「共同参画」2009年 3月号

「共同参画」2009年 3月号

行政施策トピックス/国の施策紹介 TOPICS

エンパワーメント・フォーラムに熱気 男女共同参画会議議員 実践女子大学人間社会学部教授 鹿嶋 敬

2008年9月に「ワーキングウーマン・パワーアップ会議~仕事意欲に燃える女性と企業を応援する民間運動~」(事務局・社会経済生産性本部)を設置した経緯については、本誌の昨年11月号に書いた。設置の趣旨を改めて要約すれば、女性の積極的な登用、公正な処遇を経営者、管理職に訴えていくほか、メンター(キャリア形成等の相談に乗ってくれる人)の制度化を企業に働きかける、働く女性のネットワークを全国規模で組織化する-などである。

言うは易く行うは難しの例え通り、これらの“公約”を果たすのはなかなか難しいが、「走りながら考えよう」を推進委員間の合言葉とし、それらを実現すべく、今年2月末に第1回の「エンパワーメント・フォーラム2009」を開催し、「メンター・アワード」と題して企業表彰を行った。

対象はメンター制度を導入している企業、制度のあるなしにかかわらず多くの女性社員の相談役を務めてきた人。そのような企業、該当者からの応募が予想した以上に寄せられ、選考の結果、優秀賞として組織部門はプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)、住友スリーエム、神戸大学、さらに同部門特別賞としてNTTソフトウェアを表彰した。

個人部門は帝人CSR室長・田井久恵さん、プルデンシャル生保執行役員・深沢ひとみさんが受賞。パワーアップ会議顧問の牛尾治朗さん(社会経済生産性本部会長)の表彰状授与、資生堂副社長・岩田喜美枝さんの「女性の能力発揮で組織活性化」をテーマにした講演に引き続き、受賞企業、受賞者のほか推進委員の1人であるブルドックソース社長・池田章子さんらをパネリストにシンポジウムも行った。

P&Gはメンター制度を導入して、すでに20年近い歴史がある。ほぼ半数の社員がメンター、メンティー(相談をする人)の経験を持っているほか、管理職が若い部下の気持ちを理解し、柔軟な対応が取れるよう、直属の部下ではない社員をメンターにし、自らはメンティーになるリバースメンター(逆メンター)制度も導入している。

さらにはメンターとして社員を育てれば、人事考課の評価対象にもなる。むろん制度がスタートした当初は、メンターに何を話していいかわからない等の混乱もあったようだ。だが20年近い歴史の中で同制度はすっかり定着し、今は会社が誘導しなくても自然発生的にメンター・メンティーの関係が築けるようになったと、シンポジストとして参加した同社取締役・辻本由紀子さんは語った。

帝人・田井さんは少数のスーパースターを作るのではなく、活躍する女性の数を増やすことが大切と指摘した。そのためには、多くの企業は男性中間管理職の意識改革といった難問に挑まなければならない。難問を克服するには、メンター制度のような“ハード”の整備を行っていくことが必要になる。

フォーラム終了後の交流会は、事務局が室内温度を5度も下げるなど、女性の熱気であふれた。このようなパワーをどうコントロールし、企業の活性化につなげるか-。ポイントは性別ではなく個々人の意欲や個性、能力に応じて処遇すること。すなわち男女共同参画の視点が欠かせないことを、改めて感じた。

かしま・たかし/日本経済新聞社に入社後、編集局生活家庭部長、編集局次長兼文化部長、編集委員、論説委員等を経て、2005年より実践女子大学人間社会学部教授。男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進会議及びワーキングウーマン・パワーアップ会議代表幹事なども務める。著書に『雇用破壊 非正社員という生き方』『男女共同参画の時代』『男女摩擦』(いずれも岩波書店)など。