第1節 女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくり

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第8章 女性に対するあらゆる暴力の根絶

第1節 女性に対する暴力の予防と根絶のための基盤づくり

1 女性に対する暴力を容認しない社会環境の整備

男女共同参画推進本部は,毎年11月12日から同月25日(国連が定めた「女性に対する暴力撤廃国際日」)までの2週間,「女性に対する暴力をなくす運動」を実施している。

内閣府では,期間中,地方公共団体,女性団体その他の関係団体との連携・協力の下,意識啓発等の女性に対する暴力に関する取組を一層強化している。

また,女性に対する暴力の加害者及び被害者になることを防止する観点から,若年層に対する効果的な予防啓発を行うため,若年層に対して教育・啓発の機会を持つ教育機関の教職員,地方公共団体において予防啓発事業を担当している行政職員,予防啓発事業を行っている民間団体等を対象として研修を実施した。

さらに,国内の男女間における暴力の実態を把握するため,「男女間における暴力に関する調査」を実施した。

2 相談しやすい体制等の整備

(1) 相談・カウンセリング対策等の充実

内閣府では,配偶者からの暴力について相談できる窓口を知らない被害者を相談機関につなぐため,発信地等の情報から最寄りの配偶者暴力相談支援センター等の相談機関の窓口に自動転送する「DV被害者のための相談機関電話番号案内サービス(DV相談ナビ)」8を実施している。

警察では,被害女性の二次的被害の防止や精神的被害の回復を図るため,性犯罪,ストーカー事案,配偶者からの暴力事案等の被害女性から事情聴取を行うことのできる女性警察官や心理学等に関する知識を有しカウンセリング等を行うことのできる職員等の確保や,民間のカウンセラー等との連携に努めるとともに,被害者等が自ら選んだカウンセラー等のカウンセリングを受けた際の費用を警察において支払う,カウンセリング費用の公費負担制度の全国展開を図っている。また,被害女性の心情等を理解しこれに配意した対応等について警察職員に対する教養を充実させている。さらに,被害者等の精神的被害が著しく,その回復,軽減を図る必要がある場合には,被害直後から臨床心理士等を派遣し,被害者等の精神的ケアを行っている。

また,全国統一番号の警察相談専用電話「#9110」番の設置,各都道府県警察に設置している各種相談窓口の整備・充実,女性相談交番の指定や鉄道警察隊における女性被害者相談所の設置を行うとともに,平成29年8月には各都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通の短縮ダイヤル番号「#8103(ハートさん)」を導入した。

法務省の人権擁護機関では,専用相談電話「女性の人権ホットライン」を設置するとともに,インターネット人権相談受付窓口を開設するなどして,夫・パートナーからの暴力やセクシュアルハラスメント等女性の人権問題に関する相談体制のより一層の充実を図っている。平成29年度においては,「女性に対する暴力をなくす運動」期間中に,全国一斉「女性の人権ホットライン」強化週間を設けた。また,性的な画像を含むインターネット上の人権侵害情報に関する相談にも応じている。

日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)では,国,地方公共団体,弁護士会,犯罪被害者支援団体等との連携・協力の下,全国の相談窓口等についての情報を収集し,犯罪被害者等に対して,その相談内容に応じた相談窓口の紹介や法制度に関する情報を提供するほか,犯罪被害者支援の経験や理解のある弁護士の紹介等の犯罪被害者支援業務を行っている。また,平成30年1月24日からは,改正後の総合法律支援法(平成16年法律第74号)に基づくDV・ストーカー・児童虐待の被害者を対象とした新たな法律相談援助業務を開始している。加えて,経済的に余裕のない者については,民事裁判等手続を利用する際の弁護士費用等の立替えを行う民事法律扶助等による支援も行っている。そのほか,国選被害者参加弁護士の候補となる弁護士の確保や裁判所への指名通知,被害者参加旅費の支給等の業務を行っているところ,これらの業務を迅速・適切に行うため,地方事務所ごとに,関係機関等との連携強化に努めているほか,二次的被害の防止等に関する研修を行うなどして担当職員の能力向上に努めている。

厚生労働省では,婦人相談所において休日夜間も含めた相談体制の強化を図るなど,婦人相談所職員,婦人相談員等による被害女性からの相談体制の充実を図っている。また,婦人相談員による相談・支援の充実を図るため,婦人相談員手当について,勤務実態に応じた手当額となるよう拡充を図った。さらに,助産師について,助産師養成所の卒業時の到達目標の中に,思春期の男女への支援として「DV予防を啓発する」ことなどを盛り込んでいる。

8DV被害者のための相談機関電話番号案内サービス(DV相談ナビ)ナビダイヤル 0570-0-55210(全国共通)

(2) 研修・人材の確保

内閣府では,地方公共団体及び民間団体等の関係者を対象として,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号。以下「配偶者暴力防止法」という。)や,配偶者からの暴力及びストーカー行為への対応に関する専門的な研修を実施している。

また,地方公共団体の職員や性犯罪被害者等の支援を行う相談員を対象とした性犯罪に関する研修を実施した。

警察では,警察職員に対し,女性の人権擁護の視点に立った適切な対応等について教育を実施するとともに,女性に対するストーカー事案や配偶者からの暴力事案,性犯罪等の捜査要領等に関する教育を実施している。

法務省では,検察職員に対して,その経験年数等に応じた各種研修において,人身取引,児童ポルノ・児童買春等に係る関係法令や,被害者の保護・支援に関する講義を実施している。

また,矯正官署職員に対する各種研修の中で,配偶者からの暴力の防止等,女性の人権問題に関する講義を実施している。更生保護官署職員については,在職年数等に応じて実施している各種研修等において,配偶者からの暴力の防止及び女性に対する配慮等を含めた犯罪被害者等の保護・支援に関する講義を実施している。

さらに,各地方入国管理官署の業務の中核となる職員を対象とした人権研修において,人身取引対策や配偶者からの暴力対策等に関する講義を実施しているほか,人身取引及び配偶者からの暴力に関係する業務に従事する職員を対象として,これらの対策に特化した専門的な研修を実施している。

人権擁護事務担当者に対する研修においては,配偶者暴力防止法についての講義をカリキュラムに盛り込んでいる。また,人権擁護委員に対して実施する「人権擁護委員男女共同参画問題研修」に夫・パートナーからの暴力や性暴力被害者等についてのカリキュラムを組み込むなど,この問題への対応に努めている。

厚生労働省では,全国の婦人相談所職員,婦人相談員等を対象に,配偶者からの暴力被害者や人身取引被害者等に対する支援に関する研究協議会を開催した。また,婦人相談所等の指導的立場にある職員を対象に,配偶者からの暴力被害者等の支援における関係機関の連携について研修を実施した。さらに,各都道府県による,婦人相談所,婦人保護施設,母子生活支援施設,福祉事務所,民間団体等において直接被害女性を支援する職員や,婦人相談員等を対象とした専門研修の実施について,経験年数等に応じた研修が実施できるよう,研修実施回数の増加(年1回から年3回)を図った。

(3) 厳正かつ適切な対処の推進

警察では,被害者等の生命・身体の安全の確保を最優先に,刑罰法令に抵触する場合には,検挙その他の適切な措置を講じ,刑罰法令に抵触しない場合においても,事案に応じて,防犯指導や関係機関の紹介等の適切な自衛・対応策を教示するとともに,必要があると認められる場合には相手方に指導するなどして,被害女性への支援を推進している。

また,ストーカー事案や配偶者からの暴力事案等の人身の安全を早急に確保する必要性が認められる事案に一元的に対処するための体制を,平成26年4月までに全国の警察本部に確立し,組織による的確な対応を徹底している。

さらに,従来の検挙活動や防犯活動に加え,性犯罪等の前兆とみられる声掛け,つきまとい等の段階で行為者を特定し,検挙・警告等の措置を講じる活動(先制・予防的活動)の積極的な推進により,子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

法務省の人権擁護機関では,夫・パートナーからの暴力,セクシュアルハラスメント,ストーカー行為等についても,より一層積極的に取り組み,被害者からの申告等を端緒に人権侵犯事件として調査の上,適切な措置を講じている。

また,インターネット上の人権侵害情報について相談を受けた場合は,当該情報の削除依頼等を行う方法を助言するほか,調査の結果,当該情報が名誉毀損やプライバシー侵害などに当たり違法と認められるときは,プロバイダ等に対し当該情報の削除を要請するなどしている。

(4) 関係機関の連携の促進

内閣府では,地方公共団体に対し,女性に対する暴力に関する国の関係施策について周知するとともに,関係機関との連携協力について促している。

警察では,各都道府県の被害者支援連絡協議会や警察署レベルでの被害者支援地域ネットワーク等を通じて,関係機関相互の連携を強化している。また,各都道府県において民間の被害者支援団体が,電話又は面接による相談,裁判所への付添い等を行っており,警察は,これらの団体の運営を支援している。

厚生労働省では,児童福祉法等の一部を改正する法律(平成28年法律第63号)において,売春防止法第36条の2を新設し,婦人相談所長に対し,母子生活支援施設への入所が適当と認められる母子について,都道府県等への報告等を義務付け,関係機関との連携の強化を図っている。

3 女性に対する暴力の被害者に対する効果的な支援

内閣府では,地方公共団体,民間団体等の配偶者暴力被害者支援の関係者を対象としたワークショップを実施し,官官・官民の更なる連携強化等を図った。

警察では,女性に対する暴力の被害者に対して,加害者の検挙の有無にかかわらず,事案に応じた必要な自衛措置等暴力による被害の発生を防止するための措置について指導及び助言を行っている。また,必要に応じて通信指令システムへの電話番号登録やビデオカメラの貸与等被害防止に資する支援を行っている。

厚生労働省では,「『婦人相談所が行う一時保護の委託について』の一部改正について」(平成28年3月31日雇用均等・児童家庭局長通知)を発出し,平成28年度から,性暴力・性犯罪被害の女性についても,より適切な支援が可能な民間シェルター等への一時保護委託を可能とし支援を行っている。

4 女性に対する暴力の発生を防ぐ環境づくり

警察では,「安全・安心まちづくり推進要綱」(平成26年8月一部改正)に基づき,防犯カメラの整備を促進するなど,犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。

また,パトロールを効果的に推進するとともに,防犯ボランティア団体,地方公共団体等と連携しつつ,防犯教育(学習)の実施,防犯マニュアル等の作成,地域安全情報の提供,防犯指導,助言等を積極的に行うほか,女性に対する暴力等の被害者からの要望に基づき,地域警察官による訪問・連絡活動を推進している。

さらに,近年,繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業が出現していることから,これらの営業について各地域の実態把握に努めるとともに,各種法令を適用した取締りを実施するほか,稼働している女子高校生等に対する補導を推進している。加えて,SNSに起因する児童の犯罪被害が増加していることなどから,サイバー空間における犯罪被害から児童を守るため,出会い系サイト及びSNSに起因する児童の犯罪被害の実態やインターネットの危険性等に関する広報啓発活動等を推進している。特に,スマートフォン等の普及を踏まえ,関係府省等と連携し,携帯電話事業者に対する保護者へのフィルタリング等の説明強化に関する要請のほか,入学説明会等の機会を捉えた保護者に対する啓発活動や児童に対する情報モラル教育等の取組を推進している。

さらに,相談受理等を通じて認知したストーカー事案及び配偶者からの暴力事案について所要の分析を行い,その結果を警察庁ホームページ等で公表するとともに,若年層のストーカー被害を防止するため,高校生,大学生等を対象に,イラスト等を用いてストーカー被害の態様を説明した教材の作成,ストーカー事案に関する情報を発信するためのポータルサイトの作成等の広報啓発を推進している。