女子差別撤廃条約実施状況第4回報告(仮訳)

10. 第11条 1

1(a)~(c)、(f)男女雇用機会均等確保対策の推進

(1) 男女雇用機会均等法の施行状況

男女雇用機会均等法の施行状況を見ると、募集・採用については、法施行前は一般的であったいわゆる男女別求人が減少するなど、男女の均等取扱いが進んだといえる面もある一方、近年の厳しい雇用情勢の下、女子学生が就職に当たって男子学生に比べて均等な機会を与えられない事案が多発した。例えば、企業が募集・採用情報を女性には提供しない場合や、女性について採用数が制限されている場合などが多く見受けられた。配置・昇進については、従来男性のみを対象に配置することが多かった職務に女性を配置する例が増加し、係長相当職を中心に女性の登用が進んでいる。その一方で、女性の配置の基本的考え方としては、「能力や適正に応じて男性と同様の職務に配置」するとする企業が最も多いものの、ここ数年「女性の特質・感性をいかせる職務に配置」するとする企業が増加する傾向が見られた。教育訓練については、ほとんどの企業で男女均等な取扱いとなっている。福利厚生制度については、ほとんどの企業が男女双方を対象に実施している。定年・退職・解雇についても、男女別定年の是正等制度面での改善は進んだものの、妊娠や産前産後休業の取得、一定の年齢に達したことなどを理由として、女性のみを対象とした退職の強要や勧奨が行われ、結婚退職慣行も残っているなど、実態面ではなお問題が見られる。

労働省の地方支分部局である都道府県女性少年室では、男女雇用機会均等法に関し、企業、労働者双方から年間約2万件の相談を受け、同法に基づき年間3000件にのぼる個別の行政指導を展開している。その相談の傾向を見ると、近年は、景気の後退等を反映して、女子学生からの募集・採用にかかる相談や、解雇・退職の強要にかかる相談が増加している。

職場におけるセクシュアルハラスメントにかかる相談・問い合わせも、年々増加し、悪質・深刻な事案も見られる。近年、セクシュアルハラスメントに係る訴訟も目立っている。

労働基準法の母性保護を除く女性のみに対する時間外・休日労働、深夜業に関する規制については、男女の均等取扱いを一層進める観点から、これまでにも一定の規制の緩和がなされてきたが、その撤廃を求める企業からの要請はより強まり、女性の側からも見直しを求める声が挙がってきていた。

(2)男女雇用機会均等法等の改正

このような10年余にわたる法施行の状況とその間の社会・経済環境の変化、さらには少子・高齢化をはじめとする将来展望を踏まえ、政府は、雇用の分野における男女の均等取扱いをより実効あるものとするとともに、女性労働者の職業選択や能力発揮の場の拡大を図るため、男女雇用機会均等法の強化、労働基準法に残された女性労働者に対する時間外・休日労働及び深夜労働の規制の解消等を内容とする男女雇用機会均等法、労働基準法、育児・介護休業法等の改正法(案)を1997 年2月、第140回国会に提出した。同法は、同年6月11日に成立、同月18日に公布された。

この改正法は、1999年4月1日から施行される予定であるが、母性保護の充実に関する部分(妊産婦に対する健康管理措置の義務化、多胎妊娠の場合の産前休業の延長)については1998年4月1日から施行されている。

主な改正点は、以下の通りである。

1) 男女雇用機会均等法の強化
(i)募集・採用、配置・昇進における女性に対する差別の禁止規定化

事業主に対し、女性を均等に取り扱うよう努力する義務を課している募集・採用、配置・昇進の分野について、女性に対する差別を禁止することとした。併せて、現在一部について女性差別を禁止している教育訓練について、すべての教育訓練において女性差別を禁止することとした。これにより、募集・採用から定年・退職・解雇にいたる雇用の全ステージおいて女性差別が禁止されることとなった。

また、これまで均等法上は関与しないこととされてきた「女性のみ」「女性優遇」の措置についても、実質的な男女の雇用機会均等が実現されていない状況を改善するために行う措置以外は「女性に対する差別」として禁止することとした。

(ii)法の実効性を確保するための措置の強化
a)行政指導に従わない企業の企業名公表制度の導入
 女性労働者に対する差別を禁止する規定に違反している事業主に対して、労働大臣又は都道府県女性少年室長は助言、指導、勧告という形で是正を求める行政指導を行うが、労働大臣の勧告に従わない場合には、その旨を公表することとした。
b)調停制度の改善
 現在は一方の当事者が調停申請を行った場合、他方の同意がなければ調停が開始できないこととなっているが、これを当事者一方のみからの申請で調停開始を可能とすることとした。
(iii)ポジティブ・アクション促進規定の創設

社会に根ざす性別役割分担概念に基づく慣行・通念や、過去からの経緯で女性が活躍しにくい企業内の状況・慣行などにより男女労働者の間に事実上生じている差を解消し、女性の能力発揮を促進するため、体制整備、現状分析、計画作成・実施など積極的な取組(ポジティブ・アクション)を行う事業主に対し、国は相談その他の援助を行うことによってこれを促進することとした。

(iv)セクシュアルハラスメント防止規定の創設

職場における対価型及び環境型双方のセクシュアルハラスメントを防止するために、事業主は雇用管理上必要な配慮をしなければならないこととした。

(v)妊産婦に対する健康管理措置の義務化

現在は事業主の努力義務となっている、妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置(保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保、指導事項を守るために勤務の軽減等必要な措置を講じること)を事業主の義務とした。

2) 労働基準法の改正
(i)女性に対する時間外・休日労働、深夜業の規制の解消

満18歳以上の女性労働者にかかる時間外及び休日労働並びに深夜業の規制を解消することとした。

(ii)多胎妊娠の場合の産前休業の延長

通常の妊娠では産前6週間、産後8週間、多胎妊娠では産前10週間、産後8週間が保障されている産前産後休業につき、多胎妊娠の場合の産前休業を、現行の10週間から14週間に延長にすることとした。

3) 育児・介護を行う労働者に対する深夜業制限の措置の創設
(育児・介護休業法の改正)

労働基準法の女性の深夜業規制が解消されたことで、子を養育する両親がともに深夜業に従事するケースや、深夜に介護を要する家族の世話をする者がいなくなるケースも生じうることから、育児又は介護を行う一定の範囲の労働者が請求した場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、深夜業を行わせてはならないこととした。

(3)男女雇用機会均等確保のための取組
1) 改正法の周知啓発

労働省では、これまでも男女雇用機会均等法の趣旨を一層定着させ、男女の均等取扱いの確保が図られるよう、その周知徹底に努めてきたが、1999年に向けて、改正男女雇用機会均等法等の内容に沿った雇用管理が円滑に実現されるよう、6月の男女雇用機会均等月間を始め、あらゆる機会をとらえて事業主、労働者等に対し改正法の周知啓発活動を展開している。

2) 行政指導と個別紛争解決の援助

男女雇用機会均等法の遵守を図るため、都道府県女性少年室においては、同法に基づき、企業に対する行政指導を事業所訪問により計画的に実施している。

また、都道府県女性少年室長の適切な助言・指導・勧告、機会均等調停委員会の円滑な運営等により、女性労働者と事業主の間の均等取扱いに関する個別紛争の迅速かつ円滑な解決を図っている。

3) 女性労働者の能力発揮促進のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)の促進

制度上のみならず事実上の男女雇用機会均等を実現するには、企業によるポジティブ・アクションの取組が重要であることにかんがみ、労働省ではポジティブ・アクションを進めるためのガイドラインとワークシートを作成し、企業トップを集めたセミナーを行うなどして、その普及を図っている(3 第4条 参照)。今後は、法の趣旨を個々の企業に浸透させ雇用管理の改善を自主的に進めてもらうために1988年度から実施している自主点検促進事業(詳細は第2回報告書において報告済み)をさらに発展させたものとして、社会への定着を促していくこととしている。

4) グラス・シーリング解消のための取組

男女雇用機会均等法の施行以来、女性の雇用管理の改善、女性労働者自身の意識の向上や雇用の場における男女平等についての社会一般の理解の進展が見られたが、個々の企業、労使団体等の意思決定の場への女性の参画は依然として少なく、これが、職場、団体等における女性の活用についての意識が遅れている要因ともなっている。

このため労働省は、1995年度より3年間、我が国の公労使の代表と先進諸国の関係者の交流を図ることにより、企業における女性管理職の登用、あるいは労使団体における方針決定の場への女性の登用について、関係者の理解を促す「グラス・シーリングの解消のための国際交流事業」を実施した。

5) コース別雇用管理制度の適正な運用のための行政指導

コース別雇用管理制度とは、企画的業務、定型的業務等の業務の内容や転居を伴う配置転換の有無等を基準にいくつかのコースを設定し、コースごとに異なる配置・昇進、教育訓練などの雇用管理を行う制度のことである。

労働省では、コース別雇用管理に藉口して、事実上男女別の雇用管理を行うものなど適当でないケースが一部に見られたことから、1991年に「コース別雇用管理の望ましいあり方」を示し、コースの定義と運用方法を明確にすること、各コースにおいて男女公平な採用、選考等を実施すること、各コースが男女ともに開かれていること、コース間の転換を認める制度を柔軟に設定すること、各コースにおいて男女公平な雇用管理を行うことといった基準を示したところであり、これに沿った雇用管理が行われるよう行政指導を行っている。

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