平成22年版男女共同参画白書

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第5章 生活困難な状況に置かれた男女の状況

(生活困難層の増加)

貧困に加え,教育や就労の機会を得られない,健康を害する,地域社会において孤立するなど,社会生活上の困難も含めた困難な状況を示す概念として「生活困難」を用い,その状況をみてみると,生活困難は幅広い層に広がっていることが分かる。

その背景には,単身世帯やひとり親世帯の増加など家族の変容,非正規労働者の増加など雇用・就業をめぐる変化,定住外国人の増加などにみられるグローバル化などがある。厚生労働省が平成21年10月に公表した相対的貧困率(以下「貧困率」という。)を見ると,全体の貧困率は10年の14.6%から19年には15.7%へ,子ども(17歳以下)では13.4%から14.2%へといずれも上昇している。

(女性の生活困難の状況)

男女それぞれに年齢層別に貧困率を推計してみると,ほとんどの年齢層で,男性よりも女性の貧困率が高く,その差は高齢期になると更に拡大する傾向にある(第23図)。世帯類型別では,高齢者や勤労世代の単身世帯で貧困率が高く,中でも女性の方が厳しい状況にある。また母子世帯で貧困率が高く,その影響が母子世帯の子どもにも見られる(第24図)。

第23図 男女別・年齢階層別相対的貧困率(平成19年)
第23図 男女別・年齢階層別相対的貧困率(平成19年)

第24図 年代別・世帯類型別相対的貧困率(平成19年)
第24図 年代別・世帯類型別相対的貧困率(平成19年)

(生活困難の複合化,固定化,連鎖)

内閣府が実施した支援機関・団体へのヒアリング調査によると,一人の生活困難者に複数の要因が影響している(複合化),一旦生活困難な状況になると長期にわたり抜け出せない(固定化),生活困難な状況が次世代に受け継がれる(連鎖)といった状況のあることが指摘された。

(女性が生活困難に陥る背景)

固定的性別役割分担意識が十分に解消されておらず,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が不十分な現状において,女性は育児や介護などで就業を中断しやすい。また,税制・社会保障制度の影響による就業調整の影響もあり,女性は,相対的に低収入で不安定な非正規雇用につきやすい就業構造がある。さらに,このような若い時期からの働き方の積み重ねの結果として女性の年金水準等は低く,高齢期の経済的基盤が弱いという問題もある。女性に対する暴力も,女性の自立を困難にする大きな要因である。女性に対する暴力は女性の自尊心や心身を傷つけ,自立に向けた就業や社会参加を一層困難なものにしている。

(男性特有の状況)

父子世帯や一人暮らしの高齢男性が地域で孤立しがちである傾向や,「男性が主に稼ぐべきもの」,「男性は弱音を吐いてはならない」といった男性役割のプレッシャーが,男性を困難な状況に追い込んでいるという指摘がある。例えば,男性の非正規労働者の有配偶者の割合が低いが,経済的に安定しないことが結婚を阻害する一因となっているとの指摘がある。また,40〜50歳代の男性で「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺が多いことなども,男性役割のプレッシャーの影響であるとの指摘もある。

(非正規雇用と女性の生活困難)

学歴での不利が職業の選択を限定し,低収入となりがちな状況があるが,男女別に若年層(20-24歳層)の正規従業員の比率をみると,平成4年から平成19年の間にかけて,学歴による就業状況の差が開き,中学卒業者や高校卒業者の状況が厳しくなる中,特に女性が厳しい状況に置かれている(第25図)。

また,多くが母子家庭であるひとり親世帯の貧困率をみると,有業者であっても貧困率が高いという日本特有の状況がある(第26図)。

この背景には,育児等との両立等の理由により,選べる職種が臨時・パート等非正規雇用が多くなりがちであることが影響していると考えられ,母子家庭の就労率は85%と高いにもかかわらず,約7割が年間就労収入200万円未満という状況がある(平成17年)。母子世帯では子育てを一人で担うという責任と経済的な困難に直面するリスクとを併せ抱えていると考えられる。

第25図 若年人口(20-24歳層)に占める正規従業員の比率(性別)
第25図 若年人口(20-24歳層)に占める正規従業員の比率(性別)

第26図 子どものいる世帯の相対的貧困率(2000年代中盤)
第26図 子どものいる世帯の相対的貧困率(2000年代中盤)