「諸外国のナショナルマシーナリーについて聞く会」

  • 日時: 平成9年5月21日(水) 14:00~16:00
  • 場所: 総理府講堂
  1. 議題 諸外国のナショナルマシーナリーについて報告
    • 講師
      東京大学助教授 大沢 真理
      十文字学園女子大学助教授 橋本ヒロ子
  2. 資料
    1.
    諸外国のナショナル・マシーナリー─カナダ、韓国、オーストラリア─
    2.
    アジア太平洋地域における女性の地位向上のためのナショナルマシーナリーの現状;フィリピンに焦点を当てて
  3. 概要

    金平輝子男女共同参画推進連携会議議長・企画委員長の司会により、大沢・橋本両氏から、総理府で実施した「諸外国の国内本部機構の組織と機能に関する調査研究」(別紙)の成果等に基づき中間報告があった後、質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

    • (1)大沢氏報告
      • (男女共同参画ビジョンのポイントと国内本部機構についての考え方)
        • 男女共同参画審議会答申「男女共同参画ビジョン」は、女性省を設置すべきである、あるいは、専任の女性問題担当大臣を置くべきであるといったNGO等からの多くの意見にもかかわらず、男女共同参画推進本部を中心とし、内閣官房長官が女性問題担当大臣に任命されている従来の体制の拡充強化を提言した。
        • ビジョンのポイントは、狭義の女性政策を主流化していくことと並んで、女性や子ども、家族をターゲットとする狭い意味の女性政策だけではなく、これまで女性政策だと思われていなかったあらゆる政策分野について、ジェンダーに敏感な視点から見直していくことであり、内閣官房長官が持っている総合調整権限をもって当たらない限り、各省庁の多分野、多様な領域にわたる施策を調整していくことは難しい。
      • (カナダについて)
        • 内閣の中に女性の地位担当大臣がおり、さらに閣議に出席して発言する権限を有する専任の女性の地位副大臣が置かれている。
        • 女性の地位副大臣の下に女性の地位庁(Status of Women Canada)が置かれている(1976年設置)。女性の地位庁は常勤換算にして100人強の人員を抱え、女性の地位に関する政策を調整し、関連する施策を管理していくことを任務としている。特徴的なことは、一般の省庁としては例外的に省庁横断的・政策領域横断的な調整権限を有していることであり、勧告機能や計画策定機能を持っている。
        • 1995年に連邦政府の男女平等計画を策定し、8大目標を定めているが、その筆頭に、連邦政府のすべての省庁を通じて、あらゆる立法、施策、事業のジェンダー分析を実施するということが挙げられており、女性の地位庁はこのジェンダー分析を当面の最重要課題として推進している。
      • (韓国について)
        • ナショナル・フォーカル・ポイントは政務長官(第2)室。これは日本の制度に置き換えると官房長官が二人いて、その二人目が女性問題担当の専任大臣というような位置づけである。
        • 1988年に設置され、1990年から女性に関する政策を専門に担当することとされた。文言上他省庁に対する調整権限を有するが実際の適用は不明。組織の人員は53名で、その下に調査研究機関として女性開発院(100人以上のフルタイムスタッフ)が存在。
        • 女性発展基本法は1995年12月制定、1996年7月施行。男女平等を実現するための国と地方公共団体の責務等に関して基本的な事項を規定し、5年ごとに基本計画を策定し、実施することが定められている。この法律に規定されている女性発展基金も政務長官(第2)室が管理・運営。
        • 性的暴力犯罪の処罰と被害者保護に関する法律(性暴力特別法)が1993年12月制定され、94年8月から実施されている。
      • (オーストラリアについて)
        • 連邦首相府に女性の地位局(Office of the Status of Women)が設置されている。これは最大限に女性政策を展開し、浸透させていく方法として、首相府の中に政策全般にわたる調整機能を持った部門を設け、他方で、各省庁に女性政策部門を設置する。首相府が車輪の中心になって、各省庁の女性政策部門が車輪のそれぞれを兼ねるということで、車輪モデルとか、中央-周辺モデルというように研究者によって命名されており、各省庁の中心に位置してすべてを見渡し、調整をしていく任務が首相府の女性の地位局に与えられている。
        • オーストラリアでは、独立した女性問題担当部局、独立省を設けるというモデルも検討した結果、むしろ独立省モデルよりはこの車輪モデルの方が官僚機構の内部で女性問題、女性政策が孤立化させられたり、周辺に追いやられたりすることを防ぐのに効果的であるということで採用されたものである。この機構は1976年に整備され、女性問題に関して首相を補佐する大臣も任命された。
        • 政府のさまざまな分野の施策が女性と男性に対してどのようなインパクトを与えているのか、各省庁に報告を求め、財政の構造全てをモニターする「女性財政声明」を実施している。
        • 1995年3月に成立した政権の下で社会政策の力点が社会的公正から効率性に移り、女性政策にも変化が生じている。
      • (我が国の国内本部機構について)
        • 独立の女性省か、それとも首相府や総理府に置くかということの意味、機能は、各国の統治構造、行政機構によってかなり異なってくる。独立の女性省タイプのカナダがかなりの成果を挙げていると言っても、他省庁とは異なる特別の横断的な調整権限を与えられていることを重視すべきである。韓国は、独立の女性省があると言えるが、直接選挙による大統領の直属の位置に置かれ、最初から調整権限を与えられているような役所である。それぞれが日本にとって直接に参考になるというよりは、それぞれの長短を合わせて、それから日本の統治構造や行政機構との関連で最適の国内本部機構の在り方を模索する必要がある。
        • 橋本6大改革として多方面にわたる改革が急ピッチに進められている中で、男女共同参画を推進するのにふさわしい国内本部機構はどのようなものかを、検討する必要がある。日本の経済社会が直面している歴史的な変革にとって男女共同参画は鍵になるものである。6大改革等、現在諸方面から出されている種々の改革案について、男女共同参画という視点から、整合性をきちんと検討して、調整をしていく役割を果たす機関がぜひとも必要である。内閣の危機管理機能の強化が現在重要な課題となっているが、変革の鍵としての男女共同参画を推進する国内本部機構は、この危機管理に相当するような重要な役割があると考える。
    • (2)橋本氏報告
      • (アジア太平洋地域の状況)
        • ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)は地域内メンバーが53か国、世界の人口の3分の2をカバーしており、その国のほとんどにナショナル・マシーナリーが設置されているが、その設置に関して、法的な根拠があるものは19か国と非常に少ない。
        • アジア太平洋地域のナショナルマシーナリーを形態で分けると、①大統領府、総理府に設置してあるもの。②女性省。女性問題だけを専管事項としている省と、婦人、青年その他の事項が付加されている省の2種類ある。③福祉、保健など伝統的に女性関連省とされている省内に設置されているもの。④それに入らないようなカテゴリーで、準NGOのようなところ。⑤女性が大臣となった省に設置するところ。がある。
        • 1994年と1996年にESCAPが開催したナショナル・マシーナリーの会議で、ナショナル・マシーナリーがどこに置かれれば一番機能を発揮できるかについて議論されたところでは、社会福祉、労働、教育、文化等、伝統的に女性に関連の深い省庁とされている省庁に局や部として設置されている例が最も機能が弱く、また、女性省の場合は周辺化されて他省庁の調整ができないとの意見があり、女性関係のナショナル・マシーナリーは大統領府・総理府が最も理想的であるという結論に達した。
        • 日本は確かに大統領府・総理府に置かれているケースであるが、職員の人数が非常に少なく、また、アジア太平洋地域の大統領府、総理府にあるものに比べれば日本の担当室の位置づけは低く、大幅な強化をしないといけないような状況である。
      • (フィリピンについて)
        • 1975年に大統領に対する助言機関として、「フィリピン女性の役割国内委員会」が設置された。1996年には3部から5部に拡大され定員も増員されて全部で97名の体制となった。
        • 国内委員会は女性政策調整機関として調整、モニター、政策分析、調査研究を行う。
        • 1991年に公布された「開発と女性および国家建設法」では、海外援助を各省庁に割り当てる国家経済開発庁が責任省庁となっており、各省庁は事業の実施状況を6ヶ月毎に国内委員会へ報告する義務が課されている。また、1995年に制定された「ジェンダーに対応した開発のためのフィリピン計画1995-2025(30年計画)」実施のため、各省庁は大統領に提出する年次報告にジェンダーについてどのようなことを行ったかを含めること及びそのための経費を予算から割り当てることが義務づけられた。
        • 各省庁には多くは次官を委員長とするフォーカルポイントが置かれ、このフォーカルポイントを通してモニタリングを行うこととし、国内委員会はモニタリングのガイドラインやジェンダートレーニングマニュアルを作成している。
      • (日本へのインプリケーション)
        • モニタリング、調整を行うためには、一番力のあるところ、すなわち内閣総理大臣のもとにナショナルマシーナリーを置くことが必要。生活○○省といったような他の省庁に置くことは最も避けるべき。
        • 特に公務員を対象としたジェンダートレーニングを行い意識改革を進めることが重要。
    • (質疑・応答) ○参加者 ■講師
      日本の場合は戦後、女性問題がアメリカ的に労働省の中にまず労働問題として置かれたという出発点がある。労働省と今の総理府の位置、役割の分担の問題についてはどうか。
      女性問題への取組についてここ5年くらいの間にパラダイムの転換が起こっている。あらゆる施策や事業の中に潜むジェンダー・バイアスを問題化し、是正をしていくという意味での政策のジェンダリングが問題になってきて、先端的な国ではそれに即応するような国内本部機構の整備がなされてきている。このような新しい時代の女性政策を統括し、かつ、転換期を乗り切るのに最もふさわしい国内本部機構は何かと考えたときには、省庁横断的な総合調整機能、権限を持つことが必要であり、日本の現状では総理大臣と内閣官房長官の下にフォーカル・ポイントがあって、総合調整の権限と任務を与えられている体制が最もふさわしいのではないかというような角度からの発想である。
      ナショナルマシーナリーについて根拠法が必要である。男女共同参画審議会で基本法について諮問をして、審議を始める必要があるのではないか。
      男女共同参画ビジョンでも男女共同参画2000年プランでも触れられているので、基本法の件は当然新しい審議会の任務になっていくであろうが、諸外国でも必ずしもナショナルマシーナリーは設置法に基づくものではなく、また基本的な法律の内容には幅があると思う。
      日本は国内本部機構の位置だけは理想的であるが、人員、資源、権限のレベルが大幅に足りないことが問題。大きな転換期にあって、現在の体制の充実強化、少なくとも現在の体制を守るように、声をあげる必要がある。
      フィリピンやカナダのNGOの活動について、NGOの働きかけにおける日本との違いのようなものについてアドバイスをいただけないか。
      カナダでは審議会を廃止したかわり、女性の地位庁が出した報告書に対して多くの団体等から意見を募って大規模なコンサルテーションを実施している。
      開発途上国のNGOはほとんどプロフェッショナルなNGOで、比較ができないが、日本の場合にももっとNGOが力をつけていけばかなり女性政策にも影響力を及ぼせるのではないかと思う。
      モニタリングやガイドラインなどについて法制的な裏づけがないと難しく、基本法がそういったものを含めた形で成立する必要があるかと思う。また雇用機会均等法の附帯決議で触れられた性差別禁止法を含めた基本法の成立の可能性、必要性についてどう考えるか。
      他省庁のモニタリング、ガイドラインの提示ということについては一省庁から他省庁に対してはほとんど不可能に近いだろうという意味で、総理府のような総理の直属のところにあれば可能性があるのではないか。
      附帯決議については雇用における性差別の禁止ということであって、一般的に性差別を禁止するということになると、憲法に既に規定があることとの関係でそれをどう考えるか今後の検討課題になろうかと思う。
      基本的な法律ができてそれで初めて参画室の拡充強化ができるというような順番で考えていると、今の情勢では間に合わない。現状で素早く取り組むべきことは、今、考えられている内閣・首相の権限拡充の中に、きちんと男女共同参画を位置づけるよう要求を出していくことである。