女子差別撤廃条約実施状況第4回報告(仮訳)

1. 第2条(a)

(1)女性に対する暴力
本条では、女性に対する暴力に関する我が国の取組み及び被害女性への救済を中心に報告する。
1)性犯罪
(i)法制・対策

女性の性的自由を侵害する行為については、強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上7年以下の懲役)、強姦罪(刑法177条、2年以上の有期懲役)、及び強姦致傷罪(刑法181条、無期又は3年以上の有期懲役)等の処罰規定が設けられており、これらの処罰規定を的確に運用している。

(ii)強姦及び強制わいせつの現状

1996年中の強姦の認知件数は1,483件で、1967年の6,393件に比べ4分の1に減少している。その推移をみると、1967年以降1990年まで減少傾向が続き、同年以降1,500件前後となっている。1996年中の強制わいせつの認知件数は4,025件で、1967年の3,416件に比べ約2割の増加となっている。その推移をみると、1986年まで減少傾向が続き、1987年以降増加傾向にあり、1996年は前年比約1割の増加となっている。

(iii)性犯罪被害者への適切な対応

女性に対する暴力の根絶に向けて、我が国は、関係規定の厳正な運用を図り、強姦や強制わいせつ等の性犯罪の徹底した取締りを推進しているところである。

性犯罪は、身体的な被害にとどまらず精神的にも極めて重い被害を与える犯罪であり、しゅう恥心等から被害者が警察に対して被害申告をためらいがちになるため、被害が潜在化する傾向がある。

そこで、1996年以来、性犯罪被害者の立場に立った適切な対応により被害者の精神的負担の軽減を図るとともに、従来以上に適切かつ強力な性犯罪捜査を推進するため、各都道府県警察の警察本部等に「性犯罪捜査指導官」及び「性犯罪捜査指導係」を設置したほか、女性の警察官による事情聴取や鑑識活動、病院への付添い等精神的負担を緩和する施策や、専門職員等によるカウンセリング体制 を強化して被害者の精神的回復を助ける施策を進めている。

また、公判段階においても、検察官において公判の公開停止、特定傍聴人や被告人の退廷等の措置を裁判所に対して申し出ることにより、被害女性が証言しやすい状況を整えるほか、不適切な質問に対する異議申立て等を行うことにより、被害女性に対する保護を図っている。

(iv)被害が潜在化しないための未然防止策

女性が性犯罪の被害の届出や相談を行いやすいよう、各都道府県警察の警察本部等に「性犯罪被害110番」等性犯罪相談窓口を設置しているほか、刑事手続や各種の救済制度について分かりやすく解説してあるパンフレットを被害者に交付したり、捜査状況や被疑者の処分状況等を適切に連絡し、被害者からの照会に対しても確実に対応するなどの適切な情報提供を行うことによって、被害女性の援助を行っている。

法務省の人権擁護機関においては、人権相談などで女性に対する暴力が行われているとの情報を得た場合には、人権侵犯事件として調査し、その事実が認められた場合には、行為者に対して人権思想の啓発を行い、暴力行為の中止や再発防止を図るなど被害者の救済に努めている。

特に1996年7月からは、人権が侵害された場合における被害者の実質的な救済を図る制度として「人権調整専門委員」制度を導入し、被害者に対する救済策の一層の充実を図っている。

2)セクシュアルハラスメント

女性の性的自由を侵害する行動によるセクシュアルハラスメントに関しては、上記の女性に対する性的暴力に関する処罰規定を的確に運用している。またその他の形態のセクシャルハラスメントに関しては、事案に応じて、暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)、強要罪(刑法223条、3年以下の懲役)、名誉毀損罪(刑法230条1項、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)、侮辱罪(刑法231条、拘留又は科料)等の処罰規定の適用が可能であり、これらの処罰規定を的確に運用している。

警察では、性犯罪相談窓口等においてセクシュアルハラスメントに関する相談を受けた場合、刑罰法規に触れるものについてはこれらの処罰規定を的確に運用して、加害者の検挙を図り、これ以外についても被害者等の支援を目的とする関係機関・団体を必要に応じて紹介するなどして被害者のニーズに応えるよう努めている。

また、法務省の人権擁護機関においては、セクシュアルハラスメントが人権侵害行為であるとの認識の普及を図るとともに、人権相談及び人権侵犯事件の調査・処理を通じてこの問題への取組を推進している。

教育機関におけるセクシュアルハラスメントについても、近年認識が高まってきており、ガイドラインを作成し、相談窓口を設ける大学が増えるとともに、情報交 換や防止に取り組む民間団体のネットワークが形成されている。

なお、職場におけるセクシュアルハラスメントについては、第11条で記述する。

3)メディアにおける人権の尊重
(i)性・暴力表現に対する法制

性・暴力表現に関しては、事案に応じて、公然わいせつ罪(刑法174条、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、わいせつ物頒布等罪(刑法175条、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料)のほか、都道府県で制定されている青少年保護育成条例の適用が可能であり、これらの処罰規定を的確に運用している。

(ii)性・暴力表現出版物の取締まりの現状

最近5年間のわいせつ物頒布事犯等の検挙状況は、統計資料44のとおりであり、近年、概ね横ばいで推移している。

わいせつ物頒布事犯等については、わいせつビデオテープを販売する事犯が主流を占めているが、最近では、パソコン通信やインターネットを利用して不特定多数にわいせつな画像を送信したり、わいせつな画像情報を記録させたCD-ROM等を販売するという新たな形態の事犯が増加している。

最近4年間のインターネット等のコンピュータ・ネットワークを利用したわいせつ物頒布事犯等の検挙状況は、統計資料45のとおりである。

(iii)青少年の保護

性・暴力表現は、特に青少年の健全育成に悪影響を与えることから、全国46都道府県において制定されている青少年保護育成条例により、性・暴力表現を含む書籍やビデオ等が「有害図書類」として指定され、青少年への販売等について罰則を含んだ規定がある。政府、地方公共団体においては、有害図書類として指定された図書類については、地域住民等と協力して関係業界に対し区分陳列等の徹底を要請しており、その自主的措置の促進を図っているほか、悪質な業者に対する取締りを行っている。また、これらの対策の一層の推進に資するために、その実態や諸外国における取組の動向等について調査研究を行っている。

(iv)児童ポルノ

児童ポルノは、被写体となった少女の人権を侵害するばかりでなく、その後の健全育成に悪影響を与えるおそれがあるので、違法事案に対して厳正な取締りを行っている。

(v)メディアにおける取組

「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」では、テレビ放送が青少年等に与える影響及びその対策について、自動的に視聴を行わないようにする機能(ペアレンタルロック機能)が有益なものと報告している。

1996年6月に開始された衛星デジタル放送においては、ペアレンタルロック機能のサービスが自主的に導入され、現在8社がその提供を行っている。

さらに、1998年度視聴者政策の在り方に関する調査研究を行い、今後の一層の視聴者政策に関する施策について検討しているところである。

衛星デジタル放送では、性表現等に関する成人向け番組の放送を行う事業者が、倫理に関するガイドラインを自主的に策定し、その規定・基準を守ることを目的としたCS放送成人番組倫理委員会を1996年9月に設立した。

また、インターネット上の情報流通については、郵政省の研究会において、1997年12月に取りまとめられた「インターネット上の情報流通ルールについて」の報告書において、違法な情報発信に対する現行法の適用やプロバイダーによる自主的対応等、インターネット上の違法・有害情報の流通に関するルールの在り方について、とりまとめられた。

また、民間団体の取組みとしては、インターネット・プロバイダーを含む通信事業者の団体である社団法人テレコムサービス協会が、郵政省の支援のもと、自主規制やガイドラインの策定に向けて検討作業を重ねた上、1998年2月16日に「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」を公表した。

さらに映画については、映倫管理委員会(1956年映画界によって設立され、第3者によって運営されている自主規制機関)が社会の倫理水準を低下させるような映画の提供をきびしく抑制することを目的として、1959年8月に作成した映画倫理規程、1994年5月、1998年5月に改訂した映画倫理規程に基づいて、担当審査員が審査判定している。年少者(18才未満)の鑑賞に適さないものには、その程度に応じて「PG-12」(12歳未満は保護者同伴が望ましい)、「R-15」(15歳未満入場禁止)、「R-18」(18歳未満入場禁止)の指定を実施し、入場を制限している。

4)性を売り物とする風俗関連営業(風営適正化法改正後の性風俗特殊営業)に対する規制

個室ビデオ、アダルトショップ等の性を売り物とする営業に対しては、風営適正化法により届出制を導入するとともに、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するための年少者の従事制限、年少者の営業所への立ち入らせ禁止等の規制が設けられており、違反行為等に対しては、営業停止処分等の行政的な措置をとることができることとされている。

また、1998年4月にコンピュータ・ネットワーク上で専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業に対する規制 (18歳未満者を客とすることの禁止、街頭における一定の方法での広告宣伝の禁止等)を新設するため、風営適正化法の一部が改正された。

(2)いわゆる従軍慰安婦問題

いわゆる従軍慰安婦問題については、本条項と直接関連があるわけではないが、1994年1月の第13回女子差別撤廃委員会の審議及び日本の報告書に対する最終コメントに留意し、日本政府の取組について述べることとする。日本政府は、いわゆる従軍慰安婦問題について、1991年12月以降政府として全力を挙げ調査を行い、これまで、1992年7月及び1993年8月の2度にわたって調査結果を発表し、資料を公表するとともに、機会あるごとに元慰安婦の方々に対するお詫びと反省の気持ちを表明している。また、日本政府は、この問題についての道義的な責任を果たすという観点から、1995年7月のアジア女性基金(以下「基金」)の創設を支援するとともに、「基金」の運営経費の全額負担、募金活動への協力等を通じ「基金」事業を全面的に支援している。日本政府による具体的な支援内容は以下の通り。

1)総理の手紙

総理は、日本政府を代表して、「基金」による国民的な償いの事業が行われる際に、この問題に関して改めて心からのお詫びと反省の気持ちを表す手紙を直接元慰安婦の方々にお届けすることとしている。

2)国民的な償いの事業

日本政府は、いわゆる従軍慰安婦問題について、国民の啓発と理解を求める活動を行い、「基金」が行ってきた国民的な償いを行うための民間からの募金活動に最大限協力してきた。

その結果、国民個人、民間企業、労働団体さらには、政党、閣僚等からの共感を得て、1998年5月現在で、約4億8,300万円の募金が「基金」に集まっており、その額はなお増え続けている。

「基金」は、1996年7月、韓国、フィリピン、そして台湾における元慰安婦の方々に対して、一人当たり200万円の償い金をお渡しすることを決定し、これまで合計100件以上の申請があり、70名以上の方々に償い金をお届けしている。  償い金をお渡しするに際しては、「基金」理事長の手紙及び国民から寄せられたメッセージを併せ届けている

3)政府資金による医療、福祉支援事業

政府は道義的責任を果たす事業の一つとして、韓国、フィリピン、台湾における元慰安婦の方々に対する基金による医療、福祉支援事業((1)住宅改善、(2)介護サービス、(3)医療、医薬品補助等、元慰安婦の方々のおかれている実情・希望に沿うものとすべく実施)に対して、5年間を目途として、総額約7億円規模の財政支出を行うこととしており、上記「国民的な償い事業」とあわせて本事業が実施されつつある。

4)インドネシアにおける事業

インドネシアにおいては、「基金」は元慰安婦個人を対象とした事業ではなく、同国政府から提案のあった高齢者社会福祉推進事業(身寄りのない高齢者で病気や障害により働くことのできない高齢者を収容する施設の整備事業)への支援を行うこととし、政府からの財政支出を受け、事業を実施している。同施設の入居者については、元慰安婦と名乗り出ている方や女性が優先され、また、施設の設置も、元慰安婦が多く存在したとされる地域に重点的に設置されることとなっている。

5)女性の名誉と尊厳に関わる今日的な問題への積極的な取り組み

日本政府は、女性に対する暴力などの今日なお存在する女性問題を解決すべく積極的に取り組んでいくことも、将来にむけた日本の責任であると考えており、「基金」が行っている今日的な女性問題の解決に向けた諸活動に資金拠出等の協力を行っている。

このような活動例としては、今日的な女性問題に関わる国際フォーラムの開催、NGOへの支援事業、各種調査研究事業等がある。

6)歴史の教訓とする努力

「基金」は、このような問題が二度と繰り返されることのないよう、歴史の教訓として未来に引き継いでいくことを事業の柱の一つとして進めており、慰安婦問題に関連する資料の収集・刊行等を行っている。

7)教育の分野における努力

日本政府は、いわゆる従軍慰安婦問題について、特に、我が国の次代を担う若者たちが、学校教育を通じて、我が国の近現代史にわたる歴史を正確に理解することを重視しており、中学校及び高校の教科書において、本問題が取り上げられている。

1. 第2条(c)

(1)オンブズパーソンの検討

先に第1部8で述べた答申、「男女共同参画ビジョン」では、「国内本部機構の新たな機能として、男女平等に係わる問題の解決に当たるオンブズパーソンについても、検討すべきである。」と提言され、このビジョンを受けた国内行動計画「男女共同参画2000年プラン」では、「男女平等に係わる問題の解決に当たるオンブズパーソンについて、諸外国における活動実態、関連法制、我が国への導入可能性等に関する調査研究を行う。」こととしている。

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