特集 多様な選択を可能にする学びの充実

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特集 多様な選択を可能にする学びの充実

平成11(1999)年6月に男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号。以下「基本法」という。)が制定され,本年で20年になる。

この間,基本法に基づく男女共同参画基本計画や成長戦略等を通じた様々な取組が進められ,社会全体で女性の活躍の動きが拡大し,我が国社会は大きく変わってきた。

また,直近では,平成27(2015)年に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。以下「女性活躍推進法」という。)が成立し,我が国における男女共同参画社会の実現に向けた取組は新たな段階に入った。

平成30(2018)年度は,人生100年時代を見据え,幼児期から小中学校や高等学校での教育,高等教育,さらには社会人の学び直しに至るまで,生涯を通じて切れ目なく質の高い教育が提供される必要があるとされ,人づくり革命として関連施策が打ち出されたという動きがあった。

こうした動きを踏まえて女性の教育について振り返ると,この20年間で高等教育機関への進学率が大きく上昇し,進学先も徐々に多様化してきた。また,学校教育の場は,家庭生活や職場などよりも男女平等だと認識している者が多い。

一方で,現在でも進学や就職などの進路選択には男女差や相違が見られる。また,性別にとらわれることなく学び,能力を高めてきた若者が社会人になった後,男性中心型労働慣行(長時間勤務や転勤が当然とされている男性中心の働き方等を前提とする労働慣行をいう。以下同じ。)や育児・家事などの負担が女性に偏った家庭生活,いまだ,固定的な性別役割分担意識の根強い地域社会に直面するという現状もある。近年,女性の就業率は飛躍的に上昇しているが,女性にとっては,出産や子育て等でいったん労働市場から退出することが多く,従来から長期勤続が必ずしも一般的とは言えない中で,社会人の学び直しについても男性とは異なる側面がある。男女共同参画社会の更なる進展に向けて,人生100年時代を見据えた質の高い教育や学び直しは,女性の置かれている現状を踏まえた上で女性の自立・活躍の土台になるものである必要がある。

そこで,本年の特集では,女性の教育や学びについて現状を概観するとともに,様々な取組や事例を紹介しながら,多様な選択が可能となる学びの充実に向けた課題を明らかにする。

まず,第1節では,戦後の高度経済成長期から現在に至るまでの時代を3つに区切って(昭和50(1975)年頃まで,昭和50(1975)年頃から平成5(1993)年頃まで,平成5(1993)年頃から現在まで),高等教育機関への進学状況を中心に,女性の教育や学びの進展を振り返る。

次に,第2節では,学生時代の進路選択に関する男女の相違の背景について把握し,多様な進路選択を可能にするための課題を明らかにする。第3節では,社会人の学びに焦点を移し,勤務先企業における学びや再就職・起業のための学び,社会人学生の現状を概観するとともに,学びの充実に向けた課題を整理する。また,この節では,仕事のための学びに限らず,家庭生活や地域生活を充実させるための学びについても取り上げる。

最後に,第4節では,それまでの節を振り返りながら,学生時代と社会人を通じて,女性のライフコースや就業の多様化を踏まえながら学びをめぐる課題を整理し,男女ともに,学びによって自らの能力を高め,生涯を通じて学びを活かすことが出来るよう方向性を明らかにする。

特集のポイント


第1節 女性の教育・学びの進展

  • 女性の高等教育は,高度経済成長期に短期大学を中心に進学率が上昇したが,バブル経済崩壊期まではやや停滞。その後,大学の進学率が上昇するがいまだ男子を下回る。
  • 大学(学部)の専攻分野別男女割合は,特に工学,理学でなお女子割合が低い。
  • 女性有業者の高学歴化は進んでいるが,平成29(2017)年度時点で大学・大学院卒は2割(男性は4割)にとどまっている。
  • 進学先や専攻分野など,高等教育機関への進学の状況について男女の相違が小さくなると,学校卒業後に就く職業についても男女の相違が小さくなることが推察される。
  • 女性の専門的・技術的職業従事者の就業分野は多様化している。昭和49(1974)年度は教員が7割超であったが,平成29(2017)年度は保健医療従事者が4割強,技術者や教員が各々約2割となっている。

第2節 進路選択に至る女子の状況と多様な進路選択を可能とするための取組

  • 小学生の女子では国語よりも理科が好きな割合が高い。中学生になると数学や理科が好きな割合は低下し,自身を「文系タイプ」,「どちらかといえば文系タイプ」と回答する女子が多くなる。
  • OECDの調査によると,日本の女子の科学的リテラシー及び数学的リテラシーの点数は,諸外国の女子及び男子と比較すると高くなっている。女子の理系回避は成績ではなく環境が影響していると考えられる。
  • 男性教員が多い数学・理科のいずれかを女性教員から教わっている中学生女子は,2科目ともに男性教員から教わっている女子よりも,自身を「理系タイプ」,「どちらかといえば理系タイプ」と回答する割合が高い。
  • 働く上でのイメージや進路選択において女子は母親,男子は父親の影響が大きい。また,家族の意向や経済的理由による進学の制約を受けた者は女性の方が男性より多いものの,若い世代ほど減少している。
  • 大学等への進学時に,男性は「進学または就職に有利であること」を,女性は「就職のための資格が取れること」を重視する傾向がある。
  • 大学(学部)の女子割合は45.1%。一方で専攻別に見ると,工学を専攻する女子が際立って少ない。また,研究者の大半を占める工学・理学分野に特に女性研究者が少ない。
  • 多様な進路選択のためには,学生・生徒が固定的性別役割分担意識等にとらわれず,主体的に進路選択するためのキャリア教育の充実や,女性研究者が働きやすくすることが大切になる。

第3節 社会人の学び

  • 企業における研修の実施状況は,全ての内容項目で女性が男性より低い水準となっている。
  • 企業における人材育成は正社員中心であり,非正規雇用労働者の割合が男性より高い女性は初期から学びの機会が限られている。また管理職育成等を始めるタイミングが出産・子育てのピークに重なり,育児等の負担が女性に偏っている我が国においては,女性が管理職に必要な経験を積むことができない。働き方の多様化に応じたきめ細やかな雇用管理や研修・人材育成のためのマネジメント等が大切。
  • 出産・育児等のブランクを経た再就職には,働くことに対する不安を取り除き,自己肯定感を高めて仕事に就くことを後押しする学びが必要。
  • 具体的なイメージを持って起業に向けた行動を起こすため,やりたいことやアイデアを引き出し,事業化体験をする等の学び,ライフプランを考えながら起業を準備する学びも有益。
  • 女性にとって仕事のための学びに必要なことは,「経済的な支援があること」が最多。末子が小学校就学前の女性では,「家事等の負担が少なくなること」(48.8%)が同男性(16.2%)の約3倍。
  • リカレント教育推進のために,社会全体で社会人の学びを応援し,身に付けたことを評価する社会にしていくこと,どこに住んでいても必要な学び直しの場につながることが必要。
  • 仕事以外の活動のための学びの場が,地域社会活動を共にする仲間との出会いやネットワーク形成の場として機能している。
  • 男性が,家事・育児・介護の基礎的スキルを躊躇なく学ぶことができ,同じ境遇の者同士が悩みを共有する「居場所」となるような家庭生活のための学びの場が身近にあるべき。

第4節 学びの充実を通じた男女共同参画社会の実現に向けて

  • 家事・育児の負担が女性に偏っていることや固定的な性別役割分担意識が社会人女性の学びを制約し,男性中心型労働慣行が女性の進路選択に影響していることが考えられる。
  • 専門的・技術的職業分野の多様化に対応したリカレント教育や,男性中心型労働慣行を見直し,女性のやりがいを引き出すことが大切。また,地域で多様な学びが選択できるようにすることや地域で学びをいかす場を作っていくことも重要である。
  • 男女問わず社会人の学び直しの必要性は高まっている。固定的な性別役割分担意識や男性中心型労働慣行の変革と軌を一にして,多様な選択を可能にする学びを充実していくことが女性の活躍を深化させる原動力になる。
  • 多様なライフイベントや学びに彩られた女性の「人生グラフ」を,制約にとらわれず様々な学びを通じて多様な人生を実現していく指針に。