ポジティブ・アクション研究会(第8回)議事要旨

  • 日時: 平成16年12月24日(金) 10:00~12:00
  • 場所: 内閣府5階特別会議室

(議事次第)

  1. 開会
  2. ヨーロッパ法における積極的措置について(伊藤委員より報告
  3. 自由討議
  4. 閉会

(配布資料)

資料1
ヨーロッパ法(伊藤委員資料)
資料2
日本の政治分野におけるポジティブ・アクションについて
資料3
諸外国における女性議員増加のための主な取組
資料4-1
女性議員の推移
資料4-2
選挙区・比例区別女性当選者数

(概要)

  1. 伊藤委員より雇用分野におけるポジティブ・アクションについて報告が行われた。
    • ○ポジティブ・アクションの適合性の審査をする場合、EC法における最も重要な法令として、1976年雇用平等ディレクティブの規定と、アムステルダム条約改正による141 条4項という条約レヴェルの規定の2つがある。また、調印されたばかりのEU憲法条約のアーティクルのパートIII の214 条4項も、141 条4項を受け継いだ規定となっているほか、EU基本権憲章の中にも積極的措置に関する規定が置かれている。
    • ○雇用平等ディレクティブにおいては、積極的措置について、男女の機会の平等を増進するための措置であって、特に現在存在している女性に対する不平等を除去する措置であると規定している。一般的な書き方となっているため、多様なポジティブ・アクションが存在する中で、どこまで適合するかが問題となる。
    • ○ポジティブ・アクションの発動要件については、EC判例上はまだ明確になっていないが、女性が過少代表になっていることが必要であることははっきりしている。過小代表の程度については、国によって様々であり、立法裁量の余地が大きい。また、法令の根拠が必要であるかどうかについての問題もある。しかし、最も争点になった重要な点は、比例原理との適合性で、目的の正当性と目的と手段の均衡が問題になる。
    • ○目的の正当性については、女性の機会の不平等を是正するような措置でなければいけないというのが基本的な前提である。
    • ○比例原理との適合性に関するEC判例のリーディングケースには、この問題に関するEC裁判所の初めての判決である1995年のKalanke 判決があり、女性に対する「絶対的かつ無条件な優先権」の付与は76年ディレクティブの2条4項の認める積極的措置の限界を超えており、比例原理に反するとされた。
    • ○ヨーロッパ型のクォータでは、プライオリティーを付与する場合、男性候補者と女性候補者は同一資格、同一能力であることが大前提で、一定能力は超えているけれども、同一でないという場合まで女性を優先することは、ヨーロッパ法上は比例原理に反するとされる。また、例外条項など、競合者間の具体的な判断における調整を可能とするようなメカニズムがあるかどうかも絶対かつ無条件かどうかについての非常に重要なポイントである。
    • ○例外条項については客観的基準による個別審査が重要な意味を持つとされるが、この点については、ドイツでは既に80年代から、クォータを導入する際に議論をされていた。1986年のベンダ報告は、立法で規定することと、例外条項を設けるということをクォータを実施する場合の要件とし、ドイツの国内判例等に大きな影響を与えたと言われる。
    • ○個別審査の客観的な基準の性格について、EC裁判所は女性にとって差別的な内容のものであってはいけないという一般的な基準を示しているが、具体的にその基準が差別的であるかどうかの判断権は国内裁判所にゆだねている。
    • ○Kalanke(1995) 、Marscall(1997)判決後の、EC判例の動向を見ると、厳格な同一資格要件や例外条項が絶対必要というわけではなく、問題とされている措置の対象の代替性、女性に対する機会平等を増進するのに直接寄与するものであるかどうかということも重要な考慮点となっているようである。
    • ○改正アムステルダム条約141 条4項について直接的な解釈を示したEC判例はまだ出ていないが、76年ディレクティブとの適合性が肯定される場合には141 条4項の判断をする必要はないとする判決例が出ている。これは、逆に言えば、76年ディレクティブよりは141 条4項の方がカバーする範囲が広いということであるが、明らかな比例原理違反のような場合には、141 条でもそもそもカバーされないということもEC判例は示している。
    • ○Lommers 事件では、託児所について女性にプライオリティーを与えるという積極的措置について、社会的な役割の固定につながる危険があるのではないかということが問題となったが、基本権憲章において、家事・育児への男女共同参画という視点が色濃く打ち出されてきており、女性に対する絶対的なプライオリティーを与えるということに対する考え方に修正を迫るという動きが、恐らく国内立法上も出てくる可能性がある。
    • ○ヨーロッパ法及びヨーロッパ諸国の事情からの日本法への示唆としては、逆差別の問題というのは常に生じることから、法令だけですべてを解決することは難しいということが言える。また、積極的措置の実施の実態については注意をする必要がある。同一資格の場合にのみ女性に対するプライオリティーを与える措置の実効性はあまり大きくないと言われている。社会文化的な違いはヨーロッパの中でも非常に大きく、大多数のEU加盟国が,女性一般に対するクォータを使っていると言うわけではない。さらに、クォータが導入された国であってもその適用範囲は、基本的に公務員部門に限られているということにも十分注意をする必要がある。
    • ○具体的なヨーロッパ法の示唆としては、能力主義を堅持するということが大前提であること、逆差別のリスクを最小化するため、その利害調整をするためのメカニズムをつくらなければならないということ、その利害調整の基準は、今度は女性に対する差別にならない客観的なものでなければならないとされている点が挙げられよう。ただし、勤続年数のようなものについては、日本のような年功制をある程度前提としたキャリアパターンを持っている国で、これを一切否定することがどのぐらいできるかというのは、かなり疑念がある。能力評定をする際に、育児のために仕事を中断した年数などを不利にカウントしないというような基準でカバーするということが、かなり重要な問題となるだろう。
    • ○実際には直接的なクォータ型の効果はかなり限定されている。多様な積極的措置を総合的に導入していくことが、重要な意味を持つだろう。
  2. 報告等について自由討議が行われた。その概要は以下のとおり。
    辻村委員
    成文法源のタイトルに示された政策の目的が、 Kalanke 判決後、機会均等(イコール・オポチュニティー)から完全な平等(フル・イコーリティー)になったことについて、結果の平等に転換したというような解釈があるが、この点についてはどうか。
    伊藤委員
    EC法に対する女性側の期待が大きいのだろう。法律的には、結果の平等とイコールではない。ただし、この点は微妙であり、対象となっている措置の非代替性があるような場合については、判例はある程度結果の平等に近いものを認めつつある。また、機会の不平等を直接是正するような効果を持つものについては、かなり広く結果の平等に近いような帰結をもたらすものでも認めるというスタンスがあるような気がする。
    安西委員
    能力主義にどうしてそれほどこだわるのか。アメリカで言えば、多少の点ぐらいは逆転がある。
    伊藤委員
    クォータが直接使われるのが、ほとんど専ら公務員法に限られており、公務員の場合には、公職就任の平等という観点から、能力主義が憲法原理になっているということがある。従って、能力評価のための客観的判断基準が差別的でないかということの方が重要となってくる。能力主義は外せない。
    山川委員
    集団的に機会の平等を実現するということであれば、多少個人の平等に対する利益が後退するなどの、集団と個人についての議論はヨーロッパ法であるか。
    伊藤委員
    議論としては存在するが、学説上の議論にとどまっており、少なくとも憲法原理、あるいはEC法レベルで認められた原理というところまでは、まだ認知されていない。
    安西委員
    人種や民族といった、女性以外の問題との関連で、 女性の問題について議論がされることがあるか。
    伊藤委員
    両者を関連づけた議論は、ヨーロッパではあまり一般的ではない。ただし、一定の社会集団(例えば移民)に関してのクォータを導入せよという議論がないわけではないが、女性一般というような非常に広い社会的集団について、ほかの集団と同視するような議論はないような気がする。
    辻村委員
    積極的措置を、雇用だけでなく、広い分野で認めていこうという流れにあると理解してよいか。
    伊藤委員
    コミッションとすれば、全体的なものという形で打ち出してはいるが、それにどのぐらい乗るかは加盟国次第である。
    高橋座長
    能力とは何かという点で、いろんな要素があり得ると思うが、日本で公務員の採用を考える場合、ただペーパーテストで何点取ったかというだけではなく、政策についての問題意識をどの程度持っているかということがあるだろう。その場合、例えば国の政策として男女共同参画というのは、非常に重要な位置づけがなされているが、男女共同参画についての問題意識とか、理解度がどの程度かということを、能力として判断に取り込んでいくということがどの程度可能か。
    伊藤委員
    政策に対する理解というのは、まさにそれは広い意味での能力に入るのだから、特に問題はないだろう。ただ、どういう能力を見るかは国内法の問題であり、相当なフリーハンドが加盟国に許されているということになる。まずは、性による差別的な質問をさせないということ自体が重要な点になるだろう。
    安西委員
    逆転がないとすると、基準の性中立性というのは非常に重要になる。そうすると、例えば面接官の中に、女性がある程度いなくてはいけないということになるのか。
    伊藤委員
    Badeck事件では、任用委員会の中の女性比率を指定した規定が問題となった。総合的な積極的措置というのは、ポストにつけるときだけ優先権ということではなく、環境を整えるということもある。総合的な形でクォータを使っている点は学ぶところがある。
  3. 次回の研究会では、報告書について検討することとなった。