第4節 性犯罪への対策の推進

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第4節 性犯罪への対策の推進

1 性犯罪への厳正な対処等

捜査機関では,強制性交等罪(改正前の強姦罪),強制わいせつ罪,児童福祉法の淫行をさせる罪等の関係諸規定を厳正に運用し,適正かつ強力な捜査を推進するとともに,適切な科刑の実現に努めている。

また,性犯罪の被害者が警察へ届け出ずに医療機関を受診した場合,後に警察に届出をするときには身体等に付着した証拠資料が滅失している可能性があることから,医師等が受診時にこれを採取するための資機材を14都道県の医療機関に試行整備し,その結果等を踏まえ,知事部局等との連携による資機材の整備に係る予算の確保,整備先となる医療機関等の拡大等に係る取組を推進している。

さらに,強姦罪の構成要件及び法定刑の見直し等並びに強姦罪等の非親告罪化を内容とする刑法の一部を改正する法律(平成29年法律第72号)が平成29(2017)年6月に成立し,同年7月に施行されたところ,同法の附則第9条においては,同法の施行後3年を目途として性犯罪に関する総合的な施策の在り方を検討することとされており,法務省においては,その検討に資するよう,性犯罪の実態把握に努めている。

2 被害者への支援・配慮等

(1) ワンストップ支援センターの設置促進

内閣府では,都道府県による性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置について,令和2(2020)年までに各都道府県に最低1か所の目標を前倒しし,平成30(2018)年10月に全都道府県の設置が実現した。また,平成29(2017)年度に創設した性犯罪・性暴力被害者支援交付金を活用して,センターの安定的な運営が可能となるよう,各都道府県の実情に応じた取組の支援の充実を図っている。

(2) 女性警察官等による支援

警察では,指定された警察職員が事件直後から被害者に付き添い,病院の手配,自宅等への送迎,困りごとの相談等そのニーズに応じた適切な支援活動を行っている。

(3) 被害者の心情に配意した事情聴取等の推進

警察では,被害女性からの事情聴取等に当たっては,その精神状態等に十分配慮し,被害者が安心して事情聴取等に応じられるよう,被害者の望む性別の警察官による事情聴取体制を拡大するとともに,内装や設備等に配慮した事情聴取室や被害者支援用車両の活用を図っている。

(4) 診断・治療等に関する支援の充実

警察庁では,性犯罪の被害女性に対し,その被害に係る初診料,診断書料,緊急避妊措置費用,検査費用等を公費で支給しているほか,関係機関・団体と連携を図りながら,性犯罪被害者のニーズを十分考慮した対応に取り組んでいる。

(5) 被害者等に関する情報の保護

法務省・検察庁においては,刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に基づき,裁判所の決定があった場合,被害者の氏名及び住所その他被害者が特定されることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない制度や,検察官が,証拠開示の際に,弁護人に対し,被害者の氏名等がみだりに他人に知られないようにすることを求める制度について,円滑な運用に取り組んでいる。

(6) 被害者連絡等の推進

警察は,被害者連絡制度に基づき,被害者等に対する事件の捜査状況等の情報提供に努め,その精神的負担の軽減を図っている。

法務省では,被害者等通知制度により,検察庁,刑事施設,地方更生保護委員会及び保護観察所が連携して,被害者等からの希望に応じて,事件の処理結果,裁判結果,加害者の刑の執行終了予定時期,釈放された年月日,刑事裁判確定後の加害者の受刑中の処遇状況に関する事項,仮釈放審理に関する事項,保護観察中の処遇状況に関する事項等を通知し,その精神的負担の軽減を図っている。

また,少年審判において保護処分を受けた加害者についても,少年院,少年鑑別所,地方更生保護委員会及び保護観察所が連携して,被害者等からの希望に応じて,少年院在院中の処遇状況に関する事項,仮退院審理に関する事項,保護観察中の処遇状況に関する事項等を通知している。

なお,被害者等の再被害防止を目的として,検察庁,刑事施設及び地方更生保護委員会等と警察との間における情報提供に関する制度を整備し,検察庁において,更に詳細な釈放に関する情報を被害者等に通知しており,警察においても「再被害防止要綱」に基づき,再被害防止の徹底を図っている。

さらに,被害者等の希望に応じて,地方更生保護委員会が加害者の刑事施設からの仮釈放や少年院からの仮退院の審理において被害者等の意見等を聴取する意見等聴取制度や,保護観察所が保護観察中の加害者に対して被害者等の心情等を伝達する心情等伝達制度を実施している。

(7) 専門家の養成,関係者等の連携等

全国の地方検察庁では,犯罪被害者への支援に携わる「被害者支援員」を配置し,被害者からの様々な相談への対応,法廷への案内,付添い,事件記録の閲覧・証拠品の返還等の各種の手助けをするほか,被害者の状況に応じて精神面,生活面,経済面等の支援を行っている関係機関や団体等を紹介するなどの支援活動を行っている。

更生保護官署では,被害者等の支援業務に従事する「被害者担当官」と男女各1人以上の「被害者担当保護司」を全国の保護観察所に配置し,被害者等からの相談に応じ,悩み,不安等を傾聴し,その軽減又は解消を図るとともに,関係機関等を紹介し,その円滑な利用を支援するなどしている。

厚生労働省では,チーム医療推進会議が取りまとめた「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」11において,医師・助産師・臨床心理士等が連携し,各々の専門性を発揮して暴力被害者支援に取り組んでいる実践的な事例を盛り込み,ホームページ等で周知している。

内閣府では,性犯罪被害者等が安心して必要な相談・支援を受けられる体制を整備するために,地方公共団体の職員や性犯罪被害者等の支援を行う支援員を対象とした研修を行う「性犯罪被害者等支援体制整備促進事業」を実施し,先進的な取組等好事例を紹介するなどしている。

また,若年層の女性に対する性的な暴力である,いわゆるアダルトビデオ出演強要問題や「JKビジネス」問題等については,平成29(2017)年5月,関係府省対策会議において策定した「いわゆるアダルトビデオ出演強要問題・『JKビジネス』問題等に関する今後の対策」に基づき,関係府省による連携の下,更なる実態把握,取締り等の強化,教育・啓発の強化,相談体制の充実,保護・自立支援の取組強化などの取組を推進している。また,前記「今後の対策」において,毎年4月を「AV出演強要・『JKビジネス』等被害防止月間」と位置付け,必要な取組を集中的に実施している。加えて,若年層に対する性的な暴力の効果的な予防啓発及び被害者支援の充実に向けて,被害の予防・拡大防止に係る啓発媒体の検討及び被害者支援マニュアルの作成を行った。さらに,厚生労働省では,平成30(2018)年度より困難を抱えた若年被害女性等に対して,公的機関・施設と民間支援団体とが密接に連携し,アウトリーチから居場所の確保,公的機関や施設へのつなぎを含めたアプローチを行う仕組みを構築するためのモデル事業を新たに実施している。

11厚生労働省 チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ehf7.html

3 加害者に対する対策の推進

警察では,13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役し出所した者について法務省から情報提供を受け,各都道府県警察において,その所在確認を実施しているほか,必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど,再犯防止に向けた措置を講じている。

法務省では,指定した全国の刑事施設及び全国の保護観察所で性犯罪者処遇プログラムを実施するとともに,「性犯罪者の実態と再犯防止」と題する特集記事を掲載した「平成27年版犯罪白書」や性犯罪に関する研究の結果をまとめた「法務総合研究所研究部報告55(性犯罪に関する総合的研究)」をホームページで公表している。

4 啓発活動の推進

警察庁では,犯罪被害者等への支援・配慮がなされるよう,地方公共団体等と協力して,「犯罪被害者週間」(毎年11月25日から12月1日まで)に合わせた啓発事業を実施している。平成30(2018)年度は,警察庁主催の「犯罪被害者週間」中央イベントを東京で開催するとともに,地方公共団体と共催の地方大会を福岡県及び沖縄県において開催し,基調講演やパネルディスカッション等を行った。その他,性犯罪被害者を含む犯罪被害者等の支援体制を整備するため,地方公共団体等と協力して,地域における関係機関・団体間の連携を促進するなどの取組を行っている。