平成22年版男女共同参画白書

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第6節 「出番」と「居場所」のある社会の実現に向けて

(女性で高い相対的貧困率)

ほとんどの年齢層において男性に比べて女性の方が相対的貧困率が高く,その差は高齢期になると更に広がる。世帯類型別には,高齢単身女性世帯や母子世帯で高くなっている。

(女性の労働をめぐる問題)

女性が貧困に陥りやすい背景には,女性は非正規雇用が多いという就業構造の問題があり,また,女性が出産・育児を経て就業を継続し,あるいは再就職して職業能力を高めることは難しい面がある。さらに,税制・社会保障制度が女性の就業調整をもたらす影響もある。

(非正規雇用をめぐる状況の変化)

非正規雇用比率は,特に男女の若年層(15〜24歳,25〜34歳),女性の高年層(55〜64歳)で上昇している。男女別,配偶関係別にみると,未婚や死別・離別の女性において上昇が大きく,配偶者のある男性においても上昇がみられる。さらに,男性は非正規労働者の方が有配偶者の割合が低い。

(「ディーセント・ワーク」の実現に向けて)

今後は,正規・非正規といった雇用形態等にかかわらず,経済成長の恩恵を様々な人々が享受できる機会を高めていくことが求められ,そのためには誰もが「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」を得ることができる社会を構築していく必要がある。

ディーセント・ワークの実現には,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を進め,女性が安心して働き続けられる環境整備とともに,非正規労働者全体の処遇の改善を進める必要がある。

このことは女性が貧困に陥りやすい状況を解消していくことに加え,男性の非正規労働者の生活の安定にもつながるものと考えられる。

(女性の就業支援に向けた「新しい公共」)

特に相対的貧困率が高い母子世帯の母等,困難な状況に置かれた人々が意欲と能力とに応じて労働市場や様々な社会活動に参加できる社会を目指すには,その就労について必要に応じ支援する取組を進めていくことが必要である。その際,国や地方公共団体だけでなく,市民,NPO,企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となろうとする「新しい公共」の実現が求められている。

(女性の潜在力をいかすための取組)

女性の潜在力をいかすためには,女性の参画促進の重要性・必要性についての理解の促進等を図りながら,女性の就業継続支援,仕事の質の向上,女性の能力発揮促進のための支援,雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保,政策・方針決定過程への女性の参画の拡大,女性の起業に対する支援体制の充実,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進,様々なライフスタイルの選択に中立な社会制度の構築,貧困等様々な生活上の困難な状況に置かれた人々への対応などの取組を積極的に進めていく必要がある。

(地域の実情に応じた取組の重要性)

地域によって女性を取り巻く環境は大きく異なり,当然ながら求められる対応も異なる。

例えば,女性が仕事と家庭を両立しやすい環境づくりを行う,という場合,都市部では,保育所の待機児童が多いため,保育所に入れないことが仕事に復帰する場合の問題となる。

一方,地方圏では,経済の地盤沈下が深刻化しており,人口も平成21年まで14年連続で3大都市圏へ転出超過となっている(総務省「住民基本台帳人口移動報告」)。こうした中では,生活・地域密着の視点からの女性の起業など,女性の活躍が地域経済の活性化にも重要である。

同時に,地域における女性の活躍の場を広げるためには,地域の経済活性化により,就労の機会を増加させるという視点も重要である。

(社会全体のシステム改革の必要性)

男女共同参画社会基本法の施行から10年以上が経過し,我が国における女性の参画も徐々に進んできているが,必ずしも十分とはいえない状況にある。我が国を取り巻く環境が変化する中で,経済・社会の活性化のためにも男女共同参画社会の形成を促進していかなければならない。これまで男女共同参画があまり進まなかった理由の一つとして,「男女共同参画社会=働く女性の支援」という印象を与えてしまったため,男性や専業主婦などあらゆる立場の人々にとって必要なものであるという認識が広まらなかった,といった点が指摘されている。男女共同参画社会の実現は,男性や専業主婦などを含めた,あらゆる人々にとっての課題である。

例えば,家庭において,男性の家事・育児参加が進むことは,家族間のコミュニケーションをより推進させ,親子の愛情をはぐくむ契機にもなると考えられる。子育てが一段落した専業主婦の方々が働こうとするとき,あるいは,地域活動や自己啓発に取り組む際にも,男女共同参画の視点は欠かせないものとなる。また,固定的性別役割分担意識は,女性の参画促進にとっての課題であるとともに,男性に対して,「男性が主に稼ぐべき」,「男性は弱音を吐いてはならない」といった男性役割のプレッシャーとして重くのしかかる場合もある。さらに,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進のためには,男性を含めた働き方全体の改革が必要である。

女性の参画を促進し,潜在能力が発揮できる社会を構築していくことは,多様性ある社会,人々がそれぞれのライフスタイルに沿った希望を実現できる社会をつくっていくことにつながる。すべての人々に出番と居場所がある社会の実現に向けて,今,改めて,男女共同参画の視点に立って社会全体のシステム改革に取り組んでいく必要がある。