第Ⅱ章 世界的枠組み

6.

「第4回世界女性会議」は,世界が新世紀を迎えようとする時期に開催される。

7.

この行動綱領は,経済社会理事会及び総会によって採択された関連決議とともに,「女子に対するあらゆる差別の撤廃に関する条約」(注3)を支持し,「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」を基盤としている。行動綱領の策定は,今後5年間に実行されるべき一群の基本的な優先行動の樹立を目指している。

8.

行動綱領は,持続可能な開発と国際協力を促進し,その目的に向けて国連の役割を強化するための特別なアプローチとコミットメントを述べた「世界子どもサミット」「国連環境開発会議」「世界人権会議」「国際人口・開発会議」及び「社会開発サミット」において到達した合意の重要性を支持する。同様に,「小島しょ開発途上国の持続可能な開発に関する地球会議」「国際栄養会議」「プライマリー・ヘルスケアに関する国際会議」及び「万人のための教育に関する世界会議」は,それぞれ特定の展望の中で,女性及び少女の役割に対し重要な関心を払いつつ,開発及び人権のさまざまな面に取り組んできた。さらに,「世界の先住民のための国際年」(注4)「国際家族年」(注5)「国際寛容年」(注6)「農村女性のためのジュネーブ宣言」(注7)及び「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」(注8)もまた,女性のエンパワーメントと平等の問題を強調している。

9.

「国際連合憲章」の目的と原則及び国際法に全面的に合致する行動綱領の目標は,すべての女性のエンパワーメントである。女性のエンパワーメントのためには,すべての女性のあらゆる人権及び基本的自由の完全な実現が不可欠である。国,地域の特殊性及び種々の歴史的,文化的及び宗教的背景の重要性は考慮されなければならないが,すべての人権及び基本的自由の促進及び保護は,その政治的,経済的及び文化的制度の如何を問わず,国家の義務である(注9)。あらゆる人権及び基本的自由に従って,国内法並びに戦略,政策,プログラム及び優先開発事項の策定を通じるなどを含む,この行動綱領の実施は,各々の国家の至上の責任であり,個人及びその属する地域社会の様々な宗教的・倫理的価値観,文化的背景及び哲学的信念の重要性並びにそれらの全面的な尊重は,平等,開発及び平和を達成するための,女性の人権の完全な享受に資するものでなければならない。

10.

1985年にナイロビにおいて開催された「『国連婦人の10年:平等,開発,平和』の見直しと評価のための世界会議」及び「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の採択以来,世界は激しい政治的,経済的,社会的及び文化的変化を経験しており,それらは女性に正負双方の影響を及ぼしてきた。「世界人権会議」は,女性及び女児の人権が,普遍的な人権の不可侵にして不可欠かつ不可分の一部であることを認めた。国内,地域及び国際レベルにおける政治的,市民的,経済的,社会的及び文化的生活への女性の完全かつ平等な参加と性別に基づくあらゆる形態の差別の撤廃は,国際社会の優先目標である。「世界人権会議」は,「国際連合憲章」その他の人権関連文書及び国際法に従って,万人のためのあらゆる人権及び基本的自由の普遍的な尊重,遵守及び保護を促進する自らの義務を果たすべき,すべての国の厳粛なコミットメントを再確認した。これらの権利及び自由の普遍性には,疑問の余地がない。

11.

冷戦の終結は国際的な諸変化をもたらし,超大国間の競争を減少させた。世界的規模の武力紛争の脅威が減少し,国際関係が改善して国家間の平和への展望が増してきている。しかし世界的規模の紛争の脅威は減ったものの,侵略戦争,武力紛争,植民地化又はその他の形態の外国による支配及び占領,内戦及びテロリズムが依然として世界の多くの地域を苦しめている。特に武力紛争の際には,女性の人権に対する重大な侵害が発生し,とりわけ民族浄化政策の下では,殺人,拷問,組織的なレイプ,強制的な妊娠及び強制的な中絶まで起こる。

12.

侵略及び民族浄化政策の防止や武力紛争の解決とともに,世界,地域及び地方レベルにおける平和と安全の維持が,女性及び女児の人権の保護並びに彼らに対するあらゆる形態の暴力及びそれを戦争の武器として使う行為の撤廃にとってきわめて重要である。

13.

世界的な軍事支出及び武器貿易又は売買を含む過度な軍事支出,並びに武器の生産及び取得への投資が,社会開発のために利用できる資源を減少させてきた。債務負担その他の経済的困難の結果,多くの開発途上国が構造調整政策に着手した。しかも,計画及び実施の方法がまずく,その結果,社会開発に有害な影響をもたらした構造調整計画もある。ほとんどの開発途上国,とりわけ重い債務を抱えた国々では,貧困の中で暮らす人々の数がこの十年の間に際立って増加してきた。

14.

このような情況においては,開発の社会的次元が強調されるべきである。拍車のかかった経済成長は社会開発のために必要ではあるが,それだけで国民生活の質を向上させるものではない。社会的な不平等や疎外を深刻化しかねない状況も,場合によっては起こり得る。したがって,成長,女性と男性の平等,社会正義,環境の保全及び保護,持続可能性,連帯,参加,平和及び人権尊重など開発のあらゆる側面に及ぶ包括的なアプローチに基づいた,社会のすべての構成員が経済成長から利益を受けることを保障する新しい代替策の模索が不可欠である。

15.

民主化への世界的な動きが多くの国の政治過程を開かれたものにしてきたが,中枢的な意思決定,とりわけ政治に女性が男性の完全かつ平等なパートナーとしてあまねく参加するという点は未だに達成されていない。南アフリカの制度化した人種差別政策 ― アパルトヘイト ― は撤廃され,平和的かつ民主的な権力の移行が起こった。中部及び東ヨーロッパでは,議会制民主主義への移行は迅速で,各国固有の事情によって様々に異なる経験をもたらした。多くは平和な移行だったが,いくつかの国々では,重大な人権侵害をもたらす武力紛争によって,この過程が妨げられてきた。

16.

いくつかの地域の政治的な不安定とともに,広範な経済不況が,多くの国々の開発の目標を後退させる原因になってきた。これは,言語に絶する貧困の拡大をもたらした。極端な貧困の中で暮らす10億人余りのうち,女性が圧倒的多数を占めている。あらゆる部門における急速な変化と調整の過程もまた,女性への特別な影響を伴う失業及び不完全就業の増加に導く結果になった。多くの場合,構造調整計画は,弱く不利な立場のグループや女性に対するマイナス影響を最小に抑えるように計画されてきてもいなければ,経済及び社会活動からの彼らの疎外を防止することによって彼らに対する積極的な効果を保障するように計画されてきてもいない。多角的貿易交渉のウルグアイ・ラウンドの最終議定書(注10)は,貿易自由化と開かれた活動的な市場へのアクセスの重要性とともに国家経済間の相互依存が増大しつつある点を強調した。いくつかの地域では,多額の軍事支出も見られた。いくつかの国の政府開発援助(ODA)は増加したものの,全体としては,最近,これは減少してきている

17.

絶対的貧困と貧困の女性化,失業,次第に脆さを増す環境,継続的な女性への暴力及び広く権力や政治の制度から人類の半分を締め出している現状は,開発,平和及び安全の追求と人間中心の持続可能な開発を確保する方法の追求を継続する必要性を強調する。そのような追求の成功には,人類の半分である女性の参加と指導力が不可欠である。したがって,協調の精神に基づく政府間及び国民間の新時代の国際協力,公平な社会的・経済的国際環境及び完全かつ平等なパートナーシップへの女性及び男性の関係の徹底的な変容がない限り,世界は21世紀の課題に対処できないだろう。

18.

最近の国際的経済開発は,多くの場合において女性と子どもに不均衡に大きな影響を及ぼしてきたが,彼らの大多数は開発途上国に住んでいる。対外債務の大きな重荷を背負ってきたそれらの国家にとって,構造調整計画及び施策は,長期的には有益であっても,社会的支出を削減することになり,それによって女性,特にアフリカ及び後発開発途上国の女性たちに悪影響を与えてきた。これは,基本的な社会的サービスの責任が政府から女性に肩代わりされた場合,更に悪化する。

19.

移行期経済諸国で進行しているリストラクチャリング(構造改革)とともに,多くの先進国及び開発途上国における経済不況が,女性の雇用に不均衡にマイナスの影響を及ぼしてきた。往々にして女性には,長期的な雇用保障がない職業や危険な労働条件を伴う職業に就くか,保護されない,家庭を基盤にした生産に従事するか,又は失業する以外に選択の余地がない。多くの女性は,家計収入を増やそうとして報酬も評価も低い仕事で労働市場に参入する。また,その他は同じ目的で移住を決心する。彼らのその他の責任はいささかも軽減しないため,女性の労働の総負担を増加させている。

20.

構造調整を含むマクロ及びミクロ経済政策及び計画は,必ずしも女性及び女児,特に貧困の中で暮らす女性や女児に及ぼす影響を考慮するように策定されてきたわけではない。貧困は絶対的にも相対的にも増加しており,貧困の中で暮らす女性の数はほとんどの地域で増加している。貧困の中で暮らす都市の女性は多い。しかし,農村及び僻地で暮らす女性の窮状は,これらの地域における開発の停滞を思えば特別に配慮されて然るべきである。開発途上国では,たとえ国内指標が向上を示してきた国であっても,農村女性の大半は依然として経済的な低開発と社会的疎外の状況の中で暮らしている。

21.

女性は家庭,地域社会及び職場における有償・無償双方の労働を通じて,経済及び貧困との闘いの主要な寄与者である。収入のある雇用によって経済的自立を達成する女性の数も次第に増加してきた。

22.

世界の全世帯の4分の1が女性を世帯主としているほか,男性がいても女性の収入に依存している世帯も数多い。女性が維持する世帯は,きわめて多くの場合,賃金差別,労働市場における職業分離パターン及びジェンダーに基づくその他の障壁のために最貧層に属している。家族離散,国内における都市と農村地域の間の人口移動,国際的な移住,戦争及び避難のための国内移動が,女性が世帯主である世帯の増加を助長する要因である。

23.

女性は,平和と安全の達成及び維持が経済的及び社会的進歩の前提条件であることを認識し,平和を目指す人類の運動においてさまざまな資格で中心的行為者としての地位を次第に確立しつつある。意思決定,紛争の予防・解決及びその他のあらゆる平和の発議への女性の完全な参加が,永続する平和の実現に不可欠である。

24.

宗教,精神性及び信念は,何百万人もの女性及び男性の人生,暮らし方及び将来の志望に中心的な役割を果たす。思想,良心及び信教の自由に対する権利は不可侵であり,普遍的に享受されなければならない。この権利には,個人的にであれ他の人々とともにであれ,公然とであれ密かにであれ,自ら選んだ宗教又は信念を有すること,又は採用すること,並びに礼拝,遵奉,実践及び教導において自らの宗教または信念を明らかにする自由が含まれる。平等,開発及び平和を実現するためには,これらの権利と自由を全面的に尊重する必要がある。宗教,思想,良心及び信念は,女性及び男性の道徳的,倫理的及び精神的ニーズを満たすこと,並びに彼らの潜在能力を社会において完全に実現することに寄与するであろうし,また,寄与できる。しかし過激主義は,いかなる形のものも女性にマイナスの影響を与えるおそれがあり,暴力と差別を導きかねないことが認められている。

25.

第4回世界女性会議は,国連総会が「国際婦人年」と宣言した1975年に正式に始まった過程を促進しなければならない。国際婦人年は,女性問題を課題として取り上げた点で転換点であった。「国連婦人の10年」(1976年~1985年)は,女性の地位と権利を検討してあらゆるレベルの意思決定に女性を参加させようとする全世界的な取組みであった。1979年には国連総会で「女子に関するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」が採択され,これは1981年に発効して,女性と男性の平等が意味するところのものに対する国際的基準を設定した。1985年には「『国連婦人の10年:平等,開発,平和』の見直しと評価に関する世界会議」で,2000年までに実施すべき「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」が採択された。以来,女性と男性の平等の達成には重要な進展があった。多くの政府が女性と男性の平等を促進するための法律を制定し,社会のすべての領域においてジェンダーの視点を確実に主流に置くための国内本部機構(ナショナル・マシーナリー)を設置してきた。国際機関は,女性の地位と役割により一層大きな注意を払うようになってきた。

26.

非政府部門,特に女性組織及びフェミニスト(男女同権論者)団体の増大しつつある力が,変革への推進力になってきた。非政府機関は,女性の地位の向上を確保するための法律や機構を推進する上で重要な提唱者の役割を果たしてきた。それらはまた,開発への新たなアプローチを促進する触媒ともなっている。多くの政府は,非政府機関が果たす重要な役割や,進展を目指して彼らと共に働くことの重要性を次第に認識するようになってきている。だが,非政府機関が自由に機能する力を政府が依然として制限している国もいくつかある。非政府機関を通じて,女性は地域社会,国内,地域及び世界の公開討論会(フォーラム)及び国際的討論に参加し,強い影響を与えてきた。

27.

1975年以来,女性及び男性のそれぞれの地位に関する知識が深まり,これが女性及び男性の平等を促進することを目指した行動の推進に寄与している。いくつかの国々,特に女性のための教育に大きな前進があったり,有給労働力への女性の参加に著しい増加が見られたところでは,女性と男性の関係に重要な変化が起こっている。生産と生殖という労働の性別役割の境界線は,以前は男性が支配的な分野だった仕事に女性が参入するようになり,男性が育児を含むより大きな家事責任を引き受け始めるにつれて徐々に交差してきている。しかし,女性の役割の変化は,男性のそれより大きく,はるかに急速に起こってきた。多くの国では,女性と男性の実績及び活動の差は不変の生物学的相違というより社会的に築き上げられた性別役割の結果であることが未だに認識されていない。

28.

しかも,ナイロビ会議から10年を経てなお,女性と男性の平等はまだ達成されていない。世界的に,あらゆる立法府の選出議員のうち,平均して10パーセントを女性が占めるにすぎず,ほとんどの国内及び国際的な管理機構では公共・民間ともに女性代表の参加が今もって不十分のままである。国連も例外ではない。創設以来50年を経ても,国連は事務局及び専門機関内部の意思決定レベルへの女性の参加を不十分なままにおくことによって,彼らの指導力の恩恵を自ら拒み続けている。

29.

女性は,家族の中において重大な役割を果たす。家族は社会の基本単位であり,そのように強化されるべきである。家族は,幅広い保護及び支援を受ける権利がある。異なる文化的,政治的及び社会的体制の中で,様々な形の家族が存在する。家族一人々々の権利,能力及び責任が尊重されなければならない。女性は家族の安寧及び社会の発展に多大な貢献を行うが,これはその重要性においてまだ完全に認識され又は考慮されていない。母性(マタニティ),母であること(マザーフッド),並びに家族における,また育児における親の役割の社会的意義が認められるべきである。育児は,親,女性及び男性,並びに社会全体の責任分担を必要とする。母性,母であること,親であること,及び出産における女性の役割が差別の根拠になることも,女性の完全な社会参加を制限することも共にあってはならない。また,多くの国で女性がしばしば果たしている家族の世話における重要な役割にも,評価が与えられるべきである。

30.

世界人口の増加率は下降線をたどっているものの,現在の増加数は年間8,600万人に近く,世界人口は絶対数において史上最高を記録している。この他,人口統計学上の二つの大きな傾向が,家族内での扶養家族の割合に深刻な影響を及ぼしてきた。多くの開発途上国では人口の45~50パーセントが15歳未満であり,一方,工業国では高齢者の数も比率も増しつつある。国連の予測によれば,2025年までに60歳以上の人口の72パーセントが開発途上国に住んでいることになり,その半数以上が女性であろうという。子ども,病人及び高齢者の世話の責任は,平等の欠如及び女性と男性の間における有償及び無償の労働のアンバランスな分布のせいで女性に不均衡にのしかかっている。

31.

多くの女性は,自らのジェンダー(性)に加え,さまざまに異なる要因によって,特別な障害に直面している。しばしば,これらの多様な要因はそのような女性を孤立させたり疎外したりする。彼らは,なかんずく人権を拒否され,教育及び職業訓練,雇用,住宅及び経済的自立へのアクセスを欠き,又は拒否され,また,意思決定過程から締め出されている。このような女性たちは,自らの地域社会に対して主流の一員として寄与する機会を拒まれることが多い。

32.

この10年はまた,先住民女性の特有の関心と問題に対する認識が次第に高まってきていることを目撃する時期でもあった。彼らのアイデンティティ(帰属意識),文化的伝統及び社会組織の形態が,彼らの住む地域社会を高め,強化している。しばしば先住民女性は,女性として,また先住民社会の一員として二重の障害に直面する。

33.

過去20年間,世界は通信分野の急激な発展を目のあたりにしてきた。コンピュータ技術並びに衛星放送及びケーブル・テレビジョンの進歩によって,情報への世界的な規模のアクセスが増加・拡大し続け,通信及びマスメディアへの女性の参加及び女性に関する情報の普及の新たな機会を創出している。しかし,偏狭な商業及び消費主義的な目的で,固定観念化した屈辱的女性像を広めるために,世界的規模の通信網が利用されてきた。芸術を含む,通信及びマスメディアの技術分野及び意思決定分野の双方に女性が平等に参加するようになるまで,誤った女性像が伝え続けられ,実際の女性の生活に対する認識は欠如し続けるだろう。メディアは,固定観念を脱した,多様で調和のとれたやり方で女性及び男性を描くことにより,また,人間の尊厳と価値を尊重することによって女性の地位向上と女性と男性の平等を促進する,大きな潜在能力を持っている。

34.

すべての人間の生活に影響を及ぼす持続的な環境悪化は,しばしば女性の側に,より直接的な影響を与える。女性の健康と生計は,公害,有毒廃棄物,大規模な森林伐採,砂漠化,干ばつ,土壌の枯渇,沿岸及び海洋資源の枯渇によって脅かされ,女性及び少女の間で環境に関連した健康問題の発生が増加し,死亡例さえ報告されている。最も影響を被っているのは,その生計と日常生活の手段が持続可能な生態系に直接依存している農村女性と先住民女性である。

35.

貧困と環境悪化は,互いに密接に関連し合っている。貧困は環境へのある種の圧迫をもたらすが,持続する地球環境の悪化の主な原因は,特に工業国における持続不可能な消費及び生産のパターンであり,これは重大な問題で,貧困と不均衡を深刻化している。

36.

世界的傾向が,家族の生存戦略及び構造に大きな変化をもたらしてきた。すべての地域で,農村地域から都市への移住が相当に増加した。世界の都市人口は,2000年までに全人口の47パーセントに達する見込みである。推定1億2,500万人が移住者,難民及び避難民であり,その半数が開発途上国に住んでいる。これらの人々の大量移動が,家族構造及び家族の安寧に深刻な結果をもたらし,多くの場合,女性に対する性的搾取を含め,女性及び男性の間に不平等な結果を引き起こしている。

37.

世界保健機関(WHO)の推定によれば,後天性免疫不全症候群(エイズ)の患者数は1995年初めまでに累計で450万人になったという。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が初めて診断されて以来,推定1,950万人の男性,女性及び子どもがこのウイルスに感染しており,10年後までには新たに2,000万人の感染が見込まれている。新しい発生例では,女性は男性の2倍も感染のおそれが高い。エイズ流行の初期段階では,女性の感染は多くなかった。しかし今では,約800万人の女性が感染している。若い女性や青年が特に感染しやすい。2000年までに1,300万人以上の女性が感染し,400万人の女性がエイズ関連の疾患によって死亡すると推定されている。それに加えて,毎年2億5,000万人の性感染症(STD)の新たな患者が発生することが見込まれている。HIV/AIDS(エイズ)を含む性感染症の感染率は,特に開発途上国の女性及び少女の間で,おそろしい勢いで増加しつつある。

38.

1975年以来,女性の地位とその暮らしの状況に関する重要な知識及び情報が生み出されてきた。ほとんどの国で,女性の完全かつ平等な参加を阻む差別的態度,不公正な社会・経済構造及び資源の欠如により,女性の日常生活及び長期的な志望が全ライフサイクルを通じて制限されている。多くの国において,胎児期の性による選別の習慣や,男の子に比べて女の子の方が幼いうちの死亡率が高く,少女の就学率が低い事実から,息子志向が女児から食物,教育及び保健対策,ひいては生命自体へのアクセスを奪っていることがうかがわれる。女性への差別は人生の最も初期の段階から始まるのであり,だからこそ,その時期から持続して取り組まれなければならない。

39.

今日の女児は,明日の女性である。平等,開発,平和という目標の完全な達成にとって,女児の能力,発想及びエネルギーはきわめて重要である。女児が自らの潜在能力を十分に開発するためには,その生存,保護及び開発のための精神的,知的及び物質的ニーズがかなえられ,その平等な権利が保護されるような,制約のない環境で育てられる必要がある。女性が生活及び開発のあらゆる局面で男性の平等なパートナーであろうとするならば,今こそ女児の人間としての尊厳及び価値を認識し,普遍的な批准が強く求められている「児童の権利に関する条約」(注11)に保障された権利を含む,その人権及び基本的自由の完全な享受を保障すべきときである。しかし,少女への差別及び暴力が人生の最も初期の段階から始まり,生涯を通じて変わらず続く事実を示す世界的な証拠がある。往々にして,少女は少年より,栄養,心身の保健医療及び教育へのアクセスが少なく,子ども時代及び青春期の権利,機会及び恩恵を享受することも少ない。彼らは,しばしば,様々な形の性的及び経済的搾取,小児愛,強制売春及びことによると臓器及び体の組織の売却,暴力,並びに女児の間引き,胎児期の性による選別,近親姦,女性器の切除及び幼児婚を含む若年結婚のような悪習にさらされる。

40.

世界人口の半分が25歳未満であり,世界の若者の大半 ― 85パーセント以上 ― が開発途上国に住んでいる。政策決定者は,これらの人口統計学上の要因の意味を認識しなければならない。若い女性があらゆるレベルの社会的,文化的,政治的及び経済的な指導的立場に積極的かつ効果的に参加するのに必要な生活技術を確実に身につけるようにするために,特別の措置が講じられなければならない。国際社会が未来への新たなコミットメント ― より公正な社会を目指して共に働くよう新世代の女性及び男性を鼓舞することへのコミットメント ― を示すことが,きわめて重要であろう。このような新世代のリーダーたちは,すべての子どもが不公正,抑圧及び不平等から解放され,その持ち前の潜在能力を開発する自由を持つような世界を受け入れ,促進しなければならない。それゆえに,女性及び男性の平等の原則は社会化の過程に欠かしてはならないものである。

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