男性にとっての男女共同参画シンポジウム横浜「これからの組織・地域の経営に必要なこと」(1)

  • 第一部
  • 基調対談 林 文子氏 × 佐々木 常夫氏
  • これからの組織・地域の経営に必要なこと
    ~第三次男女共同基本計画を受けて~

まずは佐々木氏が林氏に、『企業や行政のトップとして最も大切にしていることは何か』、『男女共同参画の狙いと現状の問題について』をインタビューする形でスタートしました。

  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜01
  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜02
佐々木:
林さんは現在市長で、その前はいろいろな会社の社長をされていた。組織のトップとして、何を最も大事にしているかを聞きたい。
林:
企業や行政のトップとして、数字や政策を語ることも大切だが、まず一人の人間として一人一人と向き合うことを大切にしている。とことん話をする中で生まれるものがある。
佐々木:
男女共同参画の狙いや問題について、ご意見は?
林:
私は、自分のそばにいる男性に、自分の働き方を分かってもらえることが大事だと思う。本日のテーマが、“男性にとっての”男女共同参画というのは本当によいこと。男女の「役割分担」にとらわれずに、男性と女性が一緒に何かをやろうとすることで、世の中が変わってくる。そこをどうやって伝えるかが課題。

男女共同参画の抱える課題

佐々木:
私が思うに、男女共同参画は女性の問題ではなく男性の問題である。男女共同参画が目指すのは
  • (1)固定的性別役割分担意識をなくし、男女が平等である社会
  • (2)男女の人権が尊重され、尊厳を持って個人が生きることができる社会
  • (3)男女が個性と能力を発揮し、多様性に富んだ活力ある社会
この中の(2)と(3)こそが大切だと思う。
皆が長時間労働、滅私奉公、家で食事をとらない時代に、私はアンチテーゼを提唱したが排除された。しかし多様な個性・生き方を認めてほしいと叫び続けてきた。個性や多様性を認める社会をつくるというのは、男性の課題だと思う。
高度経済成長の時代なら性別役割分担をしていた方が経済的合理性もあり、便利でもあったが、今やそれでは立ち行かなくなっている。
林:
長時間労働の抑制など、制度の面ではかなり整ってきてはいるが、人の気持ちがついていっていない。深掘りした議論が不足している。
佐々木:
北欧では役員の40%女性を起用すべきというポジティブアクションを法律として謳っているが、日本でも民間や個人の裁量に任せるだけでなく、法律でも後押しする必要があるのでは?
林:
ケースバイケースだと思う。これまで指導的立場の女性を育てるという状況になかった中で、ポジティブアクションによりただちに女性の社会参画を進めようとしても、一気に数を増やすのはむずかしい。数だけなら揃うかもしれないが、本当の意味で女性たちが継続的にきちっとした仕事ができるよう、もっと組織ぐるみで意識して育成していくことが大切。
もちろん、女性の管理職登用はすすめていくべき。例えば、横浜市では、18区のうち、女性区長は3人。行政サービスは市民の皆様の生活に寄り添うものであり、女性の得意とするところ。意識して増やして行きたい。

ワークライフバランスを考える

佐々木:
ワークライフバランスをいくら唱えても、会社はなかなか動かない。管理職世代は、それこそワークライフアンバランスによりその地位を得てきたという成功体験があるだけに、自らの手で変えようとは思っていない。会社や上司まかせにせず、個人が自立しなければならないのでは。
林:
確かにそう。一方で、組織の中にいると個人が声を上げるのはむずかしい。会社全体の風土をつくるのはトップ。
佐々木:
日本のトップのほとんどは「日本企業の競争力の源泉は職場の繁忙にある」と考えているようだ。その人たちの考えを変えろと言ってもむずかしいのではないか。
林:
しかし、長時間勤務は逆に、仕事の質を低下させると私は思う。
佐々木:
組織の中に入るとむずかしいのは、実は私もそうだった。上司が帰らないと帰れない、という体験から、私が課長になったら全部変えようと思った。自分にそういう気持ちがあるなら、自分で動いて変えていったほうがいい。

根強い男性の役割分担意識

林:
現在の経営層や管理職世代の男性は、最初に女性経営者に向き合う際に壁をつくってしまうことが多い。固定的性別役割分担意識の鎧を脱いで、オープンな付き合い方を考えてもいいのではないか。
佐々木:
その年代は「男がやらなければ」と肩に力の入った生き方をしてきた。今の若い人たちは違ってきている。
林:
確かに、最近は意識も変わっている。私は女性の部下を心配してよく気遣っていたが、ある日男性の部下がやってきて「今は女性も全然負けてませんよ」と言われた(笑)
佐々木:
子育てをしたいという男性も増えている。時代が変わってきた。幸せになろうと思ったら男女共同参画の考え方をすすめた方が、多くの人が幸せになれるのではないか。

男女共同参画がもたらす幸せと人間的成長

林:
男性の首長が育児休暇をとった例もある。それに対して、「苦労している人もいるのに、行政のトップに立つ人間がそんなものとって」という意見も一方ではある。でもやはりどこかで、男性も家庭の中で妻と共同でやりましょうと、トップの人こそが踏み切ってやっていくべきだと思う。
現在一緒に仕事をしている、横浜市の副市長の山田正人氏は、官僚時代に育児休業を取得した“イクメン”の先駆けでもある。「僕は育児をして、今まで見えなかったことが本当によく見えてきた。人間的に成長した」という彼の言葉を聞いてすばらしいと思った。育児はこんなに大変で、でもこんなに楽しいことか、と。男性が強くなければという文化は、女性と同じように子育てする経験を持たないことも大きいのではないか。
佐々木:
38歳のときに家内が入院して、3人の子供達が小さかったので私が働きながら子育てしてきた。あの頃、「大変だったでしょう」と周りから言われたが、本当のところ、毎日楽しかった。やってみないとわからないことがある。ワークライフバランスでも、男女共同参画でも、一人一人が自分の幸せを追求してほしい。
林:
仕事の生きがいも大切だ。男女がそれぞれの長所を活かして、一緒にひとつのことをするというのはすばらしいこと。男女がお互いのよさを引き出しあい、広い視点で見守りあう男女共同参画社会にしていきたい。
  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜03
  • 画像:男性にとっての男女共同参画シンポジウム in 横浜04