本編 > 第1部 > 1 女性研究者の活動実態
(1)女性研究者の現状
(女性研究者の数及びその割合)
我が国の女性研究者の数は,平成16年3月現在,9万6千人(全体83万人)であり,研究者全体の11.6%を占めている。その数及び割合は増加傾向にあるものの,研究者全体に占める割合は依然として少ない(第1-序-14図)。
第1-序-14図 女性研究者数及び研究者に占める女性割合の推移
国際的に見ても,我が国の女性研究者の割合はフランスの27.5%,イギリスの26.0%,ドイツの15.5%等と比較して少ない(第1-序-15図)。
女性研究者の所属機関については,6割が大学等(短期大学,高等専門学校等を含む。)に,3割が企業等に所属している。一方,男性研究者の6割が企業等に,3割が大学等に所属している(第1-序-16図)。
国の研究機関等における常勤研究者総数に占める女性研究者の割合は,国立試験研究機関で13.3%,特定独立行政法人で8.4%,非特定独立行政法人で4.9%である。
大学等における女性研究者数は,5万8千人であり,大学等の研究者全体に占める女性割合は20.4%である。
企業等における女性研究者数は3万3千人であり,企業等の研究者全体に占める女性割合は6.6%である。これまで,女性研究者の採用実績は,学士号取得者及び修士号取得者全体に比較すると少ない傾向にあったが,今後,女性研究者の採用は増加していくことが見込まれる(第1-序-17図,第1-序-18図)。
第1-序-18図 民間企業における学位別等研究者の増減見込み
科学技術分野においては,研究者のほかに,製品の開発及び実用化・市場化に当たる技術者,研究を支援する技能者及び研究補助者,研究事務その他の研究関係従業者等がいる。研究補助者の3割,研究事務その他の関係者の5割を女性が占め,研究支援業務に比較的多くの女性が進出している(第1-序-19図)。本節では,これらのうち統計情報の比較的充実している女性研究者の現状を中心に述べることとする。
(大学等の女性研究者の現状)
平成16年5月現在,大学等の女性教員数は3万2千人であり,その多くが教育とともに研究を行う研究者である。本項では,大学等の教員の8割近くを占める大学の教員について述べる。
大学の教員全体に占める女性割合は,国立,公立及び私立大学において異なり,それぞれ10.8%,23.2%及び18.7%である。
学長全体に占める女性割合は8.0%であり,国立,公立及び私立大学においてはそれぞれ2.3%,16.9%及び7.6%である。女性の副学長は全体で4.2%,国立,公立及び私立大学でそれぞれ1.3%,18.2%及び4.8%である。
教授全体に占める女性割合は全体で9.7%,国立,公立及び私立大学でそれぞれ6.1%,14.5%及び11.3%である。
助手全体に占める女性割合は,全体で23.3%,国立,公立及び私立でそれぞれ15.8%,32.5%及び28.8%であり,教授割合は,助手割合と比較すると,それぞれ10から20ポイントの範囲で減少している。助手から講師へと至るまでの減少率はそれほど大きくないが,講師から助教授,教授へと至るまでに女性割合が大きく減少しており,助教授及び教授の職位に女性が就くことが少ない状況がうかがえる(第1-序-20図)。
分野別の教授割合は,工学で1.2%,農学で1.6%及び理学で3.7%であり,自然科学系分野において特に低い。助手,講師,助教授,教授へと職位が上がるにつれて女性割合が減少する傾向は,人文・社会科学系と自然科学系において共通に見られる(第1-序-21図)。
(コラム:自然科学系の学協会による研究者・技術者の実態調査)
(政府の研究プロジェクトへの参加状況)
政府が実施する研究プロジェクトには様々なものがある(平成16年度における科学技術関係経費は約3兆6千億円)。この中には,提案公募及び外部有識者による審査を特徴とする約3,600億円の競争的研究資金による研究プロジェクトが含まれている。
第2期科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)においては,男女共同参画の観点から,女性の研究者への採用機会等の確保の必要性等について指摘しており,政府が実施する研究プロジェクトにおいても,男女共同参画の観点からの取組が行われ,女性研究者も様々な形で参加している。現在,女性の参画状況については,競争的研究資金によるプロジェクトの採択者数が男女別にまとめられたデータは一部あるものの(第1-序-22図),競争的研究資金以外の研究プロジェクトを含め,研究プロジェクトへの女性研究者の参画状況及びその変化を把握するデータは少ないのが現状である。これらのデータの収集・整備・提供が望まれる。
第1-序-22図 競争的研究資金獲得者における女性研究者の割合(分野別)
(研究開発活動の成果)
研究開発活動の成果の指標として,論文,その引用度,特許等に関する統計データが広く使われている。論文,特許等については,審査等の過程を経ることから個人の性別に着目した分類が行われてこなかったため,直接的に男女別の成果の実態を把握することは難しい。
研究者を対象にしたアンケート調査結果によれば,執筆した論文数の平均値は,男性研究者の方が女性研究者より多い。また,重要度の高い論文において筆頭寄稿者(ファースト・オーサー)になる機会も男性研究者の方が多い。
引き続き,このような調査等により,成果の創出等に係る状況を把握していくことが望まれる。
(女性研究者が少ない理由)
研究者において女性が少ない理由としては,出産・育児・介護等で研究の継続が難しいこと,女性の受入態勢が整備されていないこと,女子学生の専攻学科に偏りがあることが指摘されているが(第1-序-23図),能力差を挙げる研究者はほとんどいない。また,採用及び昇進,雑務の負担に関する不公平感は,女性研究者の方が男性研究者より大きい(第1-序-24図)。
第1-序-24図 女性研究者の採用・昇進・評価に関する不公平感
(研究者の配偶者及び子育て)
労働力調査(総務省)によると,平成16年の女性雇用者(非農林業)における有配偶率は56.9%である。また,有配偶の女性雇用者(非農林業)の全世帯に占める子どものいる世帯の割合は68.5%である。
一方,女性研究者の有配偶率については5割程度とする調査結果があり,女性雇用者(非農林業)と差はないが,男性研究者の有配偶率と比較すると3割程度の差がある。また,男性研究者の配偶者は無職の割合が多いが,女性研究者の配偶者の大半が働いている。女性研究者の配偶者の業種は大学教員・研究者など同業者である割合が高い(第1-序-25図)。
第1-序-25図 研究者における配偶者の有無及び配偶者の職業
子どもの数については,男性研究者の6割以上に子どもがいるのに比し,女性研究者ではその割合は4割弱であるとの調査結果がある。6割以上の女性研究者に子どもがなく,女性研究者が子どもを持ちにくいことがうかがえる(第1-序-26図)。
(女性研究者が子どもを持ちにくい理由)
女性研究者が男性研究者より子どもを持ちにくい理由として,男女ともに実労働時間が長い研究生活において,女性研究者が育児責任をより多く担っている固定的性別役割分担があることが考えられる。
研究者の平均勤務時間は週当たり50時間以上70時間未満と長く,自宅での研究時間もあるとの報告がある。一方,雇用者(非農林業)の週当たりの平均就業時間は男性で47.0時間,女性で35.5時間(総務省「平成16年労働力調査」),週間就業時間が49時間以上である男性の割合は40.3%,女性の割合は15.8%である(総務省「平成14年就業構造基本調査」)。このように,特に,女性研究者の平均労働時間は女性雇用者(非農林業)の平均値に比較して長いと考えられる。
家事・育児・介護等に充てる時間については,子どもを持つ研究者の方が持たない研究者より長い。子どもを持つ女性研究者においては,家事・育児・介護等の時間が3時間を超え5時間以下である割合が4割,5時間を超える割合が2割に近い一方,男性研究者においては1時間以下が6割近くを占めるとの調査結果がある(第1-序-27図)。また,男性研究者の大半が,育児を配偶者に頼っているのに対して,女性の多くが保育所などを利用して自ら育児を担当している。
第1-序-27図 研究者が1日のうち家事・育児・介護等に充てている時間
育児休業を取得している男性研究者もわずかながらいるが,女性研究者に比較してその取得率は極めて低い。このことは他の職業に従事する男女の育児休業取得率の違いと同様である。また,育児休業への対応について,代替要員の雇用や配置換え等による人員の確保に取り組んでいる研究組織の長は1割程度という報告もある(第1-序-28図)。
第1-序-28図 研究組織の長による研究者の育児休業への対応
実際に育児休業を取得した後の影響について,女性研究者の中には昇給・昇進が後れたとの意識を有する者もいる。
(研究環境の競争化の及ぼす影響)
研究開発の現場も国際競争下にある。競争性や流動性を向上させるための研究開発システム改革が進展し,若手研究者に対する任期付任用や競争的研究資金プロジェクトに係る登用機会が増大している。出産・子育て期に当たる女性研究者も,3年から5年の短い登用期間内に業績を上げ,その終了直前には,切れ目なく次の職が手当てできていなければならないという状況にある。子育てとの両立を図ろうとする女性研究者にとって,その研究活動は同世代の男性研究者以上に厳しいものと考えられる。
子どもを育てながら研究も継続したいと考える女性研究者は多く,女性研究者が子育てをしながらも研究を続けられる環境を競争的環境とのバランスを取りつつ整備することが重要であると考えられる。
(2)政府機関や各種団体の取組
(積極的改善措置(ポジティブ・アクション))
平成11年6月に施行された男女共同参画社会基本法においては,あらゆる活動に参画する機会に係る男女の格差を改善するため,必要な範囲内において,男女いずれか一方に対し,活動に参画する機会を積極的に提供する積極的改善措置(ポジティブ・アクション)を実施することを国及び地方公共団体の責務としている。12年12月に閣議決定された男女共同参画基本計画においては,国の政策・方針決定過程への女性の参画の拡大とともに,企業,教育・研究機関,その他各種機関・団体等の自主的な取組の奨励等を行うことを施策の基本的方向としている。
ポジティブ・アクションには様々な手法があるが,その一つに目標数値とその達成期限を掲げるゴール・アンド・タイムテーブル方式がある。この方式は,日本学術会議において採用されており,平成12年6月に,女性会員比率を今後10年間で10%まで高めるという目標値を設定することが提言された。国立大学協会においても,平成12年5月に,2010年(平成22年)までに国立大学の女性教員(助手・非常勤講師を含めず)の比率を20%に引き上げることを達成目標とすること,両立支援策を講じること等が提言された。現在,徐々にではあるが,達成期限までの目標数値に近づいている(第1-序-29図,第1-序-30図)。
これを受けて,国立大学においても自主的な取組が進められている。岩手大学及び鳴門教育大学の中期計画においては,女性教員等の割合の向上を目指し,20%の目標数値が明記されている。また,東京大学における男女共同参画のための計画の策定を始め,東北大学,名古屋大学等で男女共同参画の推進のための提言,専門的な常置組織の設置等が行われている。
また,独立行政法人でも同様の動きが進んでいる。放射線医学総合研究所においては,平成12年9月に行われた女性研究者の増加促進のための提言を契機にして,女性研究者及び女性事務職員の持続的・積極的採用,勤務環境の整備等が進められている。
平成13年3月に閣議決定された第2期科学技術基本計画においても,人材の活用と多様なキャリア・パスの開拓のため,「男女共同参画の観点から,女性の研究者への採用機会等の確保及び勤務環境の充実を促進する。特に,女性研究者が継続的に研究開発活動に従事できるよう,出産後職場に復帰するまでの期間の研究能力の維持を図るため,研究にかかわる在宅での活動を支援するとともに,期限を限ってポストや研究費を手当てするなど,出産後の研究開発活動への復帰を促進する方法を整備する」ことが定められている。
平成15年6月,男女共同参画推進本部は,「女性のチャレンジ支援策の推進に向けた意見」(男女共同参画会議意見(平成15年4月))に基づき,国連ナイロビ将来戦略勧告の目標数値等を踏まえ,「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%程度になるよう期待する。そのため,政府は民間に先行して積極的に女性の登用等に取り組むとともに,各分野においてそれぞれ目標数値と達成期限を定めた自主的な取組が進められることを奨励する」などのポジティブ・アクションを講じることを決定している。
女性研究者や教員の参画割合の増大のための目標数値と達成期限の設定においては,その進捗状況の定期的な評価が不可欠であり,そのための統計データの収集・整備・提供が重要である。
(政策・方針決定過程への参画状況)
政策・方針決定過程への参画状況を示す指標として,審議会等委員の参画割合がある。平成12年8月に男女共同参画推進本部が決定した「国の審議会等における女性委員の登用の促進について」においては,「平成17年度末までのできるだけ早い時期に」「30%を達成する」ことを目標としている。
平成16年9月末現在,女性委員の割合は28.2%とほぼ目標値に近づいており,女性委員が3割以上の審議会等は103のうち55で全体の審議会等の53.4%を占めている。
全体の審議会等から科学技術関係のものとそれ以外を分類することは,科学技術が社会全般と密接にかかわっていることから困難であるため,特に科学技術と関係が深いと考えられる原子力委員会,原子力安全委員会,科学技術・学術審議会,放射線審議会,宇宙開発委員会及び厚生科学審議会の6審議会等に限って女性委員の平均割合を見ると30.1%である。また,これらの審議会等すべてにおいて女性割合は2割以上である。なお,これらの審議会等の下に設置された部会等の専門委員に占める女性の平均割合は10.8%である。
このように,所管府省においては女性の委員等を登用するよう積極的に取り組んでいるところであるが,科学技術分野の女性研究者の割合が少ないこともあり,一部の実務的な部会等においては女性の参画割合が少ない状況となっている。
(女性研究者の育児支援等のための措置)
日本学術振興会は,研究者の育児支援を図るため,平成15年度に特別研究員事業において,出産・育児による採用の一時中断及び延長を可能とする運用を開始した。また,平成15年度より,科学研究費補助金においては,育児休業に伴い研究を中断する女性研究者等を支援するため,1年間の中断の後の研究の再開を可能としている。
また,理化学研究所,お茶の水女子大学,名古屋大学,東北大学等を始め,研究機関において託児施設を整備する動きが広がっている。
平成13年6月に決定された男女共同参画会議の意見を基に,同年7月に「仕事と子育ての両立支援策の方針について」が閣議決定され,両立支援のための労働時間の削減,育児休業制度の活用,保育所の待機児童の解消,良質な保育サービスの提供,地域の子育て支援などの実施が定められている。仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しについては,平成16年12月に少子化社会対策会議が定めた「子ども・子育て応援プラン」においても,その具体的施策内容と目標が提示されている。
平成17年4月からの改正育児・介護休業法の施行に伴い,有期雇用の研究者においても,同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であり,子が1歳の誕生日の前日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる場合,同法で規定される育児休業の取得が可能になる。
任期付任用職や競争的研究プロジェクトで雇用される研究職など,有期雇用の場合も含め,女性研究者のニーズを把握し,育児支援のための対応を行うことがより一層求められる。
(女性研究者のネットワーク形成)
平成15年4月に決定された「女性のチャレンジ支援策について」(男女共同参画会議意見)においては,国公立だけではなく,民間も含めた研究機関において,組織全体として男女共同参画に関する総合的な目標及び具体的計画を自主的に策定する際には,女性研究者のネットワークを形成するなどの支援を積極的に行うように努めることとしている。
現在,研究者の自主的な取組として,女性研究者が集い情報交流することで課題の認識,共有化等を図り,男性研究者との連携,異分野交流,国際協力等により,効果的に課題解決を図っていくネットワーク形成が行われている。