平成19年版男女共同参画白書

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第3章 仕事と生活の調和

(仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)についての希望と現実)

男女共同参画会議少子化と男女共同参画に関する専門調査会「少子化と男女共同参画に関する意識調査(男女の働き方とワーク・ライフ・バランス)」(平成18年)によれば,ワーク・ライフ・バランスの希望と現実の差は大きい。既婚者では「仕事・家事・プライベートを両立」することを希望する人が男女ともに多いが,現実としては,女性では「仕事と家事優先」,男性では「仕事優先」となっている人が多い。独身男女では,「プライベートな時間優先」や「仕事・家事・プライベートを両立」することを希望する人が多いが,現実には男女ともに「仕事優先」となっている人が多く,特に男性では「仕事優先」の希望と現実の差が大きい(第1-3-1図)。

第1-3-1図 属性別のワーク・ライフ・バランスの希望と現実 別ウインドウで開きます
第1-3-1図 男女別にみた仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の希望と現実

(女性にかかる家事,育児及び介護の負担)

総務省「社会生活基本調査」(平成13年)により,妻の就業状況別に夫婦の1日の生活時間をみると,共働き世帯での夫の家事・育児・介護等にかける総平均時間が25分なのに対し,妻は4時間12分であり,夫が有業で妻が無業の世帯では,夫は32分,妻は6時間59分である。妻の就業の有無にかかわらず夫が家事や育児,介護などにかける時間は妻と比べて著しく短い。男性は共働きか否かで生活実態はほぼ変わらないものの,女性は共働きの場合は仕事をしながら家事も育児も介護も担い,余暇時間が少なくなっている。

また,厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(平成17年度)によると,在職中に出産した者又は配偶者が出産した者に占める育児休業取得者の割合は,女性が72.3%(平成16年度70.6%),男性が0.50%(同0.56%)であった。また,育児休業取得者のうちの男女別割合をみると,女性は98.0%,男性は2.0%となっており,夫婦に子どもが生まれた場合の育児休業の取得は女性と男性で大きな差がある。

(女性の継続就業・再就業が困難な状況)

男女の雇用機会均等や仕事と子育ての両立支援のための取組が行われてきたものの,出産を機に多くの女性が離職している。厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査」(平成13年度)によると,出産1年前に有職であった母親について,出産半年後も有職である割合は32.2%であり,67.4%の母親が無職となっている(きょうだい数1人の場合)。

また,昭和54年以前に結婚した女性と平成7年~9年に結婚した女性を比較すると,育児休業を取得している者の割合は増えているものの,出産前後を超えて就業を継続している者の割合は増えていない(第1-3-2図)。女性の労働力率の特徴とされるいわゆるM字カーブについても,30代の子育て期にあたるM字の底が近年上がってきているが(第1-2-1図),それは晩婚化によって未婚有業者が増えていることによるもので,結婚・出産した女性が継続就業あるいは再就業できる環境が整ってきたことによるものとはいえない(第1-3-3図及び第1-3-4図)。

第1-3-2図 結婚年次別出産前後の女性の就業状況の変化 別ウインドウで開きます
第1-3-2図 結婚年次別出産前後の女性の就業状況の変化

第1-3-3図 未婚女性労働力率,有配偶者女性労働力率(15~64歳)の推移 別ウインドウで開きます
第1-3-3図 未婚女性労働力率,有配偶者女性労働力率(15~64歳)の推移

第1-3-4図 女性の家族関係別にみた有業率 別ウインドウで開きます
第1-3-4図 女性の家族関係別にみた有業率

21世紀職業財団「女性労働者の処遇等に関する調査結果報告」(平成17年)によると,75.4%の女性労働者が,就業継続を困難にする理由に「育児」をあげている。また,就業継続する上で必要な事項として「子育てしながらでも働き続けられる制度や職場環境」を最も多い51.7%があげており,「育児や介護のための労働時間での配慮」は41.3%,「結婚や出産で女性社員が差別されない職場風土,環境」は32.3%となっている。女性が仕事を続けていく上で,育児が大きな影響を及ぼしている状況がうかがえる。

(男性の長時間労働)

総務省「労働力調査」(平成18年)により,男女別,年齢階級別の平均週間就業時間と週60時間以上就業者の割合をみると,女性は30歳代後半から40歳代後半にかけての就業時間が短くなっている一方,男性は30歳代が最も長く,約50時間となっている。また,週60時間以上働く者の割合も,男性は30歳代が最も高くなっている(第1-3-5図)。有給休暇の取得率も減少しており(第1-3-6図),子育て世代の男性正規社員を中心に,長時間かつ有給休暇を取らないで働く者が増えている。

第1-3-5図 性・年齢階級別就業時間(非農林業) 別ウインドウで開きます
第1-3-5図 性・年齢階級別就業時間(非農林業)

第1-3-6図 労働者一人平均年次有給休暇の取得率(調査産業計) 別ウインドウで開きます
第1-3-4図 女性の家族関係別にみた有業率

男性の正規社員の長時間労働は,未婚男性が内外で人的ネットワークを広げる機会や,既婚男性が家族と過ごす機会を少なくしている。夫婦ともに正規の職員である男女では,男性の方が,就業時間を「短くしたい・減らしたい」という人が多く,特に,「小学生以下の子を持つ男性」に多いにもかかわらず(第1-3-7図),夫の育児参加時間が短くなっている背景には,育児期の男性の労働時間が長いことがあり,女性が就業時間を調整することにより子育てを行っている状況にあると考えられる。また,長時間労働が常態化している職場では,家事や育児の時間を確保したいと考える女性にとっては,継続就業や再就業が困難となりがちである。それだけでなく,育児休業制度や子育てのための短時間勤務制度なども,長時間労働が恒常化している職場では,その利用が困難となる可能性が高くなる。育児休業等の両立支援策がその効果を発揮するためには,基礎的な環境として,長時間労働是正や有給休暇取得促進などの働き方の見直しが必要である。男性に関しても多様な働き方を選択できるようにし,男性の働き方が変わることが,結果として,既婚女性の両立支援や雇用機会均等につながるという認識を広く共有する必要がある。

第1-3-7図 夫婦ともに正規職員である男女の就業時間・日数変更意向 別ウインドウで開きます
第1-3-7図 夫婦ともに正規職員である男女の就業時間・日数変更意向

(企業における仕事と子育ての両立支援策とワーク・ライフ・バランス)

「管理者を対象とした両立支援策に関する意識調査」(平成17年)によると,育児のための短時間勤務制度利用状況は,「利用した」又は「利用中である」が28.6%であり,「制度はあるが利用していない」が54.6%で最も多くなっている。育児のための両立支援制度の利用が円滑に行われるために,職場の管理者として会社に期待することとしては,「休業中の代替要員を確保する仕組みを作る」が最も多く,次いで「従業員全体が制度に関する理解を進めるよう情報提供を行う」があげられており,制度の導入だけでなく,利用しやすい環境作りが重要であると考えられる。

(企業等にとってのワーク・ライフ・バランス推進)

職場にとっても,両立支援策の導入や個々人のワーク・ライフ・バランスを実現することは良い影響をもたらす。育児休業制度や短時間勤務制度が利用されたことによる職場全体への総合的な影響は,プラスの影響の方が大きく,具体的には,仕事の進め方について見直すきっかけになっている(第1-3-8図)。企業は,仕事と育児の両立支援策が,人材定着,人材確保,従業員の就業意欲向上を通じて企業業績にプラスに寄与すると考えている(第1-3-9図)。

第1-3-8図 「育児休業制度」「短時間勤務制度」の利用による職場への影響 別ウインドウで開きます
第1-3-8図 「育児休業制度」「短時間勤務制度」の利用による職場への影響

第1-3-9図 仕事と育児の両立を支援する取組が,企業業績に与えるプラス面 別ウインドウで開きます
第1-3-9図 仕事と育児の両立を支援する取組が,企業業績に与えるプラス面

前出「少子化と男女共同参画に関する意識調査(男女の働き方とワーク・ライフ・バランス)」によると,子育てする人が働きやすく,女性が男性と同じように昇進・昇格機会のある職場環境は,「ワーク・ライフ・バランス実現度」が既婚・独身を問わず男女ともに高くなっている(第1-3-10図)。そして,既婚・独身を問わず,男女ともに,ワーク・ライフ・バランスが図られていると考える人の方が,仕事への意欲が高い傾向にある(第1-3-11図)。

第1-3-10図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)とワーク・ライフ・バランス実現度 別ウインドウで開きます
第1-3-10図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)とワーク・ライフ・バランス実現度

第1-3-11図 ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲 別ウインドウで開きます
第1-3-11図 ワーク・ライフ・バランス実現度と仕事への意欲

(子育て世代以外も含めたすべての男女にとってのワーク・ライフ・バランス)

内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成17年)によると,今後,「生涯学習」をしてみたいかについて,「してみたいと思う」と答えた者の割合が63.9%,「してみたいとは思わない」と答えた者の割合が26.6%となっている。しかしながら,1年間の生涯学習の実施状況については,「特にそういうことはしていない」と答えた者の割合が51.5%となっており,その理由は「仕事や家事が忙しくて時間がない」が53.4%と最も高くなっている。

また,内閣府「社会意識に関する世論調査」(平成18年)によると,日頃,社会の一員として,何か社会のために役立ちたいと思っているかについて,「思っている」と答えた者の割合が61.1%,「あまり考えていない」と答えた者の割合が35.8%となっている。そして,仕事と個人生活をバランスよく両立させるために時間をとりたい活動としては,「趣味」(46.2%),「健康づくり」(41.0%),「友人とのつきあい」(34.7%),「家族のだんらん」(28.7%)等が挙げられている。

仕事等に追われて,自己啓発活動や自己実現活動等を満足に行えないのが現状である。ワーク・ライフ・バランスの推進は,仕事と育児の両立支援策としてのみ捉えるのではなく,働く男女全てにとっての問題であることを認識することが必要である。