平成14年版男女共同参画白書

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第5章 女性に対する暴力

(夫から命の危険を感じるくらいの暴行を受けた経験)

総理府(現内閣府)が実施した「男女間における暴力に関する調査」(平成11年)では,夫から「命の危険を感じるくらいの暴行」を受けた経験が一度でもあると回答した女性は4.6%であり,約20人に1人の女性が,夫から深刻な暴力を受けている実態が明らかとなった。

(配偶者間における暴力の被害者の多くは女性)

警察庁の統計によると,平成13年中に検挙された配偶者(内縁関係を含む。)間における殺人,傷害,暴行は1,444件,そのうち1,333件(92.3%)は女性が被害者となった事件である。

殺人においては,女性が被害者となった割合は60.7%とやや低くなっているが,傷害については1,097件中1,065件(97.1%),暴行については156件中152件(97.4%)とそれぞれ高い割合になっており,配偶者(内縁関係を含む。)間における暴力の被害者は多くの場合女性であることが明らかになっている(第21図)。

第21図  配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者(検挙件数の割合)(平成13年)

(近年増加する夫から妻への暴力の検挙件数)

配偶者間における犯罪のうち女性が被害者である場合の検挙件数の推移を罪種別に見ると,暴行,傷害がそれぞれ平成12年以降,大幅に増加している。13年においては,暴行が152件で前年よりも28件(22.6%)の増加,傷害が1,065件で227件(27.1%)の増加となっている。

内閣府「男女間における暴力に関する調査」において,夫から身体的な暴力を受けた女性のうち,被害を警察,人権擁護委員,婦人相談所等公的な機関に相談している者の割合はそれぞれ1%未満と低く,関係機関による被害実態の把握ができず,被害が潜在している状況が明らかになったが,近年,これまで潜在していた夫から妻への暴力が顕在化しはじめたといえる(第22図)。

第22図  夫から妻への犯罪の検挙状況

(増加傾向にある夫等の暴力を理由とする相談等の件数)

各都道府県に設置されている婦人相談所や婦人相談員への来所による相談実人員は増加傾向にあり,平成12年度では,「夫等の暴力」を内容とする相談者の占める割合が前年に比して増加した。

また,配偶者暴力防止法施行後平成14年1月までの間に,警察に対し寄せられた配偶者からの暴力に関する相談は,4,841件となっている。

(シェルターの実態)

シェルター(配偶者からの暴力などから逃れてきた女性のための一時避難所)として利用できる施設で,法律に設置根拠があるものとしては,婦人相談所,婦人保護施設,母子生活支援施設がある。婦人相談所は売春防止法に基づき,各都道府県に1か所,婦人保護施設は同じく売春防止法に基づき,全国に51か所(公立36か所,私立15か所),母子生活支援施設は,児童福祉法に基づき,全国に286か所(公立182か所,私立104か所)がそれぞれ設置されている。

このほかに,民間の団体等が自主的に運営している「民間シェルター」がある。

平成13年11~12月に内閣府が実施した調査の結果,14都道府県に計35の民間シェルター(個人が,配偶者からの暴力の被害者を受け入れているようなケースについては計上していない。)が存在することが明らかになっている。NPO法人や社会福祉法人など法人格を有しているものもあるが,約7割(24施設)は法人格を有していない。

また,「現在どのような問題を抱えているか」とのアンケートを行った結果,運営費用が足りず財政的に限界がある,施設のセキュリティ面に問題がある,十分なスタッフが確保できないなどの問題点が寄せられた。

民間シェルターは,被害者の保護を積極的に行うなど,配偶者からの暴力の被害者支援に関し,先駆的な取組を実施している。今後,民間シェルターの活動に役立つよう,必要な援助が求められている。

(配偶者暴力防止法の適用対応状況)

配偶者暴力防止法では,被害者の申立てにより,裁判所が加害者に対し接近禁止命令,退去命令を発する保護命令の制度を新設し,この命令違反に対して刑事罰を科すこととしている。

保護命令事件の審理に当たって,配偶者暴力防止法第14条第2項に基づき,裁判所が,婦人相談所及び警察に対して,申立人が相談し又は援助若しくは保護を求めた際の状況と,これに対して執られた措置の内容を記載した書面の提出を求めた件数は,婦人相談所に対してするものが83件(法施行後平成14年1月12日までの間),警察に対してするものが193件(法施行後14年1月までの間)となっている。

公証人面前宣誓供述書を申立書に添付した申立ては少なく,法施行後平成13年12月までの間では,5件となっている。

平成13年10月から14年2月までの間に,裁判所に申し立てられた保護命令事件の件数は306件で,そのうち裁判が終了したのは290件となっている。裁判が終了した事件のうち,保護命令が発令された件数は233件(80.3%),そのうち接近禁止命令のみが出されたのは168件(72.1%),退去命令のみが出されたのは1件(0.4%),退去命令と接近禁止命令が併せて出されたのは64件(27.5%)となっている。

また,保護命令が発令された事件の平均審理期間は9.8日となっており,速やかに裁判が行われ,被害者の保護が図られている。

なお,法施行後平成14年1月までの間の保護命令違反の検挙件数は5件である。

(配偶者間の暴力の認知度)

内閣府が平成14年1月から2月にかけて有識者5,000人を対象に実施した「配偶者等からの暴力に関する有識者アンケート調査」では,42.5%の有識者が配偶者暴力防止法について「内容を知らない」と回答しており,まだまだ,法律についての認知度が低いことが明らかになった(第23図)。

平成13年10月に配偶者暴力防止法が施行され,配偶者からの暴力を防止し,被害者を保護するための枠組みは整ったところである。

今後,国,地方公共団体,その他の関係者が,この法律を有効に活用し,被害者に対して効果的な解決策を提供することが求められている。

第23図  配偶者暴力防止法の施行,内容を知っているか

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