第2節 高齢者,障害者,外国人等が安心して暮らせる環境の整備

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第2節 高齢者,障害者,外国人等が安心して暮らせる環境の整備

1 高齢者が安心して暮らせる環境の整備

「高齢社会対策大綱」(平成30年2月閣議決定)に基づき,関係行政機関が連携・協力を図りつつ,施策の一層の推進を図っている。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)に基づき,65歳までの希望者全員の雇用を確保するため,65歳までの定年の引上げ,継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置が着実に実施されるよう,事業主への指導・支援に取り組んでいる。

また,労働施策総合推進法において,労働者の募集・採用における年齢制限が原則として禁止されているところ,年齢にかかわりなく均等な機会が確保されるよう事業主への周知・指導等に取り組んでいる。

さらに,高年齢者等の再就職に資するため,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づく求職活動支援書の作成に当たっては,ジョブ・カードを活用することが可能となっており,厚生労働省では公共職業安定所等において積極的に周知している。

加えて,定年退職後等の高年齢者に対し,地域の日常生活に密着した臨時的かつ短期的又は軽易な就業を確保・提供するシルバー人材センターを通じて,高年齢者の多様なニーズに応じた就業の促進に努めた。

さらに,平成25(2013)年度から「健康日本21(第二次)」を推進するなど,生活習慣病対策の一層の推進を図っている。

また,団塊の世代が全て75歳以上となる令和7(2025)年に向けて必要な医療提供体制を構築するため,都道府県が策定した地域医療構想に基づき,地域医療介護総合確保基金を活用し,病床の機能分化・連携の推進に向けた取組を行っている。

医師の確保・偏在については,特定の地域等での勤務を条件とした「地域枠」を活用した医学部入学定員の増員を図るとともに,医師不足病院の医師確保の支援等を行う「地域医療支援センター」の取組を中心に,地域医療介護総合確保基金を活用して地域の実情に応じた取組を行っている。また,救急医療の充実を図るため,重篤な救急患者を24時間受け入れる救命救急センター等への財政支援を行っている。さらに,都道府県が策定している医療計画の実効性を高めるため,「医療計画作成支援データブック」の提供や,都道府県職員を対象とした研修の開催等の支援を行っている。

認知症施策については,令和元(2019)年6月,関係閣僚会議において,「認知症施策推進大綱」が取りまとめられた。この大綱に基づき,認知症の発症を遅らせ,認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し,認知症の人や家族の視点を重視しながら,「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進している。

さらに,社会福祉協議会が実施する高齢者の日常生活を支援する事業(日常生活自立支援事業)について,利用者ニーズに応じて地域包括支援センターや民生委員等とも連携し推進を図っている。

また,地方公共団体における高齢者の生きがい・健康づくりの推進や老人クラブの活動への支援を行っているほか,「全国健康福祉祭(ねんりんピック)」に対する支援を行っている。

内閣府では,年齢に捉われず,自らの責任と能力において自由で生き生きとした生活を送る高齢者や社会参加活動を積極的に行っている高齢者の団体等を,「高齢社会フォーラム」等を通じて広く紹介している。

文部科学省では,高齢者の社会参画促進のためのノウハウや,学びによる地域課題解決が持続的に行われるための方策など, 先進的な事例を収集・公表し,行政・企業・NPO・各種団体等の社会教育関係者間で共有することによって,高齢者が生涯学習を通じて地域づくりに主体的に参画することを促進している。

政府は,ハード・ソフト両面にわたる社会のバリアフリー・ユニバーサルデザインの推進に取り組んでいる(II-9-1表参照別ウインドウで開きます)。

II-9-1表 高齢者や障害者等の自立を容易にする社会基盤の整備別ウインドウで開きます
II-9-1表 高齢者や障害者等の自立を容易にする社会基盤の整備

経済産業省では,高齢者や障害者等の自立を支援し,介護者の負担軽減を図るため,福祉用具開発のための実用化支援を行っている。

平成28(2016)年4月,改正消費者安全法が施行され,地方公共団体が,高齢者や障害者等の消費生活上特に配慮を要する消費者の見守り等必要な取組を行うことができることとされた。消費者庁では,地方公共団体の先進的事例集の公表や消費者安全確保地域協議会設置の手引きの作成及び公表を行う等,各地域における見守りネットワークの設置促進に向け取り組んだ。さらに,独立行政法人国民生活センターでは,消費者側の視点から注意点を簡潔にまとめたメールマガジン「見守り新鮮情報」を月2回程度,行政機関のほか,高齢者や高齢者を支援する民生委員や福祉関係者等に向けて配信している。

法務省では,判断能力の不十分な高齢者等の権利を擁護するため,成年後見人等がその財産管理等を行う民法上の制度である成年後見制度の周知を図っている。

2 障害者が安心して暮らせる環境の整備

政府では,全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため, 平成30(2018)年3月に閣議決定した「障害者基本計画(第4次)」に基づき,障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図っている。

平成28(2016)年4月には,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)が施行され,各行政機関等や事業者において,不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供をはじめとする障害を理由とする差別の解消に向けた取組が行われている。

障害者基本法(昭和45年法律第84号)では,毎年12月3日から9日までの期間を「障害者週間」と定めており,この期間を中心に,国,地方公共団体が民間団体等と連携し,全国各地で様々な行事や取組を集中的に開催している。

内閣府では,障害者週間の実施に当たり,多様な媒体による広報・周知を行ったほか,障害者週間の取組の一環として,全国から募集した「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」の最優秀賞作品に対する内閣総理大臣表彰の実施や,障害者関係団体等による障害又は障害者をテーマとするセミナーの開催など,障害者週間を契機とした国民意識の向上に向けた取組を行った。

平成26(2014)年1月に我が国が批准し,同年2月に発効した「障害者の権利に関する条約」では,特に,障害のある女性が複合的な差別に直面することがあるとの認識から,第6条「障害のある女子」が定められている。

平成30(2018)年12月には,「ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律」(平成30年法律第100号)が成立・施行され,ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策を総合的かつ一体的に推進することとされた。令和元(2019)年8月には,同法に基づき,政府が講じたユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の実施状況を取りまとめ,初めて公表した。

また,高齢者や障害者等の自立を支援し,介護者の負担軽減を図るため,福祉用具の開発・普及,情報バリアフリー環境の整備,高齢者等にやさしい住まいづくり,まちづくり,都市公園,公共交通機関,道路交通環境等高齢者や障害者等が自立しやすい社会基盤の整備を推進している。

さらに,道路については,新設又は改築を行う際に道路移動等円滑化基準に適合させなければならない特定道路の指定を拡大し,全国の主要鉄道駅周辺等の道路のバリアフリー化を推進した。

加えて,「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国家公安委員会,総務省,国土交通省告示第1号)や「交通政策基本計画」(平成27年2月閣議決定)等に基づき,関係省庁が,住まいづくり,まちづくり,都市公園,公共交通機関及び道路交通環境の整備を推進している(II-9-1表)。このほか,平成29(2017)年度においては,バリアフリー法を取り巻く環境の変化を踏まえ,また,東京2020大会を契機として,全国において更にバリアフリー化を進めるため,第196回通常国会において「高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第32号)が成立し,平成31(2019)年4月に全面施行を迎えた。さらに,令和2(2020)年2月には,東京2020大会のレガシーとしての共生社会の実現に向け,ハード対策に加え,移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフトの対策を強化する「高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を第201回通常国会に提出した。

障害者雇用については,障害者雇用促進法等に基づき,ハローワーク,障害者就業・生活支援センター,地域障害者職業センターが中心となって,障害者と事業主双方に対し,就職準備段階から職場定着支援まで一貫した支援を実施しており,平成15(2003)年以降,雇用障害者数が16年連続で過去最高を更新するなど,着実に進展している。

障害者の雇用環境が改善する中,依然として雇用義務のある企業の約3割が一人も障害者を雇用していない状況であるほか,中小事業主を中心に,経営トップを含む社内理解や作業内容の改善等にも課題が残されている。さらに,精神障害者を中心に,短時間であれば就労可能な障害者等の雇用機会の確保も課題となっている。

さらに,平成30(2018)年に国の機関及び地方公共団体の機関の多くの機関で,対象障害者の確認・計上に誤りがあり,法定雇用率が達成されない状態が長年にわたって継続していたことが明らかとなったことも踏まえ,障害者雇用を一層推進するため,障害者の活躍の場の拡大に関する措置及び国及び地方公共団体における障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置を内容とする,障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第36号)が,令和元(2019)年6月に成立した(令和元(2019)年6月14日公布。公布日,令和元(2019)年9月6日及び令和2(2020)年4月1日に段階的に施行)。

3 外国人が安心して暮らせる環境の整備

法務省の人権擁護機関では,外国人に対する偏見や差別の解消を目指して,「外国人の人権を尊重しよう」を啓発活動の強調事項の一つとして掲げ,講演会等の開催,啓発冊子の配布等,各種人権啓発活動を行っている。また,日本語を自由に話すことの困難な外国人等からの人権相談については,新聞やインターネット等を用いて周知広報を行うとともに,全国50か所の法務局・地方法務局において,「外国人のための人権相談所」を設け,平成31(2019)年4月からは,英語,中国語,韓国語,フィリピノ語,ポルトガル語,ベトナム語の6言語に加え,新たにネパール語,スペイン語,インドネシア語,タイ語の4言語を追加して,10言語による人権相談に対応しているほか,「外国語人権相談ダイヤル(ナビダイヤル:0570-090911(全国共通))」を設置し,上記と同様の10言語による人権相談に応じている。さらに,英語及び中国語の2言語に対応した「外国語インターネット人権相談受付窓口」を設置し,人権相談に応じている。このほか,特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動がいわゆるヘイトスピーチであるとして社会的関心を集めていることから,こうした言動に焦点を当てた人権啓発活動に取り組んでいる。

文化庁においては,我が国に居住する外国人が,安心・安全に生活するために必要な日本語能力を習得し,日本社会の一員として円滑に生活を送ることができるよう,日本語教育の先進的取組に対する支援(令和元(2019)年度採択数は21),日本語教室空白地域解消の推進(令和元(2019)年度採択数は19),日本語教育人材の養成及び現職者研修カリキュラムの開発(令和元(2019)年度採択数は27)や,都道府県・政令指定都市が,関係機関等と有機的に連携しつつ行う,日本語教育環境を強化するための総合的な体制づくりの推進(令和元(2019)年度採択数は17)を実施している。

文部科学省では,外国人の児童生徒等の教育の充実のため,独立行政法人教職員支援機構における「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」,各地方公共団体が行う公立学校への受入促進・日本語指導の充実・支援体制の整備に係る取組への支援等や,学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)において日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」を編成・実施できるようにしている。その他,令和元(2019)年度から外国人児童生徒等に対する日本語指導や学習支援について,教育委員会へのアドバイスや教員研修の充実のため,「日本語指導アドバイザー」の派遣を開始した。さらに「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」を開催し,外国人児童生徒等教育の充実や外国人の子供の就学機会の確保について検討を行ったほか,義務教育段階の外国人の就学状況に関する全国的な調査を国として初めて実施し,その結果を公表した。

また,日本語能力に課題のある児童生徒のための教育を充実するため,平成29(2017)年3月に,公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号)が改正された。それまで加配定数であった日本語指導のための教員定数を,平成29(2017)年度から10年間で計画的に基礎定数化し,令和8(2026)年度には日本語指導が必要な児童生徒18人に対して1人の教員を基礎定数として措置することとした。令和元(2019)年度予算において,この基礎定数化による,日本語指導に係る教員68人増を含む1,456人の定数改善を実施した。

さらに,平成27(2015)年度より,就学に課題を抱える外国人の子供を対象に,公立学校や外国人学校等への就学に必要な支援を学校外において実施する地方公共団体を補助している。

加えて,学習指導要領に基づき,子供たちが広い視野を持って異文化を理解し,共に生きていこうとする姿勢を育てるために,国際理解教育を推進している。

政府では,人身取引対策行動計画2014に基づき,人身取引対策の取組を進めている(第8章第7節参照)。

出入国在留管理庁では,人身取引が重大な人権侵害であり犯罪であるとの認識の下,被害者である外国人について,関係機関と連携して適切な保護措置を講ずるとともに,被害者の立場に十分配慮しながら,本人の希望等を踏まえ,在留期間の更新や在留資格の変更を許可し,被害者が不法残留等の入管法違反の状態にある場合には,在留特別許可を付与するなど,被害者の法的地位の安定を図っている。

なお,平成17(2005)年から令和元(2019)年までの15年間に,出入国在留管理庁が保護又は帰国支援した人身取引被害者は418人であり,そのうち不法残留等,入管法違反の状態となっていた186人全員に対し,在留特別許可を付与している。

法テラスでは,人身取引被害者が総合法律支援法に基づく民事法律扶助制度を活用可能な場合もあることから,婦人相談所等にリーフレットを配布して同制度の周知を行った。また,人身取引被害者が収入等の一定の要件を満たす場合には,国選被害者参加弁護士の選定を請求できること(被害者参加人のための国選弁護制度)や,刑事裁判の公判期日等に出席した場合に旅費等を請求できること(被害者参加旅費等支給制度)等も併せて,多言語で情報提供し,周知した。

4 性的指向や性同一性障害,女性であることで複合的に困難な状況に置かれている人々への対応

法務省の人権擁護機関では,法務局等において,人権相談に積極的に対応するとともに,専用相談電話「女性の人権ホットライン」を始めとする人権相談体制の充実を図っている。

なお,女性からの人権相談に対しては女性の人権擁護委員や職員が対応するなど相談しやすい体制づくりに努めているほか,必要に応じて関係機関と密接な連携協力を図っている。

文部科学省では,学校教育において,児童生徒の発達段階に応じて人権尊重の意識を高める教育を推進している。また,平成28(2016)年4月に作成したパンフレット「性同一性障害や性的指向・性自認に係る,児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を周知することにより,学校における適切な教育相談の実施等を促している。社会教育では,社会教育主事の養成講習等において,人権問題等の現代的課題を取り上げ,指導者の育成及び資質の向上を図った。また,大学等において,性的指向・性自認の多様な在り方に関する理解の増進や個別の事案に応じ学生個人の心情等に配慮したきめ細やかな対応の充実に資するよう,独立行政法人日本学生支援機構において, 平成30(2018)年12月に公表した教職員向けの理解・啓発資料を,令和元(2019)年度においても,学生支援担当の教職員を対象として,会議等を通じ引き続き周知した。