影響調査専門調査会(第5回)議事要旨

  • 日時: 平成13年10月25日(木) 16:00~18:00
  • 場所: 内閣府3階特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    大沢 真知子 日本女子大教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    神野 直彦 東京大学教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    高山 憲之 一橋大学経済研究所教授
    橘木 俊詔 京都大学経済研究所教授
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
    福原 義春 (株)資生堂会長
    師岡 愛美 日本労働組合総連合会副会長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○厚生労働省から年金制度に関する説明があり、次のような議論が行われた。

    木村委員
    社会保険は能力に応じて拠出し、ニーズに応じて給付するのが原則という根拠は何か。
    厚生労働省
    女性と年金検討会での委員の意見に基づいており、委員が根拠を示したわけではないが、年金体系の中で、賃金という能力 に応じて保険料をもらい、必要度に応じて給付設計を組み給付するということを集約したらこういう言葉になるのではないかと理 解している。
    高山委員
    国民年金は定額保険料であり、厚生年金や共済年金は給付に報酬比例部分があることから、社会保険は能力に応じて拠出 し、ニーズに応じて給付するのが原則とはいえないのではないか。
    大澤会長
    厚生年金等で、標準報酬最高限があり、能力に比例した負担ではない。また給付も拠出や負担に応じる給付となっているこ とから、応能拠出とニーズに応じた給付が原則であるという議論するのは問題ではないか。
    木村委員
    それが社会保険の原則ではなく、強制加入というのが社会保険の原則、特徴ではないか。
    厚生労働省
    国民年金についても、所得が把握できるのであれば、原則は応能拠出でやるべきではないか。また、標準報酬の上限につい ては、報酬比例であまりに高い年金額、保険料額とならないように上限を作っているが、何年かごとに上限を引き上げている。
    高山委員
    公的制度では公正性などの考え方を入れざるを得ないので、どうしても個人の選択に中立的でないところが残る。公的制度 において中立性はどこまで出来るのか議論する必要がある。
    大澤会長
    所得の捕捉等について神野委員にお伺いしたい。
    神野委員
    個人の多様な選択に中立的な制度をどうカウントしていくのかの中に、家族内における無償労働をどう評価し制度へとりいれ ていくかがある。年金というのは失った賃金の保障部分だと考えればあとは無償労働をどうその中にカウントするかということに なる。
    なお、財政学での応能原則は累進的な負担を意味する。
    大沢委員
    主婦のアンペイドワークを年金制度で評価している国はあるか。
    厚生労働省
    評価している国はない。
    高山委員
    税制面でもこれを評価している国はないか。
    神野委員
    2分2乗制度では、夫の所得に対する貢献として評価しており、また、同じ所得を得ている共稼ぎ夫婦と片稼ぎ夫婦で、片稼 ぎ夫婦の方が担税力があるとする場合には、それは何らかの形でアンペイドワークを評価しているといえる。
    高山委員
    年金について所得分割をやっている国はいくつかあり増えてきている。年金額は夫婦同じにしようとする哲学である。完全個 人単位制への切り替えは難しいのではないか。
    坂東局長
    年金で国民のコンセンサスが得にくい部分は、報酬比例部分の考え方が十分整理されていないことが原因である。報酬比例 部分は私的保険の考え方に準じるもので、なぜ公的なのに2階建てにするのか。
    厚生労働省
    報酬比例部分の廃止や民営化の議論もあるが、サラリーマンは自営業者グループよりも老後の年金以外の収入が低いの で、サラリーマンの老後の所得保障のために報酬比例部分は必要なのではないか。
    大澤会長
    民間の年金制度で物価スライド、賃金スライドを導入しているのはあるのか。また、終身給付は民間保険で可能なのか。
    厚生労働省
    民間ではスライドをやっているものはないし、原理的にいってもない。終身は一部民間で出てきていると聞いているが、基本的 には難しい。スライドかつ終身ということは公的年金の大きな特徴である。
    大沢委員
    自営業世帯とサラリーマン世帯の不公平についてはどう調整しているのか
    厚生労働省
    まさに、検討課題である。年金、医療保険における財政的な調整では、サラリーマン世帯の方が所得の捕捉において不利で あるという観点から、自営業者世帯とサラリーマン世帯間の収入額、所得額の調整は行わないで、頭割でやっている。ただし、 サラリーマングループの中では、所得調整は行っている。
    大澤会長
    自営業者の所得の捕捉は難しいのか。
    神野委員
    スウェーデンやイタリアのように確定拠出型賦課方式の年金制度と組み合わせれば事業所得を捕捉できるのではないか。資 産所得を排除し、事業所得だけを保障すれば、必要経費を増やすと給付額が少なくなるため、脱税インセンティブがなくなるか らである。
    高山委員
    スェーデンでは所得捕捉ができているが、イタリアではうまく捕捉できていないのではないか。

    ○次に、財務省から税制に関する説明があり、次のような議論が行われた。

    木村委員
    103万円で企業が厚生年金に入るかどうかを定めていることを考えると、税制が原因でなくても、思い込みによる就労調整をし ているわけではないのではないか。また、配偶者控除、配偶者特別控除は本人の基礎控除があるので手厚過ぎるのではない か。個人の意思決定にマイナスの影響を与えないために、課税最低限を低くしたり、給与所得控除と基礎控除を低くし、税率を 低めて税収について中立的にするという選択肢もあるのではないか。
    財務省
    日本の課税最低限は国際的に非常に高い。これは、給与所得控除が定率控除で青天井だからである。給与所得控除は必 要経費の概算控除部分と他の所得との負担調整の両方の面があると整理されている。政府税調でも所得税を通じて、国民が 広く国の財政を支えるという意味では、課税最低限はできるだけ低いことが望ましいと言われている。一方、マクロ的にも所得 税は国際的に負担率が低い。たとえ税収中立を前提としても垂直的公平の確保や経済の自動安定化機能、所得再分配機能 の観点から税率のフラット化は難しいのではないか。
    なお、103万円を超えると税負担が急に増えることによりかえって手取りが減ることはないという意味で思い込みではないかと 考える。
    橘木委員
    低い税負担なのに、重税感がある。歳出面にむらがあるという認識を払拭することも必要ではないか。
    財務省
    歳出の徹底合理化がないと負担増を国民が納得しないといった状況があることは認識している。単純増税などといった議論 は現実的には難しい。
    福原委員
    最高税率を今より引き上げると再び法人所得税との乖離が生じて、個人が法人成りするということが出てくるのではないか。
    財務省
    それはあり得る。今は国と地方を合わせ50%であり、国際的にも遜色ない水準であり、これよりも上げるのは難しいが、かと いって今以上にフラット化するのは先ほどの理由からみてもどうかと思う。
    神野委員
    今の税制は公平性を貫いていない。特に家族配慮が大き過ぎてこれが課税の公平性を崩している。国際比較でも家族的な 控除が非常に大き過ぎる印象がある。
    ただ、配偶者特別控除などの制度の見直しはパート問題へ波及してしまう。このような例があるのか。
    財務省
    少なくともG5ではこういう仕組みの控除はないと思う。このように細かく配慮することで制度全体として複雑になっており、簡素 な税制という意味からも問題はある。
    神野委員
    家族全体の所得に対応するのに配偶者控除だけが問題ではない。本来働く人すべてに壁があるはずだが。
    財務省
    しかし、パート配偶者以外では壁は顕在化していない。なのになぜ配偶者だけ壁になっているのか。このことからも本当に税 制の問題なのかどうかということになるのではないか。
    ただ、控除が多いのはご指摘のとおりである。例えば基礎的な人的控除でも配偶者について配偶者特別控除があり、また、 扶養控除も特定扶養控除や老人扶養控除などある。その他の控除の中にも政策税制の面があるなど複雑になっている。
    神野委員
    女性を家庭の中に閉じ込めるような税制になっているように思われる。理念を超えた人的控除になっているのではないか。
    財務省
    少なくとも税制上は働くほど手取りは増える形になっている。負担の面で税制が女性を閉じ込めているとは思わない。
    木村委員
    103万円が高いのではないか。
    財務省
    パート配偶者に103万円の壁があるにしても、それ以外の人にはない。各々に各々の課税最低限があるのに実際は仕事をや めるかというとやめない。つまり、税制ということではなく、仮に103万円の水準を動かしたところでそれは直らないと考える。
    神野委員
    配偶者に対する控除、扶養者に対する控除が基礎控除を超えてしまっているのは日本だけだが。
    財務省
    問題はあるが課税最低限の構成要素の1つとなっており、その見直しは税負担全体に響くので、そこだけピンポイントで直す のは難しい。全体の見直しの中でということになろう。
    大沢委員
    103万円あるいは130万円からといったいろいろの控除があって、ある制度がいけないというわけではなく、企業も主婦も収入 調整をすることを前提に女性の働き方が規定されてきたことは事実だと思う。また、この問題ではパートの賃金がなぜ低いのか という別の問題もある。

(以上)