平成21年版男女共同参画白書

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第3節 男女共同参画社会の実現に向けて

1 今後の男女共同参画社会の実現に向けた施策の方向性

(1)「仕事と生活の調和」,「女性のキャリア形成支援」,「意識改革」の一体的な取組

男女共同参画が進んでいない背景には,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス),女性のキャリア形成支援,意識改革が十分進んでいないということがある。これらの3つの方向性は,それぞれ密接不可分に関連しており,一体として捉えた上で有機的に進めていくことが必要である。


<1>仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けては,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章及びその行動指針の下で官民挙げた幅広い取組が始まりつつあるが,仕事と育児・介護等の両立を支える制度・サービス等の整備が十分でない,男女とも利用しやすい組織風土づくりや働き方の見直しを可能にするマネジメント改革が十分ではないことなどが指摘されており,国や地方公共団体における仕事と生活の調和を支える社会基盤整備や,企業等における風土・マネジメント改革も含む環境整備を加速していく必要がある。

仕事と生活の調和の実現については,出産・子育て期の女性を中心とした「仕事と家庭の両立」から,男性も女性も,そしてあらゆる世代,分野にわたる人へと対象が広がるとともに,また,仕事,家庭生活,地域活動,自己啓発,休養など,多様な活動や様々な生活の諸側面に関するものとして考え方に大きな展開が図られたところである。このような考え方に立った仕事と生活の調和の推進は,男性も女性も家庭や社会を共に担い,一人ひとりの能力・個性を十分に活かすという男女共同参画の視点からも重要であり,活力ある持続可能な社会を実現するための不可欠な基盤である。このような仕事と生活の調和の推進の必要性についての,社会全体の意識・関心を高め,企業のみならず,様々な主体による取組の推進を図っていく必要がある。


<2>女性のキャリア形成支援

キャリアパスが不明確であることや,仕事と家事・育児・介護等との両立の不安などから,仕事に就いている多くの女性がキャリア形成に不安を抱えており,また,女性にとってのキャリア形成支援の機会が少ないことが課題となっている。

企業の中でも身近にロールモデルとなるような人が不足していたり,身につけた能力を活かせる活躍の場が少ないことも多いことから,企業におけるポジティブ・アクション(男女労働者間に事実上生じている格差を解消するための自主的かつ積極的取組)の推進や,メンターの育成への支援,企業を越えるネットワークも含めネットワークの形成支援等女性が意欲を持って働き続けることへの積極的な支援などを行っていく必要がある。このほか,例えば就職する前の段階において,女性が自らのキャリアプランを描けるようにキャリア教育を推進していくことや,女性のライフコースを念頭に置いた相談を受けられる体制の整備など,女性のライフコースに沿った形で支援を行っていくことが必要である。


<3>意識改革

「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」といった固定的な性別役割分担意識は,変化はしているもののいまだ根強く残っており,男女間や世代間による意識の差も大きい。

意識改革のための啓発活動を推進するに当たっては,こうした性別・年代別の意識の違いに配慮する必要がある。特に,若い世代や男性の関心が高い分野を取り上げるなどの取組が求められる。また,講習等のみならず,実践的な活動に参加することによって,新たな発想を生み,多様な人材に活躍の場を与える男女共同参画のメリットを実感し,手応えを感じて,意識が変わっていくようにするなど,意識啓発の推進の仕方についても工夫していく必要がある。


(2)新たな社会情勢の変化に伴う生活困難を抱える人の増加への対応

社会情勢の変化の中で,生活困難を抱える人が増加しているが,こうした新たに生じてきている課題にも対応していく必要がある。こうした課題の対応に当たっては,関連する様々な社会システムを男女共同参画実現の観点から検証し,問題がある場合は社会システム自体の改革を進めていく必要がある。

このような生活困難に対応するためには,生活困難を抱える人の増加の背景にある男女共同参画をめぐる問題に着目することが重要であり,女性が働きやすい環境への変革や女性に対する暴力への対策等の男女共同参画施策の推進そのものの充実が生活困難に陥ることの防止に不可欠である。

生活困難を抱える人々の支援に当たっては,女性のライフコースを通じたエンパワーメントの視点に立ち,個人を一貫して総合的に支援する仕組みを構築するとともに,次世代への連鎖を断ち切るための生活困難家庭や子どもへの支援の充実が求められる。


(3)地域における多様な主体のネットワーク化による連携・協働

男女共同参画社会実現に向けた取組を推進していくに当たっては,様々な分野における多様な主体のネットワーク化による連携・協働を進めることにより,問題解決に向けた大きな流れをつくっていくことが重要である。特に,人々にとって最も身近な暮らしの場である地域において男女共同参画を推進していくことが求められる。

しかし,地域においては,男女共同参画推進の様々な取組が進められているところではあるが,固定的な性別役割分担意識がいまだに根強い,地域における活動の参加について性別・年代に偏りがある等といった問題もあり,地域における男女共同参画が必ずしも順調には進んでいない状況もみられる。このような状況を打開するため,従来の知識習得や意識啓発を中心とした取組から,身近で具体的な様々な課題を解決する実践的活動を中心とする男女共同参画の推進への移行が求められている。男女共同参画センター等を含めた地方公共団体やNPO,企業,大学等の地域における団体・組織など多様な主体による男女共同参画の視点を活かした連携・協働によって,地域おこし,子育て,配偶者からの暴力などの課題を解決することにより,これまで男女共同参画に関心が薄かった団体等も男女共同参画の意義を実感することができる。

地方公共団体においては,男女共同参画推進の体制や取組に一定の進展がみられる一方で,予算や人員の削減等機能を十分発揮していく上で課題を抱えている。しかし,地域における男女共同参画の推進のためには,今後,地方公共団体における推進体制の整備充実や関連施策の着実な推進を図るとともに,国と地方公共団体との一層の連携を強化していく必要がある。


(4)国際的な枠組みの下での連携・協働

我が国は,国際的な枠組みの下で,国連等の国際機関や諸外国と連携・協働して,男女共同参画社会の形成に向けて取組を進めてきているところであり,グローバリゼーションの急速な進展の中,こうした国際的な枠組みの下での連携・協働の強化もますます重要となる。特に,国際的にみて依然として低い水準にとどまっている我が国の男女共同参画の状況を変えていくためにも,今後,国際的な連携・協働を強化し,国際的な取組の成果や経験から学び,刺激を受ける契機としていかなければならない。

本年は国連における女子差別撤廃条約採択から30年にも当たり,また女子差別撤廃条約実施状況第6回報告の審査が控えている。さらに,2010(平成22)年には我が国がアジア太平洋経済協力(APEC)の議長国となり,日本において女性リーダーズネットワーク会合が開催されることとなっている。本会合では,アジア太平洋地域の各国・地域の中小企業,起業,農村,貿易,IT等の分野の女性に関して意見交換等が行われることとなる。また,同年は北京における第4回世界女性会議から15年目に当たり,国連婦人の地位委員会ではこれを記念した会合となる見込みである。

今後予定されているこのような国際的な会議等の機会を十分に活用し,国際的な連携・協働や相互の対話・情報発信に努め,我が国における男女共同参画の取組を促進するとともに,世界の女性の地位向上や地球社会の「平等・開発・平和」について積極的な貢献を果たしていかなければならない。


2 男女共同参画推進の新たなステージへ

21世紀の最重要課題として,男女共同参画社会の実現を提起した男女共同参画社会基本法施行から10年を経た今,男女共同参画社会実現の意義について改めて認識する必要がある。経済社会の大きな変化の中,これまでの手法や枠組みでは実態や新たな課題に対して十分対応できない場面が様々な分野において生じている。こうした局面において,一人ひとりの個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現のための取組は,社会において生じている様々な具体的な課題解決に道筋をつけ,一人ひとりが豊かな人生を送ることを可能にし,組織を活性化し,ひいては持続可能で活力ある社会に向けての大きな原動力となり得る。

男女共同参画社会の実現を目指して,様々な取組を進めていかなければならない。その際,多様な主体のネットワーク化による連携・協働の下で,具体的な課題解決のための実践的で社会のニーズに応じた取組を推進する大きな流れを作っていくことが重要である。多様な主体の連携・協働の下での実践的な取組は,人々に意識変革や更なるエンパワーメントをもたらす。男女共同参画社会実現に向けての取組は,より実践的な第二ステージに進んでいかなければならない。