平成19年版男女共同参画白書

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第1節 概観

本節では,各国の男女共同参画に関する特徴的な点を概観した後,意識について各国比較をする。なお,対象国は,北欧を含む欧米6か国のほか,アジア・太平洋地域のうち比較可能なデータが整備されている6か国を取り上げた。

1 各国の特徴

各国の男女共同参画に関する基本法制と担当行政機関,各分野での女性の参画状況,仕事と生活の両立状況について比較すると以下のとおりとなる(第1-特-1表)。

第1-特-1表 各国の主な状況 別ウインドウで開きます
第1-特-1表 各国の主な状況

(ノルウェー)

ノルウェーは,男女平等法に基づき,1980年前後から様々な男女共同参画推進施策を講じてきており,現在,政治・行政分野及び労働分野への女性の参画が最も進んだ国の1つとなっている。国の推進機関としては,子ども・平等省において男女共同参画を推進する環境整備を行うとともに,男女平等法等の推進・監視機能を担う男女平等・差別撤廃オンブッドを設け,職場等での登用や差別的扱いに関する苦情の審査や解決に当たっている。政治・行政・一般株式会社等,幅広い分野においてクォータ制が導入されているほか,育児休業制度・保育サービス等の子育て支援も充実しており,男女ともに仕事と生活の調和をとりやすい環境が整備されている。

(スウェーデン)

スウェーデンは,ノルウェーとともに,女性の参画が総合的にみて進んでいる。男女共同参画のみを目的とした基本法はないが,統治法2の中に男女共同参画社会を目指す旨の規定が置かれている。行政指導や選挙における男女混合名簿の導入など積極的な取組を行ってきた結果,特に政治・行政分野への参画は非常に進んでおり,1994年には史上初めての男女同数の内閣を形成した。育児に対する多様な支援や女性の就労に対する環境整備も行われており,結婚・出産・育児期を含め女性の就労は当然であり,現在の女性全体の労働力率は突出して高く,1980年の時点でM字カーブの底は解消した。

(ドイツ)

ドイツでは,2001年に公務部門における積極的な女性の地位向上を定めた連邦平等法が制定されたほか,各政党が競ってクォータ制度を導入し,女性議員の増加に努めたことから,国政レベルではノルウェー,スウェーデンに次いで女性の政治・行政分野への進出が進んでいる。一方,仕事と家庭の両立支援に関しては,育児に対する家庭中心の考え方もあり,育児休暇制度は3歳になるまで取得可能であるなど比較的充実している一方,保育施策は十分に整備されていない。ただし,近年では,2005年に政府が公表した「持続可能な家族政策」の中で,時間政策,保育政策,経済再分配政策の混合政策を打ち出し,保育所の拡大等様々な取組を推進している。

(フランス)

フランスでは,1999年に改正された憲法にパリテ原則(男女同数制)として,議員等に関する男女の均等な参入を促進することが明記されていることが特徴的である。管理職に占める女性の割合は比較的少ないが,週35時間労働法により時短やワークシェアリング(仕事の分かち合い)が進んでいるほか,仕事と子育ての両立に関する公的支援も充実しており,早くからM字カーブの底は解消し,男性の家事・育児参加も進んでいる。なお,2007年5月に成立した内閣では,15名の閣僚中,7名が女性となった。

(英国)

英国では,労働条件は労使交渉による決定を基本に置くとの考え方が強いことから,女性が働くことに関しては,平等法制を除くと北欧諸国等に比較して育児休業等制度面の支援が十分ではなかった。しかし,柔軟な雇用に対する企業のニーズの高まりや女性の高学歴化が女性の労働市場への参画・就労を加速し,ドイツと同様1990年代に労働力率のM字カーブの底が解消した。また,近年では,2003年のフレキシブル・ワーク法,2004年の子育て支援10か年戦略等,政府も仕事と子育ての両立支援に積極的に乗り出している。

(米国)

米国では,男女平等,男女共同参画の推進については,1965年に制定された公民権法に起源があり,男女平等のみならず,人種をはじめとする様々な差別を禁止し,雇用や教育の分野で平等実現のための積極的な取組を行ってきた点に特徴がある。このため,管理的職業従事者に占める女性の割合も高い。また,柔軟な労働市場を背景に転職がしやすいことも特徴的である3。英国同様,政府による仕事と家庭の両立支援は充実していなかったが,民間の保育サービス等がこれを代替しており,女性の労働力率をみると,1980年代には既にM字カーブの底が解消している。

(オーストラリア)

オーストラリアは,ニュージーランドに次ぎ世界に先駆けて1902年に女性の参政権が実現するなど,早くから男女平等の意識が国民の意識に根付いている国であるが,近年まで国会議員に占める女性の割合も決して高くはなかった。しかし,1990年代後半以降,労働党により積極的な女性登用の取組がされ,急速に政治・行政分野における女性の参画が進んだ。また,近年は,労働組合等の仕事と生活の調和に関する活動も活発化しており,結果として女性の労働力率も大幅に上昇し,管理的職業従事者に占める女性の割合も高くなっている。

(韓国)

韓国では,日本と同様に女性の参画は政治・行政分野,労働分野とも低調であったが,近年になって,先進的な法制,強力な推進機構が次々と制定・整備され,男女共同参画政策が強力に遂行されるようになった。政府の取組として女性政策を総括する省として女性部が2001年に設置(2005年6月「女性家族部」に発展的改組)され,政治・行政分野でのクォータ制の実施や労働分野での法的整備,制度の充実など,男女共同参画社会の形成に向けた施策が強化されている。ただし,育児支援等は未だに不十分であり,女性の労働力率は日本同様はっきりとしたM字カーブを描いている。

(フィリピン)

経済発展途上国と先進国の状況を一概に比較することはできないが,フィリピンでは,政治・行政分野,労働分野とも,日本に比較して女性の参画が進展しており,男女格差を表すジェンダー・ギャップ指数では世界第6位4に位置している。育児休業等制度面の支援は十分ではないが,政治面ではクォータ制等の取組も見られており,近年国会議員に占める女性の比率は上がってきている。また,全体的に女性の労働力率は低いが,M字カーブの底は1980年代から解消している。

(シンガポール)

シンガポールでは,憲法第12条に法の下の平等を規定するほか,女性憲章に結婚・離婚に係る両性の権利義務や,性的・暴力的犯罪からの女性・子供の保護を規定している。議会議員への女性の参画は,2000年代に入って急速に進んでおり,2006年5月の議会選挙では女性議員の割合が24.5%まで増加した。国民のワーク・ライフ・バランス支援策として基金を創設し企業の補助を行うなど,社会における女性の活躍を促すための政府の取組も進んでいる。

(マレーシア)

マレーシアは,女性が政治及び経済活動に参加し,意思決定に参加できるかどうかを測るジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)が2006年現在75か国中55位となっており,全体的に女性の参画が遅れた国といえる。国会議員,閣僚に占める女性の割合は日本とほぼ同程度で低く,女性の労働力率は日本より低い。これらの背景には,子どもは両親や親戚が育てるケースが大半を占めていることがあり,保育サービスの整備や利用は遅れている。ただし,管理的職業に従事する者に占める女性の割合は日本より高くなっている。

(日本)

日本における女性の参画は,国会議員や管理的職業従事者に占める女性割合は諸外国と比較して著しく低い。また,労働力率も欧米諸国に比較してやや低く,はっきりしたM字カーブとなっている等,政治・行政分野,労働分野ともに女性の参画は遅れている。GEMをみると,日本の順位は2006年現在,75か国中42位となっている。

これらの国を地域別に見てみると,ノルウェー,スウェーデン等の北欧諸国は,女性の社会参画が最も進んでおり,男女平等法を整備し,政府主導で女性の活躍に向けた取組を進めている。ドイツ,フランス等の西欧諸国も,クォータ制を導入し,政府が中心となって女性の登用を進めており,各分野における女性の参画は北欧諸国に次いで進んでいるが,具体的施策の内容は国によって様々である。一方,米国等は,平等の確保に基づく施策が進んでおり,ワーク・ライフ・バランス施策に関しては政府よりもむしろ民間企業等のリードで各種取組を進めてきている。アジア諸国に目を向けると,男女共同参画に関する法整備や政府の取組は,ヨーロッパ諸国と比較すると総じて遅れているが,政治・行政分野及び働く場における女性の参画が進んでいる国もあり,フィリピン,シンガポール,マレーシアは,所得水準を考慮しない男女格差の指標であるジェンダー・ギャップ指数でみた場合,日本より上位に位置している。

日本は,男女共同参画に取り組む基本的法制において諸外国に劣らないが,実態として,社会の各分野における女性の登用やワーク・ライフ・バランスが進んでいるとは言い難い。さらに,固定的性別役割分担意識が社会,家庭で根強くあり,それに伴う慣行が多くの場で形成されているため,女性が能力を十分に発揮する機会に恵まれていないこともあると考えられる。

(コラム:中国における女性の社会参画)

2 固定的性別役割分担意識

「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方については,日本では,賛成とする割合がフィリピンに次いで高く,欧米諸国,特に北欧諸国と比較すると固定的役割分担意識は強く残っていると言える(第1-特-2図)。ただし,長期的に見ると,日本においてもそうした意識を持つ者は徐々に減少してきており,2004年には男女ともに反対とする割合が賛成を上回っている(第1-特-3図)。

第1-特-2図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」という考え方について(国際比較) 別ウインドウで開きます
第1-特-2図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」という考え方について(国際比較)

第1-特-3図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」という考え方について(日本) 別ウインドウで開きます
第1-特-3図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」という考え方について(日本)