第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

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第2節 配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護等の推進

1 関係機関の取組及び連携に関する基本的事項

関係府省では,配偶者暴力防止法及び同法に基づく「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」(平成25年内閣府,国家公安委員会,法務省,厚生労働省告示第1号)に沿って,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策を積極的に推進している。

全国の都道府県等には,配偶者暴力防止法に基づいて,283か所(平成30(2018)年12月現在)の配偶者暴力相談支援センターが設置されており,配偶者からの暴力に係る相談,カウンセリング,一時保護(婦人相談所のみ),自立支援等の業務を実施している。また,このうち市町村における配偶者暴力相談支援センターの数は110か所(平成30(2018)年12月現在)となっている。

内閣府では,配偶者からの暴力の被害者支援に役立つ法令,制度及び関係機関についての情報等を収集し,内閣府のホームページを通じ,外国語版も含め提供している。

また,配偶者暴力相談支援センターにおける相談対応の質を向上させるとともに,被害者支援を充実させるために,都道府県と市町村,行政と民間の更なる連携の促進を図ることを目的として,官民の配偶者暴力支援の関係者(配偶者暴力相談支援センター長,事業の企画等を担当する職員,相談員等)を対象としたワークショップ等を行う「女性に対する暴力被害者支援のための官官・官民連携促進事業」を実施し,地域における関係者の連携事例や先進的な取組の共有・意見交換等を行った。

そして,配偶者等からの暴力の被害者に対する包括的な支援に向けて,被害者及びその子どもが直面する暴力の危険度判定指標を用いた加害者対応の在り方について,諸外国における先行事例を参考とした調査研究を行った。

さらに,DV等の被害者の支援等を行う民間シェルター等が置かれている厳しい状況に鑑み,民間シェルター等に対する支援の在り方についての検討会を開催した。

また,児童虐待と密接な関係があるとされるDVの被害者の適切な保護が行われるよう,相互に連携・協力すべき機関として児童相談所を法律上明確化すること等を内容とした,配偶者暴力防止法の一部改正を含む「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律案」を第198回通常国会に提出するとともに,平成31(2019)年3月に決定した「児童虐待防止対策の抜本的強化について」(児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)において,DV対応と児童虐待対応との連携強化に係る施策が盛り込まれた。

警察では,配偶者暴力防止法に基づき,裁判所から保護命令を発した旨の通知を受けたときは,配偶者暴力相談支援センターと連携し被害者の安全の確保を図るとともに,被害者に防犯上の留意事項を教示するなど,事案に応じた必要な措置を講じている。保護命令違反を認めたときには,検挙措置を講ずるなど厳正かつ適切に対処している。

また,各都道府県の被害者支援連絡協議会の下に設置されている性犯罪被害者支援分科会やDV・ストーカー被害者支援分科会,警察署レベルでの被害者支援地域ネットワーク等を通じて,関係機関相互の連携を強化している。

法務省の人権擁護機関は,関係機関との情報交換等を通じて,被害女性の救済に向けた連携の強化を図っている。

出入国在留管理庁(平成31(2019)年3月末までは,法務省入国管理局。以下同じ。)では,地方入国在留管理局(平成31(2019)年3月末までは,地方入国管理局)等の総務課に関係機関等との窓口となるDV(配偶者からの暴力)対策事務局を設置するなどの体制を構築し,関係機関等との連携強化を図るとともに,外国人被害者の保護に努めている。

厚生労働省では,配偶者からの暴力被害者の保護及び自立支援について,婦人相談所と関係機関等との連携の強化を図っている。具体的には,各都道府県による,婦人相談所と福祉事務所,民間シェルター等関係機関との定期的な連絡会議・事例検討会議の開催や関係機関の情報を掲載したパンフレット等の作成を促進している。

2 相談体制の充実

内閣府では,配偶者暴力相談支援センターにおいて,被害者に配慮した相談対応が行われるようにするため,相談員等に研修を実施している。

警察では,各都道府県警察の相談窓口の利便性を向上させ,被害者からの事情聴取に当たっては,プライバシーの保護に配意されたソフトな雰囲気の相談室等で行うなどして,被害者が相談・申告しやすい環境の整備を図っている。

法務省の人権擁護機関では,法務局等における人権相談所や,「女性の人権ホットライン」及びインターネットによる人権相談受付窓口において,配偶者からの暴力を含めた相談に応じているほか,被害者の申告等により,配偶者からの暴力事案を認知した場合は,速やかに所要の調査を行い,必要に応じて,配偶者暴力相談支援センター,警察等と連携を図りながら,被害者への必要な助言,一時保護施設への紹介等の援助をし,加害者に対しては,事案に応じて,改善を求める説示等の措置を講じている。

厚生労働省では,婦人相談所におけるDV等に関する相談・援助等において,弁護士等による法的な調整や援助を得る「法的対応機能強化事業」を実施している。また,平成30(2018)年3月に「婦人相談所ガイドライン」(平成26年3月雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長通知)を一部改訂し,相談体制等の充実を図っている。

3 被害者の保護及び自立支援

内閣府では,地方公共団体及び民間団体等の配偶者暴力被害者支援の関係者を対象としたワークショップにおいて,被害者の自立支援に関する情報提供を行っている。

警察では,女性に対する暴力の被害者に対して,加害者の検挙の有無にかかわらず,事案に応じた必要な自衛措置等暴力による被害の発生を防止するための措置について指導及び助言を行っている。

また,ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等の被害者等が相談に訪れた際,事案の危険性や被害の届出及び警察の執り得る措置を図示しながら分かりやすく説明する「被害者の意思決定支援手続」等を実施しているほか,危険性・切迫性の高い被害者等の安全を確保するため,緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合にホテル等の宿泊施設への一時避難にかかる費用について,公費負担を行う措置を講じている。

婦人相談所では,被害者及び同伴する家族の一時保護を実施するとともに,厚生労働大臣が定める基準を満たす民間シェルター等に一時保護を委託している。また,厚生労働省では,婦人相談所一時保護所及び婦人保護施設において配偶者からの暴力被害者等の心のケア対策を行う心理療法担当職員や同伴児童へのケアを行う指導員の配置を促進しているほか,自立のための就労支援の充実を図るため,婦人保護施設入所者の就職活動のための旅費を支給している。なお,平成30(2018)年度より,同伴児童に対する支援体制を強化するため,配置できる指導員の人数を最大3名から最大5名まで配置可能とした。

国土交通省では,被害者の居住の安定確保のため,地域の実情を踏まえた地方公共団体の判断による公営住宅への優先入居や目的外使用を行うことができるよう措置している。

出入国在留管理庁では,配偶者からの暴力の被害者である外国人を認知した場合,関係機関と連携して被害者の身体の保護を確実なものとする一方,被害者からの在留期間更新許可申請又は在留資格変更許可申請や,配偶者からの暴力に起因して不法残留等の出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)違反状態となっている被害者について,個々の事情に十分配慮の上,事案に応じ,人道上適切に対応している。

4 関連する問題への対応

(1) 児童虐待への適切な対応

児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)において,児童虐待は「身体的虐待」,「性的虐待」,「ネグレクト」,「心理的虐待」の4種類に分類されており,子どもが同居する家庭における配偶者等に対する暴力は,「心理的虐待」とされている。児童相談所の児童虐待の相談対応件数(平成29(2017)年度)は,児童虐待防止法施行前(平成11(1999)年度)の約11.5倍に増加(133,778件)しており,内容別に見ると,「心理的虐待」の割合が最も多く(54.0%),この要因の一つとして,子どもが同居する家庭における配偶者等に対する暴力がある事案(面前DV)について警察からの通告が増加していることが考えられる。

こうした状況を踏まえ,児童福祉法(昭和22年法律第164号)等の改正が2年連続で行われ,児童虐待について,発生予防から自立支援まで一連の対策の更なる強化等を図っている。平成28(2016)年5月に成立し,平成29(2017)年4月に全面施行された児童福祉法等の一部を改正する法律では,初めて子どもを権利の主体として法律に位置付けるなど児童福祉法の理念を明確化するとともに,「子育て世代包括支援センター」の設置,市町村及び児童相談所の体制の強化,里親委託の推進等の所要の措置を講ずることとされた。さらに,平成29(2017)年6月に成立し,平成30(2018)年4月に施行された児童福祉法及び児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第69号)では,虐待を受けている子ども等の保護を図るため,家庭裁判所が都道府県に対して保護者指導を勧告することができることとする等,司法関与を強化する等の措置を講ずることとされた。

また,平成30(2018)年7月に児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議において「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」を決定し,子どもの安全確認ができない場合の立入調査の実施等全ての子どもを守るためのルールの徹底等に取り組んでいる。厚生労働省では,緊急総合対策を受け,同年12月に「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」を策定し,令和元(2019)年度からの4年間で,児童相談所の児童福祉司を平成29(2017)年度の約3,240人から2,020人程度増員するとともに,子ども家庭総合支援拠点を全市町村に設置することとするなど児童虐待防止対策の強化に取り組んでいる。

さらに,関係閣僚会議において,平成31(2019)年2月に「『児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策』の更なる徹底・強化について」を,同年3月に「児童虐待防止対策の抜本的強化について」をそれぞれ決定するとともに,児童の権利擁護,児童相談所の体制強化や関係機関間の連携強化等を盛り込んだ「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律案」を第198回通常国会に提出した。

そのほか,虐待を受けたと思われる子どもを見つけた時などに,ためらわずに児童相談所に通告・相談できるよう,児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」を運用しており,児童相談所につながるまでの時間短縮を進めるため,平成28(2016)年4月に音声ガイダンスの短縮や,平成30(2018)年2月に携帯電話からの着信についてコールセンター方式を導入するなどの改善を進めている。

平成16(2004)年から,毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け,児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図っている。厚生労働省では,当該月間中,関係府省庁や地方公共団体,関係団体等と連携した集中的な広報・啓発活動を実施している。平成30(2018)年度は,「未来へと命を繋つなぐ189(いちはやく)」を月間標語として決定し,広報用ポスター,リーフレット等に掲載して配布したほか,内閣府で実施している政府広報の活用等により,児童相談所全国共通ダイヤル(189)の周知とともに,児童虐待は社会全体で解決すべき問題であることの周知・啓発を実施した。また,児童虐待防止の啓発を図ることを目的に民間団体(認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク)が中心となって実施している「オレンジリボン運動」を後援している。

文部科学省では,緊急総合対策を踏まえ,1各学校における児童虐待の早期発見に向けた取組及び通告,2関係機関との連携強化のための情報共有,3児童虐待防止に係る研修の実施などの積極的な対応等について通知した。

また,千葉県野田市における小学4年生死亡事案を受け,平成31(2019)年2月には,文部科学副大臣を主査とする省内タスクフォースを設置し,再発防止策を検討するとともに,平成31(2019)年2月の関係閣僚会議決定を受け,児童虐待事案に係る情報の管理及び関係機関間の連携に関する新たなルールを各都道府県教育委員会等に通知した。加えて,同年3月には,全国の児童生徒に対し,虐待をはじめ,いじめなど困ったことがあれば周りの大人に何でも相談してほしいと呼びかけることを目的として,大臣メッセージを発表した。

さらに,児童生徒が適切な相談を受けることができるよう,スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの活用等,教育相談体制の整備を支援している。

(2) 交際相手からの暴力への対応

配偶者暴力相談支援センターでは,交際相手からの暴力被害を受けた者からの相談に対応している。

警察では,交際相手からの暴力について,被害者等の生命・身体の安全の確保を最優先に,刑罰法令に抵触する事案については,検挙その他の措置を講じ,刑罰法令に抵触しない事案についても,被害者に対する防犯指導,加害者への指導警告等事案に応じた措置を講じている。

婦人相談所では,恋人からの暴力の被害女性についても,一時保護を含め,支援の対象としている。