特集 スポーツにおける女性の活躍と男女の健康支援

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特集 スポーツにおける女性の活躍と男女の健康支援

2018年平昌オリンピック・パラリンピック競技大会は,女性を含む多くのアスリートの活躍のうちに幕を閉じ,いよいよ次は,56年ぶりに我が国で開催される2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に注目が集まっている。これを機に,国際オリンピック委員会(IOC)「オリンピック憲章」にも明記されている「スポーツにおける女性の地位向上」等の基本原則が,2020年東京大会のレガシー(遺産)として社会に浸透していくことが期待される。女性アスリートが抱える課題を認識し,適切な支援を行うことは,スポーツ分野にとどまらず,社会全体の女性活躍に関する取組にも有益な示唆を与えるものである。

また,アスリートだけでなく,一般の男女にとっても,自らが希望する形で働き,家庭生活を送る上で,健康がその基盤となることは言うまでもない。人々が直面する健康上の課題はライフステージごとに異なっており,特に女性の場合,女性ホルモンの急激な変化等によって,生涯を通じ,男性にはない心身の変化を経験する。また,女性の社会参画が進み,健康の課題も変化したが,女性の健康への理解や支援体制は必ずしも十分とはいえない。男女ともに,健康について正しい知識を持ち,生涯を見通したきめ細かな支援を行うことは,人生100年時代において,充実した人生を全うするために不可欠であるのみならず,多様な個人が能力を発揮できる一億総活躍社会に向けた投資ともいえる。

本章第1節では,オリンピック・パラリンピック競技大会を中心に,スポーツ分野における女性活躍の歩みと現状を報告するとともに,トップアスリートの生の声も交えながら,女性アスリートやその支援者を取り巻く課題や取組を明らかにする。第2節では,男女の健康について理解を深めることを目的とし,特に女性がライフステージごとに直面する健康上の課題や性差医療,医療分野の女性参画の状況等について概観する。

特集のポイント


第1節 スポーツにおける女性の活躍

  • オリンピック出場選手に占める女子選手の参加割合(世界)は,夏季・冬季大会ともに増加傾向にある。また,オリンピック日本選手団に占める女子選手の割合は,夏季大会では,近年,おおむね半数で推移し,2016年リオ大会では48.5%であった。冬季大会では,2014年ソチ大会で初めて5割を超え,2018年平昌大会では58.1%と過去最高となった。
  • パラリンピック出場選手に占める女子選手の参加割合(世界)は,夏季大会では増加傾向である一方,冬季大会では,2割程度にとどまっている。パラリンピック日本選手団に占める女子選手の参加割合は,夏季大会では,近年3~4割程度で推移している。冬季大会では,2014年ソチ大会で過去最高の3割となったが,2018年平昌大会では13.2%に低下した。
  • 最近の夏季オリンピック4大会においては,金メダル獲得数は女子選手が男子選手を上回る。冬季大会では,2018年平昌大会で計8個のメダルを獲得し,過去最多となった。パラリンピックにおいては,夏季大会では2004年アテネ大会後急激にメダル数が低下し伸び悩んでいる。冬季大会では,2018年平昌大会で5個のメダルを獲得した。
  • 女性アスリートの活躍が進む一方で,女性アスリートの選手生命に大きな影響を及ぼす徴候として,「女性アスリートの三主徴」(摂食障害の有無によらない利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗しょう症)が指摘されている。
  • 無月経や疲労骨折の既往は,新体操や体操,フィギュアスケートなどの体重管理の重要性が高い審美系の競技で多く見られる。無月経の割合は,競技者のレベルで差がなく,疲労骨折経験者の割合は,日本代表レベルの選手より全国大会レベル以下の選手の方が高い。
  • 最近の夏季3大会における日本選手団のコーチに占める女性の割合は,オリンピックで10%程度,パラリンピックで20%程度であり,いずれも選手団に占める女子選手の割合を大きく下回る。
  • 成人の週1回以上のスポーツ実施率を年齢別に見ると,男女とも30~40代で低く,また,男女別に見ると,30代,40代ともに,女性は男性より10%ポイント近く低い。中高生の運動部活動への参加率を見ると,いずれも男子と比べて女子は低水準である。
  • 日本のスポーツ団体(119団体)の女性役員割合の平均は10.7%(平成29年8月現在)。日本スポーツ協会加盟競技団体における女性役員の割合を見ると,28年の調査時点と比べて,24団体で女性役員が増加し,女性役員数がゼロであった団体のうち4団体が女性役員を登用した(29年8月現在)。

第2節 男女の健康支援

  • 我が国の平成28年の平均寿命は女性が87.14年,男性が80.98年と世界でも高い水準。健康寿命は女性が74.79年,男性が72.14年,平均寿命と健康寿命の差は女性が12.35年,男性が8.84年。
  • 女性は性ホルモンの動きにより,思春期,成熟期,更年期,老年期と,男性とは異なる心身の変化に直面する。男性の性ホルモンが加齢によって緩やかに下降するのに対し,女性では急激な減少・喪失という,大きな性ホルモンの動きが40代後半~50代に訪れる。
  • 人工妊娠中絶数は近年減少傾向にあり年齢階級間の差も縮小しているものの,10代の人工妊娠中絶数は約15,000件である。
  • 月経痛,月経による体調不良・精神不安等の月経に伴う症状を20代,30代の相当数の女性が感じている。平成20年に低用量ピルが月経困難症治療薬として保険収載されており,現在は,月経に伴う症状についても,婦人科で幅広い治療法が提供されている。
  • 不妊治療(体外受精)の治療延べ件数は,平成27年には40万件を超えた。不妊治療を行った場合でも,年齢が上がると,生産分娩率が下がる傾向が見られる。
  • 乳がんと子宮がんは,20代後半から罹患率が上昇し,40代後半~50代前半でピークになるのに対し,胃がんや大腸がん,肺がんなど男性の罹患率が高いがんは,年齢が上がるほど罹患率も上昇する。
  • 65歳以上の高齢者を対象にした研究結果を見ると,フレイルもフレイル予備群も女性の方が多い。65歳以上の要介護認定者数は,607万人(女性422万人,男性185万人)で,男女とも80歳以上になると認定率が急上昇するが,特に女性の上昇率が高い(平成27年度末現在)。
  • 健診等の受診状況は,いずれの年代でも男性の方が高い。女性のうち,正規職員は30代で8割以上の者が健診を受けているのに対し,仕事なしで家事を担う者では3割程度と大きな開きがある。
  • 痛風や脳卒中は男性の通院者率が高く,骨粗しょう症や甲状腺の病気,関節リウマチ等は女性が高い。女性の通院者率が高い骨粗しょう症は,閉経前後の50代前半から女性の通院者率が大きく上昇する。
  • 医師,歯科医師に占める女性の割合は増加傾向にあり,医師は21.1%,歯科医師は23.0%(平成28年12月末現在)。OECD加盟国では,女性医師の割合が4~5割を占める国が多い。