「共同参画」2008年 11月号

「共同参画」2008年 11月号

行政施策トピックス/国の施策紹介 TOPICS Part1

女性の処遇をパワーアップ 男女共同参画会議議員 実践女子大学人間社会学部教授 鹿嶋 敬

先ごろ「ワーキングウーマン・パワーアップ会議~仕事意欲に燃える女性と企業を応援する民間運動~」(事務局・社会経済生産性本部、略称パワーアップ会議)という組織を立ち上げ、記者発表を行った。「パワーアップ」というので口さがない人は筋トレでもやるんですか、などと冷やかすが、確かに女性処遇の向上が今後、企業の“体力増強”の重要な要素になることを思えば、筋トレの一種と言えなくもない。

社会経済生産性本部に事務局を置く組織としては、すでに「~次世代のための民間運動~ワーク・ライフ・バランス推進会議」を2006年8月に設置し、働き方、暮らし方の見直しに取り組んでいるが、今年2月、同本部会長の牛尾治朗氏(ウシオ電機会長)からワーク・ライフ・バランスへの取り組みが今のままでいいかどうか、考えてほしい旨の連絡を受けた。

私はワーク・ライフ・バランス社会の形成に当たっては男女共同参画の視点、もっと具体的に言うなら性別役割分業の見直しにまで踏み込まないと十分ではないと思っている。そのような考えを申し上げ、さらに女性が出産・育児等を乗り越えて働き続けるには、働きがいのある仕事に従事していることが大切だということ、すなわち苦労をしても投げ出したくないという動機付けが必要で、そのためには女性が従事する仕事の質や処遇の向上を図らなければならないと指摘した。

牛尾氏は、経済人の中でも男女共同参画への理解がきわめて深い。早速、働く女性の処遇向上につながる組織を作ろういうことになり、ようやく実現の運びとなった。活動のポイントの一つは意欲や能力がある女性の仕事領域の拡大や公正な評価・処遇を経営者、管理職に促していくこと。二点目は女性が働くことに理解を示し、相談に乗ったり見守ったりするメンター制度の普及。三点目は働く女性や活躍を応援する人、企業のネットワーク化の促進。四点目は女性の能力を生かせる社会の実現に向け、メッセージを発信すること等々だ。

組織を作ったのはいいが、実効性が伴わないでは意味がない。幸い、社会経済生産性本部は「新しい日本を作る国民会議」(21世紀臨調)の事務局もしており、社会に影響力を及ぼす運動を展開するにはどうすればいいか、ノウハウを持っている。経営者や管理職の女性観を変えるといっても一筋縄ではいかないので、そうした知恵も借りながら運動を推進する予定である。

私事に関する話だが、日立製作所に勤務してキャリア形成を目指し、また今秋には結婚も予定していた最愛の娘を今年五月にボリビアで交通事故で失った。絶望の淵で呆然とする私を、女性の処遇向上を目指す会議を立ち上げることがお嬢さんの遺志に沿うことにもなると、多くの方々が肩を押してくれた。

娘は共働きを予定していたから、ワーク・ライフ・バランスも重要だ。女性処遇のパワーアップと男女双方のワーク・ライフ・バランスという両輪を回転しつつ運動を展開する背景には、私のそんな思いも交錯している。

かしま・たかし/日本経済新聞社に入社後、編集局生活家庭部長、編集局次長兼文化部長、編集委員、論説委員等を経て、2005より実践女子大学人間社会学部教授。男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進会議及びワーキングウーマン・パワーアップ会議代表幹事なども務める。著書に『雇用破壊 非正社員という生き方』『男女共同参画の時代』『男女摩擦』(いずれも岩波書店)など。