第3回男女共同参画会議影響調査専門調査会

  • 日時: 平成13年7月16日(月) 15:00~17:15
  • 場所: 内閣府府議室
  1. 出席者
    • 大澤 会長
      岡沢 委員
      大沢 委員
      木村 委員
      小島 委員
      神野 委員
      高尾 委員
      橘木 委員
      永瀬 委員
      福原 委員
      師岡 委員
  2. 議事
    • (1) 開会
    • (2) 女性と社会保障制度について(報告者:木村委員)
    • (3) 女性と税制について(報告者:神野委員)
    • (4) 質疑
    • (5) モデルケースによる研究方法について
    • (6) 質疑
    • (7) 閉会
  3. 議事内容
    大澤会長
    定刻になっておりますので、ただいまから男女共同参画会議影響調査専門調査会の第3回会合を開催いたしま す。
     まず、先日の19日に開催された男女共同参画会議の本会議に本専門調査会についての報告がなされましたので、私から簡 単に申し上げます。
     19日の本会議では、各専門調査会におけるこれまでの検討状況や今後の進め方についてそれぞれ会長等から報告があり、 この専門調査会については橘木委員から本日の配布資料の1「影響調査専門調査会の今後の進め方について」という資料に 基づいて御説明をしていただきました。橘木委員どうもありがとうございました。
     それでは、お手元の議事次第に従って本日の審議を進めさせていただきます。今日は前回に引き続いて、女性のライフスタイ ルの選択に影響が大きい制度等について委員からレポートしていただき、それを踏まえてモデルケースによる研究方法につい て御検討をいただくということになっております。
     委員のレポートは、「女性と社会保障制度」についての木村委員の御報告、それから「女性と税制」について神野委員の御報 告をお願いしており、その後質疑を行いたいと存じます。なお、社会保障制度と税制は関連の深いテーマですので、質疑の時 間はお二人の御報告が終った後でまとめて取ることにしたいと存じます。
     それでは、まず「女性と社会保障制度」について木村委員から御報告をお願いいたします。約30分でお願いいたします。
    木村委員
    それでは、ただいまからいただきました時間の30分で、「女性と社会保障」について話をいたします。
     事務局からいただいた課題は3点あります。1点は、社会保険制度における配偶者・被扶養配偶者の扱いについて説明をす ること。それから2番目は、離婚・再婚と女性の社会保障受給権との関係について説明すること。3番目は、女性の老後と社会 保障ということです。この3つの三大話をずっと考えていたのですが、一番最後の方から入るのが問題意識を共有しやすいので はないかと思いまして、第3番目の女性の老後と社会保障の方から簡単に説明をしたいと思います。
     ジェンダーということと、社会保障ということで考えてみますと、別紙の2を簡単にごらんいただきたいのですが、制度は女性か 男性かという点に関しては中立的でありますが、結果として一方の性が大きく影響を受けるものがあります。これは第3号被保 険者、あるいは非正規雇用者の社会保険での取り扱い、そういったものがここに妥当します。
     次は、明示的に性によって取り扱いが異なるものというのはまだ残っておりまして、例えば遺族年金の受給資格要件では男 女で差があります。そういった2つのことを押さえておいていただきました上で、別紙の3をごらんください。
     女性の老後ということをまず押さえておきたいと思います。言うまでもなく、平均寿命が男性よりも長くて、若いときに結婚して いる人でも、そうでない人でも老後にはシングルになる可能性が非常に高いです。それも高齢になるほど増加するというデータ は、今日お配りしましたものの31ページをごらんください。
     それからまた現在、中高年で離婚する人たちが増加していると。結婚生活20年以上の離婚というのはこの20年間で二、三倍 になっていますし、5件に1件ぐらいの割合でそれが結婚生活20年以上の離婚であるというのが現状です。
     年金、生活保護、所得、就労について順次簡単に見てまいりますけれども、女性の年金額がまず低いと。国民年金、農業・自 営業者の人たちは、これは別紙の3の年金のところをいいますが、男性で約5万円、女性で約4万円です。これは加入期間の 差というものを反映しています。今度は一般サラリーマンだった人たちでは、男性が20万で女子がおよそ11万で約半分ぐらいで すが、これは男性と女性の平均賃金の差並びに女性の勤続年数が短いということを反映してこのようになっております。
     一方、企業年金の方も、女性の加入率というのは低くなっておりまして、厚生年金受給権者のうち、厚生年金基金の受給権 者というのは男性で約3割ですけれども、女性が2割程度となっております。退職金を見ましても、これはかなり勤続年数とか学 歴とかそういったことをそろえた上での比較ですが、勤続年数42年の人ですと、女性で約1,982 万円、男性で2,400 万円です。 実際の平均的な勤続年数は女性の方がもっと短いですから、老後の所得保障という点では、公的年金も企業年金も含めて女性の方が男性よりもかなりの程度低いということが言えます。
     生活保護ですけれども、高齢者世帯の生活保護率は低下してきていますけれども、そのうち単身者世帯の割合はもう9割に 達しております。これは男女の比がまだ持っているデータでは取れていないですが、ほかのデータとつなげ合わせると、ほかの 先進国でもそうですが、最も貧しいクラスはどこかという場合に、高齢単身女性というのが多いですけれども、貧しい層の中には 高齢単身女性グループというのが入っていると思えばいいのではないかと思います。
     所得の方ですけれども、おつけしました論文の方に少しだけ抜粋しますと、国民生活基礎調査の方からですが、大体60歳代 前半層の夫婦の所得が600 万円弱としますと、高齢女性単身者の総収入というのは、男性単身者の約6割で、夫婦世帯の4 割程度と、これも低いということですね。
     それで、年金収入というのは、単身世帯や夫婦世帯で60歳代前半では三、四割なのが、それ以降は六、七割と高まります。 しかし、女性単身者というのは60歳前半層の時点で賃金収入の割合がほかの世帯に比較して低いということです。これは、就 労率が男性に比較して女性の方が60歳代ではかなり低いということもあらわしていると思います。このように、女性の方が長生 きするわけですけれども、現行の企業年金、公的年金、退職金ともに女性の方が所得から見ればかなり低いわけです。これを どう見るか、どのようにすればいいのかということになります。
     現在の年金も退職一時金も、基本的なスキームとしては働いていた期間というものを反映しております。働いていない期間が 年金額の低さにもつながってくるわけですが、働いていない期間を年金制度でどう評価するのか、あるいは全くしないのかとい う問題も出てまいります。
     働いていない期間というのは、女性の場合ですと専業主婦でいる期間、育児をしている期間、それから介護している期間、い ろいろな期間があるわけですが、それをどのように保険制度でみるのか、あるいは医療保険でみるのか、保険料免除とか保険 料軽減措置をどうするのか。もし保険料免除をするのであれば、それは保険料の中からするのか、あるいは一般財源である国 庫負担からするのかというような多様な問題が出てきます。あるいはまた、年金制度では全くそういったことはみないという選択 もあり得ると思います。
     その一つはどういうことかというと、働いている期間が短い人について、わざわざ年金制度で保険料免除というようなことをしな いで、老後に結果として年金額が低くなる、あるいは高くなるということが起こりますが、年金額が低くなった人に対して所得的 な保障を与えるのだという結論もありましょうし、それからまた年金の保険料を免除するのではなくて、例えば児童手当のような ものを充実して、そこから年金制度に保険料を払ってもらうという選択肢もあろうかと思います。
     世界全体の社会保障の構造改革についての議論としてはどういったものが割合出てきているかというと、1つは、年金を通じ ての所得再分配に対する反省点というようなものが出てきております。それは、所得の低い人に対して本当に効果的なのかど うかということに対する反省点。それから、社会保険料と国庫負担の一般財源のお互いの目的をはっきりさせようと。一般財源 を入れる場合には、保険料の拠出に基づかない給付に限定しようじゃないかというのがフランスの年金改革の議論とか、それ からスウェーデンの年金改革の議論でも起こっていまして、スウェーデンでは実際に実施に移されているというようなことです。 今申し上げましたのが大きな問題です。
     次の2つのことは、今の問題意識のもとでどういったことが現実に政策としてなされているかということですね。まず、社会保険 制度における配偶者・被扶養配偶者の扱い、このレジュメの別紙というのが打っていないものですが、そのレジュメの1番「社会 保険制度における配偶者・被扶養配偶者の扱い」というのがあります。それから論文では、5ページ、6ページ、7ページぐらい をごらん下さい。
     社会保険制度における配偶者・被扶養配偶者の扱いで、加入者間の公平の問題というのがありますが、先ほどの話に戻りま すと、まず被扶養配偶者というのは、働いてない期間としますと保険料を拠出しません。保険料を拠出することが原則になって いる社会保険のもとでこのままにしておくと被扶養配偶者であった人たちというのは年金が低くなる。これをどうカバーすればい いのか。今私が申し上げていることは主に被扶養者、サラリーマンの社会保険制度のもとでの問題意識です。
     それで、幾つかの方法があります。この裏には、一方の性だけが家事とか育児とかを担ってきたではないか、社会保険につ いて結果として不利になるのは問題ではないかというこということが言われ出したという背景があります。その期間をどうするか というときには、資料の5ページにありますように、例えば日本がやっているように働いていない期間、専業主婦の期間を全く国 民年金の保険料を払わないでいいですよというふうに、専業主婦というのでも免除してしまおうというのが1つです。
     あと幾つかの方法がありますが、家事は誰でもするから介護とか育児にだけ絞って、その間保険料を免除しましょうという代 替案が1つ。
     それからあと幾つかありますが、専業主婦のアンペイドワークを認めて、それを享受している夫が妻に代わって保険料を支払 うというのがiloの「21世紀の社会保障」、1984年の報告書でも出されたのですが、そういう方法もあります。
     それから、アーニング・シェアリングという方法があって、婚姻期間中に夫婦お互いの収入を合算して2で割って、それぞれの ものをお互いの年金記録としますという方法もあります。そういう考えられる幾つかの方法があるのですが、それのうちどれが一 番いいのか、どれをとるかというので、どういう観点から見るかというのがあるのですね。どういう観点から見るかというと、まず 加入者間の公平の問題、それから資源配分に及ぼす影響。資源配分というのは、一番大きなのは少子社会の中で女性の労 働供給にどういった影響を及ぼすのか。それから女性の生活設計と年金で中高年期の離婚が増えてくるという状況の中で、果 たしてその制度が女性の生活設計を支援するものかというのがあります。そういう見方と出産・育児との関係、大きくは少子化 と年金との関係でとらえられるというのが80年以降の特徴ですけれども、少子化というのはどの国も頭を痛めていることでして、 年金制度で何らかの形の出産とか育児支援ができないかどうか。あわよくば少子化に何らかの形で貢献できないかという問題 意識があります。それらの中から代替案を探っていくわけです。
     簡単に代表的なものだけを説明しますと、1つは、我が国のように専業主婦の期間に完全にその全期間保険料を免除します というやり方をとる国ですね。この制度の影響というのは、ここで改めて言うまでもなく、これまでいろんなところで議論されてい ることですけれども、ダグラス・アリサワの法則に見られるように、専業主婦世帯が夫の所得が高い世帯が多い。それからパー トの就労を4割程度が抑制しているとか、そういったいろいろな現在の日本の持っている制度の資源配分に及ぼすマイナスの 影響、そういったものが見られるわけです。
     出産・育児との関係とか、少子化と年金については、6ページ、7ページの方に世界各国の動向について書きましたけれども、 2つぐらいの方法があります。
     1つは、保険料を支払う期間において、例えば子ども1人につき何年間保険料をただにしますというような制度をとる場合と、そ れから、年金をもらう段階において育てた子ども、例えばフランスだったら3人以上いる人については、これだけの年金を余計に 差し上げますというような制度の両方の仕組みが考えられますが、現在の状況としては、子育て中の若いときの負担を緩和す るという目的で、育児期間中の保険料免除ということの傾向が強いように思います。
     このことについて先進諸国の傾向はそうですが、私は個人的には少子化に対する影響については疑いを持っておりますし、 年金制度あるいは個別の制度でそれぞれにこういう子育て支援をやっていくことについては疑問を持っております。この中でお もしろいのは、スウェーデンですけれども、スウェーデンは育児期間において、その所得の減少があった場合に年金制度上の所 得として扱って、そして保険料を免除する。言い換えれば補助金で保険料を出すというような制度にしてあるというところがおも しろいと思います。
     それでは、時間もないですので、あと質問を受けることにしまして、その離婚・再婚と女性の社会保障受給権との関係につい て入りたいと思います。それは別紙の1に書いてあります。ここでの論点は一体年金は夫婦の間で築いた財産なのかどうか。 それで別れた後、前自分の配偶者の年金は生活の保障手段なのかどうか、あるいは自分が死亡時に一緒に暮らしていた人の 生活の保障手段なのかどうか。どう見るかによって各国の制度もかなり違います。
     老齢年金と遺族年金について、それぞれに説明をします。家族の離婚とか再婚によって社会保障の受給権がどう変わるかと いうことです。老齢年金は日本では離婚・再婚に関係があります。離婚したところで相手の年金権の分割といったような制度は ありません。離婚に関係がある国というのはドイツ、カナダ、アメリカです。ドイツとカナダでは、よく御存じのように夫婦間での年 金権の分割というものがなされます。この両者とも年金よりも家族法というものが非常に重要視されている。ドイツでは年金自 体は1977年から変わったのですけれども、その前年の76年に改革離婚法、離婚法の大改革と言われる改革がありまして、そ してその離婚の原則というのは破綻主義に変わりました。
     そういう中で、今まで被扶養配偶者であった人たちが、自分は離婚したくないと思っても客観的に離婚の状況が整っていれば 離婚できるような事態に陥ってきたわけで、そのときに何らかの形の所得保障というものが必要ではないかというので、今話し ますような年金調整制度が導入されたということであります。
     年金調整制度が導入されて、そもそもその付加利得共同制という名前のものがあったと。夫婦別産制で新たにその婚姻期間 中に形成された財産が夫婦の間で均等に分割されるというもので、年金についてその考えを拡大したのだと。被保険者の死亡 に基づく遺族年金というのは養育年金以外支給されないということになっておりますが、これは企業年金、私的年金も含んだ年 金の調整制度であるということです。
     そしてカナダは、婚姻期間中に取得した年金受給権は夫婦平等に分割するのだと。1年以上の婚姻期間があること、離婚あ るいは別居が正式に認められれば自動的に年金権が分割されます。カナダは日本と同じように2階立てですが、2階の所得比 例部分についてです。年金権の分割が離婚しない夫婦についても可能であると。だから節税のためにもこの制度を利用すると いうこともありますが、現実には州法の家族法が優先されて、実際に離婚に際して年金分割をしている人は1割にも満たないと いう説明であります。
     今度はアメリカですが、アメリカは日本の旧制度と似ているけれども、違ったところがあります。アメリカの場合ですと夫婦を想 像してください。妻の方が専業主婦で夫が働いていた。そういった夫婦には、夫の主要な年金額、基本年金額というのですが、 その部分夫が100 %とって、被扶養者年金というのがあるのですが、基本年金額の50%に相当するものが被扶養者年金とい うのですね。日本の旧制度ですと、妻がいる場合は妻の加算、付加年金が支給されましたけれども、日本の旧制度では一たん 別れてしまうと妻はその年金を受け取れませんでした。あくまでも夫が年金権を持っていて、養われている妻がいるということ で、それに対して付加される年金に過ぎなかったのですが、アメリカの被扶養者年金というのは、これは個人の権利としてもら える年金です。婚姻期間が10年以上継続して再婚していない場合、62歳から被扶養者年金を受給される。もと配偶者の基本 年金額の50%であって所得制限がある。
     今度は遺族年金ですけれども、遺族年金で離婚すれば受給権がないのは日本ですが、離婚していなくても、実質婚をしてい る女性の方に支給されるのもまた日本の特徴です。離婚して再婚していなければ、婚姻期間に応じて受給額が決まるというの はフランスで、現配偶者と前配偶者とが生存している場合には婚姻期間に応じて配分される。それから、遺族年金を受け取る 人にとっては自分の年金、もらっている本人の老齢年金がある場合には、年金をもらうことを調整されるというふうな併給調整が あります。
     次はアメリカですけれども、婚姻期間が10年以上あれば65歳から満額年金、これは基本年金額の75%に相当するのですが、 60歳からは減額されます。60歳以降再婚しても遺族年金を受給できます。併給調整、所得制限があります。
     参考までに書いたのは、スウェーデンでは遺族年金そのものを40年かけて廃止して、ただし、遺族で所得の低い人に対する 給付というのは残しているということです。遺族年金の受給資格そのものにジェンダーバイアスがあるというのは、これはここ30 年ぐらい前までは先進諸国でも残っていたものです。日本ではまだそれが残っていて遺族年金の受給資格そのものにジェン ダーバイアスがあるというのは、夫の方に遺族年金の受給資格が制限されているという場合ですけれども、日本だと遺族基礎 年金の受給資格は18歳未満の子を養育する妻、それから遺族厚生年金の受給資格者は妻、18歳未満の子、55歳以上の夫、 父母、祖父母という今でもはっきりしたこういったものが残っています。
     今日の発表を短時間の間にまとめるのは難しいですけれども、私の個人的な考えから言いますと、少なくとも現行の日本の制 度のようなものは、配偶者・被扶養者の扱いについては資源配分に及ぼす影響等を考えて望ましくはないと考えています。
     それから少子化と年金については、これはどの程度効果があるのかということはむしろ疑問だと考えております。
     それから3番目の点ですけれども、離婚・再婚に際して夫婦の年金の分割をどうするのかというのは、我が国の婚姻法が破綻 法にかわる流れの中では避けることができない議論になると思いますけれども、私はこれについてはむしろ慎重派で、分割する 年金の構造をきっちり考えないと、今持っている年金制度の短所と同じものになってしまうのではないかと思っているからです。
     遺族年金の受給権についてですが、私は遺族年金そのものを廃止すればいいと思っております。
     また、質問があれば後の時間でお答えしたいと思います。ちょうど時間が来ましたので、以上です。
    大澤会長
    どうもありがとうございました。では、引き続き「女性と税制」について神野委員からの御報告をお願いします。やはり30分でお願いいたします。
    神野委員
    私に与えられました課題は、人的控除全体における配偶者控除と女性の就労等の関係と、それから自営業者に 対するみなし法人課税と女性の労働との関係ということでいただいています。
     みなし法人課税というのは、事業主が自分に給料を払うということを認めるか認めないかという制度を通常言っておりますの で、平成4年で廃止されたはずなのですね。一応私のレジュメの中でこの言葉を使っていますが、青色申告者が配偶者ないし は家族に対して給料の支払いを認めるか認めないかという問題だと理解させていただいております。それから、資産課税全体 における相続税・贈与税と女性の寄与分の関係と、この3点でございます。
     何分にも税制は技術的な問題もございますので、いろいろなところで行われている議論が誤解があるので、少し考え方みた いなものを中心にお話をさせていただこうかというふうに考えております。
     と申しますのも、人的控除全体における配偶者控除と女性の就労等の関係というは、そのほかの手当や社会保険料などを含 めていろいろなところで計算が行われておりまして、私も永瀬委員にお手伝いをいただいて、ちょっと私の責任で、旧労働省関 係で「配偶者控除等の変更に伴う影響に関する調査研究」というのを一回やったことがあるのですが、これは永瀬委員にさんざ ん計算の仕方が稚拙であるというふうに怒られて、結論は余り、一応修正は行われているのだけれども、税制面よりもむしろ違 う要因の方が大きいとかというような結論になってしまうので、計測面については今日はお話をやめさせていただいております。
     まず、税制に対するジェンダー視角という点で3つばかり視点を挙げさせていただいております。
     1つは、財政学ないしは租税論の観点から言いますと、税金では公平性、特に経済的な力に応じた公平性と中立性というの を考えております。大体ジェンダーバイアスが起きているのは、この課税の公平性と中立性というのを歪めた場合が多いです ね。そういう視角を重視しておいた方がいいのではないかという点です。
     逆に、現実にジェンダーバイアスがあるという場合には、差別的に課税してジェンダーバイアスを直すような方向に動くような 形で公平性や中立性を犠牲にしても、そういう租税で直した方がいいという考え方がないわけではない。differentiation の考え ですね。つまり、政策手段として税制を活用していくという方向でありますが、これは私としては余りお勧めできないと。ただ、過 去様々な点で使われておりまして、参考になる税金としてはユダヤ人税とかデーン税とか、それから殺人税というのは、これは 殺人の多い市町村に特別に税金をかけるという税金ですが、場合によっては余り男女共同参画に熱心ではない地域に税金を かけるとか、場合によっては会社に税金をかけるとかやれないわけではないので、というようなこともなきにしもあらずと。独身 税みたいな形で今度は逆に、独身税だと逆になりますので、逆に女性が進出しやすいような税金を考えていくということがなき にしもあらずだということですね。独身税というのは、ローマ帝国以来かけられた税金ですけれども、そう昔の話ではなくて日本 でも、産めよ増やせよということになるとすぐこれを思いつくので、お手元の私の資料の6枚目を見ていただきますと、これは古 い本から、大久保さわ子さんという方が書いていらっしゃるのですが、いかに独身女性が独身税の恐怖におののいてきたかと いうことが書かれておりますので、参考までにごらんいただければというふうに思います。
     3番目のところは私の考えですけれども、公平の原則とか中立性の原則というような税制を重視して、そして政策手段というの はあくまでも歳出政策で打っておいた方がいいのではないかというのは基本的な考え方であります。
     2番目のところで、税金には2種類ありまして、まず人を決めて、その人に帰属しているような事実に税金をかけようという所得 税みたいな税金と、それから物税と言いまして、固定資産税のように、まず課税するものを決めておいて誰が負担するか、それ は問わないという税金と2種類あります。
     後者の物税は余りジェンダーバイアスは関係なくて、つまり誰が納税するとか、誰が負担するとか無関係にかけますから余り 関係がないので、人税、まず人を決めておいて、納税者・担税者を決めておいて、それに従属する税金で発生するだろうという ふうに思いますので、 今回もそれに焦点を当てて所得税と相続税・贈与税ということで議論をするのだというふうに理解をさせて いただいております。
     所得税というのは人税ですので、人税というのはそこに書きましたように誂え税、誂え税というのは、まるでオーダーメードの 洋服をつくるように、経済的な力に応じて課税をすることのできる税金という意味ですので、経済的な力を、寸法をはかってつく り上げるということの税金です。そういう寸法をはかるときに何を基準に、寸法をはかる対象を人にするのか、個人にするのか、 世帯で経済力をはかるのか、それとも個人ではかるのかという問題を課税単位というふうに申します。ただし、日本では課税単 位というのと、家族配慮と今あえて私つけましたけれども、家族配慮、つまり扶養控除とか基礎控除とかという配慮と、課税単 位といつも混乱するのですね。これ全く違う問題ですので、別途考えていただきたいということで、あえて課税単位と家族配慮と 両方を分けさせていただいております。
     課税単位は大きく2種類ありまして、世帯単位と個人単位という2つある。世帯単位の方は大きく合算非分割主義と言いまし て、世帯の所得というのは全部合算して分割しないというやり方ですね。それからもう一つの合算分割主義というのは2つあっ て、家族の所得を合算するのだけれども、2分2乗、これは合算均等分割主義と申しますけれども、2分2乗でやる場合と均等 でやらない、つまりn分n乗みたいな形でやる場合と2種類あるということです。
     そして、この「結婚への刑罰」とか、「結婚への贈り物」というのは有名な話なので、省かせていただきたいと思います。つま り、合算非分割で世帯単位でやってしまうと、結婚をすると重くなってしまうので、それに対する反発が出てきて2分2乗制度が 出てくるんだけれども、2分2乗制度をすると結婚をすると逆に有利になりますので、結婚に対するギフトだと考え方が出てくると いうことです。
     ただし、この結婚に対する刑罰と結婚に対する贈与というような問題が出てくる背景には2種類前提条件がありまして、1つ は、税金が累進税率で課税されているということ。これ比例税率で課税されていたら全然結婚しようがしまいが意味がないわけ ですから、累進税率で課税されて応能的な原則で課税されるという条件が1つです。もう一つは、有償労働に男女が共同で参 加するようになってくると問題になってくるというので、常に女性は参加しないのだということを前提にしていれば問題にならない ということであります。
     世の中の流れは世帯単位から個人単位に大きく移っているというのが2ページ目に書いたところでありまして、特にイギリス が個人単位に移ったこと。それからスウェーデンは1970年代に移ったことというので、世界の流れは個人単位に移っているのだ というふうに大体言われているということですね。
     日本は、中でもとりわけ早く先駆的に個人単位を導入しているわけですけれども、シャウプ勧告がいっている、そこの (2)のとこ ろを見ていただきますと、合算非分割主義は、つまり世帯で合算非分割主義というのは、「形式的には伝統的な日本家族制度 に従うものである」と、こういうふうに決めつけているのですが、実はそうとばかりは言えないのでして、明治時代につくられた、 この合算非分割をなぜ世帯単位でつくったのかというと、脱税を封じるためなのです。もしもこの脱税を封じなければ、妻子や兄 弟にみんな給料を支払って脱税してしまうではないかということを言っておりまして、これは脱税を防止するためであるということ であります。
     したがって、シャウプ勧告はこれをひいて次のように言っています。この個別申告制、つまり個人単位というのは、ある程度制 限を設けておかないと、要領のよい納税者は、配偶者または子どもに財産及びこれから生ずる所得を譲渡することによって税負 担の軽減をしようとするから、相当の問題の起こることが予想される。つまり、財産の名義を書きかえて逃れてしまうということで すね。個人単位だと低い税率に当てはめてしまうと。
     それからもう一つ重要な点は、家族従業員に賃金を支払うことによって抜け道をつくってしまうのだと。これを封じておかなくて はいけないということを繰り返しシャウプ勧告は警告をしているわけであります。
     ところが、第1の方は資産合算制度と言いまして、個人の所得に対して個人単位を適用するけれども、一定規模以上の資産 所得については合算をするという制度をシャウプ勧告に基づいて日本はずっと入れてきたのですが、この間ちょうど消費税が 入ったときにほとんど議論が行われないまま、これは廃止になっておりますので、非常に資産家にとっては有利になっていると いうことですね。
     それから3番目のところで、自営業者に対するみなし法人課税。これは青色申告者に対する家族従業員に対して賃金を支 払っていいよというやり方ですけれども、これは既に昭和27年のときから入ってしまって、事実上所得を分割するようなシステム ができているということであります。ちなみに、スウェーデンは個人所得、個人単位に移ったということは言われますけれども、ス ウェーデンが個人単位に移ったのは、勤労所得だけ、給与所得だけでありまして、資産所得は合算しておりますので、それは 認めていない。そうしないと非常に有利になるからであるということですね。
     課税単位を選択する際に、課税の公平という点から言って、オルドマン=テンプルの原則という有名な原則がございます。こ の場合には、結婚をする前の独身者の所得と結婚後の夫婦二人の所得の合計が同じ場合には、前者に重く課税すること。こ れは世帯単位だと満足します。しかし、個人単位だと配偶者控除を廃止してしまうと、基礎控除だけにしてしまうとこれはうまく 機能しません。これは後でやってもらえばわかります。数値で後で示しているんですが、ちょっと時間がないので省かせていた だきます。
     それから、結婚前の二人の所得と結婚後の二人の所得が等しい場合には後者を、つまり結婚後の所得を重くすること。つま り、これは結婚には規模の利益が働くのだとということですね。したがって、この第2原則も世帯単位はうまく機能するのです が、個人単位の場合にはうまく機能しないということです。つまり、個人単位というのは結婚に対して中立的なのですね。した がって、これはうまく機能しなくなってしまうということです。
     3番目の共働き夫婦、この共働きというのは自営業者のことを意味していますので、夫婦で農業とか何とか同じ仕事を夫婦二 人でやっているという場合に共働き。共稼ぎというのは別々にいわゆる共稼ぎしている。片稼ぎというのは片稼ぎ。この所得が 同じ場合には片稼ぎ夫婦を共働き夫婦や共稼ぎ夫婦よりも重く課税すること。これは分業の利益が働くでしょうということです。 家事労働と有償労働と無償労働をうまく分業したら分業の利益が働くでしょうということを意味しておりますが、これを満足する のは個人単位なのですね。
     そういう観点からいうと、恐らくもう大体の流れから言っても、個人単位というのを選択するということになるのですが、もう一つ 実は家族配慮の問題がこれに絡んでまいります。
     日本は個人単位、イギリスも個人単位、ドイツは個人単位と2分2乗の選択、フランスはn分n乗、アメリカは個人単位と夫婦 単位、世帯単位との選択と、こういうふうになっています。
     そして、そのほかに基礎控除と配偶者控除のつけ方があるわけですけれども、ドイツやフランスは配偶者控除はなし、イギリ スは税額でもって配偶者控除を一応認めている、それからアメリカの場合には合算申告その他の場合に認められていると、こう いうようなやり方をとっております。
     そして、この結果、この家族配慮と課税単位の問題をまとめると、4ページ目の7のところを見ていただきたいと思いますけれ ども、7-1のところで、個人単位で家族配慮が小さい場合、それから7-2が個人単位で家族配慮が大きい場合、それから7 -3で個人単位と世帯単位の選択ができる場合、世帯単位とこういうふうに分類をしてみると、名前を思い出しませんが、誰か がやったものに日本とアメリカを私が加えたものです。これはヨーロッパしかやってなかったのですが、これで見てみると日本は 恐らく7-2、個人単位で家族配慮が非常に大きいというのに入るだろうというふうに思いますし、アメリカはもちろん選択。それ から現在、世帯単位はほとんどがn分n乗になっているということですね。
     これを見ていただきますと、日本の場合には個人単位だけれども、家族配慮が非常に大きいという特色が浮かび上がってくる だろうと思います。特に配偶者、人的な控除というのは、その人の最低生活費を非課税にするという原則から始まっているもの ですが、本人分が基礎控除になるわけですけれども、扶養家族の控除は、本人分とどこの国でもたかだか同枠までなのです ね。ところが日本の場合には、本人を超えていない家族はいないと。つまり、配偶者はもちろんない場合ですけれども、配偶者 特別控除がありますので、2倍までいけるわけですね。
     それから、扶養家族の子どもであっても、高校生とかいろいろあるわけですが、大体本人分よりも上になっているわけです。
     しかも最近、スポーツ選手なんかで特に年上の女性と結婚する人が増えていますけれども、例えば私なんかは、16歳年上の 女性と結婚していれば配偶者控除は48万で10万アップできるわけですね。老人控除対象配偶者になるわけですから、年上の 人と結婚すれば俄然有利になってくるというメカニズムも働いてくるわけで、本人分よりも非常に優遇しすぎているということであ ります。このことは、ちょっと時間がないので、論理的に飛んで申しわけありませんが、基本的に福祉を家族頼みにしているとい う裏返しになっているはずであります。これは後で詳しく検討していただければよいかと思いますけれども、日本の場合には極 めて手厚い本人分以外の、しかも複雑な配慮が行われている類型で、だから単位が問題なのではなくて、家族配慮が問題な のだということです。
     しかも、配偶者特別控除が入ってしまったために、先ほど言いましたように、オルドマン=テンプルの第三の原則で、個人単 位の場合には共稼ぎ夫婦が一番軽く課税されるということになっていたはずなのですけれども、配偶者特別控除が入ってしまっ たために、個人単位である日本の制度が共稼ぎ夫婦の方が片稼ぎ夫婦よりも重く課税されるという事態が出てきてしまってい るということです。
     そういうことを防ぐためには、本来、これも論理的に飛んで申しわけありませんが、帰属所得に課税をするというやり方が私ど も財政学者の方から言うと一番ベターなのですね。4ページ目を見ていただければわかりますが、4ページ目の8-1のところを 見てください。所得というのは、要素所得+帰属所得+移転所得+キャピタル・ゲインで定義いたしますので、この帰属所得に 課税をするということをすればいいわけですが、実際に家族内で行われている帰属所得に課税をするというのは不可能ですの で、もしも今のようなことを帰属所得に課税をしないということをして、税制面で日本で配慮できるようなこととは何かというと、ス ウェーデンでやっているような消失している帰属所得を控除してあげる。言い換えれば、本来、帰属所得ができるはずのものを 共稼ぎしているために帰属所得を生産できないでいるという人に対して控除してあげる。もう少し具体的に言うと、子どものいる 共稼ぎ夫婦に一定限度の控除を認めてあげる。スウェーデンのやり方で言うと、夫婦の所得があった場合に、夫婦の所得のう ち、所得額の少ない方の勤労所得の一定比率を今控除しているはずでありますので、そういう制度が考えられ得るのではない かと。それは女性のというふうに言ってないわけです。少ない方ですね。日本のように行われていれば女性の方になってしまい ますけれども、少ない方の所得の一定割合を控除で認めてあげるというようなことも考えられるのではないかということでありま す。それが第1の問題点にかかわる考え方であります。
     第2の問題点で申しますと、この第2の問題点というのは、結局青色申告をした人について、自営業者が青色申告をした場合 には自分の配偶者に賃金を支払っていいよということを認めるということになるわけです。もちろん、もらった配偶者は所得税を 申告しなければなりませんけれども、これは現実的にどういう効果があるかというと、共働き夫婦、自営業者夫婦だけに2分2 乗制度を導入したということを意味するわけです。つまり、所得の分割を認めたということを意味するわけですから2分2乗制度を 認めたということです。
     ところが、2分2乗制度を認めて一番有利になるのは片稼ぎ夫婦なのですね。片稼ぎ夫婦というのは2分2乗をやってもらえ ば、夫の所得が 1,000万だったのが、ゼロの所得が入ってくると2分2乗されるわけですから、非常に有利になるので、片稼ぎ 夫婦が本来有利になるべき2分2乗制度が共働き夫婦だけに認められているのがおかしいという理由で配偶者特別控除が 入ってしまうということです。
     3ページ目を見てください。配偶者特別控除というのは、パート問題への対応というのが1つです。それから当時つくった理由 によりますと、 (1)のところを見ていただきますと、「給与所得者を中心とする片稼ぎ世帯においても仕事に直接従事する者の所 得の稼得に他方の配偶者が相応の貢献をしているものと考えられること」「事業所得者世帯で事業に貢献している配偶者につ いては既に青色専従者給与の支払いという形で所得分与できることになっている。」つまり、所得分与ができてしまうということ を理由に入ってきているということになるわけです。
     したがって、この問題というのは、どういうふうに考えるのかというのは非常に難しい問題なのですけれども、自営業者が夫と 妻が本来きちんと、両性相一緒になって働いている場合には2分2乗制度というのは本来の考え方からいうと合っているわけで すね。ところが、これを個人単位にしてしまって、シャウプ勧告は非常に厳しくて認めないといったわけですから、賃金払うことは 認めないといってしまったものですから、どちらかの所得にしなければいけないわけですね。そうすると男か女かの所得にしてし まうと、二人で稼いだ所得が全く個人の所得として非常に厳しい税率が引っかかってしまいますので、それを防ぐために、昭和 27年に、先ほど言いました青色申告者については出てきたと。
     しかし、その後白色申告についても配偶者については86万円の控除を認めてしまうのですね。これは 5ページ目を見ていただ きますと、ちょっと私は妥協のし過ぎではないかということを感じますが、これも今言ったような事情がございますので、実態どの 程度かということを見てみないとわからないということになってしまうわけですね。これは実態との絡みがありまして、大変難しい 問題だということであります。
     それから、最後に相続税・贈与税の問題ですが、これは先ほど言いました課税単位の問題とリンクいたします。もしも課税単 位が日本のように個人単位だというふうにいたしますと、贈与や相続も移転所得ですから所得税の中で課税しなければなりま せん。したがって、所得として課税すればいいということになります。これをやってはいませんけれども、これをやれと言ったのは カナダの有名なカーター報告というのがあるのですが、一般的にそれをやるということは余りありません。それはなぜかと言う と、相続とか贈与とかというのは、特に相続というのは、大抵の場合、その家族にとって経済的な打撃を受けたるときなのです ね。家族単位で見ると、大体所得が減ってしまっている、働き手を失って所得が減ってしまっているというときに課税をしますの で、非常に反発を食らうということになるわけです。
     有名な昭和の万葉集で、「若き母に手を引かれし幼子に、我はかけたり相続税を」と、こういう和歌がありますが、何か悲劇が 起きて、小さな子どもに税金をかけなくてはいけないというのは、家族にとっては非常に不幸なことですので反発を浴びるという ことですね。それと同時に、相続税を廃止して所得税でやると贈与をたくさん行うということや世代の飛び越し、子どもを超えて 孫に直接やるということが頻繁に行われてしまってよくないということが言われております。
     そこで、相続税は別途かけるということになるわけですけれども、相続税をかける根拠は3つぐらいございまして、お手元の5 ページ目を見ていただきたいと思いますけれども、8-4のところです。(2) と(3) と(4) が資産課税の根拠になります。(2) という のは、巨大な富が形成されてしまうということを防止すること。それから一世代に一回だけ所得課税をやるということですね。もう 一つは、ウィンドフォールと申しますか、意外な所得に対して課税をするという3つの根拠があるわけです。
     そして、現在、配偶者に対しては、極めて大きな妥協をしています。基本的に皆さん御存じのとおり、法定相続分であれば、 何百億円であろうと非課税です。この配偶者控除、配偶者の無制限控除方式と書きましたけれども、配偶者の無制限控除方 式が導入された理屈は、配偶者は遺産の形成に寄与している。それから、配偶者の老後の生活に対する保障がある。これは 意外な所得ではない、ウィンドフォールじゃないということです。
     それから相続時期が早い。つまり一世代一回という考え方からすると、配偶者に行ってもすぐ配偶者は死んでしまうから、次 の世代になるだろうということですが、相続時期が早いということについては、早次相続控除というのがございまして、これで対 応できますから根拠はありません。
     それから老後の保障についても、一定限度のことさえ行っておけばいいので、そうすると、まず相続税の最も重要な根拠の一 つである富の集中、排除ということを考えれば、明らかに上限を設定すべきだという考え方が出てくるだろうと思います。
     それからもう一つ重要なのは、配偶者が遺産形成に寄与をしたということになるわけですけれども、お手元の10ページ目に相 続税の具体的な計算の仕組みというのがあって、最後のところで、妻が相続した部分の2,740 万というのは、すべて控除され てしまいます。この法定相続分の控除か、1億6,000 万の控除かどっちかを選択することになっておりますので、法定相続分に ついては、配偶者は税金を払うことはないというシステムになっているわけです。遺産に配偶者はどの程度寄与したのかという と、かなり分けなくてはいけなくて、少なくとも結婚後の財産にだけ適用されるはずだということにもなって、非常に複雑になると いうことは間違いないのですが、私の考えでは、どう妥協しても妻の寄与分というか、配偶者の寄与分というのは、たかだか2 分の1までではないか。つまり、自分がもらった財産の2分の1までではないか。この考え方でいうと、ほかの子どもたちにも やったのに、あわせて法定相続分は全部自分が寄与したのだという考え方になるわけですけれども、そうではなくて、自分が配 偶者からもらった財産の少なくとも半分どまりで考えるというのがリーズナブルではないか。これは一世代に一回の課税だとい うことで半分どまりにしておくことと、その半分どまりも一定の限度を超せばいいのではないか。
     今、ピッグマンという人が、上位5%の財産にのみ相続税はかけるべきだというふうに主張していますが、その5%だけをとる と、明治大学の篠原先生の計算によると、日本でいうと基礎控除は10億円です。10億円の基礎控除をもらえば、あとは一挙に 課税してもいいのではないかと思いますので、10億円以上については控除を認めずに、そのまま課税をするということによっ て、これはもともとシャウプ勧告が財閥などの巨大な富が形成されないようにというふうに考えた税金ですので、巨大な富につ いては、認めなくてもいいのではないかというのが考え方です。
    大澤会長
    では、ただいまのお二人の御報告について、御意見や御質問等をお願いいたします。約20分程度でお願いいた します。
    福原委員
    木村委員の別紙1の下の方ですが、下から七、八行目のところですけれども、「アメリカ-婚姻期間が10年以上 あれば、65歳から満額年金(基本年金額の75%)が60歳からは減額。」というのは、どういうふうに読んだらよろしいでしょうか。
    木村委員
    65歳から満額で、60歳から65歳未満までにもし受給するのでしたら、75%よりは減額しますという意味です。
    福原委員
    神野委員、今ブッシュが相続税の減額だか、大改革をすると言っておりますね。あれの中身はもう入っております か。
    神野委員
    入っておりません。
    福原委員
    かけ声だけですか。
    神野委員
    そんなことはないと思います。やるとは思いますが、アメリカの場合には遺産税方式ですので、死んだ人が納税す ることになるわけです。というか、遺言執行人が基本的にやるわけですが、総額にかかってきて、しかも累積的にかかってまい りますので、幾ら贈与をしても、その人が一生涯やった贈与が累積され、そして、それに相続財産をあわせてやっている課税方 式なので、割と緻密な税金をかけております。そこを課税しようとして、どう改正しようとしているのかちょっとまだわかりません。 よくアメリカなどでは問題にしているのは、相続税を余りかけてしまうと、冒険的な投資を萎縮させてしまうということをよく言うの ですね。それは、相続税を非常に高くするものですから、先ほど言いましたように、世代の飛び越しで孫に遺産を渡したり、それ から日本では余りありませんけれども、生命保険も子どもに掛けさせたりすれば相続税はかからないのです。日本では、そうい うことは余りやらないのですけれども、自分のお金を子どもにやって、子どもに自分の保険を掛けさせるわけです。そうすると、こ れは子どもが掛けているわけですから、死んだときの相続税の対象になりません。相続税というのは、あくまでも自分が子ども のために掛けてあげたという場合になりますから、そういうことが行われたり、それから信託を利用して、名義は孫とか曾孫に移 してしまう。そうすると子どもが食っていけない場合があり得るので、信託財産の果実は子どもに帰属させる。所有権は孫や曾 孫に移っちゃうということをやると、そういう冒険的な投資はなくなってしまう。つまり、非常に安定的な投資にみんな行ってし まって、小さい子どもに名義を移したりしてしまうことをどうしてもやらざるを得ないので、経済的な活力は失われるというのが一 貫してアメリカの相続税に対する批判としてあるのです。多分、ブッシュが考えていることは、恐らくそういう活性化だろうと思い ますので、多分そこら辺の改正を考えているのではないかと思います。
    福原委員
    技術的にどのようにやるかですね。
    坂橘木委員
    カナダが相続税を廃止したでしょう。あれはどういう根拠ですか。
    神野委員
    オーストラリアも廃止しております。
    坂橘木委員
    どういう根拠ですか。
    神野委員
    それは農民に力が強いと、農村の発言権が強いと思われますが。
    坂橘木委員
    農地ですか。
    坂東局長
    農地を細分化すると、オーストラリアなんか生産性が低いので、農業経営がやっていけないという。
    神野委員
    カナダも多分同じ理由だと思います。
    坂橘木委員
    ということは、農業中心の国では相続税廃止の方向だけれども、工業国家では、必ずしもそうではないというふう に見てもいいですか。
    神野委員
    税務技術上、不動産以外は余り捕まらないです。日本の相続税の富のうち85%から90%が不動産です。だか ら、登記制度によって資産開示をしていないものは掴まさないです。だって、株券は裏書譲渡なしで動きますから、とてもじゃな いけれども、多分捕まってないのだろうと思います。富の分布の度合いから見ても、それは合っておりませんので、そうすると事 実上相続税に反対するという人々は、農地に限らず不動産所有者の政治的な力にかかってきて、そういうところが強いところと いうのは、割と独立自営的な農民層の多いところは数で物を言うわけです。プランテーションなんかだと、そんなに数は力になり ませんけれどもということだろうと思います。
    坂橘木委員
    木村委員にひとつ質問ですが、今、公的年金というのは若年と高年層でどっちが損だ、得だという議論が物すごく 多いでしょう。木村委員は男女の差は言われたのですが、損得の勘定でいくと、女性は長い間もらう、額が少ない。男性はたく さんもらうけれども、もらう期間が少ないとなると、いいことじゃないかという解釈をする人はいないですか。
    木村委員
    収益率の観点からですか。
    坂橘木委員
    いやいや、額で言うと。
    木村委員
    額で言うと、橘木委員がイコールとおっしゃったのは何ですか。
    坂橘木委員
    20年もらう人と10年もらう人が、20年女性がもらえますよね。
    木村委員
    それは20年ぐらい前から言われていることで、女の人の方が収益率とかで見ると得だという議論もあります。
    坂東局長
    特に3号被保険者で全然自分がコントリビュートしないで、もらうばかりというのはすごくいいですよね。
    木村委員
    それから、働いている女の人でも、例えば厚生年金ですと、所得再分配が盛り込まれているために収益率が高い とか、それからあとは国民年金でも、あれは賃金を反映しませんけれども、保険料が完全なリスク別になっていなくて、男女で 長生きの程度は違うのに同じになっていますから、女性の方が高いというのはあります。
    坂橘木委員
    ということは、女性の年金額が低いというのは、今の世の中ではそんなに批判の対象にはなっていないですか。 女性の収益率が高ければ、損得で言えば得なわけでしょう。
    木村委員
    出した保険料に対してという議論よりは、むしろ老後の生活を保障するのに不足するというニュアンスの方が強い と私は理解していますが、収益率とかコストベネフィットの問題よりは、長生きする我々の年金が低いのではないかという問題 です。
    坂橘木委員
    でも、今の公的年金、若年と高年の比較もみんな収益率でしょう。たくさん払っていないのに、たくさんもらっている とか、そういう感じで損得論議がされているじゃないですか。それだと、男女の間でも、そういう話というのは世間から注目を浴 びるのじゃないですか。そうでもないですか。
    木村委員
    20年前に、大学院のとき計算したときは特に注目は浴びなかったですよ。むしろ、同じ収益率を計算しても世代間 の差の方が注目を浴びました。橘木委員がおっしゃられた、まさに代替率、置換率といいますか、平均賃金に対する年金受給 額の割合というのは、今の厚生年金でも男女とも64%ぐらいで一緒なのです。結局、所得再分配効果が効いていることもありま して、でも、その面だけをもって女性の年金が今までのままでいいかどうかというのはまた別問題だと思うのですけど。
    坂橘木委員
    私はそんなことは一切言っていませんよ。
    岡沢会長代理
    神野委員に対して質問ですが、男女共同参画社会の一つの突破口として、タックスペイヤーとしての意識と いうのは、物すごい大きな役割を北欧なんかは演じたわけですよね。1960年代に間接税が入った。そして6年後にそれが10% になった。71年に今の御指摘のとおり夫婦合算式から個人別納税になった。タックスペイヤー意識として自分たちが市民生活と 国家とか、自治体との間をつなぐパイプが税金なのだという意識を加速するようなメカニズムというのは、今の論理で言うとどう なるのでしょうか。
     というのは、痛みを伴う構造改革なんて北欧では何の議論もならないです。改革と痛みなんていうのはワンセットの議論で す。だけれども、日本だったら、それがまだ新鮮さをもってマスメディアで報道されるというのはすごいなと思います。ある一定の 負担が上下すれば、受け取るサービスがこうなるのは当たり前の話だと思います。タックスペイヤー意識としてのそうした計算と いうか、そういうものに慣れていないのではないかという気が物すごくするのです。
    神野委員
    シャウプ勧告も直接税中心主義を採用した理由は、税痛感のある税金を課税した方が、民主主義が育つからだと 言っているわけですので、ちゃんと負担感のあるものを課税しろというふうに言っているわけです。だからイリュージョンの働くよ うな間接税はよくないというのがシャウプ勧告の考え方ですので、それぞれの税金がどういう負担で行われているのかというこ とが本当は明確になった方がいいのですが、日本の場合には、そういうことを明らかにするのを嫌うというか、なるべく税痛感を 伴わないようにするという考え方になってしまっているということです。それとともに税金というのは、強制性と無償性、無償性と いうのは、反対給付の請求権がないということですので、何か税金を払ったから、こういうサービスをくれということを言えないと いうことと、それから収入を目的にしているというふうに3つになっていますので、スウェーデンはリジットに考えておりますから、 目的税は課徴金だというわけです。だから、税だとみなさないというふうに言っているのですが、日本の場合には、いつもどれか を1つを外して、税に対する抵抗を和らげようとする。なるべく保険でいこうとか、つまりヒドュンタックスと言いますけれども、なる べくヒドュンでいこうというふうに言ってしまうということです。
    岡沢会長代理
    政治参加の主体としての市民感覚というものを鋭敏にするのに、税が市民にとって見えないことが本当によ かったのか。やはり北欧みたいにはっきり見えるようにした方がよかったのか。私は、痛みを伴う構造改革をやりますと言って支 持率が80%を超えていると、何か違うような気がします。
    神野委員
    スウェーデンでもそうですけれども、教会税の10分の1税から税が発達していますので、教会の自治に対する自 分たちの効能というような形から始まっていくところと、そういう自発的な任意税的なものがなかった国との差かもしれませんけ れども、そう言ってしまうと、いつまで経っても始まらないので、そうとばかりも言っていられないのです。
    岡沢会長代理
    国家による税金観というのは随分違うような気がするので、日本の場合は、どうも悪代官が来て召し上げて いくという感じであって、それが自分たちの公共的な空間つくっているという意識よりも、1年に1度来て、とられていくという感じ が強いような気がします。
    神野委員
    スウェーデンの藤井大使が統計をとっていますけれども、国連なんかの統計でいくと、この国に生まれてよかった という人の多い国は税負担が高いです。日本のように嫌だと言っている国は低いです。生まれてよかったと思うから税負担が高 くなるのか、因果関係はわかりませんけれども、そういう結果は出ます。
    坂東局長
    それは負担だけではなくて、リターンもあるからではないでしょうか。
    神野委員
    そういうことだと思います。それは一概にそのまま言うわけではありません。
    坂橘木委員
    そうすると、日本とアメリカが、一番税負担率が低いとなると、生まれて嫌だなと言っているのですか。
    神野委員
    生まれてよかったという人の比率が少ない。
    坂橘木委員
    アメリカも。
    神野委員
    アメリカも少ないと思いました。
    福原委員
    日本は税金をとられると言いますよね。納めるとも言いますけれども、アメリカの場合はタックスリターンオフィスで す。ですから、日本とアメリカは根本的に違う。自分たちが国を支えているという意識が向こうの方にはあるようですね。
    神野委員
    タックスというのがもともとそういう意味で、支え合うという意味ですから。
    福原委員
    タックスというのはもともとリターンなのですね。
    神野委員
    そうです。ところが、アングロサクソンが言うのは、我々はタックスという概念があるのに、フランスにはそれがな い。安保ですよ。あれはとられて。
    坂東局長
    人頭税というような感じですか。
    坂橘木委員
    ポールタックス。
    神野委員
    だから取り上げられちゃうという意味で、ラテン系にはそういう概念がないというのがアングロサクソン系の主張で す。
    木村委員
    すごく素朴な質問で、いつも相続税のことを考えるときに、そこにいきついてしまうのですけれども、相続税という のは、どうして非相続人が家族なのでしょうか。
    神野委員
    非相続人が家族というのは。
    木村委員
    配偶者とか、子どもとか、そういう人に大体特定されていますでしょう。
    神野委員
    別にそれは構いませんよ。だれでも。
    木村委員
    本当にだれでもいいのですか。
    神野委員
    だれでも構いません。遺言で。
    木村委員
    そういう意味でね。
    神野委員
    日本は遺言主義をとっていないので、法定相続主義をフランスの民法に基づいてとっておりますけれども、アング ロサクソンはすべて遺言主義ですから、遺言によって執行されて、遺言執行人が納税義務者ですから。
    木村委員
    法定相続主義のときに、例えば遺族年金のこととも考えあわせましても、やはり家族というのがどうして先にくる のだろうと思うのです。
    神野委員
    法定相続をする場合にですか。普通の議論でいくと、ウィンドフォールの議論でいくと、まず配偶者とかはもらうつ もりになっているから軽く課税せよと。それから、遺言で遺産をもらう者には重く課税せよという原則が普通ですね。
    木村委員
    でも、どうして家族はもらうつもりになれるのだろうと思うのです。
    神野委員
    それはわかりませんけれどもというか、その家族のあれですけれども、通常はそういうふうになっている。法定慰 留分なんかは家族の生活を保障するという意味で、これだけは残しておくということで法定相続主義を、私も法律のことは専門 家でないのでわかりませんが、最低生活費じゃないけれども、それでもって慰留分というのを残しているわけですね。
    木村委員
    日本の場合、財産形成への寄与とか、ほかの考えられる理屈で今は特に受け入れられていないかもしれないけ れども、例えばよく言われるのが、その方の介護に寄与した人、息子の妻とか、親戚でもないけれども、そんなことをした人と か、そういうことももっとナチュラルに入ってくるようなことはできないのかと思うのですね。
    神野委員
    どんどん入れていることは間違いないですが、例えば、さっきも言ったお腹の中にいる子どもも相続分があるわけ で、しかし、それはかわいそうですよね。今後生まれてくる子どもで何のあれもないので、それは残してあげた方がいいと思い ますので、通常はミード報告なんかも年齢差を最近出しているでしょう。年齢差による累進というのを出していて、死んだ人とも らった人の年齢差が大きいというのを重く出したりしています。そうすると、子どもがかわいそうな場合が出てくるのです。子ども というか、生まれたての赤ちゃんとか。そこで普通考えているのは意外な利益だというようなことで、子どもは一親等ですから、 ゼロ親等の配偶者の次に軽くしてあげるということで配慮をするということです。
    坂橘木委員
    木村委員の論理に従うと、物すごい財産を持っている人、その人を介護したらたくさんもらえると思ってモラルハ ザードが起きませんか。この人を介護したら100 億円もらえるかもしれないという人がいっぱい出てきますよ。
    福原委員
    起きていますね。
    坂東局長
    逆に遺言がないと甥の子等、すごく遠い親類なんかでも相続分があって、特別養護老人ホームで亡くなった高齢 者のところへ、そういう変な血のつながったというだけでの相続人があらわれて。
    坂橘木委員
    難しいと思う。
    木村委員
    難しいけれども、高齢者が何かの形で考えていた方がいいのではないかという気がしています。直観ですけど ね。
    神野委員
    ただ僕の議論では、相続税というのは余り低くしない方がいいと。お金持ちだけにかけた方がいいと思います。 だって無理ですよ。小資産家の公平を確保するというのは税務行政上至難の技だからです。それだったらスウェーデンのよう に、毎年ネットウェルスタックスをかけていって、その暁でやるのだったら、まだ税務行政上できますが、そうでないとちょっと至 難の技なので、納税者を限定した方がいい。今は東京国税局の管内だと、20%ですから大体5人に1人です。これは男性・女性を問わずにですから納税義務者が結構な比率です。そうすると、余り公平を確保できるような税金ではないですよね。
    大澤会長
    ちょっと神野委員の御報告に確認なのですが、政策手段というのは税で打つべきではなくて、財政支出で打つべ きだという持論のところで、日本の税制を検討すると、個人単位だけれども家族配慮が大と。要は、家族配慮というフィスカル ウェルフェア(財政福祉)によって打っているところが大きいがために、そのことは所得階層に対して当然ニュートラルではない と。それは税制全体としての所得再分配効果も損なっていると思われますけれども、所得階層間の再分配というのは、これが またライフスタイルの違う世帯間の再分配にかかわっているので、単に女性対男性というのではなくて、様々な形態の世帯の 中に暮らしている女性や男性のライフスタイル選択というか、それに対してかなり中立でない仕組みになっていると、こんなふう に受け取ってよろしいのでしょうか。
    神野委員
    税制面でそこを直しておけば、共同参画というのはわざわざ考えなくてもいいのじゃないかということです。
    大澤会長
    木村委員の御報告というのは、あわせてみますと、税制だけではなくて、社会保険料負担の方でも、例えば3号 被保険者に象徴されるように、あるライフスタイルの世帯から、つまり共稼ぎや単身というところから片稼ぎ世帯に1兆円以上の 所得移転がなされているのと同じことで、これもすごく逆再分配というのでしょうか、そういう要素があって、社会保障制度全体 としての再分配効果、これは橘木委員の御著書の中にも指摘はされておりますが、強まってはいるけれども、諸外国と比べて も再分配効果は低くて、それは単に所得階層間の問題とジェンダーというのがクロスしているバイアスなのだというふうな感じで 受け取ってよろしいでしょうか。
    木村委員
    複合的というか、はい。
    大澤会長
    師岡委員、何か御質問ございますか。
    師岡委員
    今、大澤会長がおっしゃったことに絡むと思うのですけれども、税や年金、社会保障問題もすべての人が100 % 納得できるようなものはなかなか難しいというのは率直に感じましたけれども、働く女性の立場から申し上げますと、どうも今の 日本の社会は男性中心の片働きということを基準にいろんな制度が仕組まれているということは感じざるを得ないわけです。夫 である相手の収入が、妻である女性の働き方によって収入や税が変わっていく、働く本人ではなくて、世帯主と言われている人 にその影響が出てくるということは、これはいかがなものかなというふうに思っているわけです。男女共同参画社会、個人として の公平、公正という視点で、その問題を整理をしていくのかということであろうというふうに思っているわけです。
     先ほど少子化と年金のお話もありましたけれども、母性権利といいますか、出産・育児を担ったがゆえに、逆に賃金が減額さ れる、休業期間中に昇給延伸といったことも現実的にあるわけですけれども、そういったリスクもどのように社会的な配分の中で 見ていくのかということは絡んでくるのではないかというふうに思うのです。少子化対策、女性の就労支援、女性の自立、そう いったことと絡めると、今いろんなお話が出ています年金でありますとか税制の問題、こういったことにも当然影響してくると思う のですけれども、その辺のことについてはいかがでしょうか。
    福原委員
    それはもともと片働き、または共働きがあったとしても、その率は非常にわずかだという社会の中で仕組みがつく られているわけで、今、すぐにそれは間違っているとは言えないので、それをどうしたら将来的な方向に直していくのかというと ころにあるのではないですか。それは、先ほど岡沢委員がおっしゃったような一つの方向というのもあるだろうし、それを我々が 具体的に考えていく、これじゃいけないというのではなくて、これからどっちの方向へ持っていくか。それにはどういう技術的な方 法があるか。もちろん、それは100 人の人が100 人納得しないということはおっしゃったとおりですけれども、これからの社会の あるべき姿としてどういうことにするのかということを神野委員に教えていただいたりする必要があると思うのです。
    師岡委員
    おっしゃるとおりだと思いますけれども、大変悩ましい問題がたくさん絡んでいますし、方向性として大体こう・・・。
    福原委員
    方向はわかっているのですよね。
    大澤会長
    恐れ入りますが、本当に時間になりましたので、今の質疑はここで打ち切らせていただきます。
     それでは、大変活発な御議論ありがとうございました。時間切れになってしまって、私自身残念でございますけれども、議題 の5番目、モデルケースによる研究方法について事務局から資料の説明をお願いします。
    浜田参事官
    参事官の浜田でございます。それでは、資料の4「モデルケース・ワーキングチームについて(案)」という資料 に基づきまして御説明いたします。
     ワーキングチームの目的は、第1回の専門調査会で申しましたように、この専門調査会の検討を技術的に支援する。そのため にモデルケースに関する分析素材の提供を行うということでございます。
     具体的には、女性の生き方の選択と税制、社会保障制度、雇用システムとの関係、そういうものにかかるモデルケース別の 受け払いを明らかにするということでございます。
     それから、「2.」のワーキングチームの構成でございますが、主任研究者は大澤会長にお願いできればと思います。それから 研究協力者ですけれども、永瀬委員と、橘木委員にもお願いいたしまして、永瀬委員及び橘木委員、それからあと委員以外の 方ですが、一、二名となっておりますけれども、これも大澤会長や永瀬委員にいろいろ当たっていただいて、もう少し人数が増え て多分4名ということになると思います。あと研究補助者ということでございます。
     それから、研究テーマですが、女性のライフコース別のモデルケースを組んでシミュレーションを行うということで、具体的には (1)ですけれども、女性のライフコース別のモデルケースごとに配偶者控除のような税制の話、それから第3号被保険者といっ た社会保障制度、それから配偶者手当といった雇用システム、そういうものに係る受け払いを推計する。これは現行の制度で まず推計するということです。
     それから2ページにまいりまして、次にそういう制度を変化させた場合のモデルケース別の受け払いの変化を見る。これは今 のモデルケースごとに、今申し上げたような税や社会保障や雇用システムのパラメーターを変化させた場合、例えば配偶者控 除の額を変えるとか、あるいは配偶者手当が受けられる配偶者の所得制限の額を変えるとかそんなことをした場合に、モデル ケース別に受け払いがどう変わるかということを推計するということです。その場合、どういうぐあいにパラメーターを変えるかとい う想定に当たっては、スウェーデン、ドイツ、イギリス等、外国の制度を参考にして想定してはどうかということです。さらに、こう いった推計に基づきまして、女性のライフスタイルの選択に中立的な税、社会保障、雇用システム等を提示するということを考え てはどうかということです。
     それから、今申し上げたモデルケースの案ですが、設定というか場合分けとしましては、<1>にございますような出産をする、し ないとか、それで退職する、しない、あるいは退職しない場合の子育ての仕方として育児休業とか保育所とか。あと再就職をす るかしないか。する場合は、壁ということでよく言われますが、103 万とか、130 万のところで再就職した場合の収入を仕分けし てみる。その場合の夫の収入の問題なんですけれども、これが平均未満か、超えているかというようなところで仕分けしてみる ということです。あと、離婚や死別や再婚をする/しないでも分けてはどうかということで、これは第1回のだと余りにもケースが 多くなり過ぎますのでもう少し簡素化しております。
     次に3ページにまいりまして、こうやって第1回よりは場合分けを簡素化してもこれを全部かけ合わせるとモデルケースの数は 100 を超えてしまうので、代表的、典型的なものに絞り込んではどうかということで、そこに挙げているようなものを考えてはどう かと思います。
     まず、出産せずにずっと継続して就業するケース。それから出産するけれども、保育所を利用して継続就業をするケース。それ から出産で退職してしまう場合。その下に特掲というふうに挙げてありますのは、これは遺族年金なんかを考えると一番得する ケースみたいなことで、婚姻期間が比較的短くて早期から長期間遺族年金を受け取る場合。
     これと対比する意味で、(4) でやはり同じように出産して、退職して、専業主婦として、いわゆる内助の功といいますか、年を とってから離婚されて全然遺族年金をもらえない。そういうのを対比する意味でちょっと挙げてみてはどうかということです。
     それから5番目に出産、退職するけれども、その後再就職するケース。再就職した場合の収入別に、先ほどの103 万、130 万 という壁で分けて、そのとおり考えてみてはどうかということでございます。
     それから、税、社会保障、雇用システムとしてどういうものを考えるかということですが、これは、今まで委員方からお話があっ たようなことを考えていまして、税としては配偶者控除とか特別控除、あと相続税・贈与税の女性の寄与分の関係。それから社 会保障では、社会保険料、支払いの方と年金給付ですね。これは離婚とか再婚とか遺族年金なんかの関係が出てくると思い ます。それから雇用システムでは配偶者手当等フリンジベネフィットといったようなことが考えられるのではないかと思います。
     それから、4ページで研究方法でございますけれども、今申し上げたうちの税と社会保障、これは海外のものを調べる必要が あるわけですが、これはワーキングチームが中心で行う。ただ、もう一つの雇用システムにつきましては、これは企業ごとにそ れぞれのものがあると思いますので、これはアンケート調査などで調べる必要がある。そのあたりはシンクタンクに委託しては どうかということです。
     それからもう一つは個票データを利用した分析です。これはワーキングチームが中心で行い、個票データとしましては全国消 費実態調査。これは非常にサンプル数の多いものですけれども、それからあとssm調査というのがありまして、これは社会学 関係の調査ですけれども、社会階層と社会移動の調査で、名前にもございますように、経歴というか、ライフコースが推測できる と思います。それからあと社会生活基本調査。これは生活時間が得られて、先ほどのアンペイドワークとまでは言いませんけれ ども、そういう生活時間のデータが得られるということから、このあたりのデータを利用してはどうかということです。
     それから、最後に研究スケジュールですが、まず1つ目の「・」で中間結果は来年の2月を目途にということでいかがかと。この 中間結果には、先ほど研究テーマ(1) 、(2) 、1ページの終わりから申しましたけれども、そのうちの(1)の方、今の税や社会保障 や雇用システムに係るモデルケース別の受け払いというのをそこまでで推計してはどうか。
     それから最終結果ですが、これは来年の9月目途ですが、こちらは先ほど申し上げた研究テーマの(2)の方、2ページの最初 にございますけれども、税や社会保障や雇用システムを変更した場合に、モデルケース別の受け払いがどう変化するか。あと、 そういう推計に基づきまして、女性のライフスタイルの選択に中立的な税、社会保障、雇用システムを提示するということでどう かということでございます。
     あと5ページ以降は、御参考までに、今申し上げた税や社会保障や雇用システムの関係の資料をおつけしております。
     簡単ではございますが、以上です。
    大澤会長
    では、ただいまの説明について御意見や御質問がございましたらお願いいたします。
    岡沢会長代理
    ちょっと知りたいのですが、少子化の関係でパターン2で言うと、出産保育所利用、継続就業ですね。第1子 のときにはそれが可能だったけれども、2番目に子どもが生まれるとどうか。「3人目も」という言われ方をするときに、第1子のと きと第2子のときと第3子のときで、この2のモデルになるのか、4のモデルになるのか、5のアのモデルになるのか、子どもが1 人ということを前提にして考えているのではないかという気がするのですが。
    浜田参事官
    そこはさらに枝分かれを考えていまして、1人のときに退職しなかった人でも、2人になったら退職するかもしれ ないというので、さらに枝分かれは考えております。その結果、非常にややこしいことにはなるので、典型的な例を出したいと 思っております。
    岡沢会長代理
    ただ、その部分がわからないと合計特殊出生率が2.01なんていうことにはリターンしてはいかないわけです から、1.34とか、1.35ということを前提にした調査なのか、それとも少子化にもある程度歯止めをかけるようなトレンドを見なが ら、男女共同参画を考えていくのかというと、やはり第1子、第2子、第3子みたいな選択肢とライフスタイルの選択という可能性 を持っていかないといけないのではないか。つまり、1子目のときには余り公的なサービスはないけれども、フランスとか多くの 国のように、3人目、4人目の子どもになると非常に社会サービスが増えるから、あえてそのときには就職を継続するのだとか、 思い切ってそれはやめるのだとか、出産育児手当に対する金額を増やせば、そうなのかどうなのかという議論もできるような資 料があるといいなという気はしますね。
    浜田参事官
    それは推計したいと思います。
    永瀬委員
    ワーキングチームがやるということになっているのが、社会保障の部分全般で、シンクタンクがやるのは雇用シス テムの調査のみというふうに書いてあります。私も中に入れていただいておりますけれども、何度も話をしていますように、個票 分析を用いて何らかの明確な結果を1年後に出すということだけでも非常に大変なことで、しかも、多分個票が出てくるのは半 年後ですから半年しか期間がございませんので、その辺は、このワーキングチームが責任を負ってここにあるものを全部やると いうことではないですよね。それは以前お話しになったようにシンクタンクが主にモデルケースをやって、ワーキングチームは、プ ラス精緻にできる部分を精緻にするということでよろしいでしょうか。
    大澤会長
    税制や社会保障制度の調査にもシンクタンクを利用した方がいいのではないかという選択肢もあったのですが、 むしろ、それは研究者がやってしまった方が早くて、多分お金もかからないので、そのことがここに書いてございます。
    永瀬委員
    こういうふうに出てきますと、これを1年後に成果として達成しなくはいけないのかなということを思ったわけで、大 澤会長が主任研究者でいらっしゃいますが、個票をこれまで使っていた感触からしますと、やってみないとどこまでできるかわ からないというところが非常にございますので、こういう場合分けができますというふうに参事官がおっしゃられたように、具体的 にできるかどうか、私は難しさを逆に感じるのです。
    大澤会長
    アカデミックに、あるいは理論的に精緻化したいところは多々ありつつ、やはりこれはアクションリサーチの類なの で、フィージビリティの関係であきらめる、断念する部分も出てくるし、このような仮説が析出されたというところで報告がとどまる 部分もあるかと思います。
    永瀬委員
    わかりました。
    坂東局長
    私がこのワーキングチームにどういうことを期待しているかといいますと、余り精緻な、アカデミックにこれはあり得 る、あり得る、あり得るというふうなものではなく、今の神野委員、木村委員のお話を聞いていても、今の日本の制度というの は、恐らく片働き、しかも離婚率が非常に低いというような状態を前提として組み立てられているのではないか。それで福祉の 単位は各家庭である、各世帯単位であるということで、理念的な個人課税とか個人単位の部分は、お互いに入り組んでいるこ とによって、ケースによっては非常に優遇される場合と、ケースによって不当にみじめな状況になるというふうなことを提示するこ とによって、今の制度というのはこういう矛盾をはらんでいるのだと。それが余り特殊じゃなくて、ある程度説得力を持ったような 形で、十分そこまでカバーしないで、昔の離婚率が非常に低くて、ほとんどの人が片働き、専業主婦、あるいは専業主婦から 103 万円未満のパートタイマーというふうな働き方しか考えない制度設計がされているのではないかという問題提起に第1段階 としてはなっていただきたいなと。第2段階では、どうすれば不合理性を少しでもよりニュートラルなものにできるかという政策提 言をしていただければなというふうに期待しているのですが、なかなか難しいでしょうか。
    大澤会長
    それはやってみないとわからない部分もあるので、完全にこれをきっちりというふうにお約束するのは難しいので すけれども、基本はアカデミックな検討ではなくて、アクションリサーチということで今後の政策形成に結びつけていけるようなと ころはしっかり出すし、それから依然として仮説にとどまるが、かなり蓋然性の高い仮説であるというようなことは出せるのでは ないかと思います。
     つけ加えますと、今日、神野委員、木村委員から御報告をいただいたことというのは、制度の中の歪みなのですけれども、つ まり、家が傾いて建っている。家が傾いて建っていても、その中で暮らしている人が内蔵が偏ったり、身体がかしいだりというふ うに現に個々のケースにどういう影響が起こっているか。つまり、税だったら、それぞれの世帯や個人にどう帰着しているかと か、社会保障給付だったら給付がどういうふうに帰着しているかという、制度が作動した結果の帰着というのはマイクロデータに 基づいて確かめないと言えないわけですから、制度はこのような特徴を持っているところまで言えるのですけれども、そのアウト プットやアウトカムは何かということは検証されていないので、それをできる限り検証することができればということですけれど も、与えられた時間の中で、できる限りと言うしかないのかなと思います。
    福原委員
    これは数値的にいろんなことを出すということよりも、要素としてのプライオリティみたいなものを、そこで傾向として 出していただければいいということですね。
    大沢委員
    雇用システムの調査というのは、具体的にはどういうことをおやりになるのですか。
    大澤会長
    これもどういうフリンジベネフィットの制度があるかというのは、例えば、労働省が行っている賃金労働時間制度等 調査で何年間おきにやっていますね。ああいうのであらましはわかっていますけれども、今の時点でどうなのかというようなこと を調査してみようということですね。これは、つまり国の制度と違って、当然ながら業種や企業規模によってばらつきがあるので しょうから、その辺のあらましをつかみたいということなのです。
    大沢委員
    具体的には今日のお話の中でも家族配慮が強い日本の制度、単位が個人か世帯かということが問題じゃなくて、 むしろ家族配慮が非常に強いという特徴があるという面では、労働市場のシステムというのも、まさに同じようになっているわけ ですよね。つまり、そういうことについて調査をなさって、そういうことを明らかにするというような感じで考えてよろしいでしょう か。
    大澤会長
    これも克明に明らかにするというほどのことはできませんけれども、一般に言われていることというのは、どの程度 適用されていて、その分布というのは業種や企業規模にあるいは地域によってどうなのだろうというようなことを少しつかめれば ということですね。
    大沢委員
    私の理解では、企業の方がむしろ個人単位化に向けていろんな制度を変えつつあるように思うのですが、ですか ら、現在と将来についても企業がどういうふうに考えて、家族配慮ということに関して、企業が今後グローバル化が進む中でど のように考えているのかというようなことがわかればおもしろいかと。日経連の労働問題研究会などの報告書を読みますと、そ ういった家族に配慮した制度から、個人も生産性を配慮した賃金体系なり、そういったものに移行しようという動きがありました ので、それがわかると、今後の税制度のあり方についても、逆にまた次のステップが見えてくるのじゃないかというふうに思い ました。
     ところで、神野委員は、そういう家族配慮に対して帰属所得に課税するような形でその問題を補正していったらいいというふう にお考えでしょうか。
    神野委員
    ちょっとそれは無理だろうということです。だから、歳出の方でやった方がはっきりするのではないかということで す。
    大澤会長
    持家の帰属家賃ぐらいなんとかできますけれども、これがサービスとなると価格づけも、それから労務管理もして いないところで帰属所得をあれするのは難しいですよね。
    神野委員
    やるなら、先ほど言いましたように、共稼ぎをしている人の本来帰属所得をできる、できないというようなことで課 税するということじゃないとね。
    大沢委員
    130 万円とか、103 万円のそういった制度は直すべきだというふうにお考えですか。
    神野委員
    いろんな壁も相乗効果でやっているわけですね。これは詳しく言うと、本来98万円から始まるはずなのに、住民税 率が5%だからなのか余り98万円の壁は意識しない。住民税が98万で壁に到達するはずです。5万円課税最低限が少ないわ けですから、それは余り意識されないわけですから何かの相乗効果で言われていることですよね。
    大沢委員
    私もそう思います。
    神野委員
    税に関して言うと、確定のしようがないです。確定のしようがないというのは、一応逆転現象は解消されているわ けです。だけれども、壁を意識して調整していることは事実なのですね。
    大沢委員
    そうです。大きな壁は130 万円、もっとありますけれども、でも、いろんな制度がそこで全部壁をつくっているし相乗 効果になっていますね。神野委員は、例えば130 万とか、103 万の配偶者特別控除に対して御意見がありますか。
    神野委員
    そういうのをつくっているというのは別な制度で多分ちゃんと、さっきも言ったような公平性とか中立性とかというの で自制していくと、本来起こり得ないような場合が多いのじゃないかというのが考え方です。万やむを得ず、公平性等の感じか らいって起こってしまうのであれば、やむを得ない場合があるのですが、普通、そこは起こり得ないので、ほかの効果と、言い換 えれば、他の条件にバイアスができているということとセットで行われていると、税の制度が中立性と公平性等実現していたと してもバイアスが起きてしまうということはあり得るけれどもということしか。
    坂橘木委員
    大沢委員に1つ質問ですけれども、共働きしている人が東京にいて、2人で働いているわけです。ところが、一方 が2週間後に札幌に転勤せよと言われたようなときは、個人主義の世界だといいわけですよね。個人主義の世界なのだから、 奥さんが東京で働いているというのは無視せいという考え方じゃないですか。それはどう思われますか。企業はやっていたで しょう。
    大沢委員
    そういう場合だったら、女性の方がやめざるを得なかったじゃないですか。これからは、そういうときにどちらかが、 例えばいろんな選択肢があると思うのですが、札幌で片方が仕事を探せるのだったら、片方がやめて一緒に仕事を探そうという ような形になるのじゃないかと思うのですけど。
    坂橘木委員
    ということは、会社が、奥さんが東京で働いているということは無視して札幌転勤を命じていいという論理ですね。
    大沢委員
    そうだとしたら、夫と妻の間で話し合って、例えば、夫が会社をやめるか、妻がやめて違う仕事をするか。それは夫 婦間の選択になると思いますが、ただ、それは男性がやめることもあり得るということですね。妻には仕事がある、札幌には行 きたくないと。先進国の場合だと、例えば日本に転勤を命ずる。奥さんがデンマークで働いている場合ではどうするかということ で、妻の合意が得られなければ転勤しないという夫婦間の合意が成り立っているので。
    坂橘木委員
    ということは、企業はファミリーの条件を考慮している立場じゃないですか。あなたの言っていることと、個人中心 にいくという考え方と違うのではないですか。企業は個人の方を中心にして処遇するというようなことを言われたからね。
    大沢委員
    個人の生産性を考慮して賃金を払うということですが、今までのように家族手当とか・・・。
    坂橘木委員
    家族手当とか、そういうものを廃止せよということですか。
    大沢委員
    住宅手当や社宅なんかがたくさんありましたけれども、そういったものをだんだんなくしていって、それを個人の給 与の中に含むというような考え方です。というふうになってきているのではないかと思いますけれども、それから、だんだんキャリ アを持つ女性が増えてくると、雇用主の方も逆に住宅手当とかではなくて、むしろ妻がどういう生活をしているのかということも 含めて転勤を命ずるというようなことも出てくるのではないでしょうか。妻の就職もあっせんするというような形でやらざるを得な い。雇用主の側も変わってくると思いますが。
    坂橘木委員
    今、大沢委員の言われたのはファミリーフレンドリー企業の考え方に近いですね。でも、税制とか、家族手当とい うのは外せというのは、ファミリーフレンドリーと違う対応をとれだから、やや内部矛盾があるように映ったのでね。
    大沢委員
    とりあえず、今起きている会社の税制度に関しては個人化の方向に行っているということです。
    坂橘木委員
    税制、社会保障が個人でいけと。雇用だとか転勤だとか昇進は家族を考慮せよという二分割法ですね。
    大沢委員
    それは会社の方針によるのではないでしょうか。今までの場合は、妻は東京に残るなり、一緒に仕事をやめるな りという決定をしてきたわけですけれども、そこら辺も少子化になって若年労働力が不足してくると労働者側にも決定権がありま すから、そこはまた単純な議論ではなくて、そういったことを配慮して、企業が雇用管理を行わなければいけなくなるのはないか というふうに思います。
    永瀬委員
    旧来のファミフレというのは、奥さんが食べていけるように手当を出すのが、昔のファミリーフレンドリーだったかも しれない。いわゆる今言っているファミリー&ワークという場合には、ファミリーとワークを両立できるという形なので、多分ちょっ と意味が違う。所得を十分に上げるというよりは、むしろ時間の自由度があるとか、そういうことのような気もします。
    坂橘木委員
    わかりました。
    大澤会長
    どうも恐れ入ります。議論は尽きないのですが、時間が回りましたので、これはモデルケースによる研究について は、事務局の案をもとにさせてはいただきますが、やはり決められた時間内で結果を出すということのために、ワーキングチーム の自由度というのをお認めいただきたいと思います。適宜分析結果は、この調査会に報告してまいりたいと思いますし、また委 員の方々から個別に御指導やアドバイスをいただくという場面も出てこようかと思いますので、御協力をよろしくお願いいたしま す。
     最後に、事務局から連絡事項をお願いいたします。
    浜田参事官
    まず、第1回目の議事録の方は既に委員の皆様のチェックをいただいておりますので、これでホームページの 方にも掲載させていただきたいと思います。
     それから、第2回の議事録の案については、次回の第4回に直したものをお出しして、そしてオープンとしたいと思います。
     それから、次回は9月26日水曜日の15時から17時ということでございます。場所はまた追って御連絡させていただきたいと思 います。
     事務局からの説明は以上でございます。
    大澤会長
    それでは、これで影響調査専門調査会の第3回会合を終わります。本日はどうもありがとうございました。神野委 員、木村委員、ありがとうございました。

(以上)