平成23年版男女共同参画白書

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第2節 防災(災害復興を含む)

防災分野における男女共同参画の推進は,防災の観点からも男女共同参画の観点からも重要な課題であり,第3次男女共同参画基本計画において重点分野の一つに位置付けるとともに,「防災基本計画」に規定された男女のニーズの違い等男女双方の視点に十分配慮すべき事項や男女共同参画の視点を取り入れた防災体制の確立について,地方公共団体に対して地域防災計画への規定を要請するなど,その推進を図っている。

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害(東日本大震災)は,死者15,281名,行方不明者8,492名(5月31日時点)に及び,明治時代以降では,関東大震災に次ぐ極めて深刻な被害をもたらしている。被害が大きかった岩手県,宮城県,福島県の3県で収容された死者のうち,検視等を終えた者(4月11日時点)の男女別数については,男性5,971名,女性7,036名(性別不詳128名)であり,男女別・年齢別に見ると図のとおりとなっている(第2-13-1図)。

第2-13-1図 東日本大震災の男女別・年齢階層別死者数(岩手県・宮城県・福島県)
第2-13-1図 東日本大震災の男女別・年齢階層別死者数(岩手県・宮城県・福島県)

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東日本大震災に際しては,男女共同参画の視点を踏まえて,以下の取組を行っている。(注:本節の東日本大震災対応に係る施策については,一部,平成23年度当初に講じた施策についても記述している。)


(1) 女性のニーズを踏まえた災害対応について

内閣府男女共同参画局において,平成23年3月16日に,避難所等での生活に関し,「女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応について」を取りまとめ,関係機関に依頼・働きかけを行った。

【参考】「女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応について」(概要)

1 避難所で提供する物資:生理用品,おむつ,粉ミルク,離乳食等

2 避難所の設計での配慮:プライバシーを確保できる仕切り,男性の目線が気にならない更衣室・授乳室・入浴設備,安全な男女別トイレ,乳幼児のいる家庭用エリア等

3 避難所の運営での配慮:避難所の運営体制への女性の参画,悩み相談サービスの提供等

4 女性に対する暴力予防:警察など関係機関による警備強化,相談サービスの提供と周知,安全な環境整備,注意喚起


(2) 女性の悩み相談サービスの提供と周知

地方公共団体に対し,女性被災者に対する相談窓口の設置を依頼した。また,女性の悩み全体について相談できる地方公共団体の窓口や,性暴力,DVなど女性に対する暴力の悩みについての電話相談窓口,女性の人権ホットラインなどの相談サービスなど,被害者支援等の各種窓口についての情報を取りまとめ,周知を行った。

なお,平成23年2月8日から3月27日まで実施した「パープルダイヤル」電話相談事業には,「震災のストレスで配偶者の暴力がひどくなった」,「住居が被災したため身を寄せている場所で暴力を受けている」などの相談も寄せられた。


(3) 女性の雇用を支援する取組

被災労働者等に係る産前産後休業や育児休業などを理由とする解雇や性別を理由とする解雇などの相談について,被災地域等の雇用均等室に雇用均等特別相談窓口を設置し,きめ細かく対応するとともに,トラブルの未然防止に向けた指導を実施している。

また,復興に向けて,女性の就労等への支援につながる政府の事業についての情報を取りまとめ,公表・周知を行った。


(4) 妊産婦への対応

被災地における妊婦等の受入体制等について,相談窓口を設置し,被災した地方公共団体や医療機関から要請があった時には,適切に対応するよう,都道府県に依頼した。

また,母子健康手帳の交付や妊婦の健康診査について,住民票の異動の有無にかかわらず,避難先の地方公共団体において適切にサービスが受けられるよう,都道府県等に依頼した。

さらに,被災し,避難している妊産婦等について,優先的に住まいの確保に努めることを地方公共団体に依頼した。


(5) 被災地での女性自衛官・女性警察官によるきめ細かな対応

防衛省では,平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生当日から,自衛隊として航空機による情報収集,被災者の救助,人員及び物資輸送,給食・給水支援,医療支援,道路啓開,瓦礫除去,慰問演奏などの活動に予備自衛官,即応予備自衛官を含め,最大時で10万人以上の隊員が従事した。中でも,女性被災者への配慮という観点から,女性が必要とする救援物資の要望をきめ細かく聞き取り,適切に届けるなどの業務(いわゆる「御用聞き」)や被災した会社の女子寮の捜索,入浴支援などに幅広く女性自衛官が活躍している。

また,避難所での生活が長期間にわたることから生じる様々な問題を解消し,被災者の安全・安心を確保するため,女性警察官等が避難所を訪問して,被災者に寄り添い,親身になって相談を受けるなど,支援活動を行っている。このため,全国の警察から女性警察官を中心とする部隊を編成し,岩手県,宮城県,福島県に派遣している。

被災地での女性自衛官・女性警察官によるきめ細かな対応


(6) 情報の周知

東日本大震災への対応に関する情報を,男女共同参画局ホームページに「災害対応」のページを作成し周知している。また,「壁新聞」など様々なメディアを活用して,被災地等に周知を行った(下記コラム参照)。さらに,男女共同参画局の職員を継続的に現地に派遣し,女性のニーズや現地での取組状況についての情報収集を行うとともに,関係機関への情報提供を行った。

コラム 〈東日本大震災への対応〉

(7) 復興に係る好事例の収集と情報提供

阪神・淡路大震災等の過去の震災からの復興について,復興住宅の運営,女性の雇用・起業,女性の意見の集約と反映など,男女共同参画の視点からの好事例を収集し,「復興・生活再建への女性の視点」として取りまとめ,ホームページなどで紹介した。

【参考】復興・生活再建への女性の視点:阪神・淡路大震災等における参考事例

1 復興住宅の運営

・設計において生活面での意見を取り入れる仕組みになっていなかったため,台所にガスコンロとシンクしかなく,まな板を置くスペースがなかった。その後,女性の意見が取り入れられ改善された。

・復興住宅の敷地の中に人々が集まれる場を作ることで,住民が集い,気軽に話をするようになり,コミュニティの形成支援につながった。


2 女性の雇用・起業

・例えば,保育所が機能しない等により子どもを預ける場がないと,女性の就業(継続)が難しくなる(平成16年(2004年)新潟県中越地震では,地元の中小企業が社内に臨時託児所を設置した例もある。)。

・男性が仕事を失い,女性が働く必要性が高まったので,地震発生2か月後からパソコン技術研修を実施して技術を身につけた。しかし,求人がないので,自ら起業する「女たちの仕事づくりセミナー」を始めたところ,定員の倍の応募があった。

・介護,子育て等の生活に密着したサービスのニーズが高まり,女性の得意分野で培った能力が活用できるコミュニティ・ビジネスが求められた。そこで,「被災地コミュニティ・ビジネス離陸応援事業」として起業支援を行った(阪神・淡路大震災復興基金を活用。1件当たり300~400万円)。コミュニティ・ビジネスの起業は,資金面やノウハウの面で女性にも参入障壁が低く,活用された。また,「生きがいしごとサポートセンター」により,NPOやコミュニティ・ビジネスへの就職支援情報が提供され,雇用創出が図られた。


3 女性の意見の集約と反映

・男女共同参画センターにおいて,男性女性を問わず,電話相談や法律相談を行った。男性が仕事を失ったこと等を背景に,過度の飲酒,DV,離婚に関する相談が多かった。また,避難生活や同居に伴う親戚トラブルや,相続に関する相談も多かった。こうした相談やそれまでの市民団体とのネットワークを活用して,行政では把握しきれない被災者の生活面でのニーズを収集し,ニーズに基づいた情報を提供することができ,円滑な生活再建に貢献した。

・被災(1月17日)から1か月後の2月22日から,兵庫県内4か所でフォーラムを開催し,女性達が集まって活発に議論を行った。その成果は6月に「男女共生まちづくり検討委員会」の提言としてまとめられたが,それが県の復興計画にも反映され,元気な地域づくりにも貢献した。

・ 「生活復興県民ネット」という,老舗の民間団体から小さなNPOやグループまでが集まる,緩やかなネットワーク団体を立ち上げた。1組織1票を持ち,良い意見ならば「県民ネット」の総意として県や民間団体に提案した。女性でも小さな団体でも意見を出してよいという雰囲気ができ,多くの意見が集まり,復興計画にも反映された。

上記のような取組を進めている一方で,避難所運営等に当たり,女性のニーズへの配慮や女性の参画についての対応が十分に行われていない事例や,増大した家庭的責任が女性に集中している事例が見られる。例えば,避難所に生理用品や粉ミルクが備蓄されていなかった事例,更衣室がないため,女性が周りの目を気にしながら布団の中で着替えを行っている事例,安全な場所に男女別のトイレがないため,トイレに行きづらいという事例,女性用の物干し場所がないため,安心して洗濯した下着等を干せない事例などである。地域や社会全体で男女共同参画が十分に進んでいないこと,また,これまでの災害を通じて得られた教訓が十分にいかされていないことがその背景にあり,災害時において顕在化している面もある。日頃から防災やまちづくりを始め,地域・社会全体で,男女共同参画を進めていくことが重要である。

さらに,東日本大震災への対応について,被災者支援や生活再建,まちづくりを始めとする復興など,災害対応の状況に応じて,男女共同参画の視点を踏まえ,多様なニーズに配慮しながら,更にきめ細かい取組を進めるとともに,女性の参画を促進していくことが必要である。また,今後男女共同参画の観点から課題の抽出等を行い,その教訓をいかし,災害対策の改善を図っていく必要がある。