第1節 仕事と生活の調和の実現

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第1節 仕事と生活の調和の実現

1 仕事と生活の調和に関する意識啓発の推進

経済界,労働界,地方公共団体の代表者,有識者,関係閣僚により構成される仕事と生活の調和推進官民トップ会議において,政労使の合意の下,平成19年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(以下「憲章」という。)及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(以下「行動指針」という。)が策定され,これに基づき,官民一体となり,仕事と生活の調和実現に向けた取組が行われている。「行動指針」には,平成32年(2020年)に向けた数値目標が設定されているほか,点検・評価を行うこととされている。

仕事と生活の調和推進官民トップ会議の下に設置されている仕事と生活の調和連携推進・評価部会(以下「評価部会」という。)は,平成24年度において数次にわたって開催され,「憲章」・「行動指針」に基づく取組の点検・評価を行った。点検・評価結果については,毎年,企業と働く者,国民,国,地方公共団体等の取組を今後の展開を含めて紹介するとともに,今後重点的に取り組むべき事項を提示した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート」を取りまとめ,同年12月に2012年版を公表した。同レポートでは,評価部会による現状分析や有識者ヒアリングの内容が盛り込まれるとともに,介護休業等の働き方に関する制度や介護保険制度等社会全体で高齢者介護を支える仕組みについて,働きながら親や配偶者の介護に携わる人が知識・情報を得られるよう,国,地方公共団体等が引き続き取り組んでいくことが重要とされた。

内閣府では,平成24年度より,「仕事と生活の調和取組事例紹介事業」を開始した。「憲章」等において,企業とそこで働く者が働き方の改革に自主的に取り組むこととされていることを踏まえ,働く者の取組として,部・課・班・チーム等の単位で業務の効率化等働き方の改善に取り組むことでワーク・ライフ・バランスに成果を上げたチーム等の事例を公募し,好事例を「カエルの星」として認定し,内閣府特命担当大臣(男女共同参画)表彰を行った。同年度は6チームを認定し,政府広報とも連携して,雑誌,ラジオ,政府広報オンラインを通じて情報発信した。

また,気運の醸成に向けた取組として,「カエル!ジャパン」キャンペーンを推進しているほか,月に1回,ワーク・ライフ・バランスに関する国の施策や関連行事等の周知や情報を分かりやすく紹介する「カエル!ジャパン通信」を配信している。さらに,東日本大震災による節電の影響により多くの企業が時短勤務や勤務時間帯の変更等働き方の見直しを行うこととなったことを踏まえ,東日本大震災による節電対応の前後を含む期間における企業の対応の把握・分析を通じて,働き方に関する様々な課題を明らかにし,今後の検討に資するための調査を実施した。

加えて,平成24年度はワーク・ライフ・バランスに関する情報交換を促進し,企業の取組推進を支援するため,企業の人事労務を担当する管理職層を対象とする「働き方シンポジウム」,地方自治体の担当者を対象とする「ワーク・ライフ・バランスシンポジウム」を開催した。

さらに,同年度には,男女共同参画推進連携会議における「ワーク・ライフ・バランスの取組推進」チームを組織して,チームメンバーである各団体の取組や課題等の報告,それらを踏まえた議論と共通認識の整理等を通じて,ワーク・ライフ・バランスの必要性や取組方法についての理解を深め,団体やその傘下団体の主体的な取組を推進し,国民各層への気運醸成を図った。

厚生労働省では,「憲章」及び「行動指針」を踏まえつつ,あらゆる機会を捉え,職業生活と家庭生活の両立を図りやすくするための雇用環境の整備に関する周知啓発活動を積極的に行っている。

特に父親の子育てについては,平成22年6月の改正育児・介護休業法の施行と併せ,育児を積極的に行う男性「イクメン」を広めるため,「イクメンプロジェクト」を開始し,24年度も引き続き実施した。本プロジェクトは,参加型の公式サイト6の運営やハンドブックの配布等により,男性が育児をより積極的に楽しみ,かつ,育児休業を取得しやすい社会の実現を目指している。

6厚生労働省委託事業 イクメンプロジェクト http://ikumen-project.jp/index.html


イクメン本人だけでなく,周りの人や企業等広く社会に活動を広げていくために,公式サイトではイクメンを応援するイクメンサポーターを募集している。さらに,イクメンサポーター企業が従業員向けに行っている両立支援の取組を紹介するなど,企業の自発的な取組を促進している。

2 育児や家族の介護を行う労働者が働き続けやすい環境の整備

(1) 働き方の見直し

厚生労働省では,依然として週60時間以上就業する労働者の割合が高水準で推移し,年次有給休暇の取得率が5割を下回る状況にあり,労働者の意識や抱える事情の多様化等の課題に対応するために,労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)及び「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針(平成18年厚生労働省告示第197号))に基づき,所定外労働時間の削減及び年次有給休暇の取得促進を始めとした労使の自主的な取組を促進する施策を推進した。


(2) 父親の子育てへの参画や子育て期間中の働き方の見直し

文部科学省では,就学時健診等の多くの親が集まる機会を活用した家庭教育に関する学習機会の提供を支援している。

また,父親の家庭教育への参加を促進するため,父親の家庭教育を考える集いや,企業に出向いた学習講座の実施等を支援している。


(3) 企業における仕事と子育て・介護の両立支援の取組の促進,評価

次の世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境をつくるために,次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号。以下「次世代法」という。)に基づき,国,地方公共団体,事業主,国民がそれぞれの立場で次世代育成支援を進めている。

地域や企業の更なる取組を促進するため,平成20年12月に次世代法が改正された。この改正法の施行により,23年4月1日から「一般事業主行動計画」(以下「行動計画」という。)の策定・届出等が義務となる企業が常時雇用する従業員数301人以上企業から101人以上企業へ拡大された。これを受けて厚生労働省では,次世代育成支援対策推進センター(行動計画の策定・実施を支援するため,厚生労働大臣が指定した事業主団体等),労使団体及び地方公共団体等と連携し,行動計画の策定・届出等の促進を図っている。

また,適切な行動計画を策定・実施し,その目標を達成するなど一定の要件を満たした企業は厚生労働大臣の認定を受け,認定マーク(愛称:くるみん)を使用することができるとされているところである。この認定制度及び認定マークの認知度を高めるため,認定企業の取組事例や認定を受けるメリット等を積極的に紹介するとともに,平成23年6月に創設された認定企業に対する税制上の措置7を周知し,認定の取得促進を図っている。


7平成23年4月1日から26年3月31日までの期間内に開始する各事業年度において次世代法に基づく認定を受けた企業は,認定を受けた日を含む事業年度終了の日において有する建物等のうち,認定を受ける対象となった行動計画の計画期間開始の日から認定を受けた日を含む事業年度終了の日までの期間内に取得・新築・増改築をした建物等について,普通償却限度額の32%の割増償却ができる。

【参考:平成25年3月末現在】

・一般事業主行動計画届出状況

規模計 70,333社

301人以上企業 14,529社

(届出率98.4%)

101人以上300人以下企業 32,109社

(届出率97.7%)

100人以下企業 23,659社

・認定企業 1,471社

育児や介護を行う労働者が働き続けやすい雇用環境の整備を行う事業主等を支援するため,両立支援助成金の支給を行っている。

さらに,仕事と家庭の両立に向けた企業の自主的な取組を推進するため,インターネットで設問に答えると自社の「仕事と家庭の両立のしやすさ」を点検・評価することができる両立指標や両立支援を積極的に取り組んでいる企業の取組等を掲載したサイト「両立支援のひろば」8を運用するとともに,企業の両立支援の進捗状況に応じた取組のポイントと様々な企業の具体的な取組事例をまとめた「ベストプラクティス集」(中小企業における両立支援推進のためのアイディア集)による効果的・効率的な情報提供を行っている。

8 厚生労働省委託事業 両立支援総合サイト「両立支援のひろば」http://www.ryouritsu.jp/index.html


加えて,仕事と育児・介護等との両立支援のための取組を積極的に行っており,かつ,その成果が上がっている企業に対し,公募により「均等・両立推進企業表彰」を実施し,その取組をたたえ,広く周知することにより,労働者が仕事と家庭を両立しやすい職場環境の整備を促進している。

また,国及び地方公共団体においても,職員を雇用する「事業主」の立場から,職員の仕事と子育ての両立支援等に関する「特定事業主行動計画」を策定することとされており,実情を踏まえつつ,より一層職員の職業生活と家庭生活の両立を図っている。


(4) 自営業者,農林水産業に携わる人々など多様な働き方における仕事と生活の調和の普及

農林水産省では,生産と育児や介護との両立を支援するため,家族経営協定の締結の促進を図った。

3 仕事と子育てや介護との両立のための制度等の普及,定着促進

育児・介護期は特に仕事と家庭の両立が困難であることから,労働者の継続就業を図るため,仕事と家庭の両立支援策を重点的に推進する必要がある。

平成23年度には,女性の育児休業取得率は87.8%と,育児休業制度の着実な定着が図られつつある。しかし,第1子出産後の女性の継続就業割合をみると,子どもの出生年が17年から21年である女性の継続就業率は38.0%(平成22年)にとどまっており,仕事と育児の両立が難しいため,やむを得ず辞めた女性も少なくない。

また,男性の約3割が育児休業を取りたいと考えているが,実際の取得率は2.63%(平成23年度)にとどまっている。さらに,男性の子育てや家事に費やす時間も先進国中最低の水準にとどまっている。こうした男女とも仕事と生活の調和のとれない状況が女性の継続就業を困難にし,少子化の原因の一つとなっていると考えられる。

こうした状況の中,男女共に子育て等をしながら働き続けることができる環境を整備することを目的に,平成21年6月に育児・介護休業法の一部が改正され,短時間勤務制度の措置義務や所定外労働を免除する制度の新設のほか,父母が共に育児休業を取得する場合の休業期間の延長(パパ・ママ育休プラス)等,父親の育児休業取得を促進するための制度の導入等が盛り込まれた。このうち,短時間勤務制度,所定外労働の制限の制度及び介護休暇については,これまで従業員数が100人以下の事業主には適用が猶予されていたが,24年7月1日から全面施行された。

厚生労働省では,この育児・介護休業法の周知・徹底を図るとともに,法律に規定されている育児・介護休業や短時間勤務制度等の措置等の両立支援制度を安心して利用できる職場環境の整備を支援している。

都道府県労働局雇用均等室では,計画的に事業所を訪問し,就業規則等で必要な制度が設けられているかを確認するなど,育児・介護休業法に規定されている制度の普及・定着に向けた行政指導を実施している。また,育児休業等の申出や取得を理由とした不利益取扱いに対しては,相談者の意向に配慮しつつ,相談事案が生じている事業所に対する報告徴収を積極的に実施し,迅速かつ厳正に対応している。

さらに,平成19年4月に成立した雇用保険法等の一部を改正する法律(平成19年法律第30号)において,19年10月から22年3月31日までの暫定措置として,雇用の継続を援助,促進するための育児休業給付の給付率を休業前賃金の40%(休業期間中30%・職場復帰6か月後に10%)から50%(休業期間中30%・職場復帰6か月後に20%)に引き上げ,21年3月に成立した雇用保険法等の一部を改正する法律(平成21年法律第5号)において,22年3月末まで給付率を引き上げている暫定措置を当分の間延長するとともに,休業中と復帰後に分けて支給している給付を統合し,全額を休業期間中に支給することとした。

政府では,テレワークが様々な働き方を希望する者の就業機会の創出及び地域の活性化等に資するものとして,関係各省が連携し,テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備,普及啓発等を推進している(第5章第5節2参照)。

4 仕事と生活の調和等に関する統計の整備

総務省では,平成23年度に,年次有給休暇の取得日数,仕事からの個人の年間収入等,仕事と生活の調和の分析に資する項目を新たに追加して社会生活基本調査を実施した。また,24年度に同調査の結果を公表し,「行動指針」の数値目標となっている「6歳未満の子どもをもつ夫の育児・家事関連時間」を始めとした仕事,家事,育児,趣味・娯楽,スポーツ,休養等の時間量の実態把握に資する基礎資料を提供している。