コラム「父親になったらOSを入れ替えよう!」

イクメンムーヴメントも来て、最近は男性の育児への参加率が増加してきているが、まだ「しなければならない」という義務感が先行している人、企業の成果主義のような感覚で「親としての評価」だけを求めてしまう人が多く、育児を楽しむところまではなかなかいけていないようだ。

父親が積極的に子育てすれば、これまで見えなかったことが見えてくる。子どもの成長はもちろん、家族や夫婦の絆が強まったり、男性が家事に勤しむことで生活力が磨かれるので、将来もし妻や親が介護になったり、一人で暮らすことになっても安心だ。また家庭という枠を越えて学校PTAや地域活動へ参画すれば、会社では味わえない仕事の達成感を得たり、一生付き合える隣人ネットワークも持てる。それによって父親自身の世界も広がり、人間の幅が出来てそれが本業の仕事や老後の人生にも活かされてくるのではないだろうか。

子育てに主体的に関わることがこんなに「いいことづくめ」なのに、残念なことにまったく興味がない男性はまだ多い。そもそも「父親を楽しもう」「地域で父性を発揮しよう」なんて発想すらない。「育児は母親の仕事。男は外で働き稼いで家族を養うのが父親の役割だ」と、思いこんでいる男性はまだ少なからずいるのだ。

そういう僕も20代の頃は仕事に没頭し子どもは特に好きでもなく、そんな考え方だったと思う。でも35歳で娘が生まれたとき、直感的に「育児は義務ではなく楽しい権利なのではないか」と思った。子どものいる暮らしを自分なりに目いっぱい楽しみたい。「手伝い」ではなく主体的に子育てに関わることで、ひょっとしたら親として、大人として、地域社会の一員として自分が成長していけるのではという予感があったのだ。

そのためには、独身の頃と同じことをしていてはダメだ。まずは「男は仕事。女は家事・育児」といった古い価値観をアンインストールする。つまり自分の中のOS(オペレーション・システム)を入れ替えねばと悟った。実際に始めてみると子育てではいろいろなソフト(寝かしつけアプリ、お風呂入れアプリ、絵本読みアプリなど)が必要でそれを円滑に稼働させ育児を楽しむためには、古くて堅い父親像を追い出し、新しい時代に必要な父親OSのインストール(意識改革)が必要だったのだ。

またOSが古いと「ワーク・ライフバランス」という言葉も捉え方を間違える。子育てをしてみて僕も分かったのだが、「仕事か生活か」のどちらかを取る二者択一ではなく、自分なりのハッピーバランスを考えそれらが融合して人生を形作ると考えることが大事なのだ。仕事も子育ても自分の人生と捉えるならば、毎日双方がスムースに運ぶようマネジメントすることが大事で、そうすれば段々と楽しめるようになってくる。ただし大概にして子どもの幼少期と仕事の責任が増す時期は重なるもの。僕だってそうだった。子どもが生まれたって仕事は面白いし、熱血マンガを読んできた世代なので「男のロマン」的なものあるのだが、そればかりを追いかけて家庭を放ったらかしにして仕事一筋では家族は幸せになれず、結局自分の人生も楽しくないのだということに何回かの失敗で思い至った。幸い、大事にならずに修正できてよかったのだが、危ないところだったと過去を述懐して思う。

セミナーや講演で全国を歩いていると「子育てが始まって妻と不和に陥った」という男性が多いのだけれど、そういう笑顔のない男性には「それはあなたの能力や向き不向きの問題ではない。OSの問題なのだ」と伝えている。

これからは父親になったらOSを入れ替えて、自身の働き方や子育ての仕方を見直し、子どものいる暮らしを楽しむことで男性だって楽しい人生を送ることができるのだと考えよう。そして自分の人生を肯定する父親の笑顔こそが、夫婦間パートナーシップや子どもの自尊心を育むのだということ認識して、父親であることを明日からもっと楽しんでいこう。

  • NPO法人ファザーリング・ジャパン ファウンダー/副代表理事
  • 安藤 哲也