平成17年版男女共同参画白書

本編 > 第1部 > 6 医療・公衆衛生

(1)感染症対策

我が国の死亡率については,明治政府による近代化以降,長期にわたる低下が始まる。明治の初めにおいては,乳児死亡率は出生数1,000に対して250,普通死亡率は27,平均寿命は男子32年,女子35年程度であったが,昭和15年においては,乳児死亡率は出生数1,000に対して90,普通死亡率は17,平均寿命は男子47年,女子50年程度となったとされる(第1-序-12図)。

第1-序-12図 乳児死亡率の推移(出生1,000対)及び合計特殊出生率の推移別ウインドウで開きます
第1-序-12図 乳児死亡率の推移(出生1,000対)及び合計特殊出生率の推移

この時代においては,死因の中心は感染症であり,死亡率の低下は主に感染症による死亡の減少によるものであった。

感染症による死亡の減少については,我が国においてもヨーロッパ等においてもその原因が十分に解明されているとはいいがたいが,医療の発達,栄養水準の改善,衛生観念の普及等が作用した結果であるという指摘もある。

例えば,ヨーロッパにおいては,第1次世界大戦のころまでに低温殺菌法の開発,炭そ病及び狂犬病に対するワクチンの開発,結核菌及びコレラ菌の発見,ツベルクリンの創製等が,第2次世界大戦のころまでにペニシリンの合成等が行われている。

上述の死亡率の低下は,ヨーロッパ等における多産多死から少産少死へのいわゆる人口転換と同様に,出生抑制の動機の一つとなった。

感染症に関する医療の発達が現在においても重要であることは,いうまでもない。

例えば,エイズについては,身体からHIVをすべて排除してHIV感染症を根治する医薬品はいまだ開発されていないが,1990年代の半ばから強力な効果を持つ抗HIV医薬品が登場している。

現在は10数種類の医薬品が許可されており,これらの医薬品の中から複数の医薬品を組み合わせて服用する多剤併用療法が標準的な治療となっている。

この多剤併用療法は,体内でHIVが増殖するのを抑える力が大きく,治療成果は著しく向上した。

その結果,エイズで亡くなる人が減り,元気に社会生活を送り続けるHIV感染者が増加している。

(2)生殖補助医療

近年における生殖補助医療技術の進歩は著しく,不妊症(生殖年齢の男女が子を希望しているにもかかわらず,妊娠が成立しない状態であって,医学的措置を必要とする場合をいうとされる。)のために子を持つことができない人々が子を持てる可能性が増加しており,人工授精,体外受精・胚移植等の生殖補助医療は着実に広まっている。

例えば,平成11年2月に厚生省から補助を受けた研究班が実施した「生殖補助医療技術についての意識調査」の結果を用いた推計によれば,28万人を超える者が何らかの治療を受けているものと推測されている。

また,社団法人日本産科婦人科学会においては,昭和61年3月から体外受精等の臨床実施について登録報告制を設けているが,同学会の報告によれば,平成14年までにそれらを用いた治療による出生児数は,10万人を超えるとされている(第1-序-13表)。

第1-序-13表 治療法別出生児数及び累積出生児数別ウインドウで開きます
第1-序-13表 治療法別出生児数及び累積出生児数

しかしながら,生殖補助医療の実施は,健康上・倫理上の問題を生む結果も招いている。

例えば,体外受精等を行った場合に,多胎妊娠の発生率が増加することが問題になっている。多胎妊娠の増加は,妊娠中毒症等母体合併症の増加などにつながるおそれがある。

また,体外受精等における排卵誘発剤の投与は,卵巣の腫大,腹水の貯留等の卵巣過剰刺激症候群をもたらすことがある。

さらに,代理懐胎のあっせん等商業主義的行為も見られるようになってきている。

(3)性差医療

米国において1980年代以降研究が進んでいるいわゆる性差医療は,様々な疾患の原因,治療法等が男女で異なることがわかってきたことから始まったものである。

性別によって疾患の原因等が異なる例としては,一見したところ同じ狭心症である場合であっても,男性に多い狭心症は心臓表面の太い血管の流れが悪くなるものである一方,女性に多い狭心症は心筋の微小な血管の流れが悪くなるものであり,これらについて同じ医薬品を使用しても有効性等が異なることなどが報告されている。

我が国においては,性差医療を実践する場として女性専門外来等が設置されているが,女性医師が女性患者を診療する場合が多い。

平成14年から16年までに100を超える女性専門外来が設置され,女性専門外来は現在では300を超えるとされている。

このような女性専門外来の活動については,性差医療の趣旨からは部分的な取組と考えられるが,「時間をかけて話を聞いてもらえた」,「同性の医師が診療するので安心した」などと評価する患者も多いと指摘されている。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019