執務提要

第1章 男女共同参画審議会の設置と男女共同参画社会基本法の審議

1.男女共同参画審議会の設置

平成8年7月に答申されたビジョンの第3部「総合的な取組に向けた推進体制の整備・強化」の中では、「当審議会の 存置期限(平成9年3月31日)が到来した後においては、、、、政府の施策について諮問を受けこれに対して答申し、その 施策の実施状況を把握し、、、、、基本的な観点から意見を述べることのできる、法律に基づく諮問機関を設置すべきであ る。」と提言された。また、第2部「男女共同参画社会への取組」の中、4(1)の「女性に対する暴力の撤廃」に関して「売買 春に関する諸問題を、女性の人権の保障、男女共同参画社会の実現という新たな観点に立って検討するため、当審議 会と売春対策審議会の関係のあり方を含め、これらの問題を審議する体制の見直しを進めるべきである」と提言された。

一方、売春対策審議会は、ビジョンの中間答申に当たる「部会における論点整理」について聴取するなどして審議を重 ね、平成8年8月、内閣総理大臣に「売春防止対策を審議するための体制の見直しについて」と題する要望書を提出し た。これは、体制を見直し幅広い視野に立った審議を行う場と、その下でより専門的な知識、経験に基づき審議を行う場 の双方を設置すべきであると要望したものである。

こうした状況を踏まえ、第2部で述べた政府の「2000年プラン」の第3部3(1)「国内本部機構の組織・機能強化」の冒 頭に「男女共同参画社会の形成を促進するための新たな審議会の設置」を掲げ、「法律に基づく諮問機関として男女共 同参画社会の実現を促進するための新たな審議会の設置に向けて検討を進める」と明記した。

総理府は、新たな審議会の設置について単独法を国会に提出することとした。男女共同参画社会の定義、委員の男女 比率規定等を含む男女共同参画審議会設置法案は、平成9年2月に閣議決定され、国会に提出された。国会審議を経 て、3月に男女共同参画審議会設置法(平成9年法律第7号)が公布され、同年4月1日に施行された。これに伴い売春 対策審議会は廃止された。

2月7日
閣議決定・国会提出
2月25日
衆議院内閣委員会に付託
3月6日
衆議院内閣委員会 提案理由説明、質疑、採決(全会一致で可決)
3月7日
衆議院本会議で可決・参議院に送付
3月17日
参議院内閣委員会 提案理由説明、質疑、採決(全会一致で可決)
3月19日
参議院本会議で可決
3月26日
公布(法律第7号)
4月1日
施行

同審議会は、「男女共同参画社会の形成の促進に資する」ため置かれるもので、所掌事務は
「<1>審議会は,内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ,男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的かつ総 合的な政策及び重要事項を調査審議することとする。
<2><1>の諮問に関連する事項について,内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べることができることとする。」
とされていた。本法での男女共同参画社会の定義は「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会 のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利 益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会をいう。」とされており、政令での定義と同じ文言としていた。

男女共同参画審議会設置法は、国の審議会等の設置根拠としては、比較的少数に属する単独の設置法形式を採り、 全7条で構成されていた。また、法律として初めて男女共同参画社会を定義している。さらに、男女の委員の割合を確保 するための規定を置いているが、この最後の規定は、いわゆるクォータ制の導入を意味しており、他の法令には例を見な い規定であった。

なお、法案審議(平成9年3月17日参議院・内閣委員会)の際に、清水澄子議員(社民党)より、男女共同参画社会の 定義について、「ビジョンで示された社会的、文化的に形成された性別意識とか慣行とか制度とか、そういうものに縛られな いようにということがこの共同参画する社会の実現を目指すときに大事なのだという定義がまた抜かれている」との質問が あった。これに対し、政府委員からは、答申では「女性と男性が、社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に縛られ ず、各人の個性に基づいて共同参画する社会の実現を目指すものである」と記載されているが、これはこういう社会を目 指すということであり、男女共同参画社会そのものは「男女共同参画社会は、男女が、社会の対等な構成員として、自ら の意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社 会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会をいう。」であると答弁している。

2.審議会における男女共同参画社会基本法の検討

平成9年6月16日、前述の法律に基づく男女共同参画審議会が開催された。審議会会長には岩男壽美子(武蔵工業 大学教授・慶應義塾大学名誉教授)が選出され、会長代理には、古橋源六郎(国家公務員共済組合連合会理事長)が指 名された

内閣総理大臣は男女共同参画審議会会長に対して、「男女共同参画社会の実現を促進するための方策に関する基 本的事項について、貴審議会の意見を求める。」と諮問(諮問第1号)した。また、同日、「男女共同参画社会の実現を阻 害する売買春その他の女性に対する暴力に関し、国民意識の変化や国際化の進展等に伴う状況の変化に的確に対応 するための基本的方策について、貴審議会の意見を求める。」(諮問第2号)も提出されている。

諮問第1号については男女共同参画社会基本法の検討を明示して諮問されたものではないが、同日開催された男女 共同参画審議会(第一回)における内閣総理大臣のあいさつ-「本審議会の前身である審議会からの答申等を踏まえ、政府 といたしましては、昨年12月に決定した「男女共同参画2000年プラン」において、「男女共同参画社会の実現を促進する ための基本的な法律について検討を進める」こととしております。今後、この基本的な法律を含め、男女共同参画社会の 実現を促進するための方策について、国民各界各層の意見に耳を傾けつつ幅広く検討を進める必要があると考えており ます」-にも含まれているように、基本法の作業が念頭にあったものである。

この諮問を受けて、審議会では9月に基本問題部会(部会長:岩男壽美子)を設置し、検討を開始した。基本問題部会 では、各種基本法に関するヒアリングなどを行い、平成10年2月16日には基本法検討小委員会(小委員会長:古橋源六郎) の設置を決定した。なお、諮問第2号については男女共同参画審議会女性に対する暴力部会(部会長:鳥居淳子(成城 大学教授))で審議が進められた。

この間、平成10年2月16日の第142回国会における施政方針演説で、橋本龍太郎内閣総理大臣は「個人の幸福と社会の 活力を共にかなえるためには、個人が相互に支え合い、助け合う社会の連帯を大切にし、人権が守られ、差別のない公 正な社会の実現に努力しなければなりません。なかでも、男は仕事、家事と育児は女性といった男女の固定的な役割意 識を改め、女性と男性が共に参画し、喜びも責任も分かち合える社会を実現することは極めて重要であり、そのための基 本となる法律案を来年の通常国会に提出致します。」と述べ、基本法の国会提出が一層具体化していった。

3.論点整理

その後基本問題部会は有識者からのヒアリングを行う一方、小委員会では、基本法の必要性、目的理念、責務、基本 計画等の個別論点について議論が重ねられ、4月23日の第8回から論点整理(案)についての議論が行われた。

小委員会で検討した論点整理(案)については、5月12日第8回基本問題部会で説明され、その結果を踏まえ小委員 会でさらに検討が行われ、6月16日の基本問題部会により「男女共同参画社会基本法(仮称)の論点整理-男女共同参 画社会を形成するための基礎的条件づくり-」(以下「論点整理」という。)が公表された。

この論点整理は、基本法の必要性について記述した I と、基本法に盛り込むべき事項及びそれまでに議論された論点 について整理した II からなる2部構成となっている。

「 I 基本法の必要性」では、男女共同参画社会の実現の必要性を論じ、男女共同参画社会を実現する基礎的条件 づくりのため、基本法の制定が必要であると多方面から述べている。

「 II 基本法に盛り込むべき事項」では、基本法に盛り込むべき事項として、目的、基本理念等項目ごとに、議論された 論点を整理し、意見が分かれたものについては両論併記で示し、各方面へ意見を問うている。

例えば、「基本理念」のところでは、「ジェンダー」については、意見が分かれているとして、以下のように両論が掲げら れている。

  • ジェンダーを問題にしその偏りを是正することがこの基本法の意義であるので、「阻害要因の除去」に盛り込んではどうか。
  • ジェンダーという概念は一般には十分理解されていないのではないか。

4.答申

上記論点整理に対しては6月16日から7月31日までの間、意見募集が行われ、新聞等でも大きく取り上げられたこと から3,611件の意見が寄せられた。論点整理の段階では基本理念に入っていなかった家族的責任に関する事項や、地方 公共団体における基本計画についても盛り込むべきとの意見が出され、最終答申、法案に引き継がれていくことになっ た。また、法律の名称についても意見が寄せられ、最終的な答申に向けて議論されることとなった。

さらに基本問題部会は、全国6か所で1,907人と審議会委員による意見交換会を開催した。この際にも地方の責務規 定などについて様々な意見が寄せられ、そうした意見を踏まえ、地方公共団体の責務などについて議論なされた。(開催 場所等は(「男女共同参画社会基本法について」(答申)について(概要))参照)

また、総理府においても、「男女共同参画社会に関する有識者アンケート」を平成10年8月から9月にかけて、学識経 験者、マスコミ関係者、自由業者、企業経営者、各種団体役員、地方公共団体の首長、行政官、女性有識者など3,000人 を対象に実施した。アンケートにおいては、男女共同参画社会についての知識、阻害要因、いわゆるポジティブ・アクション などの事項について質問が行われた。男女共同参画社会という言葉について回答者の約7割が知っていたと回答し、特 に、公共団体の首長からは95.9%が知っていたとの回答であった。男女共同参画社会を実現すべき理由としては、男性も女性も多様な生き方を選択できるようにするためとの回答を選択した者が多かったが、首長からは、国民各層の意見を反 映させ、民主主義の成熟を図るためとの回答を選択した者が多かった。

この有識者アンケートは、イギリスで行われていたグリーン・ペーパーの制度を念頭に実施されたものである。(グリー ン・ペーパー:新しい政策を打ち出す場合に、必要に応じて法案提出の1~2年前に改革の必要性、内容を詳しく説明した グリーン・ペーパーを作成し、議論のために国会に提出し、幅広く意見を求めることがある。提出は担当大臣から国会に対 して行われるが、関係団体に配布する他、一般国民にも有料で販売し、国民からのコメントも受け付ける。なお、グリー ン・ペーパーを公表後、法案提出前にホワイト・ペーパーという形でより具体的な提案を示し、議論の材料とする場合もあ る。)

こうした取組を踏まえ、小委員会では最終的な答申の取りまとめ作業を行い、10月21日の基本部会において部会案が 決定され、11月4日の総会において「男女共同参画社会基本法について―男女共同参画社会を形成するための基礎的 条件づくり―」(以下「答申」という。)と題して、「平成9年6月16日付け総共第260号をもって諮問された「男女共同参画 社会の実現を促進するための方策に関する基本的事項」に関し、男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な 法律について調査審議を進めてきたところであるが、この度、調査審議の結果を別紙のとおり取りまとめたので、答申す る。」とした。

なお、答申に至るまでの審議会(7回)、部会(12回)、小委員会(13回)を開催した。

5.答申の概要

答申では、「第1 はじめに」において、男女共同参画社会の形成を促進するための総合的枠組みづくりが必要かつ有 効と判断し、男女共同参画社会基本法の制定を提言している。

「第2 男女共同参画社会基本法の必要性」では、なぜ男女共同参画社会を実現する必要があるかを論じ、まず、男 女共同参画社会を実現することの意義として5つの意義を示している。これは、「人権の確立」、「政策・方針決定過程へ の参画による民主主義の成熟」、「男女共同参画の視点の定着・深化」、「新たな価値の創造」及び「地球社会への貢 献」である。次に、男女共同参画社会の実現の緊要性について論じている。

その上で、各分野、各次元における取組を総合的かつ効率的に進めるための手段として基本法の制定が必要である としている。

「第3 基本法に盛り込むべき内容」では、論点整理になかった法律の名称について「男女共同参画社会基本法」が適 当であるとしている。

基本法に盛り込むべき内容としては、「法律の目的」、「基本理念」、「国、地方公共団体、国民の責務」、「法政上又は 財政上の措置」、「年次報告」、「基本計画」、「国民の理解を深めるための措置」、「推進体制」、「苦情等の処理」、「国際 的協調のための措置」及び「地方公共団体及び民間団体による活動を促進するための措置」が掲げられている。

「基本理念」においては<1>人権の尊重、<2>阻害要因の除去、<3>政策・方針決定過程への男女共同参画、<4>家族的責 任等、<5>国際的協調による取組の推進の5つが示されており、このうち「家族的責任等」は論点整理の時点では議論され ていたものの、「基本理念」の中に入れるかどうかは結論が持ち越されていたものである。

なお、論点整理において両論併記されていた「ジェンダー」については、一般に十分理解されていないとして「基本理 念」の中には入らなかった。

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