男性にとっての男女共同参画コラム 「これからの時代のイクメンが考えていくべきこと」

育児に積極的に関わり、時には育児休暇をとる男性を称して『イクメン』。ひとつのムーブメントとして浸透し、2010年には流行語大賞にもランクインするなど、すっかり市民権を得た感があります。一過性のブームではなく、イクメンが当たり前に生きやすい社会になるために、イクメン自身はどんなふうに進化していくべきなのでしょうか。育児休暇も取得した二児の父であり、「イクメンで行こう!」の著者でもある(株)東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長、渥美由喜氏にお話をうかがいました。

男性の育児参加が当たり前の時代をつくろう

5年ほど前、『イクメン』という言葉を使い始めた当初は、少しでも目を向けてもらえるよう「イケメンよりイクメン」「ワクメン(=オーバーワークで働く男性)よりイクメン」などというフレーズをあれこれ考えたりしていたけれど、今はすっかりブームになり、批判的な声もちらほら出てきている状況です。ちょっと育児をしただけで「俺はイクメンだ」と満足してしまうと、妻側からは「私はもっとやっている」とダメ出しされる。一般的に、男性は自分と他の男性を比べ、女性は夫と自分を比べる傾向にあります。逆に、真剣に育児をやっている人ほど、「そんなのは当たり前」と、自分でイクメンと名乗るのは心理的抵抗があるように見えます。

何より、イクメンが希少価値でなく、当たり前な時代に早くなるといいと思います。育児休暇をとる男性は、まだ全体の1.38%。まだまだもっと、イクメンを後押ししていく必要があります。

ナナメの関係を充実させ、地域でさらなる活躍を

ただの自己満足に終わらず、地に足のついた活動をしていくために、これからの時代のイクメンが考えていくべきこと。ひとつは、『ナナメの関係』作りです。

『ナナメの関係』という言葉は、リクルート出身で元杉並私立和田中学の校長、藤原和博さんがおっしゃっていて、私もその言葉が好きでずっと使っています。タテの関係(親と子、教師と生徒など)でもヨコの関係(友人など)でもない、子どもたちとガキ大将や近所のおじさんおばさんなど、地域社会の中の関係がナナメの関係。現代はナナメの関係が希薄になっており、これは子どもにとって不幸なことだと思います。子どもにとっては、いろんな大人と関わりを持ったほうが絶対プラスになる。親にとっても、夫婦2人だけで完結するよりは、いろいろな人に関わってもらったほうが、より立体的に深くその子のことを理解できます。私自身、独身の頃から子どもが大好きで、18年前から地元の公園で子ども達を集めて子ども会を開いてきました。これまで、1800人くらいの子どもと接してきましたが、その経験に照らして、心からそう思います。

私が考えるイクメン・ムーブメントの帰着点のひとつは、自分の子育てを通じて地域社会とつながっていき、自分の子どもと同じように地域の子ども達を愛して育む。そういう男性が増えると、きっと日本の社会は変わっていくはずです。

これからは『介男子』に備えよ

もうひとつは、介護について。3年半前から、私も父を介護する立場になり、日々、格闘しています。育児と介護は似ているようで違う。育児は坂の上の雲を見ながら、坂をふうふう言いながら上っていくイメージ。苦しいこともあるけど、楽しいことも多い。一方、介護は、坂を転がり落ちて、その先は「底なし沼」に足を踏み入れていくイメージ。高齢期とは、尊敬し、愛している親が退行し、衰えていくプロセスですから、がっかりすることだらけ。ただ、私の場合、よかったのは育児を経験していたこと。大変な状況に対するストレス耐性が増しただけでなく、子育てすることで自分の小さい頃を追体験し、親への感謝や尊敬が深まっていた。自分も小さい頃、さぞかし理不尽なことを言ったはず。それを親は受け止めてくれたのだから、今度は逆に親が少々、理不尽なことを言ったとしても、自分も受け止めようと。持ちつ、持たれつ、明日は我が身ですね。よく「育児は育自」と言いますが、私は「介護は介互」だと思います。生命を愛し慈しむということを、育児→介護のバトン・リレーを経験することで、点ではなく線で捉えることができました。

イクメンは、『介男子(介護する男性)』に備えておくべきだと思います。それはスキルを身につけようというような問題ではなく、心の受け止め方という問題として。実は、2歳の次男が半年前から、難病であることが判明して、看護もせざるをえない状況です。そんな5Kライフ(会社員、子育て、家事、介護、看護)の中で実感しているのですが、自分の大切な家族が、人生の終末期になるかもしれない1日1日を幸せな記憶で終えるために、自分と妻をはじめ、親族みんなが手を携えて、どのようにサポートしていくか。これだけ介護の重要性が叫ばれているこの時代、しっかりと向き合っていくべき問題だと思います。5Kは互恵へとつながり、ワーク・ライフ・バランスの頭文字3文字「ワ・ラ・バ」は、「わかちあい、らくありくあり、バトンリレー」の頭文字でもあるのです。