらえるような広報が必要だと考えています。

─ JENでは、中東諸国において多くのプロジェクトを実施されています。これらの国々の女性と接してこられた中でお感じになったことはありますか。

木山 中東に限らず、女性の自由が確保されていない地域は存在します。胸の潰れる様な悲惨な状況です。ただ、表面的に国や文化を原因として画一的に捉えると、誤解が生じると思います。信仰心の篤いイスラム教徒の男性と話せば、心から女性を尊敬し、大切にしていることが良く判ります。  翻って我が国を見ると、女性と男性との所得格差も大きいですし、女性国会議員数の割合も少ないです。人口の約半分が女性なのに、その代表たる国会議員が極端に少ない日本では、女性の声が適切に政治に反映されていると言えるでしょうか。中東諸国でも日本でも、現実は多元的なものです。イメージだけで捉えず、複雑な実態とそれがもたらすもの、起きている原因などを冷静に分析し、変えた方がよいことがあれば、目指すところを見極めて、一つ一つ着実に実施してゆくことが大切だと思います。

─ 近年、国際機関の日本人職員のうち女性の占める割合は半数以上となっています。海外で仕事をしたいとう希望を持っている女性たちへのメッセージをお願いします。

木山 老荘思想を経営に活かす研究をされている方に、2年ほど前に出会い、影響を受けました。中でも「生きているだけで満点」という言葉は、とても自分を楽に、前向きにしてくれました。失敗しても、悪いことをしてしまっても、生きているだけで満点。いろいろなことを自由に発想して、失敗を恐れず、チャレンジするようになれたと思います。前向きになった私の目には、世界は変えられるのに、世界どころか自分の組織も変えられないと思い込んでいる人が多過ぎるように見えます。世界が今のままでいいと思っている人はいないでしょう。より良い世界を作るために、自分と自分の身の回りの人々を幸せにすることに、先ずチャレンジするといいと思います。そこから世界を変えて、より幸せに、より元気に生きていっていただきたいと思います。

─ 本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

特定非営利活動法人ジェン(JEN)理事・事務局長 木山 啓子
特定非営利活動法人ジェン(JEN)理事・事務局長
木山 啓子

きやま・けいこ/特定非営利活動法人ジェン(JEN)理事・事務局長。1994年よりJENに参加、2000年より現職。旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク、パキスタン、スリランカ、スーダン、ミャンマー、新潟などで難民・被災者への支援活動を行う。『日経ウーマン』主催「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の2006年総合1位(大賞)受賞。エイボン女性文化センター主催「エイボンアワーズ・トゥ・ウイメン2005」エイボン功績賞受賞。