平成16年版男女共同参画白書

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第3節 男女の意識とライフステージ

男女共同参画社会の実現のための枠組みが国際婦人年である昭和50年以降どのように整えられてきたのかを振り返ってきたが,実際の男女共同参画の進展状況を主な指標でみてみる(第5表)。


第5表 主な男女共同参画の進展状況別ウインドウで開きます
第5表 主な男女共同参画の進展状況

まず政治・行政分野での女性の参画については,国会議員に占める女性割合はやや上昇しているものの,国家公務員の管理職に占める女性割合は著しく低い水準にとどまっている。労働分野における女性の参画については,専門的・技術的職業従事者の女性割合は比較的高く,就業者に占める女性割合は徐々に上昇しているものの,管理的職業従事者の女性割合は依然として低い水準にある。男女間の賃金格差は縮小傾向にはあるものの依然として大きい。また,育児期にある(6歳未満の子どものいる)有業の夫の仕事時間は長く,家事時間,育児時間はほとんど増加していない(第6図)。

第6図 育児期にある有業夫婦の仕事,家事,育児時間別ウインドウで開きます
第6図 育児期にある有業夫婦の仕事,家事,育児時間

このように男女共同参画は,男女共同参画社会の実現のための基本的な枠組みの整備状況に比較して政治・行政分野,労働分野及び家庭内ともそのあゆみは緩やかであると言える。

男女共同参画が法律や制度の整備の進ちょくに見合った形で期待するほど進展していない要因の一つとして男女の意識があると考えられることから,まず男女の基本的意識の変化について検討する。

1 男女の基本的意識の変化

(女性の就業に関する意識変化と就業スタイルに関する男女間での意識差)

結婚後も働きたいと考える女性はこの30年間で増加している。特にこの10年間で「ずっと職業を続けるほうがよい」と考える「中断なし就業」支持の女性が急増しており,平成14年では,昭和47年の3倍以上となった。しかし,「子供が大きくなったら再就職するほうがよい」と考える「一時中断型」を支持する者の数も依然多く,平成14年においても一時中断型の支持が最多となっている。世代別では,30歳代・50歳代で中断なし就業の支持が一時中断型支持を上回ったが,他の世代では一時中断型を支持する女性が最も多い状況となっている(第7図)。

第7図 一般的に女性が職業をもつことに対する女性の意識変化別ウインドウで開きます
第7図 一般的に女性が職業をもつことに対する女性の意識変化

一方,男性の意識も女性の就業を肯定的にとらえる方向に着実に変化している。30年前には,女性は一生無業もしくは結婚したら専業主婦がよいと考える男性が,全体の約4割を占めていたが,平成14年では約1割まで減少している。これに対し,結婚後も女性が働くことを支持する男性の比率が増え,特に4年からの10年間で,中断なし就業を支持する男性が急増し,14年では20歳代から70歳以上のすべての世代で最も多くなっている。一時中断型支持と中断なし就業支持を合計すると,7割近くの男性が女性の就業について肯定的な考えをもっている(第8図)。この男性の急激な意識変化を,過去からの社会情勢に重ね合わせてみると,賃金の伸び悩みやリストラの増加などの厳しい経済社会情勢が,その意識にかなり影響していると考えられる(第9図)。現在の日本では,給料が右肩上がりに増えていた高度成長期とは違い,家族のうちで男性一人が働く構図では家計を支えきれなくなるリスクが増大している。生計を維持することへの危機感が,世代に関係なく,女性もともに働くことを支持する男性の増加を促している大きな要因と思われる。

第8図 一般的に女性が職業をもつことに対する男性の意識変化別ウインドウで開きます
第8図 一般的に女性が職業をもつことに対する男性の意識変化

第9図 女性が職業をもつことに対する男性の意識変化と経済情勢別ウインドウで開きます
第9図 女性が職業をもつことに対する男性の意識変化と経済情勢

このように女性の就業については,男女ともに肯定的に考える方向に意識が変化しているものの,その就業スタイルに関する考えには男女間でずれが生じている。これは,多くの家庭では家事・育児を主に女性が行っており,妻が夫同様に就業した場合でもこの状況に変化がないということを,男性以上に女性が認識しているために生じる差と思われる。現在における家庭内の役割分担状況を具体的にみると,掃除・洗濯・炊事のいずれにおいても,有業無業,就業状況にかかわらず,7割以上の家庭で女性が主に家事を担当している。この状況は,約4割に達する,家庭内が男女平等であると感じている家庭でも変わりがない。こうした状況が,諸制度の充実等に比べ男女共同参画のあゆみが緩やかなものとなっている要因の一つであると思われる。

(「夫は外で働き妻は家庭を守る」という意識の変化)

「夫は外で働き,妻は家庭を守る」という考え方についてみると,昭和47年では男女ともに賛成者が8割を超えていた(第10図)。世代別・男女別にみてもこの考えに賛成する傾向に大差はなく,反対という意見が最も多かった20歳代でも賛成者が男女ともに78%に達していた。約30年後の平成14年では,男性の42.1%,女性の51.1%がこの考え方に反対しており,昭和47年と比較すれば反対する割合は大幅に増加している。しかし一方で,依然として男性の51.3%,女性の43.3%がこの考え方に賛成しており,男女ともに反対と賛成の割合がほぼ拮抗する状況となっている。

第10図 家庭内の役割分担意識の変化(男女別)別ウインドウで開きます
第10図 家庭内の役割分担意識の変化(男女別)

(男女間の就労目的の違い)

男女別に就労理由をみると,男性が最も多く挙げているのは生計維持である。一方,女性がこの理由を挙げる割合は男性に比べて低く,自分自身の経済的・精神的満足感を得るために働くという考え方が男性より多い。常勤で働く女性でも,就労理由を「生計維持のため」とする割合は男性に比べかなり少なくなっている。平成4年から14年までの10年間での就労理由の変化をみると,女性の就労理由は,経済情勢の悪化に伴って生計維持を選ぶ比率が多少増えたものの,その他の理由を選ぶ比率にはそれほど変化がない。しかし男性の就労理由では,生計を維持するため以外のほとんどの理由が減少傾向にあり,特に「働くことが当然だから」とする回答が急激に減少している(第11図)。

第11図 現在働いている理由の変化別ウインドウで開きます
第11図 現在働いている理由の変化

男性は厳しい経済情勢を背景として,以前より強く,家族を支えなければならないという「義務感」を意識しているため,就労に経済的意義以外の意義を感じる余裕を失っているのではないかとも考えられる。

2 ライフステージと人生の出来事

前述のように女性の就労を肯定的にとらえる意識は増えているものの,女性の就労スタイル,家事・育児の分担状況など実際の行動には意識との乖離があり,依然として固定的性別役割分担に縛られている行動がうかがわれるところである。こうした男女共同参画社会への過渡期にある現在の状況を,ライフステージにおける選択という観点から検討する。

(1)家族の変貌

(少子化の進行と世帯規模の縮小)

合計特殊出生率の推移により少子化の状況をみると,昭和50年以降ほぼ一貫して低下しており,平成14年には1.32となった。また,少子化の進行や高齢者の同居率の低下を背景に,近年は更に世帯人員が減少し,家族構成も変化している。昭和50年に約4割を占めていた「夫婦と未婚の子のみの世帯」が平成14年には約3割に減少する一方,「夫婦のみの世帯」や「単独世帯」が増加している。


(家庭の役割)

世帯規模の縮小による家庭内労働の担い手の減少や女性の社会進出を背景に,家庭内労働の外部化・省力化の必要性が高まったことを受け,外食産業など家事の外部化に関するサービスが広がり,育児や介護などの社会保障制度も充実してきている。このように従来家庭内で担われてきた家事・育児・介護といった機能の外部化が進む中で,家族の持つ情緒面での機能が重視されている。「あなたにとって家庭はどのような意味を持っていますか」という問いに対し,「家族の団らんの場」を挙げた者の割合が最も多く,「休息・やすらぎの場」,「家族の絆(きずな)を強める場」が続いている。また,「家族の絆(きずな)を強める場」,「夫婦の愛情をはぐくむ場」といった家族の特別なつながりを重視する項目は,過去3年間一貫して増加している。


(2)ライフサイクルの変化

世帯規模の縮小や家庭の役割の変化の中での女性のライフサイクルの変化をみるため,男女共同参画社会の形成の草創期と現在の女性のライフサイクルを比較する。昭和50年に結婚した女性と平成14年に結婚した女性のモデルをそれぞれ20歳の時の平均余命を寿命として設定する(第12図)。

第12図 女性のライフサイクルモデルの比較別ウインドウで開きます
第12図 女性のライフサイクルモデルの比較

これによると,男女とも長寿化が進展しており,女性は7.7年,男性は5.6年と女性の寿命の伸長が著しい。また,高学歴化や結婚観の変化等により晩婚化が進んでいる。このため男女ともライフサイクルは伸びており,それぞれのライフステージにおける人生の出来事は総じて遅くなっている。

このようにライフサイクルが変化し,多様な選択が可能になってきている現在,いかなる人生を送るのかを主体的に考えることがますます重要となってきている。人生の節目となる大きな出来事を人生の経過に沿って概観する。

(3)進学

社会に出る前段階である教育期に,どのような教育を受けたかはその後の職業選択などの進路選択に大きな影響を与える。平成15年の高等教育への入学者状況を男女別にみると,全体で男性は約53.5万人,女性は約53.2万人と男女ほぼ同数となっている。これを学校種類別にみると,大学では女性は男性より11万人程度少なくなっている一方,短期大学(本科)では約8.6万人,専修学校(専門課程)では約2.8万人多くなっている。また,大学の学部学生数についてみると,女性は男性に比べて人文科学を専攻する者の割合が格段に高く,逆に工学・理学を専攻する者の割合は男性に比べて非常に低い。また,女性の社会科学専攻者の割合は約3割を占めているが,男性の4割強と比較すると低くなっている。


(4)就業

(就職)

学校卒業後,就職を契機に社会に出ることになるが,企業の新卒採用抑制姿勢を受けて若年層の就職環境は悪化しており,失業率は昭和50年ごろから大きく上昇している。

就職内定率を男女別にみると,大学卒,高校卒ともに女性は男性に比べて低くなっており,依然として就職活動において女子学生は男子学生よりも不利な立場に立たされることが多いことがうかがわれる。

また,女子学生は男子学生よりもパートタイム労働に流れることが多い。新規学卒入職者に占めるパートタイム労働者の割合は男女ともに総じて上昇傾向にあるが,女性は男性よりも高い傾向がある。

そこで,若年女性雇用者数の推移を就業形態別にみると,正規雇用者は平成3年ごろまでは増加傾向にあったが,その後の景気の低迷と企業の雇用管理の変化の中で伸びが鈍くなっており,9年以降は減少が続いている。かわって増加しているのが正規雇用に比べて労働条件が不利であることの多い非正規雇用で,14年の非正規の若年女性雇用者数は,昭和60年時に比べておよそ2.8倍になっている(第13図)。

第13図 就業形態別若年女性雇用者数の推移別ウインドウで開きます
第13図 就業形態別若年女性雇用者数の推移

(5)結婚

(未婚化,晩婚化)

結婚をめぐる変化として未婚化・晩婚化がある。年齢階級別に未婚率の推移をみると,女性は20歳代後半,男性は30歳代前半の未婚率の上昇が著しい。また,男性は女性に比べ,幅広い年齢層で大きく未婚率が上昇しており,30歳代後半以降は同年代の男女の未婚率の差が大きくなっている(第14図)。50歳時の未婚率である生涯未婚率も上昇しているが,特に男性は上昇が著しく平成12年では12.3%(女性5.6%)となっている。

第14図 年齢階級別未婚率の推移別ウインドウで開きます
第14図 年齢階級別未婚率の推移

平均初婚年齢も上昇が続いており,平成14年の平均初婚年齢は男性が29.1歳,女性が27.4歳となっている。

(離婚)

人生のいずれかの段階で離婚という選択をする場合もある。離婚件数及び離婚率は,昭和60年代に一時減少したものの,平成2年以降は増加し続け,14年には過去最高となった。家庭に入っていた女性が離婚後に就職しようとする場合,就業継続による技能が形成されていないなどの理由から不利な条件の下で労働市場に直面せざるを得ず,好条件の雇用機会を得るのは難しい場合が多い。特に,母子世帯の場合,子育てと生計の担い手という二重の役割を担うことになるが,子どもへの保育サービスの確保や就職・再就職には困難を伴うことも多い。厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成14年)によると,母子世帯の1世帯当たりの平均所得金額は243.5万円であり,全世帯の平均所得金額である602.0万円の約4割となっており,非常に厳しい経済的状況となっている。


(6)出産・子育て

(両立か就業中断か)

平均初婚年齢は上昇したものの,夫婦が結婚してから第1子が生まれるまでの平均期間は1.9年で昭和50年の1.55年から余り変わっていない。結婚や出産後,女性は就業をどうするかについての選択を迫られることが多い。国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査(夫婦調査)」(平成14年)によると,結婚前就業していた妻について,結婚5年未満で子を持ちながら就業するケースは全体の2割弱で,正規雇用に限ると約1割となっている。また,結婚5年未満で子を持つ妻の就業状態は専業主婦が格段に高く,子が小さいうちは就業を継続せず専業主婦となっているケースが多いと推測される。意識面では「子どもができてもずっと職業を続けるのがよい」という方向へ変化してきているものの,現実には仕事と子育ての両立が困難であることがうかがえる。一方,結婚後10~14年では子を持つ就業者が専業主婦を上回っており,子育てが一段落ついた段階で再度就業を選択するケースが多いことが推測される(第15表)。

第15表 結婚持続期間別にみた,妻の就業状態および子どもの有無の構成(結婚前就業していた妻について)別ウインドウで開きます
第15表 結婚持続期間別にみた,妻の就業状態および子どもの有無の構成(結婚前就業していた妻について)

(妻に偏る家事・育児負担)

妻が育児のために就業を中断する背景として,共働き世帯においても相変わらず妻に家事・育児負担が偏っていることが挙げられる。妻の就業の有無にかかわらず夫が家事や育児などにかける時間は妻と比べて著しく短く,男性は共働きであるか否かで生活実態はほぼ変わらないものの,女性は共働きの場合は仕事をしながら家事も担い,余暇時間が少なくなってしまっている(第16図)。妻に家事や育児の負担が偏ってしまうのは,固定的性別役割分担意識がいまだ根強いということもあるが,男性が仕事に忙しく家事・育児を行う余裕がないということもその要因として挙げられる。年齢階級別に男性の労働時間をみると,低年齢の子がいる場合が多いと思われる若い世代の所定外労働時間が長くなっている。

第16図 夫婦の生活時間別ウインドウで開きます
第16図 夫婦の生活時間

(育児休業の取得)

厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(平成14年度)によると,平成14年度の男性の育児休業取得率は0.33%と極めて低い。これに対し女性の育児休業取得率は64.0%となっている。父親が育児休業を取得しなかった理由を男女別にみると,男女ともに「父親が仕事の都合がつかなかった」が最も多くなっており,「父親の給料が入らないと経済的に困るから」,「父親が休む必要がなかった」も男女ともに高くなっている。


(仕事と子育ての関係)

就学前の子どもがいる男女について,仕事と子育ての関係について思うことをみると,男性は「子供ができて仕事をするはりあいができた」が最も高く,育児を経済面から支えているとの自負がみえる。女性は「仕事と育児で生活にめりはりができた」が最も高いが,「子育てをしているために仕事が十分にできない」も男性に比べて格段に高く,育児負担が女性に偏っていることをうかがわせる。一方で「子育ての経験が仕事に役立つことがある」,「仕事をすることが子育てに好影響を与えている」も女性が多く,仕事と子育てが相互に好影響を与えていると思っている女性も多い(第17図)。

第17図 仕事と子育ての関係について思うこと(複数回答)別ウインドウで開きます
第17図 仕事と子育ての関係について思うこと(複数回答)

(7)再就職

(再就職)

年齢階級別に女性の入職時の就業形態をみると,新規学卒者が多い20代ではパートタイムは全体の3割程度であるが,いったん家庭に入ってから就職する層が多いと思われる30代後半以降はパートタイムが大半となっている(第18図)。厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(平成13年)によると,パートタイム労働者がパートタイムとしての働き方を選んだ理由として「家事・育児の事情で正社員として働けないから」を挙げた者の割合は,男性が0.1%であるのに対し,女性は18.3%に上る。また,パートタイム労働者の賃金水準は一般労働者よりも低く,女性のパートタイム労働者のうち,主に自分の収入で生活している者は2割に満たない。主たる生計の維持を配偶者などにゆだね,家事や育児を担当しながらパートタイムとして働いている女性の状況がうかがえる。

第18図 年齢階級別女性の入職形態別ウインドウで開きます
第18図 年齢階級別女性の入職形態

(家計における妻の収入)

既にみたように,女性が働き続けることを肯定する意識が男女ともに強まってきており,共働き世帯も増加してきているが,妻の収入は補助的なものにとどまっている。核家族共働き世帯の家計の収入の推移をみると,妻の収入により,夫のみが働いている世帯の収入を上回っているが,妻の収入が夫の収入の3割強である状態はこの10年で変わっていない(第19図)。

第19図 核家族共働き世帯における夫婦の収入別ウインドウで開きます
第19図 核家族共働き世帯における夫婦の収入

(8)退職

(退職後の夫婦)

平均寿命が延びた結果,定年後に夫婦で過ごす期間が大幅に延びている。内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(平成14年)により高齢者夫婦の意識をみると,「心配ごとや悩みごとの相談相手」や「介護を頼む相手」について,男性は「配偶者」と答えた者の割合が最も多かったのに対し,女性は「子ども」と答えた者の割合が高くなっており,退職後に男性は女性に比べて配偶者を頼る傾向が強いことがうかがえる。

また,女性は男性より平均寿命が長く,配偶者の死亡後に一人で暮らす割合が高くなっており,65歳以上の者の家族形態を男女別にみると,一人暮らしの割合は女性が19.3%,男性が7.4%と,女性は男性の2倍以上に上っている(第20図)。

第20図 男女別,65歳以上の者の家族形態別ウインドウで開きます
第20図 男女別,65歳以上の者の家族形態

(9)生涯設計

女性の平均寿命が85歳を上回り,男性も80歳に近づくなど長寿化が進展しており,生涯設計を考える重要性は増している。上記でみた各ライフステージの出来事を踏まえ,夫婦と子ども2人の世帯を設定して,妻が出産後退職し,末子が小学校に入学した時にパートタイムで再就職した場合における生涯にわたる収入と支出を試算して,家計からみた人生設計において考慮すべきポイントを検討する(第21図)。もちろんこれは,現在の賃金構造・社会保険制度や家計の支出構造等を前提にした,一つの世帯のあり得るパターンの一つを試算しているにすぎず,この試算をもって一般化することはできないが,世帯の生涯設計を考える際の材料の一つを提供するという意義はあると考えられる。

第21図 モデル世帯の生涯収支別ウインドウで開きます
第21図 モデル世帯の生涯収支

(生涯可処分所得)

試算は最近の平均値・最頻値などを用いたライフサイクルに基づいて設定している。女性は大学卒業後22歳で就職し,27歳で29歳の大学卒の男性と結婚する。29歳で第1子を出産し,同時に退職する。2年後の31歳で第2子を出産する。第2子が小学校に入学した38歳の時に所得税がかからず配偶者控除が受けられる100万円の年間収入でパートタイム就業を開始する。夫の収入は,学歴別・年齢別の賃金及び賞与から各種控除を勘案して算出した社会保険料,所得税及び住民税を差し引いて各年齢別の可処分所得を求めている。女性が58歳の時,夫が60歳で定年退職し,同時にパートタイム勤務も辞めるものとする。以降は厚生年金のみの収入とし,女性が76歳の時に夫が死亡し,女性は遺族年金を受給し,87歳で死亡するとしたものである。試算による世帯の可処分所得は約3億3,300万円であり,うち女性の収入分は約6,900万円となっている。


(生涯支出)

支出の経年的な変化を追ったものではなく,各ステージに対応した世帯の支出を累計したものである。生涯における支出の変動要因の大きなものとしては,子どもの教育費と住宅取得費が挙げられる。子ども1人の大学卒業までにかかる教育関係費は,子どもが1人増えれば比例して増加する経費であり,子どもの年齢差が小さければ親の中年期に短期に集中してかかり家計を圧迫することになる。また,住宅取得費も頭金及び住宅ローンにより長期に家計に重くのしかかる経費となっている。ここでは,2人の子どもの教育費は,それぞれが私立幼稚園2年保育から公立小学校,公立中学校,私立高校,私立大学まで進むものとして,私立については前述の子ども1人当たりの教育費を算入して試算した。また,夫が40歳の時に住宅を取得すると仮定し,住宅ローン返済も支出に含めた。こうして試算した家計支出は約3億900万円となっている。


(生涯収支)

生涯収支は約2,400万円の黒字となる。もちろんこれは仮定に基づく試算であり,一応の目安の数値ではあるが,妻のパートタイム勤務の収入分が無ければ生涯収支の黒字分の大半は無くなり,家計には厳しい状況となっている。

各年の収支をみると,子どもが高校・大学在学中の女性の40歳代後半と年金受給を開始してしばらくの60歳代から70歳代前半には家計収支は赤字となっている。しかしこれは各年の動きをみたものであり,実際はそれまでの貯蓄などがあるため累積値でみる必要がある。累積黒字額(累積可処分所得-累積支出)の累積可処分所得に対する比率で余裕度をみると,結婚後急上昇した後,30歳代後半までは30%弱で推移しているが,住宅取得時に急落し,子どもが大学を卒業するまで下落を続け,その後ほぼ横ばいで推移した後,夫の退職により一時的に急上昇し,その後は生涯を通じなだらかに低下を続けている(第22図)。

第22図 ライフサイクルの余裕曲線別ウインドウで開きます
第22図 ライフサイクルの余裕曲線

これまでみてきたように,この試算においては生涯における家計収入の大半は夫の勤労収入であり,女性の勤労収入は補助的なものにとどまっているが,生涯の収支は若干の黒字であり,家計からは生涯の設計は成り立っている。しかし,夫の賃金が現在の年功序列的な賃金構造からの積み上げであることや社会保険等を現行の制度を前提として試算していることから,試算上の生涯収支は今後必ずしも十分に期待できる収入とはなっていない。また,最近の厳しい経済情勢,社会の変化の激しさなどを踏まえると,失業,転職,離職等の収入面でのリスクがあり,女性の働き方の変化と相まって,今後,家計収入に占める女性の収入の割合が高まると見込まれる。


おわりに

男女共同参画を推進する国内本部機構や基本法制の整備等法律的・制度的枠組みは,国際的な動きに連動して整えられつつあるが,それらに比較して男女共同参画社会へのあゆみが緩やかである状況を,主に意識やライフステージの視点から検討してきた。

意識面からみると,固定的性別役割分担意識は薄れつつあるものの,依然として根強く残っている状況が分かった。また,ライフステージの各局面における男女共同参画は総じて大きくは進展しておらず,なお一層の対応が必要なことも検証した。具体的には,男女とも仕事と家庭生活を両立できるような職場環境や子育て環境の整備等,仕事と家庭・子育ての両立支援策を強力に推進することが必要であることが分かった。また,家事・育児の負担が極端に女性に偏っている現状は晩婚化・未婚化の要因にもなっていると考えられ,家庭生活における役割分担について夫婦がお互いに協力していく環境を作り上げていくことも期待されるところである。

また,男女共同参画を取り巻く最も基本的なデータの一つである今後の人口の推移を展望すると,日本の将来にとって厳しい姿となっている。合計特殊出生率は1970年代半ばから人口置き換え水準(それ以下になると人口減少を招く出生率の水準:2.08程度)を大きく割り込んでおり,現在の状況に大きな変化がなければ,2006年には日本の人口は減少し始め,2020年には1億2,411万人(2000年は1億2,693万人)になると推計されている。労働生産年齢人口(15~64歳)は,2000年の8,638万人から,2020年には7,445万人と1,193万人(14%)も減少することが見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所推計)。このため,男女共同参画が進展しないならば,労働力人口が急激に減少することが懸念され,日本の活力ある発展に支障が生ずる恐れがある。

こうした懸念に的確に対処するためには,高等教育機関における様々な学問分野への女性の参画を促進し,女性の潜在的能力を開発するとともに,職場や地域の場において女性の能力が正当に評価され活かすことができる社会を構築することがぜひとも必要である。女性が男性とともに職場や地域の場でその個性と能力を十分に発揮する機会が保障され,男女共同参画が進展することによって初めて,日本の社会・経済の明るい未来への展望が開けてくると言えよう。

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